青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

携帯アプリゲーム『最後に彼女はそう言った』

f:id:hiko1985:20150520000816p:plain
SYUPRO-DXの開発した携帯アプリで無料ダウンロードできるRPGゲーム『最後に彼女はそう言った』をプレイ。携帯でゲームをプレイする事自体が初めてだったのですが、快適な操作性とクオリティの高さに感銘を受けてしまいました。RPGではあるものの、モンスターとの戦闘などはなく、故にイライラのエンカウントもなし。ちょっとした時間でもストレスフリーでプレイできるのがありがたい。本作の特徴は、ドット絵やキャラクターのルック、涙腺に訴えかけてくる音楽、モブキャラクターのウィットに富んだ台詞回し。誰もが想起するのは、任天堂の『MOTHER』シリーズだろう。あちらがアメリカンな世界観を形成していたのに対して、本作の舞台は日本の過疎化した村。物語のはじまりはこうである。

祭の夜には お面をつけて 死者が この世に もどってくる

そんな言い伝えの残る村に帰省した主人公の元に1通の手紙が届く。差出人は4年前に死んだはずのクラスメイトだった。その奇妙な出来事をきっかけにして、主人公は”祭りの1日”をループし続けることになる。その反復の中で、久しぶりに再会する友人や村人たちと交流しながら、目を背けていた彼女の死の真相に迫っていく。つまり、身も蓋もないレジュメの仕方をしてしまえば、『MOTHER』と『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の掛け合わせだ。すなわち、ノスタルジーと誰もが抱える甘く苦い後悔に訴えかける、鉄板のシナリオとルック。とりえず上記2作が好きであれば、間違いなくプレイ推奨です。


また、本作は前述の2作のみならず、無数のカルチャー作品へのリスペクトとオマージュで形成されている。ループ構造には、古典のSF小説や『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー 』を端とする美少女アニメやノベルゲームからのイメージがトレースされているし、土着性や濃厚な死臭は『死国』『黄泉がえり』『ひぐらしのなく頃に』といったJホラーの意匠を感じる。その他にも「湖に浮かぶ死体」だとか「姿を消した蛍」だとか「幻の花」だとか「ゴルフ場建設反対」だとか、どこかで見聴きしたイメージが数珠つなぎされている。であるにも関わらず、異様に涙腺を刺激される。「届かなかったはずの手紙が届いてしまう」という奇跡や、過去からの慈しみの眼差し、未来を照らす光の可視化。おそらく、本作をただシナリオとして読んだだけでは、鼻を鳴らして投げ捨てていたに違いない。しかし、ゲームを進めたという能動的な実感が、私に大いなる感動を与えてくれる。あぁ、そうだ、ロールプレイングゲームをクリアするってこんな感じだった。しばらく忘れていた感触を思い出させてくれた『最後に彼女はそう言った』は「名作保証」とりあえず「エンディングまで泣くんじゃない。」でございます。