青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

cero×SIMI LAB×PUNPEE『Erection』in代官山UNIT


代官山UNITの10周年記念アニバーサリーイベントcero×SIMI LAB×PUNPEE『Erection』 が開催された。ceroとSIMI LAB、出自の異なる両アーティストを結びつけるのは、「ビートの揺れ」に対する自覚か。


SIMI LABのパフォーマンスを初めて目撃する。OMSBの訛ったビートが得能直也のPAで低音がブゥンブゥンと更に揺れる。そこに乗っかる迫力の身体性に裏打ちされたフロウ。USOMAのラップに強く惹かれる。MARIAのファッションが「板尾の嫁」でクールだった。PUNPEEのDJは遅刻したため、少ししか聞けなかった。「サマーシンフォニー」と「サマージャム'95」のマッシュアップという反則技を決めていた。


ceroの音楽性の進化が止まらない。J Dilla以降の揺れたビートの人力化、つまり現代ジャズにおけるRobert Glasperのリズムの試みを日本語ポップスとして出力する事。新曲の「elephant ghost」はリズムの階層の複雑さに耳がついていくのが大変。刺激的なアフロポップ。「SummerSoul」はメロウスムースなキラーチューン。そして、最後に披露された新曲「バカ姉弟(仮)」に一発で心をグッと掴まれてしまう名バラッド。橋本翼がついにceroに曲を初おろしという事態にも感動だ。『Yellow Magus』リリース時にアップされた公式サイトでの磯部涼さんによるインタビュー(cero 1stシングル『Yellow Magus』 - 特設サイト)から抜粋させて頂きます。

――例えば、橋本くんはジオラマシーンではソングライターをやっているわけだけど、ceroではそこまで楽曲をつくるつもりはない?
橋本 そうですねぇ……つくれる気がしない……。
一同 (笑)
――それは、ceroっていう枠には自分の楽曲がハマらないような気がすると?
橋本 それもありますし、バンドとして曲が足りないならつくりますけど、さっきも、「アルバムぐらいのヴォリュームはすぐにつくれちゃいそう」と言っていたので、足りてるかなと(笑)。
高城 そのアルバムにはしもっちゃんの曲も入れてよ!
荒内 でも、曲をつくっている段階で、僕と高城くんとでコンセンサスが取れたとしても、はしもっちゃんに投げた時に「違う」ってなったら、その曲はceroとしては出せないなとは考えているよ。
橋本 じゃあ、ある程度距離を置かせてもらって、フィルターとして機能してるのかな。
高城 だって、ミックスもはしもっちゃんがやっているわけで、やっぱり、ceroの音源の最終的なアウトプットははしもっちゃんなんだよね。確かに、ブラック・ミュージックに関してはド・ストライクなゾーンではないだろうけど、その距離感こそが重要だったりもするし。
橋本 杞憂なのかもしれないですけど、こういうふうに、『My Lost City』から大胆に変わっていくことを、今までのファンはどう感じるんだろうとも思っていて。もちろん、それを乗り越えていく柔軟なひとがいる一方で、「やっぱり、前の方が好きだなぁ」と思うひともいるだろうし、僕もそういう感覚は少しあるので、その中間の立場に居たいなと。ブラック・ミュージックの気持ち良さもようやく分かってきたところなので。僕はいつもみんなよりひとつ遅れて好きになるんですよ。
荒内 でもさぁ、ceroの何がceroらしいかと言ったらはしもっちゃんかなって……。
一同 (笑)

ceroの良心、橋本翼!ジオラマシーンでも披露されていた、小沢健二ソウルミュージックで解釈したセンスを引き継いだような甘やかなメロディーセンス。それに呼び込まれたかのような、高城晶平が美しい青春叙景詩(高城さんに根付く安達哲イズム!)を当て込んでいて、素晴らしい。アンセム化する予感しかない。来るアルバムはどのような形になっているのだろうか。MCでは「来年あたりには何とか」という言い方だったので、まだ時間はかかりそうだが、心して待ちたい。


アンコールでは「マウンテンマウンテン」と「Yellow Magus」の生演奏の上でPUNPEEとSIMI LABの面々がフリースタイルをかます。2011年頃は、インディーシーンとヒップホップ界隈のクロスオーバーは難しい、という言説があったわけですが、気付けばceroはすっかりその橋渡しを果たしている。私のようなナード一辺倒な人間がSIMI LABの黒いビートで身体を揺らし、大き目の服を身に纏ったB-BOYがceroの奏でるポップスで踊っていた。桃源郷みたいな風景じゃないか。