青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ジョン・リー・ハンコック『ウォルト・ディズニーの約束』


メリー・ポピンズ』をディズニーが映画化するまでを描いた作品。抑制の効いた滋味ある演出と画面に魅せられはするものの、エマ・トンプソン演じるP・L・トラバースという人物に共感を抱かせない禁欲的な演出に、序盤は辟易としていたのだが、中盤ウォルト・ディズニートム・ハンクス)とトラバースがカリフォルニアのディズニーランドへ赴くシークエンスあたりからグッと引き込まれていく。

画面に風が吹く。2人は園内のメリーゴーラウンドに乗る。トラバースの父との記憶にも結び付いたそれは、ゆっくりと回り風を起こす。その風に乗ってトラバースの伯母、そしてメリー・ポピンズはやって来るし、『メリー・ポピンズ』の物語におけるラストの”凧”を高く舞い上げる。その脚本に歓喜したトラバースもまたダンスに誘われ回り出す。メリーゴーラウンドの回転の起こした風が、時空や作品の枠を超えて、画面を振動させている。これぞ、映画的豊かさだ!と興奮してしまう。


酒に溺れた父が、娘の書いた詩を「イェーツには程遠いな」と貶してしまう痛ましいシーンがあるのだけども、それをトリガーにして映画は"想像力"と"芸術"についての対話を始める。歌や砂糖で"現実"をごまかし、子ども達に伝える事に反対するトラバース。芸術は辛い過去を癒す為に存在する、という信念の元に現実を夢で覆い尽くそうとするウォルト。「自身の生み出した作品は家族と同じだ」と言うこの2人の対話は、ミッキーマウス(ウォルト)とメリー・ポピンズ(トラバース)が融合し、ジュリー・アンドリュースメリー・ポピンズが生まれる瞬間である。


エマ・トンプソントム・ハンクスは抜群に巧いし、ポール・ジアマッティ演じる運転手ラルフは、ディズニーアニメーションのキャラクターが具現化したような愛おしさ。スーツに付けたミッキーのバッジがイカす。ディズニーの配給なのでディズニーランドやミッキーのぬいぐるみ、着ぐるみもバンバン出てくるのも見所です。春の公開ラッシュの中では地味な佇まいですが、とてもいい映画だと思います!