星野源の初期のディスコグラフィーに自主制作盤『ばかのうた』(2005)というのがある。なんと限定200枚でのリリースで、現在オークションでは6万円なんて値段がついていたりする。主要曲は、写真家・平野太呂との共作本『ばらばら』

- 作者: 星野源,平野太呂
- 出版社/メーカー: リトル・モア
- 発売日: 2007/04/26
- メディア: 単行本
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シングルのカップリングでも(house ver.)という形で宅録音源を収録していますが、こちらはよりハンドメイドでローファイ。ややあざとい、とは思いつつも「ばかのうた」が「スゥー」という息を吸い込む音から始まるのに、まんまと”親密さ”のようなものを抱いてしまう。この自主制作盤『ばかのうた』の何が素晴らしいかと言えば、歌い手の「歌う事への気恥ずかしさ」というのがきっちり刻印されている所ではないだろうか。表現をする事へのためらいのようなものに心動かされてしまう。以前のワンマンライブで
中学のときに自分の歌声を聴いて、バームクーヘンを食べたようなカスカスの声なのがイヤで
B'z みたいに歌いたくて・・・
と自身の歌声へのコンプレックスを語っていましたが、コンプレックスを経ての歌声ゆえに、歌い人にありがちな陶酔感がない。「くだらないの中に」での堂々たる歌いっぷりには、次のフェーズに行かれたのだな、と頼もしくも悲しくなったものだ。話は戻って、この自主制作盤の『ばかのうた』、収録されているのは
01 intro at atlantic
02 ばらばら
03 スーダラ節
04 次は何に産まれましょうか
05 ばかのうた
06 outro at pacific
07 夜中唄
と、何故か本編が”大西洋”と”太平洋”に挟まれ、「夜中唄」で終わるという構成。この盤での星野源の歌は、前述「照れ成分に加え、技術的な面でも現在とは趣が異なる。ピッチが整っていない。しかし、これこそが本来の星野源の歌のリズムなのだろう、という生々しさがあって、それを「ばらばら」や「ばかのうた」といった代表曲で堪能できるのはなかなかに一興だ。「intro at atlantic」と「outro at pacific」は、環境音、というか街(阿佐ヶ谷)の空気が収められている。
世界は ひとつになれない そのまま どこかにいこう
「ばかのうた」
分かっちゃいるけど やめられない
「スーダラ節」
ああ もう ばかなの土は これからもぬかるむ
くだらない心の上 家を建てよう
「ばかのうた」
というボヤキのような諦念(とちょびっとの祈り)は、”生きづらさ”のようなものを抱えた24歳の青年が、その街で暮らす為の処世術だったに違いない。そして、"街"、そして"海"を逸脱し、不思議な場所に辿りついてしまう最終曲「夜中唄」が美しい。街での暮らしを豊かに綴る一方で、その事がもたらす弊害への抵抗のドキュメントとして、この自主制作盤『ばかのうた』は面白いのだ。