青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

新海誠『君の名は。』

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エンドクレジットでスクリーンの幕が閉じ、照明が灯ると、満員の館内が異様な熱気に包まれているのを感じた。そうです、異例の大ヒットを飛ばしているという新海誠の最新作『君の名は。』を観てきたのだ。いやはや驚いた。むっちゃくちゃ面白いではないか。何故大袈裟に驚いてみせるかと言えば、私がこれまでの新海作品に否定的な立場の人間であったからに他ならない。だって新海誠を褒めるなんて、せっかく大人になってきた自分を否定するような気持ちではないですか。もしくは「ゴッホよりラッセンが好きだ!」と声高に叫ぶようなものだ。でも、もう降参。これは新海誠はじめての傑作である。上映終了時に観客の感想に耳をすますのが好きなのだけども、この日のベストは、女友達2人組による「絶対彼氏とまた観に来るわ、これ」という興奮覚めやらぬ感想でした。いいぞ。どんな批評も敵うまい。


作画監督にレジェンド安藤雅司(!!)、制作とキャラクターデザインには川村元気田中将賀というヒットメイカ―、声優を担当するのは神木隆之介上白石萌音長澤まさみといった人気俳優陣、極めつけは音楽にRADWIMPS。これでもかのセルアウトがかくも功を奏したというのは、エンターテイメント界において稀有な例と言えるのではないだろうか。これまでの新海作品に漂っていた無意味な陰鬱さを見事に吹き飛ばし、とびきりの大衆性を獲得する事に成功し、やはりこれまで皆無であったアニメーションの「動」の快楽性にみなぎっている。あのピカピカのウンコみたいな独特の臭みの台詞回し(新海節)も激減。それでいてこの『君の名は。』において、新海誠という作家の核は何ら損なわれていないのが素晴らしい。むしろ深みを増してさえいる。


「いつでも捜しているよ どっかに君の姿を/向いのホーム 路地裏の窓/こんなとこにいるはずもないのに」と歌われる山崎まさよしのあの楽曲に託された”一生忘れられない もう会えない人”という新海誠が繰り返し描いてきたモチーフ。作品を通すと、どうしても新海個人の感傷にしか感じられなかったそれが、今作においてはじめてリアリティと普遍性を帯びている。それも「精神の入れ替わり=おれがあいつであいつがおれで”状態」というSF的ギミックによって、逆説的にだ。痛快ではないか。これぞ、物語の正しいあり方である。


今作における新海誠ストーリーテリングは実にお見事。「この先、どうなってしまのだろう」という関心を最後の最後まで掴み続ける。スケールは壮大に、でもテンポはコミカルに軽快に、106分という優秀過ぎるランタイムで語り切っている点も賞賛に値するだろう。これまでのフィルモグラフィーのモチーフを丁寧に編み込みながら、自身の全ての作品の未来を肯定するようなエンディングへ。憎たらしいほどの筆致である。ストーリーの細部の破綻を突き出せば限がないのだが、そういったものを吹き飛ばす物語のドライブ感、そして”口噛み酒”や”糸織り“といった豊かな細部の運動が今作に備わっているのもまた事実。物語に淫する、という感覚を現行のエンターテイメント作品で味わえた事を素直に喜ぼうではないか。音楽の使い方に関しては、『秒速5センチメートル』のがよっぽどやばいと思うので(あんなものを自分で許せてしまうクリエイタ―根性凄すぎ)、今さら指摘するのは野暮です。と、ここまではネタバレなしの感想。以降は、たいした事書いてありませんが、ネタバレなので、念のため畳みます。気になる方は、鑑賞後にお読み下さい。

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新海誠『星を追う子ども』

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全てのアニメーター、いや鑑賞者を含めアニメに少しでも関わった全ての人間はジブリコンプレックスなのではないだろうか。そのコンプレックスの集大成がこの作品だ。宮崎駿の各作品からイメージをほぼそのままトレースしたもので敷き詰めるという、よく言えばヒップホップ的な、しかし、どう考えても幼児的な感性でもって、新たな物語を再構築している。そのトレースはキャラクターデザイン(後半になるにつれその疑似度は加速していく)や建築や背景美術はおろか、ロボット兵や飛行石やフード理論といったジブリの専売特許とも言える領域にまで及ぶ。更には”寒くて震える”だとか”タオルでふいてあげる"、といった仕草ひとつひとつにまでオマージュが捧げられていて、これはもう記憶レベルでジブリな作品で、あまりのてらいのなさに鑑賞中にクラクラすることしきり。


こういった指摘に対して、「ジブリからの影響は自覚しているが、どっちかというと東映アニメーション世界名作劇場といった日本のアニメの伝統的に倣うことで、鑑賞の間口を広げたかった」的なことを新海誠は語っている。しかし、作品を観ればそんな言い訳が通用しない事は明白だろう。だってもうジブリへの憧れでパンパンなのだから。間口を広げるなんていうのは建前で、絶対「(ジブリを)やってみたかったんだもん!」という事なのだろう。なんたるチャイルディッシュな欲望だ、と呆れるのは簡単なのだが、そもそも新海作品というのはそういった幼児的欲求に支えられたものではなかったか。「最初に好きになった人を最後の最後まで愛し抜くのだ、絶対に、ぼくは!」という幼くて無垢な発想を、エヴァンゲリオンやら村上春樹やの風味でまぶして作られたのが、『ほしのこえ』であり『秒速5センチメートル』であったはずだ。それを評価してきてくれたのに、今作に限ってそんなに叩かなくてもいいではないか、という反論もわからなくはない。


しかし、今作はやはり抜きん出て稚拙。壮大なスト―リーは当然のように脚本は破綻しているし、説教じみた説明過多な台詞は耳にうるさい。「動」の描写の魅力の乏しさもあまりに痛い。これを観てしまうと、改めて宮崎駿の運動感と物語とメッセージ性のバランス感覚に感服せざるを得ない。サンプリング元がジブリにだけに留まらなにのも往生際が悪い。『鋼の練金術師』やら『タッチ』やら、まるで小中学生の本棚のようだ。それでも、本作を褒めるならば、新海誠が物語ることに挑んでいる点になるだろう。本当は誰もが観たくてたまらないくせに、何故か軽視され続ける血沸き肉踊るような少年少女達の冒険物語。その担い手に歪な形ながらも立候補している。そこは最大限に評価さればなるまい。


タイトルに冠される「星を追う子ども」とは宮崎駿を追いかける新海誠の事ではないだろうか。今作において”星を追う子ども”であるシュンを待ちうけていた未来は”死”であった。シュンはそうなることがわかっていても「見ておきたいものがあった」と星を追いかける。この筆致から、世間が大得意の「パクり!」という糾弾を覚悟しながらも、本作に挑んだ新海誠の覚悟が伺えまいか。コンプレックスを克服するために、一度徹底的に模倣してみたのだ。この作品の「別離とは呪いであり祝福である」というテーマもやはりジブリとの関係性そのものとして飲み込みたい。宮崎駿に対する「物語れよ!」という挑発であり、壮大で不細工なラブレターである今作。大ヒット中の『君の名は。』のおかずとしても、一見の価値はあるかと思います。

yojikとwanda「ナツ三部作」について

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yojikとwandaの「ナツ」を貴方は聞かれましたでしょうか。まずは下記記事をお読みください。
d.hatena.ne.jp
そうなのです!よーわんの未発表音源が「ナツ三部作」として期間限定フリーダウンロードで順次アップ中なのです。今年の夏を彩る最後の名曲はこいつらに決まり。”フリー”ということはすなわち無料ということで、聞くも聞かぬも自由。ならば、聞く自由を選ぶ方がすばらしくてNICE CHOICEなのではないでしょうか。門戸は広く開かれた。よーわんの音楽は貴方や貴方、そして更なる遠くの貴方の耳に愛されることを待ち続けているのです!



さて、そんな「ナツ三部作」の第1弾としてドロップされたのが「ナツ」であります。昨秋にリリースされた3rdアルバム『フィロカリア』の初回購入特典カセットテープにもデモバージョンが収録されていました。wandaによる弾き語りのその素朴な佇まいの時点で隠しきれないポップネスが弾けまくっていたわけですが、yojikのハーモニーとitoken、服部将典吉田悠樹、岡野勇仁というお馴染かつ鉄壁の布陣によって、お化粧された今回のバージョンを聞いて再び驚愕(入魂のギターソロアウトロ泣ける)。なんて緻密かつ大胆なソングライティング!シンプルでいて複雑、ラブリーだけどもどこか孤独。やっぱりポップソングというのはそんな風にしてアンビバレンスを内包していなきゃね。歌詞も公開されていて、素晴らしいのでぜひ目を通して欲しい。

海へと向かう渋滞ロード
ママに怒られ泣き出す隣車の子
夜まで花火待てない、楽しげなカッポー、とてもステキさ


ベイビーアイウォンチュー
波音はまだ聞こえない
ベイビーアイニージュー
僕は夏が大好きだ


輝いてる光が
僕の心をとかしてく
いろんなこと、話したい話
もうなにがあったか忘れたよ


ベイビーアイウォンチュー
波音が近づいてくるよ
ベイビーアイニージュー
君も夏が必要だ


浮き輪、ビーチパラソル
準備万端ボーイズンガールズエナひとたちー
砂の城つくって橋とおす子
泳ぐ人たち、クロール決めてよー


ベイビーアイウォンチュー
波音はもう聞こえるかい
オーベイビーアイニージュー
僕は夏が大好きだ


空から落ちてく光が
僕の身体を変えてゆく
君が好きさ、たまらないきもち
ねぇラブソングしか歌えない


ベイビーアイウォンチュー
波音がああ気持ちいいよーーーー
ベイビーガタアイニージュー
僕ら夏が必要だ

ドライブしながら海へとだんだん近づいていく高揚感を見事に楽曲に落とし込んでいる。しかし、よく目をこらすと、この楽曲の主人公は周りの情景を語るばかりで、自分は決して水には入らず、ひたすら波音に耳をすませているではないか。ここにあるのは、泳げないままに数多のサーフソングを量産したブライアン・ウィルソンのイマジネーションの類。僕みたいな人間が1番好きなタイプのやつ。「手をつないで/歩いた海岸線/車へ乗り込んで/向かったあの夏の日」(Ⓒケツメイシ)なんて夏の思い出があろうともなかろうとも、僕は夏が、そしてラブソングが大好きなんだなー。



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サウナ旅行記2016夏

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先日、静岡~長野を横断してのサウナ巡りを行いました。そこで出会った3つのサウナを紹介させて欲しい。まず静岡駅に到着後、すぐさま向かったのはもちろん「サウナしきじ」だ。サウナーにとっての聖地中の聖地。その佇まい、2種のサウナ(特に薬草サウナ大好き)、水風呂、客層、そのどれもがオーラからしてレベルが違う気がするのです。実際、こちらのサウナは別格の良さがあって、1セット目でととのってしまいます。100℃越えのフィンランドサウナで甲子園を眺めて、攻防のチェンジの合図と共に、ダラッダラの汗を流してサウナを出る。掛け湯で汗を流し、ご自慢の天然水による水風呂へ。はー、これぞ至福。「かつてわたくしはここにいた」と思わせてくれる肌への馴染み。その柔らかく包み込まれる感覚。これは何としてでも皆さまに体験して欲しい。静岡ってなかなか旅先には選ばないかと思うのですが、「しきじ」に行く為に、静岡旅行を画策するというのは何ら愚かな事ではありませんよ。サウナを堪能したら、巷で話題のレストランチェーン「炭火焼きレストランさわやか」でげんこつハンバーグを食べればいいのだ。
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これだけなら都内からなら日帰りでだって可能。「サウナしきじ」→「炭火焼きレストランさわやか」のトレンディな流れ。これ、もうこの夏1番のやり口なのでは。『POPEYE』で特集されるレベルです。



静岡駅から清水駅(『ちびまる子ちゃん』の世界だ)に移動して、バスに揺られて辿りつきますは「駿河健康ランド」である。こちらはクア・アンド・ホテルという会社が経営する老舗スーパー銭湯&ホテル。いやはや衝撃を受けましたね。20種類を超えるお風呂に5種のサウナ、岩盤浴。大食堂、宴会場、カラオケ、ゲームセンタ―、マッサージ&エステ。その巨大施設にたくさんの家族や恋人達。世の中にはこんな文化があって、それを享受する人々がこんなにもたくさんいるのか、という新鮮な驚きだ。CMでお馴染の「ホテル三日月」とか「ハトヤホテル」とかもこんな感じなのだろうか。
youtu.be
いや、ほんと充実しまくりの施設なんですけど、そのどれが絶妙にしょぼいのがまたいいんですよね。アウフグースとか一応もあるんですけど、アロマがマスカットの香りだったりね。「いや、そういうんじゃねーだろ」っていう。ガムかよ、と。駿河湾を一望できる絶好のロケーション!と謳っているんですけども、いざ露天から眺めてみると海は巨大駐車場ともろかぶりだったりね。でも、そういうの含めて、愛くるしいし、楽しい。とにかく広くて種類が豊富なので、1回浴場に入ったら2時間は必要です。1泊2日ならば、「サウナしきじ」→「炭火焼きレストランさわやか」→「駿河健康ランド」のコースがオススメ。一気に『POPEYE』では特集されない感じになります。



長野では軽井沢の「トンボの湯」へ。「駿河健康ランド」とは打って変わっての、星野リゾートが経営する高級感溢れる温泉施設だ。繁忙期は入館料1500円、とかなり高額だが、建築や備品のミニマルかつスタイリッシュなデザインはそれを納得させてくれる気品高さがある。過去にも訪れた事があるだが、当時はサウナに関心を抱いていなかった為、サウナと水風呂の存在にすら気づいていなかった。そのなんたる損失であったか。ここはもう文句なしに素晴らしい。サウナ内では静かな音で古今東西のジャズミュージックが流れている。勿論、テレビはなし。雨のパラつく軽井沢で、露天の温泉の水面に跳ね返る雨音と鍵盤が混ざり合う。そんな音色に耳をすませながら、目をつむり、ジッと身体を温め汗を流すというその行為は、私の考えうる最高の贅沢である。ねぇ、みんな!これが生きてるってことなんだよ?(Ⓒケストナー)って感じ。90℃に満たない低温高湿のボナサウナには、やや物足りなさも覚えるが、このタイプは長時間入っていられるのがいい。初心者にはうってつけだろう。素晴らしいのがこのサウナ室の設置場所。何と露天場なのだ。つまりサウナを出たら、すぐに外気浴(しかも軽井沢のナイスな気候だ)というわけです。これはたまらない。更に驚くなかれ、この露天には洗い場、水風呂までもが用意されているのだ。外気を浴びながら汗を流し、そのまま水風呂へ。このスムースさ。そして、この水風呂がまた格別なのだ。温度計がないので定かではないが、15℃はゆうに切っているであろうキンキンの冷たさ。水質も抜群で、薬品臭さも皆無。ものの数秒で手足が痺れてしまうわけだが、もっと入っていたいので、手足だけ無理矢理水の外に出したりして、楽しんじゃったり。サウナ→水風呂→外気浴というセットを楽しむのがセオリーだが、水風呂で冷え切った身体を温泉で温めるのも格別。軽井沢へご遊行の際は、ぜひとも訪れて頂きたいサウナだ。

シャムキャッツ『マイガール』はSMAP「胸さわぎを頼むよ」の夢を見るのか

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シャムキャッツのニューシングル『マイガール』良いですね~。最初に表題曲を聞いた時は、奥田民生の「the STANDARD」以来の魂のロッカバラードの誕生じゃん、とか思っていたわけですが、『Sign Magazine』読んでいたら、田中宗一郎先生が

乱暴に言えば、「マイガール」は尾崎豊の「I LOVE YOU」の2016年ヴァージョン

と書かれていまして。おいおい、そんな乱暴が許されるなら俺にも何か言わしてくれよ、と。奥田民生シャムキャッツとかはでなく、もっと乱暴に(でもとびきりの愛情を持って)、シャムキャッツSMAPを結びつけてしまっていいでしょうか。We love SMAP!夏目くんだって、そうでしょう?僕たちの永遠なるポップスターへのレクイエムに代えて。



youtu.be
助走なしでいきなり始まる感じとか(あらゆる事を気づいたらもう始まっているのだ)、どう考えても長くてわけのわからないグルーヴィーに暴れ回るアウトロには、勇気づけられるというか、タナソー風に言うならケツを蹴り上げられる気持ちになりますね。これぞ、ロックンロールというやつだ。

ふてくされてどうしたの
たまにするその顔
正直めんどう 暗い君の相手
いつもの可愛い顔しておくれ

言葉じゃなーんもダメさ
埒があかないくせに求められる僕の身にもなって

そばに来なよ マイガール
それがいいさ マイガール

男の子にとって女の子というのは、永遠に謎で、永遠にわかりあえない、最高にめんどうくさい存在だ(もちろん、女の子だってそう思ってるのかもしれないけどね)。でも、この不安で混乱した時代をタフに生き抜くにはどうしたって恋は必要不可欠で、男の子は「かなわねなー」なんて言いながら懸命に追い掛けて、抱き寄せる。ドキっとするくらい生々しく、普遍的なラヴソングだ。で、この曲のフィーリング、これがもう完全にSMAPの「胸さわぎを頼むよ」なのですよ。
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ちなみに「胸さわぎを頼むよ」は1996年にリリースされた20枚目のシングル。オマー・ハキムとウィル・リーという世界最高峰なリズム隊のグルーヴで楽しめます。収録アルバムである『008 TACOMAX』がまた超絶最高なのでオススメしておきたい。グループ屈指の名曲「それじゃまた」とかね。シングルだと「どんないいこと」とか「俺たちに明日はある」あたりが入ってて。「どんないいこと」もほんと好き。めちゃイケの岡村オフォーシリーズ第1弾でSMAPライブで披露されているこの曲を聴いてナイティナインの矢部が「ええ曲」って呟いたのマイテレビ史の中でも1、2を争うシーンだ。「俺たちに明日はある」なんて

時代遅れのオンボロに 乗り込んでいるのさ
だけど 降りられない
転がる ように 生きてゆくだけ

とかいってさ、もうこれがレーベル設立を果たして再スタートをきるシャムキャッツのロックバンドとしての決意表明でもいいじゃんね、って感じなのです。



話が逸れました。「マイガール」が「胸さわぎを頼むよ」の2016年ヴァージョンって話でした。何のことやさっぱりわからん、という人にどうにも上手く説明できる気がしないので、歌詞全掲載という暴挙をお許し下さい。多分それでぜんぶわかるから。本当に完璧なリリックなのだ。

Ah
いつも誰かしら ぼやいてる
彼女のこと わからないと
頭かかえてる

Why
ちょっとしたことで とがるよね
街で電話で 突然くる
不機嫌にお手上げ

かたくなな感じ 手強そうで たまんない

胸さわぎを頼むよ Oh
こりないで 恋をつづけてくれ
いとおしさは深みへと はまりそうだよ
この気持ちを頼むよ Oh
仕方ない ヤツと思っていい
キメる時にキメるしか Don't you know?
やれないのが僕らさ


Why
泣いたすぐあとに はしゃぐから
マジなせりふ 宙に浮いて
コメディの主役さ


なんか かなわない
じたばたしてる
不器用


胸さわぎを頼むよ Oh
謎のまま 今を攻めて生きて
買い物にもつきあうし 花も贈ろう
この気持ちを頼むよ Oh
くちびるで そっけないフリして
恋は夢や情熱を Don't you know ?
かりたてられたいから


胸さわぎを頼むよ Oh
ありのまま 君を生きてていい
いつかきっと幸せの カゴの小鳥さ
恋心は嘆くかい
お互いは 別の生きものだね
同じならばひかれない Only you
謎だらけでせつない

ね、「マイガール」と一緒でしょ?そんで、もう世界で1番いい曲じゃないですか!? 一見すると「$10」系譜のバブリ―でトレンディな歌詞なのですけど、これはもうゴスペルなのです。大好きなはずの彼女のことが全然わからない!じたばたと振り回され、嘆きながらも、「どうか、わからないままの君でいて」とこっそり祈る男の子。最っ高。マッキーとは全然違うやり方で、「君は世界に一つだけの花なんだ」と説く戸沢暢美の筆致よ。とりわけ素晴らしいのは「胸さわぎを頼むよ/謎のまま 今を攻めて生きて/買い物にもつきあうし 花も贈ろう/この気持ちを頼むよ/くちびるで そっけないフリして/恋は夢や情熱を Don't you know ?/かりたてられたいから」の箇所だろう。わからない貴方を想うこの”胸さわぎ”こそが、この世界を回しているのだ!と。これはもう

喜びを他の誰かとわかちあう
それだけがこの世の中を熱くする

と「痛快ウキウキ通り」(1995)で歌った小沢健二と同質でありながら、更にその一歩先を行くリリックではないだろうか。対抗しうるのは、

大好きだから ずっと
なんにも心配いらないわ
My darling Stay gold
無邪気に笑ってくださいな いつまでも

って歌った宇多田ヒカルの「Stay Gold」くらいじゃないかな。



ちょっと昔には、こんなに素敵な事を歌うアイドルグループがいたんだよ?しかも彼らは国民的スターだったんだ。みんなにも見せてあげたかったな。と、ひょんなことからインターネット空間の化石に迷い込んでしまった未来の人達への書き置き。「いやいや再結成してるから、SMAPシャムキャッツも」というツッコミを期待しながら。




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