青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

シャムキャッツ『AFTER HOURS』


シャムキャッツの通算3枚目にあたるアルバム『AFTER HOURS』がリリースされた。

AFTER HOURS

AFTER HOURS

線が細かく 探しあって作った愛しか知らない僕たち!

これはバンド初期の代表曲「アメリカ」のラインだが、まさに当時のシャムキャッツの演奏や参照音楽の折衷のドタバタぶりも表現されていた気がする。しかし、今作においてバンドは太い線の感じられるグルーヴと端正に編み込まれたソングライティングを披露している。はっきりと「進化」と称えたい。すごいぜ、シャムキャッツ。メロウなトーンを基調としながら内省的な所は微塵もない。ヒップホップやジャズのビートを参照したというリズムは有機的に躍動しており、BPMはスロー楽曲がアルバムの大半を占めるが、全体的に受ける印象としては非常にハイ。ようはステップを踏みたくなるような音楽。この感触は紛れもなくロックンロールミュージックだ。念の為の補足だが、ここで言うロックンロールは内田裕也の叫ぶそれよりも、レノンやマッカートニーの楽曲をそう呼ぶ時のフィーリングに近い。そうそう、ビートルズと言えば、ギター菅原慎一のペンと歌唱による「TSUBAME NOTE」はビートルズから奥田民生岸田繁系譜の新たな才能を予感させる名バラッドだ。圧巻なのはボーカル夏目知幸の歌だろう。少年性と色気を合わせ持つ、選ばれし声の魅力に加えて、その独特な譜割りの歌のリズムが、メロウなコードとリズムを乗りこなしメロディーを奏でている。母国語の音楽を聞く歓びを感じてしまうな。



コンセプチャルなリリックもいい。メインソングライターの夏目知幸はこのアルバムに「自分の暮らしてた街の美しさを残しておきたい」というアイデアがあった事を明かしている。変わっていくもの、変わらないもの。それらを自分の事としてではなく、その街に暮らす名前もない誰かの物語として神様の視点で語り、保存する。この近すぎず遠すぎずな距離感がとてもいい。インタビューでは高畑勲の『おもひでぼろぼろ』との共鳴を語っていたが、高畑勲作品で言えばそれらを狸に託す事で距離感を出した『平成狸合戦ぽんぽこ』もやはりそういう作品だった。

おもひでぽろぽろ [DVD]

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平成狸合戦ぽんぽこ [DVD]

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まさかシャムキャッツ高畑勲がリンクしていくだなんて夢にも思わなかった。『AFTER HOURS』というアルバムに収められた10編の物語を楽しもう。

エブリデイ・エブリデイ・エブリデイ
物語のはじまりには 丁度いい季節になったろう
まるで全てが変わるように

小沢健二の「暗闇から手を伸ばせ」だ。アルバム制作にあたりAztec CameraやOrange Juice

High Land Hard Rain

High Land Hard Rain

You Can't Hide Your Love Forever

You Can't Hide Your Love Forever

を参照の起点としたというエピソードからやはりどうしても想起せずにはいられないのが、最近「タモリがはしゃぎやるせなく午後が始まる」番組にも出演した小沢健二(ex-Flipper’s Guitar)だろう。アルバムのリード楽曲「MODELS」の字余りな矢継ぎ早な言葉の乱射もそうだし、表題曲「AFTER HOURS」における「意味もなく誰かに会いたくなる」なんてラインは「突然ほんのちょっと誰かに会いたくなるのさ from”愛し愛されて生きるのさ”」を想わずにはいられない。妄想が飛躍していけば

まぶしげにきっと彼女はまつげをふせて
ほんのちょっと息をきらして走って降りてくる
大きな川を渡る橋が見える場所を歩く

という同曲における最も美しい瞬間は「AFTER HOURS」を捉えたのと同じカメラが映した風景のように思えてくる。ちょっとうまくは言えないのだけど。とにもかくにもシャムキャッツ小沢健二は「美しさ」を共有しているように思う。シャムキャッツの1stアルバム『はしけ』の冒頭曲

僕は忘れたふりして街に出た

と歌われている。今作における「AFTER HOURS」では

それぞれの場所へ帰って行く つかの間の時を踊っている
朝がくる時はちょっとだけ あったまる胸を冷ましている

仕事の事を思い出しても 忘れたふりする

というラインがある。この感覚である。小沢健二の音楽はアッパーな多幸感の裏に、その実「ブルー」を忍ばせていた。

“オッケーよ”なんて強がりばかりをみんな言いながら
本当はわかってる 二度と戻れない美しい日にいると

シャムキャッツはこの「忘れたふりをする」「気づかないふりをする」という態度をより強く押し出し、平熱のまま「さて、ここからどうしょうか」「何をしようが勝手だよ」という、結論めいたものはないものの、圧倒的に未来にベクトルの向いたトーンを鳴らしている。時代や世代で音楽を括るのはナンセンスとわかっていながらも、『AFTER HOURS』は、そういったものを完璧に捉えてしまっているように思う。少なくとも彼らと同様に1985年生まれの私は、世代の声をシャムキャッツに託したいと思うよ。


最後にリリックからPVも含めて全てがジャストな「AFTER HOURS」を貼っておきます。シャムキャッツの楽曲の中で1番好きだ。どうにかなってしまいそうなほど!

嘘も本当も入り混ぜて 僕たちは時を泳いでいく
運ばれて来た喜びのリボンをほどいて風に投げる
それぞれの場所へ帰って行く つかの間の時を踊っている
朝がくる時はちょっとだけ あったまる胸を冷ましている

騒音が重なって 寝息みたい
高速道路の横で息を吐く
君の名前を思い出したり 忘れたりする
アフターアワーズ

思っていたよりもすごい早さで
全てが普通になっていく
安心しなよ 今日のねたみだって
ふきだすサイダーさ こぼれても泣かさないさ
ポケットに手を入れて ステップを踏み町をゆけば
どぶ川が瞬いて 意味もなく誰かに会いたくなる
鼻水をすすり 水たまりをジャンプして
まだまだ遊び足りない まだまだ帰りたくないのさ


歌が重なって叫んでいる
隙間を縫うように君は手足を揺らし
仕事の事を思い出しても 忘れたふりする
アフターアワーズ
若い光 産毛と光
だるくエンドロールがかすんでいく
まぶしくてねむたくて