青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

シャムキャッツ『TAKE CARE』

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シャムキャッツの新作『TAKE CARE』がリリースされた。ごく普通の街で巻き起こる何気ない日常の1編を切り取り、アルバムとして綴った2014年のマスターピース『AFTER HOURS』

AFTER HOURS

AFTER HOURS

その続編にあたるミニアルバムだ。引き続きジャケットを担当したさぬきなおやのイラストも素晴らしい。*1ジッと目前を見つめる少女に宿る決意のような何か。前作で見せたバンドのアンサブルの飛躍はそのままに、より普遍的なヴァイブスを放った決定盤だ。より広い場所にシャムキャッツの音楽が鳴り響くだろう。前作のムードを決定づけていた鍵盤の響きは鳴りを潜め、それ以上に多彩なトーンで彩りとエモーションを添えるギターが主役に踊り出ている。これがもう超いい、泣ける。我ながら、なんて幼稚な表現でしょう。しかし、君は「GIRL AT THE BUS STOP」のソロを聞いたか。言語化できない感情のようなものが音として鳴っているではありませんか。何といってもキャリアハイのメロディの充実、そして夏目知幸のボーカリゼーション。醸し出すメロウソウルは、往年のサニーデイ・サービスのムードを重ねたくもなる。時代に選ばれた”ヴォイス”というのは確かに存在して、今この国でそれを手にしているのはceroの高城晶平とシャムキャッツの夏目知幸である、と信じてやみません。

この「GIRL AT THE BUS STOP」に顕著だが、彼だけのリズムで浮遊する夏目のその歌声は、本作においては天使的な様相を見せている。それは一人称と三人称をシームレスに移動しながら、街で生きる人々を上空から描写し、現代に生きる空気のようなモノを掬い上げるリリックスタイルに相応しいように思う。

ねぇ 今日はどんなことあったの?
私はねぇ なんもない
風もなくて いい日だなあって思ってた
とりあえあず


「WINDLESS DAY」


とあるように、一見何でもないような日常のワンシーンが描写されていく。昔好きだった女の子をバス停で見かける(荒井由美「Good luck and Good bye」の鮮やかな変奏!)、上手く開かないお菓子の袋を男の子が開けてあげる、放課後の仲間とのキックベース、と紡がれているのはどれも心震えるような小さなドラマの数々ではあるが、こういったシーケンスの積み重ねで、シャムキャッツが伝えたいのは過ぎ去っていく時間の”跡”のようなものではないか。もしくは、積もっていく記憶。その連綿性。続いていく毎日。その揺るがない流れに目を背けず、そろそろ僕たちは勇気と決意をもって進んで行かなくてはいけないのだろう。勿論、周りには"TAKE CARE"気をつけながら。『AFTER HOURS』は、日常のシーンの積み重ねから成り立つどこか箱庭的なその街の中で、肝心な事を「忘れたふり」しながら戯れるムードがあった。しかし、この『TAKE CARE』には、その街を飛び出すための"バス"が、"列車"が、用意されているではないか。

どうしてここにいたいのか
たまにわからなくなるのさ
川沿い 遮るものもなく西陽が照りつける
あの電車に乗らなくちゃ
最近僕らはしゃべるとそんなことばかり言っているのだ


「PM 5:00」

そして、街の湾の向こう岸にはゆらゆらと"光る"何かがあるはずなのだ。これは間もなく永遠に続くと思われた20代が終わりを迎えようとしてるバンドメンバーの確固たる意志だろう。個人的な話になりますが、同じく30歳という節目を迎える僕は、このレコードに強く励まされ、聞きながら歩いていると、時には「宇宙で1番好きなレコードだ!」なんて大袈裟に涙ぐんだりしています。何より素晴らしいのは、過ぎ去っていく時間の跡、記憶の扱い方だろう。過去をただ慈しむような内省的な感傷はここにはない。「GIRL AT THE BUS STOP」にもう一度耳をすませてみよう。バス亭で見かけた女の子との、恋とも呼ぶのもおぼつかないかつての思い出。夜の防波堤での若き戯れ。

彼女ってば
彼の何かを勘ぐって
ねぇ行こうよって走り出す
空には月が輝いていて
テトラポットが波を砕く

こんなかつてのシーンが、10年後再び彼を走らせる。

彼ったら
もう間に合わないってわかってるのに
息切らして走り出す

過ぎ去っていってしまった時間は、ときに後ろの方から追いかけてきて、こんな風にそっと背中を押してくれる。まったく、人生とはこうであって欲しい、というのが全部鳴らされているような気分になるのだ。凄いぞ、シャムキャッツ

*1:木村紺の『神戸在住』を思い出した