まんじゅう大帝国という漫才師について
まんじゅう、はとてもいいものだ。コジコジも言っている。
あーおいしい
おまんじゅうはあまいなあ
魔界の大魔王がメルヘンの国を襲いにやってくる、という危機的状況にも関わらず、ただただまんじゅうを食べ続けるコジコジ。さくらももこの傑作『コジコジ』における屈指の名シーンだ。まんじゅう、というのは何かこう言葉にできないものを託してみたくなる魅力があるのですね。そう、私は今、まんじゅう大帝国に夢中なのである。まんじゅう大帝国、とは竹内一希(左)と田中永真(右)によって2016年6月に結成された、ドがつくほどの新人漫才コンビ。TBSラジオ『アルコ&ピース D.C.GARAGE』にて、M-1グランプリ予選で目撃した恐るべき無名アマチュアコンビとしてフックアップされ、そのファニーな名も相まり、一躍お笑いファンの熱い注目を浴びることとなる。ハイプの予感もおおいにあったわけですが、GYAO動画で視聴できるM-1グランプリ3回戦で披露した漫才1本で、その実力を充分過ぎるほどに証明。完全にお笑いファンの心を掴んでしまった。私もその1人というわけであります。キャリア数ヵ月とは思えぬ、その立ち姿の風格、口上の美しさ、発想の飛距離にネタ構成の巧みさ。GYAOに登録するのがどうしても億劫だ、という方の為に、冒頭のやり取りだけ書き起こししてみよう。
竹内:この前ね 朝 家で寝てたらね、
「ピンポーンピンポーンピンポーン」っていうからさ
俺、全問正解したんじゃないかなって思ってさ
田中:あー
竹内:ただね 全問正解の「ピンポーン」とはちょっと違うかなー?
って感じだったんだよね
田中:あー全問正解ではなかったってこと?
竹内:そうそうそう
田中:じゃあどっかで1問落としたんだ?
竹内:そうなんだよ!落としたんだよ
どこに落としたかな〜?って思って 部屋中探してたの
そしたら 今度はね 急に
「ドンドンドンドンドーン」って何かを叩く音が聴こえたの
田中:あら
竹内:そこでね 今日は祭りだー!って思ったわけよ
しょうがないから仕舞ってあった法被を引っ張り出してね
鉢巻きを巻いて、地下足袋をどこやったかな〜?って・・・
田中:いや ちょっちょっ 待って待って待って
なんかおかしくね?え、祭りがあったの?
呼べよ〜誘ってくれよ〜
ド頭からなんて強度のボケだろう。セオリーでいけば、「なんでだよ!」というツッコミが入る箇所は全て「あー」で処理されており、ボケは強度を保ったまま自由に羽ばたき続ける。どこかに落としてしまったクイズの回答を探している内に、気がつけば、お祭りに辿り着いてしまう。このイマジネーションの跳躍。お笑いのみならず、こういうものに触れたくて芸術を浴びているのだ、私は。ツッコミの田中が強い否定を行わない様に、象さんのポッドやおぎやはぎの姿を重ねてしまうわけだが(事実、田中の声色の矢作成分は強い)、より色濃いのは落語の影響だろう。竹内の口上はまさに噺家のそれだ。そもそも、「まんじゅう」という時点で落語との親和性に気づきべきだったのかもしれない(まんじゅうこわい)。しかし、落語は1人、まんじゅう大帝国は2人。田中は竹内のボケを否定しないだけでなく、聞く者の予想を裏切るような切り返しで、そのイマジネーションを加速させていく。この型に最も近しいのは、『談志・円鏡 歌謡合戦』か。そう考えると、まんじゅう大帝国を評する際の比較対象には、POISON GIR BAND、浜口浜村、ランジャタイといった面々がしっくる来る気がする。そんなジャンルはないのだけども、所謂”イリュージョン漫才”ってやつだ。そうなると、冒頭にさくらももこを引用したことも理解して頂けるだろうし(『神のちから』、とりわけ「それていくかいわ」を読もう)、竹内の立ち姿が爆笑問題の太田光を彷彿させる事も合点がいく。まんじゅう大帝国、コンビ名からして、イリュージョンではないか。“まんじゅう”という柔らかさそのもののような響きに、”大帝国”という硬質な言葉を重ねる。そこに不思議と違和感はない。あるのは、かけ離れた2つの事象があまりにしっくりと収まっている美しさと、闇雲に想像力を刺激してくる何か。まぁ、何せよ、彼らの漫才からは、美しい川の流れのようなものが見えてくる。あまりに正しいお笑い史の流れ。このお笑い界の大型新星の出現に胸を躍らせないわけがないのである。
11/14に開催されたK-PRO主催ライブ『噺人』にまんじゅう大帝国が出演(初バティオスとのこと)。M-1グランプリは惜しくも3回戦落ちとなったが、注がれる視線はなお加熱している。彼らが登場すると、会場からは「待ってました」と言わんばかりの歓迎ムードが湧き立つ。この日披露したのは「鬼退治」を題材にした漫才。こちらも抜群に面白かった。散歩していたら龍に鬼退治を頼まれたので行くことにした、という導入。突飛な設定だが、あくまで若者の駄弁りもしくは与太話というスタイルからは逸脱しない。耳馴染みのいい静かなトーン(2人の口上はあまりに素晴らしいメロディーを持っている)で繰り広げられる会話、それを聞く者の想像力もまたどこまでも広がっていく。
この日のライブでのウエストランドとのフリートークで得た情報を記しておこう。竹内は現役の大学生であり(確かに風格はあるが、よく見ると肌がピチピチだ)、2人は落語研究会で出会ったそうだ。コメント欄で頂いた情報によりますと、竹内の高座名は外楼一拝。日藝の学生のようです(爆笑問題!春風亭一之輔!)。憧れのお笑い芸人は、竹内は特になし、田中がラーメンズ。これはどうにも煙に巻かれている感じがする。アマチュアでM-1グランプリの3回戦まで進出したという事で、各事務所からの声掛けが凄いんじゃない?というウエストランド井口の探りには、「それが皆無です」と。真実であるならば、どの事務所も怠慢だ。井口からの「どこか入りたい事務所あるの?」という質問には、「そりゃあ、タイタンですよ」とリップサービスのように答えていたわけだが、あながち冗談にもならないような気がする。草葉の陰から談志師匠も「太田、面倒見てやれよ」と言っているような気がするのです。