青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

山田稔明『緑の時代』


ジャケットはR.E.Mの『GREEN』オマージュである。山田稔明のディスコグラフィーにはライブ会場限定発売のCD-Rというものが無数にあるらしい。この『緑の時代』は、そのCD-Rに収録されていた楽曲を中心に、書き溜められていたストックのアルバム未収録曲を編集したもの。演奏、録音、ミックスはほぼ山田稔明が1人で行っている。という前情報からもわかるように、ラフで軽やかな手触りのポップス集に仕上がっている。例えば”サニーレタス”という言葉をひたすらに繰り返すポップチューンはどうだ。その気負いのなさが魅力である。アレンジはギターポップからレゲエ、はたまたポエトリーラップまで飛び出すほどに多彩。ベッドルームミュージックのようなハートウォームな親密さもある。40分以内に収められたプレイタイムのほどよい短さかも相まって、何度も再生ボタンに手を伸ばしてしまう。『新しい青の時代』(2013)

新しい青の時代

新しい青の時代

という鬼気迫る傑作アルバムのすぐ後に聞くと、やや物足りなさがあるのは当然だが、シングルのB面を集めた音源などに、そのアーティストの真髄みたいなものがポンっとさりげなく刻まれてしまっている、というのはよくある話で、この『緑の時代』もまた例外ではない。例えば、アルバムとしてのコンセプトから外れた作詞。山田稔明が、母音や押韻などに意識的な、日本語の音の気持ちよさを気付かせてくれる優れたシンガーであるという事に気付かせてくれる。非コンセプチャル、と書いたものの冒頭の3曲にはこんなライン群が潜んでいる。

この3分半の終わりに長い呪文
僕があたためてきた魔法で


「点と線」

なにもかわもがそっと思い出に塗り変わってゆくのかな
僕も君もそっとしたたかに歳をとってゆくのだろう
僕は今 なけなしの3分半に 光を閉じ込めた


「夢のなかの音楽」

胸に響くのは 聴いたこともない歌
この五線譜に ありとあらゆる声を閉じ込めた


「新しいジオラマ

名もなき市井の人々の生活の中の輝き、心の中の光を3分半のポップソングに閉じ込めること。メロディーの強度と信頼。その魔法について。同じことを歌っていたのが、やはり、この人小沢健二だろう。

見せてくれ 街に棲む音 メロディー
見せてくれ 心の中にある光


小沢健二「ある光」

山田稔明の楽曲の中で、その光は猫に姿を変え、”美しさ”を湛えていたりする。

猫と君で精一杯 慎ましく暮らせたら

7月から全国店頭発売という事ですが、まずは『新しい青の時代』、その後に『緑の時代』と聞き進めていくのがオススメの嗜み方でございます。