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日本エレキテル連合『シリアル電気』


日本エレキテル連合のネタDVD『シリアル電気』が大変素晴らしい出来栄えであるため、少しだけその内容を紹介したいと思う。

シリアル電気 [DVD]

シリアル電気 [DVD]

冒頭に収録されたコント「田所先生〜愛人VS本妻編〜」は、日本エレキテル連合がコンビとして、最初に生み出した作品だ。政治家(人形)とその愛人(外国人ホステス)のベッドシーンから始まり、そこに本妻が乗り込んでくる。3人もみくちゃの格闘の末、政治家は死亡。残された女達はその死体を隠蔽しようとする。なんとも暴発的な性と死に彩られたコントなのである。愛人が発する「タドコロセンセー」という音の響き、人形の軟体っぷりがまずもって可笑しいのだけど、端々の台詞も強烈だ。死体を持ち運びやすくする為の女達のやりとり。

曲がる内に曲がる所全部曲げて
コンパクトに折りたたもう!

お前 何 関節忠実に守ってるんだよ!

ときたものだ。暴力のスピード感が北野映画のよう。



2本目の「ナニワシンドローム」はタイトルからも伺えるように、関西人を過剰にデフォルメしたコント。組から追われるヤクザの男とその女の逃亡劇。派手なシャツ、寅柄、たこ焼きetc・・・そして捻じ曲げられた関西弁の響き。やはり、ここでもイントネーションで笑いを作っていく。



ランチ編と温泉旅行編の2本が収録されているOL会話劇「都美子と比呂美」シリーズも秀逸だ。髭と瓶底眼鏡とアトピーの都美子と出っ歯の比呂美。オフィスから、いや世界から、孤立したかのように哀しい2人の女。しかし、日本エレキテル連合はその”哀しみ”を直接的に浮かび上がらせはしない。彼女達はひたすらに、料理の話、裁縫の話、テレビの話、化粧水の話、恋の話・・・に終始する。ディティールにひたすらこだわった普通の会話劇を用意する事で、この哀しい2人を、あくまで”愛”でもって掬い取っているのだ。



そして、お馴染みのヒットコント「未亡人朱美ちゃん3号」だ。どうやら未亡人である女性をくどく老人男性。その強烈なルックスを支える過剰なメイク技術も日本エレキテル連合の大きな特徴だろう。そして、男性の喋りのメロディーと抑制、女性の発する「ダメよ〜ダメダメ」というフレーズのミニマルなループ。こんなものが何故ここまでも面白いか。詳細は省くが、オチも見事である。そして「未亡人朱美ちゃん3号」のオチとしてのみ存在すると思われていた「仮出所妻さゆりちゃん」がコントして存在していたことに驚く。先ほどの男性が人形に足踏みポンプで人形に空気を入れる。さゆりちゃん人形(仮出所妻)が徐々に膨らみ、小刻みに揺れながら「すいません、もうしません」と繰り返すだけのコント。いや、文字で起こしても伝わらない。少なくとも私は笑い転げた。このコントの衝撃は是非ともその目で目撃して頂きたい。2本通して浮かび上がる男性の悲哀も見逃せないだろう。


またしても田所先生人形が登場する「田所先生〜激論・男と女編〜」は、『朝まで生テレビ』のパロディであり、コードギリギリなフェミニズム問題に喰ってかかっている。

女が握った寿司なんか喰えるか!

などは序の口だ。これは女性コンビにしかできないコントだろう。それでいて友近であれば踏み留まるであろう領域も易々と乗り越えてしまう。橋本が演じる田島陽子モチーフのフェミニストも抜群だ。そして、ラストを飾る「ニジマスの精霊」の狂気とホラー。最後の最後までひたすらに頭がおかしい。そう、この過剰さだ。この狂気とノイズまみれの過剰さが、日本エレキテル連合が世界に向ける愛の視線をゆっくりと浮かび上がらせる。とにかくどのネタも哀しくて可笑しい。そして、耳から離れないフレーズを1つのコントに何個も忍びこませる、そのメロディメイカ―としての実力。久しぶりに現れた本格派女性芸人コント師。これからも要注目である。