青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

高畑勲『平成狸合戦ぽんぽこ』


コミカルさと虚無が同列に横たわっているのに震える。『もののけ姫』が到達した境地を、ライトな語り口でもって達成しているのでは、という気さえしてくる。環境保護を訴えるメッセージが強烈な印象だが、根底に流れるのは「タヌキだってがんばってるんだよォ」という、すぐ隣に存在するもの(他者)へのまなざしだ。そう考えれば、上々颱風の歌う主題歌の「いつでも誰かがきっと側にいる 忘れないでおくれ 素敵なその名を」というのも、また違って意味で響いてくる。上々颱風による音楽もいいのだが、古今亭志ん朝柳家小さん桂米朝桂文枝といった超大物落語家による声優陣の音がいい。とりわけ古今亭志ん朝のナレーションは、今作のリズムと叙情を決定づけている。野々村真林家こぶ平(現林家正蔵)の二大ボンクラの好演もうれしいですね。


ラストに一瞬だけ蘇る男鹿和雄による素晴らしい多摩丘陵の風景に涙がこぼれ落ちそうになるのは何故だろう。私にはああいう田舎があるわけではないのに。幼少時代から『となりのトトロ』なんかを見過ぎたせいかのか、はたまた日本人の原風景というのを遺伝子的に持っているからなのか。