青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

井上剛『その街のこども』


ひたすら夜の街を彷徨う2人はの歩みは、呼吸のようであり、生きることそのもののようである。時に感傷的であったり、官能的であったり、と様々な表情を見せる森山未来佐藤江梨子の歩行の身体性が素晴らしい。個人的にセブンイレブンで肉まんを食べる、ってのにもグッときた


鞄の演出が巧みだ。2人は居酒屋に入る前にロッカーに荷物を預ける。そして、居酒屋を出て、閉まった鞄を取り出し、歩み出す。ジャンケンをして負けたほうが2人分の鞄を持つというゲームをしながら。チャイルディッシュな遊びを20代の男女がしているという倒錯したエロティックさが際立つ。そして、何より「閉まった記憶をとり出し、他者と共有する」というエモーショナルが忍ばせてあるのがにくい。街の光が素晴らしい。街灯や信号機が家の中からの明かりがとにかく素晴らしい。夜の光は震災からの復興の象徴であり、またその揺らめきは現在と15年前の境界をあやふやにする。街の光はとても美しいが、時にとても不安な気持ちにさせる。あの窓の明かり一つ一つに、同じ数の人生が一つずつあるのだと思うとその膨大な不確かさにクラクラしてしまう。そんな中、あの終盤のマンションのシークエンス。その”確かさ”に涙してしまう。