青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『最高の離婚』最終話


喜劇と悲劇の狭間を最後の最後まで突き進み、最高のエンディングを見せてくれました。完璧な脚本である。面白い名前の店員さんがいた事を報告したい、そんなさりげない事こそが、他人である2人が一緒に生きて行く理由なのかもしれない。そんな真実めいたものを「ビデオ屋の店員イナヅマさん」の1フレーズに込めてしまう。

あの時会わなかったら、今でも他人のままだったの。
どっかの会社の受付ですれ違うそれだけの間だったの。
私が死のうと生きようと、あなたは知らないし、あなたには関係なかった。

いつ居なくなってもおかしくない人と一緒に暮らしてる。
いつ無くなってもおかしくない時間を過ごしてる。
いつお別れがきたっておかしくないのに好きだって事を忘れて生きてる。
そういう、そういう風に生活してる。まあ、短くまとめると・・・・大切な人だと思ってます。

人生の偶然性と有限性への言及も素晴らしい筆致である。しかし、上記のような告白をもってしてもなおその後の2人の会話は平行線を辿っていく。「人と人は永遠にすれ違って生きていく」という冷酷な、かつ紛れもない事実を2組のカップルで描いてきた本作のラストは、4人共に元鞘に収まるというハッピーエンディングである。しかし、これを単なる温いエンディングと思うなかれ。ハイライトと言える、光生と結夏の電車のシーンを思い出して欲しい。2人は対岸関係にある座席に腰を下ろす。2人は永遠に平行線をたどりながらも、同じ箱に乗ってレールを進んでいく。これがこのドラマの提示した美しい真実だ。そして、その平行線は時に、交わり合う。例えば、暴発的でいびつなキスなどによって。そして、第1話で描かれた光生と結夏の出会い(2011.3.11の夜のハイキング)が美しく反復していく。1話を反復しなかった(光生が歌うはずが父親に歌われてしまう)コブクロの「永久にともに」も見逃せない。代わりに光生が歌うのが沢田研二の「君をのせて」というナンバー。この楽曲は「共に〜」と連呼するコブクロの楽曲とは異なり、

君のこころ ふさぐ時には
粋な粋な歌をうたい Ah…
君をのせて夜の海を 渡る舟になろう


沢田研二「君をのせて」

と一方向の愛の形が歌われる。これは「共に」というクリシェの否定であり、光生の取る行動のメタファーになっているのだ。2013年ベスト脚本賞は『最高の離婚』に決まり!