青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

西村ツチカ『さよーならみなさん』


絵の素晴らしさを語る技法というか語彙というのを全く持ち合わせていないので、感性を刺激する絵に出会っても、ただ「いい」「素晴らしい」「巧い」「気持ちいい」などと連呼するしかない。それ故に西村ツチカの作品に対して饒舌に語る事ができず、躊躇してしまうのです。しかし、『さよーならみなさん』は何かしら書き記しておきたい衝動に駆られる1作。なんともはや。村上春樹の「やれやれ」くらい浸透して欲しい、西村ツチカの「なんともはや」でございます。


印刷の具合も含めて、タッチを眺めているだけで飽きないし、独創的なカメラアングルのコマ割りは、「漫画を読んでいる!」という興奮をくれる。まぁ、これだけでも充分満足なのですが、主人公である女子高生の木村ちゃんが怪我をして、バイト先の先輩にハンカチを差し出され、そのハンカチをお茶で濡れた同級生に差し出し、代わりに空き缶を拾って、それをホームレスにあげ、引き換えにペットボトルのキャップを受け取る・・・といったエピソードがもたらす連なりを体感していると、「わらしべ長者」だとか「アマゾンで蝶が羽ばたけば、ニューヨークで竜巻が起こる」だとか「風が吹けば桶屋が儲かる」だとか、そういった類の何だかわかるような、わからないような言葉の意味を理解できるような気がするのだ。世界というのは確かにヌルリと幾層にも接続していて、そしてそれはいかようにも拡張していく。でも、それでいて、結局全ての事は起こるべくして起こっているのだ、と。


今作は、木村ちゃんが自転車に乗れるようになるまでのお話なのだけども、そこに辿り着くまでには、物語としてはもうとてもまどろっこしいほどに紆余曲折を経る。しかし、その紆余曲折にこそ豊かさというのは宿るのではないかしら。クラスメイトが実は奥二重だったとか、そういう事に。久保先生も言っているのである。(↓このコマ好き過ぎる)

よそ見は禁物!本質はえてして自分の足元にあるものだよ。
橋の下、山のふもと、公園のベンチ、夜中の駅前、ふだん無意識に通り過ぎている。

さよーならみなさん (ビッグコミックス)

さよーならみなさん (ビッグコミックス)