青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

古沢良太『デート〜恋とはどういうものかしら〜』1話

f:id:hiko1985:20150124001524j:plain
物語が唐突に始まる。ビックバンドの音楽に乗せて読み上げられるメール応酬。理論整然とハキハキとした薮下(杏)、ボソボソとしながらも艶やかな響きの谷口(長谷川博己)、それぞれの発音の対比がユニークだ。そして待ち合わせ場所に向かうまでの仕草や行動で、これから登場する2人の主役のキャラクター像がありありと浮かび上がってくる演出も実に効率がいい。


胸元に付けるべきコサージュを頭につけ、不気味に繰り返されるアヒル口。年齢に似つかわしくないカシオのデータバンク(キュート!)と突如として読み上げられる寺山修司の海の詩。薮下と谷口の、たくさんのクエスチョンが浮かぶ、故に魅力的な行動の数々。そんな2人がぶきっちょに腕を組んで歩き出すと、流れ出すザ・ピーナッツの「ふりむかないで」、よく晴れた日曜日の横浜の町並み。そして、2人がステージで踊り出すOP映像までの、この冒頭5分間のリズムだけで、このドラマが特別なものであると思い知らされるだろう。演出は『テルマエ・ロマエ』(2012)で映画のルック構築の力量を見せた武内英樹だ。


文系男子と理系女子のミーツ。アナログレコードをたしなみ、「ヘプバーンと原節子峰不二子メーテルを足して4で割った女性」をタイプとのたまう文系ニートの谷口。「カーポティも侮れないねぇ」「やはり太宰の描く女性像は母性だよなぁ」「つげ義春はやはり圧倒的だ」「デジタルリマスターで見るカトリーヌ・ドヌーヴは美しいねぇ(ジャック・ドゥミシェルブールの雨傘)を観ながら)」と台詞がいちいち絶妙なボンクラ具合。友人(松尾諭)がぶつける

お前の問題点はなあ
虚構の世界に入り浸っていて現実世界の人間関係が築けないことだ

という台詞に思わずドキリ。対する理系女子・薮下は東京大学 大学院数理科学研究科で数理モデルのマクロ経済への応用を研究→内閣府経済総合研究所に入所で貯金数千万という経歴に、曜日ごとに決まったスケジュールをこなしていく几帳面な合理主義者。更には、亡き母をイマジナリーフレンドに持つ強烈なキャラクターだ。娘の婚期を心配する父(松重豊)、独特な「〜だわ(wa)」という語尾が、小津安二郎映画へのオマージュを想わせる。谷口が理想の女性の1人に、原節子をあげていたのも聞き逃せない。


2人は結婚相談所で知り合い、初めてのデートの場で、好きでもないのに結婚の約束を取り付ける。「好き→付き合う→結婚する」という一般常識とは真逆の矢印を進んでいく。エモーションは後からついてくる、まずは結婚だ。そういった過程で生まれる"好き"は純粋かつ透明な運動性を得る。これまで生まれた数多の「ボーイ・ミーツ・ガール」の作劇は、えてして唐突な、理由のない”ミーツ”から始まる。この『デート〜恋とはどういうものかしら〜』が、逆説的に恋の本当の意味性を、そして「月9」というドラマ枠そのものを暴き出していく予感に満ち満ちている。