ミュージック・ポートレイト「坂元裕二×満島ひかり」
NHKが放送しているトーク番組『ミュージック・ポートレイト』の「妻夫木聡×満島ひかり 第2夜」ご覧になりましたでしょうか!?妻夫木聡×満島ひかり?いや、申し訳ない、第2夜に関しては「坂元裕二×満島ひかり」でした。と暴言を吐いてしまうほどに、坂元裕二ひいては満島ひかりファンにとって貴重な言説をこの番組から得る事ができました。これまでも、坂元裕二脚本ドラマ『Woman』(2013)の制作記者会見において
(坂元裕二と)駆け落ちする覚悟でいます
一生一緒にやっていけたらと思います
という力強い言葉を満島ひかりは残しているわけですが、今回はより詳細に坂元裕二と自身の関係性について言葉を紡いでいます。番組内で満島ひかりが、役者としのてターニングポイントに、初のテレビドラマヒロインを務めた『それでも、生きてゆく』(2011)をあげる。
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満島ひかりの演技力を見込んで、脚本家である坂元裕二から直々のオファー。これは坂元裕二と我孫子武丸による『それでも、生きてゆく』をめぐる対談においても語れている。
実は『Mother』が終わったときに、「次は満島さんと仕事がしたい」という思いがあって、“妹”っていうキーワードが出たときに「あ、これは満島さんに頼みたい。満島さんに出てもらいたい」と。そういう目論見もあって企画をはじめたところも大きいですね。
しかし、彼女はこのオファーを断ってしまう。『愛のむきだし』(2009)『川の底からこんにちは』(2010)『悪人』(2010)各賞を総嘗めにするほどの活躍で着実に映画界でキャリアを積んでいく一方、テレビの現場に対してはある種の違和感が生じていたのが原因だ。
やっぱ・・・どっかしら、その映画なんかよりも
その、衣装合わせとかも結構簡単にパパパっとすまされちゃう印象とか
なんか役をみんなで作る前にもう脚本が来て
撮って撮って撮っていかなきゃいけないのが怖くて
テレビドラマで・・・テレビに行っちゃうと
また私はなんか自分を見てもらえなくなるんじゃないかって怖さがあって
ちょっとごめんなさいって
しかし、坂元裕二は諦めない。何度もオファーを繰り返し、それでも断られる。そして、とうとう直談判に踏み切る。
そしたら会いに来て
坂元さんが「いや、あなたが出ること以外僕は想定していない」って言って
こう ちょっと手がね、震えてて
それ見た時に
「あぁ私、この人と仕事・・・って言うか、
この人と人生の中で大きく関わらなければいけない」って
なんたる感動的な場面だろうか!!満島ひかりは、書いた本の内容でもなく、その熱意でもなく、坂元裕二の"手の震え"を見つめ、共に仕事をする事を決意するのだ。いや、それどころか人生すらを託してしまう。ちなみに、この経緯を坂元側から語ったインタビューが新聞に掲載されている。
最初から瑛太さんと満島さんでと思っていました。ところが満島さんは日程がとれないと断られた。相当落ち込みました。そういうことをしたのは初めてですが、お会いして「とにかくいてれくれないと困る。あなたじゃないと嫌なんだ」と。どうすれば出てくれるのかと焦り、25歳の女性を前にいい年して中学生のように手が震えて。「まずい。気持ち悪いと思われる!」って(笑)
面白い事にやはり"手の震え"について言及している。坂元自身もまさかその震えが彼女に出演を決意させたとは想いもしなかっただろう。すでに、この2人のやりとりのズレと共鳴は、坂元脚本のそれのようではないか。また、前述の我孫子との対談において坂元裕二が語った満島ひかりという女優の魅力についての言及を引用しよう。
普段の彼女のお芝居を見ていても、ペラペラペラペラ流暢にしゃべるよりもつっかえながらしゃべるお芝居の方が僕は好きなんですね。それで今回も、想いが先にあるから言葉がそこに上手くついていかない感じをやりたいと思って。それが満島さんの一番得意な場所というか、一番魅力的な場所なんじゃないかなと思って。
感情を流暢に表現しない面白さ。言い淀みやつっかえ、といった"ノイズ"とも捉えられかねない現象をポップに響かせる事のできる才能。それは坂元が描き続ける「人と人のわかりあえなさ」或いは「世界とのズレ」を美しく表現するにふさわしいだろう。であるから、坂元裕二は満島ひかりを求め、満島ひかりもまた"手の震え"から坂元裕二にその資質を嗅ぎ取る。2人は同じ舟に乗り込む事となる。
更に満島ひかりは『それでも、生きてゆく』撮影時のエピソードを語っていく。
だいたい7話くらいで坂元さんは・・・ちょっとねぇ
7話くらいでちょっと展開させすぎちゃう
(こんな事言ったら)怒られるけど(笑)
それで連絡をする、した
「この7話だったら私は現場に行かない」
とか言って(笑)
そしたら答えみたいに違う台詞の脚本が届いて
「わっ、凄いありがとうございます」ってやって
でも嘘つくのが嫌だから
テレビはやっぱちょっと綺麗じゃなきゃいけないとかあったけど
できるだけあのナチュラルに、結構受け入れてやらせてもらって
なかなかない経験をしたドラマだった
若干25歳にしてベテランの脚本家に書き直しを提言する。凄まじいエピソードである。ときに『それでも、生きてゆく』7話を振り返ってみると、基本は三崎文哉(風間俊介)のシーン。双葉(満島ひかり)の出演シーンで言うと、洋貴(瑛太)の母である響子(大竹しのぶ)との対話箇所であろうか。2人は加害者家族と被害者家族の関係である。
響子:ねえ?いいのよ。幸せになりたいって思って、いいのよ
あなただって洋貴だって、絶対に幸せになれないわけじゃないのよ
なるために、なるためにあなたと洋貴で考えるの
双葉:私と洋貴さんで・・・?
響子:二人で考えるの、お互いの幸せを
洋貴はあなたが幸せになる方法、あなたは洋貴が幸せになる方法
双葉:・・・あのう、私
響子:うん、何?
双葉:洋貴さんに靴と靴下買ってあげたいです
響子:えっ?ハハっ
双葉:洋貴さん、いつもかかと踏んで歩いてるし
あと 靴下も何か変な色のばっかり履いてて
響子:あぁ
双葉:あと、あのう ご飯とかも作ってあげたいです
洋貴さんって何の食べ物が好きなんですか?
響子:洋貴?冷凍ミカンかな、ハハッ
双葉:作りがいないですね
世界から零れ落ちそうな主人公の切なさを可笑しくも愛おしく捉えた、個人的にも大好きなシーンだ。もし、この箇所が満島ひかりの意見によって書き直されたものだとしたら・・・なんて素晴らしい共同作業だろうか。そして、満島ひかりは坂元との関係をこんな言葉で締める。
本当に精神的な仲間
唯一無二の仲間に出会えたのが
この『それでも、生きてゆく』で
精神的な仲間、同志。おそらくこの言葉には同作の主演男優である瑛太も含まれているのだろう。『最高の離婚』(2013)でも主演を務め、その抜群の相性はもはや坂元作品の創造の源だ。今春の坂元裕二の新作『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』1話に、満島ひかりが声でサプライズ出演を果たし、放送後には瑛太がTwitterでこんなつぶやきを残す。
月9とても良かったなー。皆さん観たんだろうなー。脚本、監督、スタッフ、キャスト、素晴らしいですねー。
— 瑛太 (@mituoda) 2016年1月19日
二話が楽しみだなー。俺は、何話に登場するかなー。(嘘、、
少し下世話な話になるが、先日の満島ひかりの離婚報道。離婚というターム以上に動揺させられたのは、満島ひかりが瑛太夫妻と家族ぐるみで付き合いを継続しているという点ではなかっただろうか。坂元裕二、瑛太、満島ひかり、その"精神的な仲間"が再び一同に介し、我々の胸を震わせてくれる日はそう遠くなく、そしてそれは一度や二度では終わらないという事を確信したのでした。