青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

パブリック娘。『そんなことより早く、このパーティーを抜け出さない?』


パブリック娘。なるラップユニットの音源を聞いた。なMaltineRecordsの蒔いた種は既に開花し始めている。雑多なサンプリングセンスが発揮されたトラック、あらゆるラッパーへの憧れを隠さないナード感漂うフロウ、故に開かれた圧倒的なポップネス。んでも大学時代から活動を開始した3人組だという。これまで『Summer Chance』『初恋とはなんぞや』『そんなことより早く、このパーティーを抜け出さない?』の3枚のEPをフリーで発表している。そのどれもがクラシック。『そんなことより早く、このパーティーを抜け出さない』は信頼しうるインディー浪人生ことリッキー君のブログのランキングで2012年上半期の堂々たる第1位を獲得しています。



聞いている内に「これはいつかの俺の歌だ!」と叫びだしたくなってしまう。どうしょうもなく退屈で怠惰、それでいてやっぱり瞳を潰さんばかりに輝いていたあの学生生活。何曲か掛け値なしの名曲が収録されている。例えば「サマージャム'12」と呼んでしまいたい「SummerChance」なんてどうだろう。ムーディなベースラインでナードに流されちまう。Dany Hathawayのサンプリングにのっかって”就職までの至福のひととき”を字余りに綴る「HardDaysNight」もいい。

くだらないんだか面白いんだか分からない会社員のトーク
その声も遠く、僕はiPod聴いて、毛玉採るピーコート

火曜二限イギリス文学概論に出てた女の子たちが
授業中にDSやってたって 俺は寛容な心で受け止めるぜ

ちゃんと大人になれるんだろうか…バイト帰りのマンションの廊下

この(大学生生活の)日常のスケッチ力には舌を巻く。「iPod聴いて、毛玉採るピーコート」というのは、21世紀の冬の通学電車の風景として、来世に残したラインである。ダルさとメロウさでもって学生生活最後の夏が綴られる「おつかれサマー」なんてこうだ。

目を覚ますと、もう皆荷造り済ませ、チェックアウトは12時過ぎ
だったら一風呂浴びる?それとも写真でも撮りに行っちゃう?
昨日のアレはヤバかったね。アノ子のアレがマジなんかヤバカッタヨネー
日頃の仕草とは違う、意外な一面、垣間見ちゃったりしてね
なんて言ってたら12時を過ぎ 外に出たら皆で記念写真
向こう着いたら二郎行く?それともサイゼでドリンクバーチルアウト?
その後、カラオケでAKB
夜になってやっと入る改札
コレがホントの最後の挨拶 「来年もまたよろしくね」
なんてもう来年は居ないけど・・・
今日は、おつかれサマー 波に揺られながら 
今日は、おつかれサマー 波に揺られながら

いや、ちょっと泣いちゃうな、これ。基本的にはどの曲もモラトリアムの終焉のムードが支配している。その最高峰である「Boys and Girls don't cry(X'mas mix)」も必聴だ。EXILE「Lover's Again」→RIP SLYME「Blue Be-Bop」→KICK THE CAN CREW「クリスマスイブRAP」→JUJU「White Love」(SPEEDカバー)と流れていくカラオケ風景がサンプリングされている。ある世代にとっては、記憶をくすぐられてしかたないであろう、見事な”あるある”である。やっぱりラップと日常の親和性って高いのだ。僕らは毎日、不可逆な流れに飲まれている。みんなが、みんな終わりに向かって。ほんとお疲れ様なわけです。でも、それって常に絶え間ないビートの上に乗っかっているとも言えるわけで。ならスムースに乗りこなそうぜ、一瞬一瞬捕まえようぜ、なんならちょっと飛び出しちゃおうぜ!ってな感じでパブリック娘。はラップするのだ。

このパーティーを 抜け出してくれないか この僕と
行く先を教えてよ どこまでも、ついて行くから

突き抜けた感のある最新EP表題曲「そんなことより早く、このパーティーを抜け出さない?」がフロアでキラーチューンと化しているのは想像に難くない。同じサークルのギャルバンにラップさせたという「そんなことより早く、このパーティーから連れ出して」はtofubeatsがtengal6へ提供した「プチャヘンザ!」への憧れを隠さない女子ラップの傑作。いやーどっからでも面白い人達は出てくるんですね。パブリック娘。は無事大学を卒業して今年から社会人編らしい。