青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

シャムキャッツ『MODELS』


シャムキャッツの3曲入りニューシングル『MODELS』(タワーレコード限定発売)が最高なのだ。表題曲「MODELS」は文句なしの大名曲。「アメリカ」「渚」「なんだかやれそう」と要所で最高のキラーチューンをビシっと決めてくるこの感じ、往年の名コピー「すごいぞ、くるり。」を彷彿とさせる頼もしさである。シャムキャッツというバンドは間違いなく”現代”を歌っているにも関わらず、シリアスに飲み込まれない。その軽やかさは周辺のバンドの中においても群を抜いているように思う。2012年のフルアルバム『たからじま』のリードナンバー「なんだかやれそう」では

どうしたって沈んでいく船であいつはまだ
宝の地図を描いてにやにやしている
やれそう なんとなくいけそう
やらせてよ もっともっと

と、贔屓目に見てものっぴきならない状況にあろうこの国でそれなりに若さを持て余しながら生きていく覚悟のようなものを「なんだかやれそう」と変拍子パンクチューンであっさりと歌い切った。しかも、少年の冒険心であったり、大人の男女の性の逢引であったりを撒き散らしながら。そうそう、この少年性とセクシーさというアンビバレンスな両立はボーカリスト夏目知幸の真骨頂であり、今回のシングルにおいても不思議な色気を添えている。話を戻すと、シャムキャッツは今回のシングル3曲においても「なんだかやれそう」から地続きに「この国で暮らしていく上での態度」の1つの理想的なモデルを提示している。重厚なリフでスモーキーに進行する新機軸な音像の2曲目「象さん」では

あの地震後 浦安は 人が寄り付かぬ土地になり
草はぼうぼうと生い茂り 野生動物の宝庫となった

と「3.11」後の世界に想像力で挑むわけだが、

駅前高層マンションの屋上に立ち
まずは町中見渡し作戦を立てるのだ

とあくまでクレバーで気高く頼もしい。誰もがRCサクセションの「キモちE」を想起せずにはいられない3曲目「どッちでもE」では

右でも左でも 嘘でも本当でも
僕はどッちでもE 
何だって気持ちEさ

と無関心を装いながら、根拠なき自信で世の中を転げ回っていく。




そして、何と言ってもシングルの冒頭を飾る「MODELS」が素晴らしい。 「これぞシャムキャッツ!」という快楽的なツインギターの絡みを聞かせるイントロ。バタつくドラムをベースが器用に先導しながら、いつになくダンサブルに放ち転がり回る最高のロックンロールチューン。字余りなリリックを、つんのめるように、しかしながら確実に自分のリズムで、跳ねるように歌うボーカルが紡ぐポップなメロディー。そして、悲壮感がないのがいい。「最近思うのは ロックンロールは明るく 明るくなくっちゃ ねぇ」なんて歌ったバンドが昔いたけど、まったく、本当にその通りだ。長距離トラックの運転手をする彼、都内でOLをする彼女。彼が家に帰り眠りに付く頃、彼女は出勤の支度。そんなすれ違いの日々を安っぽくジメっとフォーキーには歌わないのである、シャムキャッツは。スーッと伸びた道路をトラックが走る様をカメラがロングショットで捉える所から始まり、所謂「神の視点」で俯瞰的に語れていくこのナンバー。しかし、突如としてサビ前に登場人物の心情がカメラに混じり合う。

夕方には愛しいあのこに会える

夕方にはかわいいあいつに会える

平行線のように思える2人の生活は夕食のひと時交じり合うのだ。パッとしない毎日でも、こんな風にしてなんとか続いていく。

タモリがはしゃぎ下らなく午後が始まる頃

なんてラインで「タモリ」という記号を巧みに使いながらそこはかとなく”終焉”を匂わせる。そのちょっとした刹那さがいいのよね。ラストでは「夜走りのトラック」が「引越しのトラック」に変容し、“続いていく”という感覚がもたらされる。これはちょっと深読みが過ぎるかもしれないけどね。でも、これは間違いなく2014年の気分だ!