『クローバーフィールド/HAKAISHA』(2008)の精神的続編という事だが、一旦それは忘れてしまっていい。配給会社の宣伝のまずさも目を瞑ろう。抜群に面白い映画なのだ、この『10 クローバーフィールド・レーン』は。「こいつは正常なのか?異常なのか?」「宇宙人はいるのか?いないのか?」という2つの疑問が絡み合いながらシーソーのように両極に揺れ、観る者を疑心暗鬼にさせる。上質な密室サスペンスだ。見えざるモノの音と振動、まなざし、車のヘッドライト、掲げられる松明など、J・J・エイブラムス経由で顔を覗かせる往年のスピルバーグのような演出も痺れる。
地上は”何か”の襲撃ですっかり汚染されてしまったらしい。この”Xデ―”に備えていたハワード(ジョン・グッドマン)のシェルター生活にひょんな形で巻きこまれたミシェル(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)とエメット(ジョン・ギャラガ―・Jr)の奇妙な共同生活が始まる。退屈なシェルター暮らしの中の娯楽の1つにDVD(もしくはVHS)鑑賞があって、劇中のテレビ画面にはジョン・ヒューズの傑作青春映画が流れている。
エメット:それって『素敵な片思い』?
ハワード:いや、『プリティ・イン・ピンク』だ
と、ご丁寧に台詞の中で作品名を提示してくれている。
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- 発売日: 2008/09/26
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「ドアを開けるな!」とハワードは度々ミシェルを制止するわけで、「扉を開けて走り出す」という運動がこの映画の最大のエモーションを担う。であるから、映画の冒頭でミシェルはまず”足”を負傷し、”足”に手錠をかけられ、松葉杖での行動を余儀なくされる。シェルター脱出の際の、すっかり怪我が完治したミシェルの軽やかで的確なアクション(足さばき)も素晴らしいが、命からがら外に脱出するやいなや、今度はUFOや化け物に襲われる時に見せる”走り”が最高だ。メアリー・エリザベス・ウィンステッドがトム・クルーズに見えてくる。映画序盤、不発に終わった松明の炎が、再び掲げられた時、あまりに有効な一撃として機能する展開には思わず胸を熱くさせられた。貴方が抑圧され閉じ込められそうになったなら、勇気と知恵でそこから飛び出せ、道は伸びている。これで103分。そら、傑作でしょうに。