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小山正太『5→9〜私に恋したお坊さん〜』1話

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今クールの月9枠ドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』の1話を観た。坊主との異色ラブコメディ、主演は石原さとみ山下智久の2人。これといって期待を持たずに眺めていたら、想像以上に楽しめた。脚本、演出、美術、音楽(磯山晶プロデュース作品でお馴染みの志田博英!)など、あらゆる要素が高水準を満たしている。まず、映像の感度がとてもいい。桜庭潤子(石原さとみ)が職場の表参道から千代田線で町屋へ、そこから都電荒川線に乗り換え熊野前で下車し団地へ、という一連の帰宅シーンの中で、見事に東京の夜が画面の中に美しく収められている。それも大文字の「TOKYO」ではなく、人々が暮らす街としての東京の夜が。「華やかな表参道の職場でNY通としてもてはやされる主人公が、実は下町の団地で実家暮らしだった」というギャップを描くシーンなのだけど、そのギャップをいかにも情けなく演出するのでなく、むしろとびきり魅力的に撮る態度に好感を持った。また、極めて優れていたのは、同じく移動のシーン。主人公が遠方のお客に謝罪に赴く為に、バスや電車を使い大移動するのだが、それを”ショット”と呼んで差し支えない画面の連なりで編集している。テレビドラマでここまで贅沢に電車や車を撮る事ができるのか、と感心してしまった。また、原作とはかなり乖離しているようだが、設定やキャラクターがとにかくチャーミングだ。CM(桜庭家のセットにしっかり映り込む「ふんわり鏡月」とか)や映画『進撃の巨人』ではその“やだみ”が炸裂している石原さとみですが、本作においてはコメディとトレンディの間に見事にコントロールされていて、実に気持ち良い。例えば、ライバルと言っていいだろう上戸彩の凡庸さでは乗りこなせない難しい役をやり遂げているように思います。中でも最も注目すべきは脚本を担当している28歳の新鋭・小山正太の才能だろう。


まず、出会いのセッティングがいい。舞台はお葬式。長時間の正座で足が痺れてしまった潤子は立ち上がると共に、足がふらつき、つまずく。そのはずみで、お経を上げていたお坊さんの高嶺(山下智久)の頭に焼香をぶちまけてしまう。掴み損ねて放物線を描く焼香と灰をかぶる坊主。なんて独特な物語の始まりだろうか。しかし、小山正太の脚本が巧いのはその斬新さだけではない。この1話におけるボーイ・ミーツ・ガールを全て”足”から起因する運動で処理していくのだ。まず、この灰かぶりの出会いは、正座で痺れてしまった”足”がもたらしたものと言える。次に、秘密裏に進められていた2人のお見合いはどうだったろう。乗り気でない潤子を裏で推し進めていたのは蟹、その身がたっぷり詰まった”脚(足)”だ。上手に蟹の脚をむけない潤子を高嶺が手ほどきする事で、心理的にも物理的にも2人の距離はほんの少し縮まる。そして、とびきり秀逸なのは靴(=足)の挿話だろう。上司である清宮(田中圭)に「とびきりお洒落してこいよ」とパーティーの誘いを受けた潤子。初任給で購入したもののずっと仕舞ってあった、ヒールの高い美しいフォルムの靴を箱から取り出す事となる。しかし、パーティー当日、潤子は仕事のトラブルにより、遠方に謝罪に出向かねばならなくなる。歩き回るには不向きな靴で、2時間に1本のバスを逃してしまう。パーティーには間に合わない。追い打ちをかけるように、雨に降られ途方に暮れる潤子の元に、(さながら白馬の王子のように白の高級車に乗った)坊主が現れる。潤子が立ち上がると、ヒールの折れた靴は、彼女をよろめかせ、つまずかせる。オープニングのリプレイのようだが、今度のよろめきは2人の身体を密着させる事となる。実に鮮やか。これは足から始まる恋物語なのだ。他にもギャグ的扱いだった高嶺の「おめでとうございます」を反復させ、3度目のそれで、最愛の人の誕生を祝福させてしまう小技も憎いではないか。


脇役がやたらと多く、恋愛群像劇を志向しているようで、おそらく回を進めるごとに話はとっ散らかっていくような気がするのだけど、少なくともこの1話は極めて良質でありました。小山正太という若い才能に期待して、継続視聴、間違いなしだ。