青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

五反田団『宮本武蔵』


剣豪演劇。とは言え、いつもの五反田団で、いつものように傑作。脱力した宮本武蔵。どうにも私たちは井上雄彦の『バガボンド』の宮本武蔵像が刷り込まれているので、そのギャップでより笑えた。ホモソーシャルな男子中学生マインドもふんだんに散りばめられていて気持ちいい。退屈や気まずさや恥ずかしさがエンターテイメントに昇華する瞬間を観るのはたまらない。


最初は「ござるよ」の言い回しの音で遊びたいだけ(秀逸でした)で時代劇にしたのでのないか、とか思ったのですが、そういうわけでもないようだ。コミュニケーションは人を傷つけもする。故に、この劇ではそれが”剣”として具現化している。「人と人が真剣に向かい合う」の語源は調べてないけど、きっとそういう事なのだろう。刀を抜かないけど、刀を手放す事もしないディスコミュニケーション宮本武蔵。それを前田司郎が完璧に演じていて、本人は謙遜しているけども、やはり前田作品での役者としての前田司郎は至高である。


現代病でもあるコミュニケーション不全を笑いに包めてはあるもののゴロっとした形で提示してくる。警告でも肯定でもなく、生々しくありのままを見せられるので効いた。ゾッとするような場面でも笑いが起きていた。それって結構すっごい事だと思うのだけど、きちんとどちらか(の感情)に傾倒していないと納得しない人もいるようで、そういう人にオススメしない。ふざけているようですっごい真面目な五反田団らしい一撃だった。