リチャード・カーティス『アバウト・タイム』
リチャード・カーティスと言えば、『ラブ・アクチャリー』『ノッティングヒルの恋人』『ブリジッドジョーンズの日記』の監督や脚本を手掛けるロマンティックコメディの名手である。もしくはコメディテレビシリーズ『Mr.ビーン』の脚本家。そんなリチャード・カーティスの最新作は、今年度指折りの1本。本作はロマンティックコメディであると共に、タイムトラベルを主軸においたSFコメディでもある。ゼメキスの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やコッポラの『ペギー・スーの結婚』といった名作の系譜に連ねてもいいだろう。
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今作には人生において必要な”美しさ”といったものが画面の中にふんだん映り込んでいる。例えば、メアリーの”切り過ぎた前髪”や”赤いドレス”だとか、父と楽しむテーブルテニスもしくは彼が読み聞かせてくれるディケンズの一遍だとか。描かれているのは善意ばかりで、悪人は登場しない。それは時にリチャード・カーティス作品への批判ともなっているようだ。そういうものを描き、作品にスリルやサスペンスを導入する事は百戦錬磨の脚本家である彼であれば、たやすいだろう。しかし、そうしない。そのかわり、今作には、「良い人間であろう」「より良い方向に物事を進めよう」という葛藤と奮闘がドラマとして駆動している。その気持ちよさ!このシンプルでウォーミーな手触りは、エンターテイメントを観る喜びの原初的なものではないか、と思うのです。
ニック・レアード=クロウズによるメインテーマのスコアもいいし、劇中で使用されるポップミュージック(Ben Folds、Nick Cave、The Cureからt.A.T.uまで!)のヒット曲が泣かせるのだ。役者陣も良くて、特にレイチェル・マクアダムスのくしゃけた笑顔、ビル・ナイの上質な生活の香りのするくだけた父親像の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。