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『千鳥の白いピアノを山の頂上に運ぶDVD』&『いろはに千鳥』

千鳥の白いピアノを山の頂上に運ぶDVD

千鳥の白いピアノを山の頂上に運ぶDVD

『千鳥の白いピアノを山の頂上に運ぶDVD』という作品があって、千鳥という芸人のロケテクニックと笑いのセンスが3時間近いフルボリュームで収められた大傑作だ。漫才やコントは一切収録されておらず、タイトル通り、千鳥が白いピアノを山の頂上に運ぶという内容が収められたロケDVDなのだが、これが信じられない面白さなのだ。白いピアノを山に運びたい、という動機も目的も不明な一連の軸の中で、お金持ちにピアノを譲ってもらおう、ピアノを買いに行こう、ピアノを白く塗ろう、山へアポイントをとろう、ピアノを練習しよう、山登りの練習をしよう、ピアノを一緒に運んでくれる人を探しに行こう・・・と不必要なまでにひたすら細部を詰めていくわけだけども、それらも全て意味がない。つまり、設定全体がマクガフィン(代替可能なもの)という状況の中で、千鳥の2人の圧倒的な面白さだけがそこにある。発想も言葉も動きもどこまでもオリジナリティに溢れ刺激的。色気も愛嬌も兼ね備え向かう所、敵なしという感じだ。

そして、意味不明を積み上げていくも関わらず、ラストは感動的ですらある。山の頂上でタキシードを着た大吾が白いピアノを弾く。するとその奏でる音に、海辺や川や野球場や街に佇む、同じく正装した人々が奏でるヴァイオリンやシンバルやサックスやフルートの音(実際は映像だけ)が重なっていく。彼らもそれぞれの場所に楽器を運んだのかもしれない。ユニゾンが距離を越える。インディー音楽好きにしかわからない例えで申し訳ないが、これはもうあの傑作DVD作品『片想い VS VIDEOMUSIC』(2010)と同じではないか!そして、千鳥はおそらくこの映像に何の意味も込めていない。


東でのテレビ出演に苦戦していた千鳥であったが、2014年、ついに活路を見出す。『いろはに千鳥』である。戦場を東京から少し移し、テレビ埼玉制作でのロケ番組がスタート。東京進出で得たやっとの冠が埼玉ローカル、とあらゆる場所でネタにされていた番組だが、これがまた腹がよじれるほどに面白い。やさぐれ感とほどよく肩の力が抜けた雰囲気がたまらなくマッチし、千鳥の魅力がいかんなく発揮されています。関東周辺の街をブラブラしてその土地のグルメや観光に触れる、という何の変哲もない番組概要なのだけど、千鳥ならではの、様式美の破壊と構築がなされていて、毎回腹が捩れるほどに大笑いしている。こんな番組観た事ない。関西の人はその気になれば、こんなものを年間100本も観られたのか。シーズン1のDVDを3本一気に購入した。

ずっと観ていたいと思わせる幸福感と中毒性があります。1巻に収録されている川越のうどん屋での芋の天麩羅のくだりとか、永遠に観ていたいくらい好きだ。千鳥の東の拠点として長く続いていって欲しい番組である。