青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

軽井沢旅行記2017冬

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年内まで有効の会員制のリゾートホテルのチケットをもらったので、せっかくなので泊まりに行くことにした。軽井沢の山奥のホテルである。しかし、会員制のホテルというのはよくわからない。チケットさえあれば会員のどんな遠縁であろうとも泊まれてしまうらしい。すなわち、客層をコントロールしたいわけではないのだろう。そのおかげで、私のような山賊の末裔である粗野な人間も堂々と門をくぐることができるというわけだ。


軽井沢へは高速バスで向かった。片道3,000円くらいなので、新幹線や車で行くより割安。本当は車で行きたかったが、冬の軽井沢は山道に雪が積もっている可能性が往々にしてあり、危険なのだ。なんせ私はタイヤにチェーンを巻くことができない。なんなら自転車のチェーンの故障も直せないのではないだろうか。普通は巻けるものなのだろうか、チェーンは。そんなもの教習所で習っていないのだけども。記憶の中の父はチェーンをしっかりと自力で巻けていた気がする。若者のチェーン離れが起きているのか、それともただ私だけが巻けないのか。山賊の末裔のはずなのに。モテたいという気持ちが強かった学生の頃は、チェーンを巻かなくてはならないシチュエーションを周到に避けてきた。スキーにも行ったことがない。チェーンを巻けずに立ち往生していたら、100年の恋だろうと冷めるに違いないのだ(雪降ってるし)。チェーンの巻けるワイルドな男と結婚したいという気持ちもわかりすぎるほどにわかる。しかし、そういう考え方はもう時代遅れだろう。男も女も関係なく、みんなでチェーンを巻けるように努力していこうではありませんか。


バスはアウトレットモールに到着した。アウトレットに欲しいものなど置いていないのは理みたいなものだが、せっかくなので少しだけプラっとする。土曜日というのにえらく空いていた。やはり軽井沢のシーズンは夏なのだ。それでも、以前の冬の軽井沢の印象に比べると、外国からの観光客が増えたおかげで、賑やかになった印象はある。しかし、はるばる日本に来て、冬の軽井沢に赴くというのはむちゃくちゃ渋いセンスだ。相当な日本通なのか、それともガイドブックで推奨されているのか。海外で売られている日本のガイドブックにはどんなことが書かれているのか、とても興味がある。あの永遠に行列の途絶えない池袋の「無敵屋」には一体どれだけの美麗文句が連ねられているのだろう。並んでまで食うほどのものか、あれは。観光客のガイドブックに、「福しんラーメンが安くて、美味いぞ」とクッキングパパのイラスト付きで書き足してあげたい。あと、「無敵家」向かいのジュンク堂の地下は携帯の電波が弱いから、タイトルや出版社がうろ覚えの漫画があるとなかなか見つけられないよ、ということも追記しておきたい。


バスの中で、「軽井沢って『カルテット』のロケ地じゃん」ということに気づいたので、少し巡ってみることにした。まずは、カルテットメンバーがアーティスト写真を撮影したタリアセンへ。夏はテニス、スプラッシュバルーン、ゴーカートなどを楽しめるレジャー施設として賑わっているらしいのだが、冬場は池の鴨に餌をあげるのが唯一のエンターテインメントで、恐ろしいまでに閑散としている。そして、池は半分くらい凍っていた。目の前の景色と劇中の映像とを照らし合わせながら、ここに4人が立って撮影したのだ、というポイントを見つけ出す。
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「だからなんだよ!」と思いました。せめて男女4人組の旅行であれば・・・と思ったが、それはそれで地獄だろう。男たちはどっちが高橋一生の役をやるかで殴り合いの喧嘩になるのだ(私は別府くん派ですけど)。「けんかをやめて 二人をとめて」と泣き叫ぶ、もたいまさこ似のすずめちゃん役。バスの本数が少ないので、中軽井沢駅まで歩いて帰ることに。劇中に登場するカーリング場やスーパーツルヤなどもその道中にあった。ロケ地を巡っても特別な感動は覚えないことに気づいたので、ノクターンのロケ地である燻製屋に行くのは止めておいた。別府くんとすずめちゃんがアイスを食べ、すずめちゃんが真希さんにおにぎりを買ってもらったコンビニはちょっと行きたかったのだけども、遠いので断念。


日が暮れると、寒さはどんどん増していく。特にやりたいこともないので、送迎バスに乗り込み、山奥のホテルへと向かうことに。想像以上に山の奥で、金田一少年の事件簿のフィーリングを覚えた。会員制リゾートのチケットがひょんなことから私の元に辿り着いたのも、誰かからの挑戦状なのかもしれない。歩き疲れたので、部屋でボーっとしていると夕食の時間に。食事はバイキング方式だった。蟹とローストビーフが目玉。蟹の良さをまだ心から実感できていないことをここに告白しておく。会場には何かの大会なのか、部活くらい人数の学生服を着た集団がいた。いよいよ会員制リゾートの意味がよくわからなくなってきた。どんなところにヒントが隠されているかわからないので(名探偵としての)、学生たちをつぶさに観察していると、「あれも美味かったし、これも美味かったし、もうどれを選べばいいかわらかないな」と実にいい笑顔で、次に何を皿に並べるか悩み合っていた。最高だ。お腹が満たされたので、次は大浴場である。ありがたいことにサウナがついていた。会員制リゾートのサウナとはこれいかに。その正体は、湿度ほぼなしのカラカラ高温セッティングの昭和のサウナであった。息苦しく快適性は低いが、ストイックに汗がかけるのでこういうサウナも嫌いではない。水風呂はルックが小さく簡素で、期待していなかったのだが、入る人がほとんどいないようで鮮度よく、水温も体感17℃でシャキっと冷える。軽井沢は水道の水がまずもって冷たいのだ。素晴らしかったのは、露天スペースでの外気浴。なんせ氷点下の世界である。身体中からオーラのように蒸気を放った熱々の身体が、急速に冷えていくのは、背徳感に近い快楽性がある。水風呂を飛ばして、サウナ→外気浴もありだった。身体が冷え切ったら、目の前の温泉に飛び込む。空からはヒラヒラと雪が降ってきた。すっかり気持ちよくなってしまった私は「ありがとうございます」と呟いていたとか、いないとか。


部屋に戻ってテレビをつけたら『出没!アド街ック天国』が池袋東口特集だった。そもそも、ローカルな情報番組のイメージのあるアド街が長野県で流れているのに驚いた。やはり「無敵家」がランクインしていて、あの行列が途絶えることは一生なさそうである。3年くらい前にできた商業ビル「WACCA」もランクイン。毎日のように前を通るのに、まだ一度も足を運んだことがないことに気づいた。あそこの駐車場の入り口に「世界一ハッピーな駐車場」という看板が掲げられていて、機嫌が悪い時は「エビデンス出せや」と悪態をついています。池袋を拠点としているのに、「タイムズスパ レスタ」以外ほとんど行ったことのない場所だった。これからは「アド街を見た」と伝えるべく各地に赴きたい。豊島岡女子の学生だった夏木マリが学校帰りに「タカセ」の菓子パンを食べながら、ジャズライブまでの時間を潰していたという青春エピソードが最高。山田五郎みたいに博識になりたいと思いながら、眠りについた。事件が起きないのが名探偵の何よりの証拠である。


暖房をつけたまま眠ったのだけども、凄まじい空気の乾燥で目が覚める。喉が貼りつくようだ。備え付けの加湿器は、異様に古い型で、ひたすらグツグツと鍋を煮るような音が出るだけで、ちっとも潤わなかった。これが会員制リゾートホテルのやり口か!カーテンを開くと一面の雪景色。最高気温は1℃とのことだ。朝食はまたしてもバイキングであった。あんまりお腹が空いていなかったが、一切の感情を表に出さないシェフが、黙々と調理するオムレツが美味しくて、2皿食べた。愛情がなによりの調味料というのは嘘なのかもしれない。ホテルを後にして、星野リゾートが運営している「トンボの湯」へ。ここはお気に入りのサウナ施設なのだ。そのすべてが上質。温度は低めだが、心地よい蒸気に包まれるボナサウナには小さな音でジャズが流れる。室内にタオルは敷かれておらず、入り口に置かれたタオルをその都度、各々が使い切る。出る時には床に落ちた汗を拭き取るも忘れてはなるまい。窓から眺める雪が舞い散る露天の景色、そしてコルトレーンのソロ。ここのサウナに入っていると、豚猪のように卑小なわたしくという存在も高貴なものに思えてくるのです。そして、水風呂がとびきりに冷たい。温度計はないが10℃かそこいらではないだろうか。露天に設置されているので、氷点下から10℃の水風呂に入ると一瞬暖かいのだが、すぐさまにキンキンに冷え上がる。まず、手足が悲鳴を上げる。それでも貪欲に冷えを求めるのであれば、手足を風呂の縁に突き出して、中枢だけ冷やそう。ちなみにここは温泉も気持ちいいのでオススメ。「トンボの湯」を後にし、ホカホカの身体で、雪の積もった澄んだ空気を浴びながら少し散歩をする。これがもう抜群にととのってしまう。すっかりお腹が空いたので、バスで旧軽へ。「浅野屋」(『カルテット』ではすずめと鏡子の密会場所に使われていた)で、ビーフシチューを楽しんだ。セットで頼んだ4種のオリーブオイルをつけ放題のパンが楽しい。
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旧軽銀座は、夏の混雑を思えば、やはりガラガラであった。お土産にソーセージを物色し、まだ帰りのバスまで時間があったので「ミカドコーヒー」でミニモカソフトと珈琲のセットを楽しんだ。
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アウトレットでも「ミカドコーヒー」のモカソフトは食べられるのだが、何故だか味が薄いように感じてしまう。気のせいなのだろうか、旧軽店の「ミカドコーヒー」のモカソフトは濃厚でコクがあるように思えるのだ。駅までの道のりを歩いていると、身体が芯から冷える。東京では味わえない冬の本気だ。東京にいても「寒い 寒い」とつぶやきがちだが、あれはファッション「寒い」だった。本当に寒い時は「うーーー」としか出てこない。家に帰ったら暖かいスープを飲もう。1泊2日というのはやはりあっというま、ハローグッバイな感じで旅を終えた。