青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ギョーム・ブラック『女っ気なし/遭難者』


雄弁に捉えられる美しくも寂れた海辺の観光地の風景。ヴァカンスを楽しみにきた美しい母娘。そして、30代独身のハゲデブ主人公シルヴァン。部屋には『イージーライダー』、冷蔵庫にはムーミン、寝室には『サウスパーク』、夜中に1人任天堂Wiiに興じる見事なサブカル童貞っぷり。ディスコで、ビーチで、ムーミントロールを彷彿とさせるその大きな身体の居場所の置きどころに戸惑う、その感情の掬い上げ方は見事で涙する人も少なくないだろう。つまり、今作は、誰もが抱くようにジャック・ロジェエリック・ロメールホン・サンスらを想わせる良質なフランス系ヴァカンス映画の要素にジャド・アパトーエドガー・ライト周辺の所謂「童貞」コメディがブレンドされたまさに日本人好みのハイブリット映画なのだ。しかし、そういったカテゴライズにはめ込んでしまいたくはない美しさがこの映画にはいつくも納められている。例えば、小雨ぱらつく海で黙々と海老を捕まえようと網を引くシルヴァン、それを見つめる娘、の纏う黄色いコート。強く訴えかけてくるショットだ。舞台はヴァカンスであり、時の有限性を想わずにはいられないわけで、ビターエンドが待ち受けている事は覚悟していた。しかし、物語の序盤にシルヴァンの些細な下心から放たれた「インターネット」という言葉が、ラストにおいて、寂れた観光街で閉鎖的な人間関係を送る孤独な男の世界を拡げる契機へと変容する一連の流れに涙する。ぎこちないタッチやキスの永遠のような時間感覚を見事に捉えている。早朝の淡い光の中に娘の耳やうなじを美しく納めている点も見逃せない。(『遭難者』においても、青年の恋人の登場シーンでその耳の美しさにハッとしてしまった。監督は耳、うなじフェチだろう)何より感動的なのは、シルヴァンが想いを寄せている母娘におだてられて購入したポロシャツが紺色から娘の水着の色に呼応するように赤へと変容していき、ラストにおいては、いつも着ていた冴えないモノクロのチェックのシャツにさえも、赤が色づいていた点だろう。そして、苺(赤)まで登場するのだが、それにたっぷりのクリーム、更に砂糖をまぶしてしまうシルヴァン。苦笑すると共に、常にお菓子を食べているこのスウィートなダメ男の美しさが、砂糖まみれの苺を噛む「ジャリジャリ」という音に全て託されているような、そんな気持ちにさせられるのだ。