青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ベン・スティラー『LIFE!』


ウォルター(ベン・スティラー)の空想のシークエンスのCG描写は少し安っぽい。しかし、その空想における、飛び降りるだとか雪山登山だとか殴り合いだとかスケートでの滑走だとかいった数々の運動が、ウォルター自身の身体に落とし込まれ、次々と現実のものとしてアクションされていく。ベン・スティラーの無駄のないシャープでコンパクトな身体がいい。彼をカチコチにしていた上着とスーツケースが手放され、ざっくりとした赤い(えんじ色)セーターに着替えると身体が柔らかく躍動する。この漁師スタイルのセーターが彼に実によく似合っていてよいのだ。広大な自然の中で赤いセーターで走る、漕ぐ、滑るといったモーションの素晴らしさ。『LIFE!』誌の最終号の表紙を飾る写真の「25番目のネガ」を探し求める映画なのだけど、それはあくまでウォルターを躍動させる為のマクガフィン(代替可能なもの)でしかない、という扱いがいい。最後の最後で、欲望に負け、そのネガに「群衆の中にいる匿名の人々への賛美」という意味づけがなされてしまうのはまぁ許容範囲内でしょうか。


ノレないなー、と思う所もたくさんあって、文字、というかメッセージが画面に浮かび上がったりする演出とかもダサかったりするわけですが、音楽のよさ(Arcade Fire!)でカバーしている。音楽と言えばやはり印象的なのはカラオケのシークエンス。世界共通のトレンドなのか脚本にカラオケシーンを織り込まれている作品を観過ぎて食傷気味だったが、今作のうだつの上がらなそうなおっさんの歌うThe Human League「愛の残り火」から、想い人の歌うDavid Bowie「Space Oddity」の繋ぎは最高と言わざるを得ない。ついこの間もベルトリッチが「「Space Oddity」使っていたけど、これもまたトレンドなのだろうか。


脚本のウェルメイドさが強い印象を残す。ウォルターの亡父に対する喪失感をパパジョンズ(コーヒーショップ)とスケートボートで時空を超えて繋ぎ、父性の再獲得→シングルマザーとの恋路に結びつけるのも巧いし、ピアノ、ケーキ、ビニール人形、冷蔵庫etc・・・印象的に撒かれていった種が有機的に絡み合っていくのもお見事。予告編やタイトルからして、もっと"宇宙"とか"生命"といった宗教チックな壮大さを伴っていくのかな、と予想していたんだけども、あくまでヒューマンドラマに徹していた。何と言うか日本の良質なドラマ作家達に通ずる繊細がある。