青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ほりぶん『得て』

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ほりぶんの第2回公演『得て』をムーブ町屋で鑑賞。まず、ほりぶんについて。ほりぶんというのは、ナカゴーの鎌田順也が川上友里(はえぎわ)、墨井鯨子という2人の女優の為に立ち上げた劇団だそうだ。ちなみに名前の由来は王子にちょっと前まで存在したレトロなスーパーマーケットから。川上と墨井はかつてのナカゴーの公演に頻繁に出演し、強烈なインパクトを残していた女優なので、ほりぶんというのはナカゴーである、と言っても語弊はない。そもそも、本体のナカゴー自体が本公演やら特別公演やら大ナカゴーやら、そのクレジットの区別もよくわからないままに公演を乱発している。混乱の極みであるが、これはもう、鎌田順也の止まらない創作意欲の賜物として捉えたい。


そして、今回の公演『得て』なのですが、いやはやこれが凄かったのなんの。鎌田順也の作るものはいつだって、何にも似てなく、とびきりに刺激的で、愉快だ。ナカゴーのお家芸である「同時多発テロ会話」はほりぶんでも健在。演劇界におけるこの手法の確立は、音楽でいう所のノイズミュージックの発明に等しい成果なのでは。たとえすべてを聞き取れなくとも、そこにあるフィーリングを感じ取れるし、そのバカバカしいまでの狂騒のすれ違いは、この現実そのもののようでもある。『得て』は友情のお話である。旅先で死んでしまった友人の大庭ちゃんに、もう一度ちゃんとお別れを言いたいゴンちゃんと遠山先輩。そんな2人の元に1本のビデオテープが届く。それは大庭ちゃんが旅行の前に吹き込んだビデオレターであった。なんとも、どこかで聞いたことあるようないい話をベースに物語は進んでいき、それなりの感動に包まれたりしてしまうわけだけど、中盤の暗転と共に一気にホラーに切り替わる。世の中ってそんなに綺麗な話ばかりではないだろう?と言わんばかりに。そして、これはとても切実なホラーなのだ。ホラーというフィクションの力を借りて、ありのままで嘘のない現実を舞台上にトレースしようと試みている。女達はギアをあげて叫び、のたうち回っていくのだけれど、それは”もっともらしい嘘"に抗う為の奮闘のようである。彼女たちがそこまでして晒したい現実にあるのは何か。醜いまでにすれ違いながらも、くっきりと存在し続ける友情の"確かさ"だ。そして、それをはっきりと確認した3人が、また改めて離れ離れになっていくというビタースウィートなエンディングも気に入った。


こういう話を、70分間ずーっと笑わせ続けながら展開できるのが、ほりぶんでありナカゴーであり鎌田順也なのだ。唯一無二の才能。細部のセリフの充実も今作は抜群だった。あらゆるやり取りを書き出したい衝動に駆られるが、それは控えておこう。『船堀の友人』での「とんかつ和幸」、『率いる』での「サンマルクカフェ」に続いて、今回の登場人物は「ケンタッキーフライドチキン」の店員。偏執的なまでのチェーン店へのフェチズムは何だ。ちなみに全て上演場所である「センターまちや」に併設されているお店である。この「センターまちやサーガー」がどんどん拡大していくのも楽しみの1つだ。本作の大きな特徴であるビデオテープを使った演出は本当にお見事。あれをこなせる役者陣もまた天才だ。川上と墨井はあのナカゴーの中においても埋もれる事のない存在感を発揮していた化け物なわけですが、上田遥(ハイバイ)と木乃江祐希(ナイロン100℃)のゲストの2人も素晴らしかった。私は上田遥のキュートなのに何故か哀しい雰囲気の大ファンだ。最近めっきりハイバイの公演でお目にかかれないので、その熱演に大満足で劇場を後にしました。