青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

山下敦弘『苦役列車』


音の映画だな、と思う。印象的な音に満ちている。前田敦子の笑い声であったり、彼女が老人から採ってあげる尿の音であったり、森山未来の食う飯の音だったり、猿の鳴き真似であったり。最も印象的なのは森山未来の放つ”僕”という響きだろう。”僕”という一人称は北町貫多という粗暴なキャラクター像とはズレており、それゆえに画面と分離して、「ボク」という音として響いてくる。これが何だか面白い。そして、この映画は、森山未来が机に向かって何かをコツコツと書く音で終わる。音が続いていく。「線路は続くよ どこまでも」と苦役の終わりのなさを示す冷徹さが今作は通底しているわけだけど、その中においても、続いていく音に微かな希望を託さている。


山下敦弘×いまおかしんじという事で、期待通りの青春ボンクラ映画。特に何も起こらない、とか言われてしまうわけだけど、これは友達が出来て、そして友達がいなくなる映画なのだ。そういう映画に対して、「何も起こらない」だなんて私は言えないのである。「ベタだなぁ」とは思いつつも制圧、抑圧、レッテル等を跳ねのけるかのように衣服を脱ぎ棄てる海辺のシークエンスにはちょっとウルっときてしまう。森山未來はラストでも服を着ぬまま物書きを目指し、一方ブランド物で固める高良健吾は凝り固まった価値観の中で生きていくのだろう。森山未来高良健吾前田敦子は3人ともにかわいくてよかった。

前田敦子を古本屋の店員としてカメラに収め

いいよね、(横溝正史の)獄門島

などと言わせるボンクラ文系男子のソウルを愛さずにはいられない。