青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

HAPPLE『ドラマは続く』

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これから始まる たったの35分間 一生で一回きりの たったの35分間

冒頭で放たれる宣言通り、珠玉のライフミュージックがたっぷり詰まった35分間のアルバム。1曲目「New World」から2曲目「カーティス」のサウンドスケープの流れに、思わずceroの素晴らしきファースト『WORLD RECORD』の冒頭を想起してしまって、「あぁ、HAPPLEも始まっていくんだな」とうれしくなってしまう。いなかやろう時代から「21世紀のユニコーン」「日本海サザンオールスターズ」「日本のXTC」「日本のトッド・ラングレン」など、とにかく類似アーティストを挙げられがちな彼ら。なるほど、どれも納得のコピーではあるのだけど、土岐佳裕のソングライティングセンスは唯一無二のものだ。ソウルもネオアコもミナスもチェンバーも飲み込んだ、捻くれたコードをかくもポップに鳴らす才能。よく耳をすますと彼にしか歌えないのではないか、と思うようなメロディーラインが心地よい。メンバー3人による流麗かつファニーなコーラスワークもいなかやろうから引き続き完璧である。MC.sirafu(片想い、ザ・なつやすみバンド、うつくしきひかり)をはじめとする豪華ゲスト陣によるスティールパン、ヴァイオリン、トランペット、フルートといった楽器の音色もとても美しい音で録られている。しかし、何よりメンバー3人の演奏がいい。いかにも下手ウマ然とした佇まいの彼らなのですが、土岐佳裕のカッティングギター、押田千紗子のタイトでジャストなドラミング、斎藤麻美の多彩な音色の鍵盤・・・どこをとっても確かな演奏力に裏付けされた3人のアンサンブルが最高にかっこいいのだ。”ラブリーポップ”なんて評されるファニーな楽曲の裏には、沸々とした哀しみや怒りが滲んでいて、それが弾けんばかりにファンクしている。ここまで書いてきた事は、リード楽曲である「涙を見せて」のPVをご覧いただければ全てサクッとご理解頂けるはず。

本当に素晴らしいナンバーだ。

すいてる列車、こしかけて本を読んでた
通過して行く人達も、日々、暮らしている

HAPPLEが歌うのは、街に暮らしている名前も知らない人々の事。つまり僕達の事。その1人、1人にドラマがあるという事。

帰り道すがら ヘタなメロディー 祈りのように口ずさんでいたんだ
待ってるの 僕は待っている
待っている 君も待っている

何を待っているのか?「生きていてよかった」と思えるような時間を、だ。そんな祈りを音楽にしてしまうのは、やっぱり小沢健二を彷彿させてしまう。と思っていると、曲中に印象的な語りが挿入される。

涙の理由を考える
けどそれは複雑に絡んでほどけない糸のようだよ
本当の理由なんてわからないって
でも僕らはそれを知りながら、一緒に話したり、わらったりする
きっと本当の理由はその中に隠れている

泣いている人は本当に悲しいのだろうか、笑っている人は本当に楽しいのだろうか。そんな疑問にHAPPLEは立ち向かうとしているのではないか。あぁ、そう言えば、いなかやろう、ひいてはHAPPLEの音楽に何より惹かれたのはボーカリスト土岐佳裕のその泣き笑うような歌声だった。どんなに楽しい時も奥底には哀しみを抱えているし、また逆にどんなに悲しい時も笑い飛ばそうとおどける、そんな”ピエロ”のようなフィーリング。

けたたましい 流れの時間 止まったまんまの時も同居
ほんとはそのまま過ごせたはず
ドライブはあいにくサマー 不向きな天気だっていうのに
気にしないって
行くだけさ、行くだけさ


「New World」

時間は無情にもゴウゴウと流れていくのだけど、とりあえず気にしないような振りをして、でも、ちゃんとそれを受け止めて、進む。そんな気概が、ピエロ率いるサーカス楽団HAPPLEの1stアルバムには刻まれている。サーカスは決して同じ場所には留まらない。しかし、後から「またあんな時を過ごしたい」と振り返る事のできるような魔法の時間を提供してくれるはずだ。

今 ここの景色も変わっていくのかな
溢れないようにギターを鳴らそう
けど!
昨日の夜は永遠さ きっと


「ほし」

いつかは離れて暮らす そんな時のために
恋人同士 歌うように話してる
まるでブルース いつだって


「ドラマは続く」

いいとこばかり思い出す
そんな日もあればいい


「サーカス」

以前シングルがリリースされた際にも書いたのですが、活動休止、メンバー脱退、ライブ休止、とにかく色々あったと思うのですが、今、HAPPLEとしてこんなにも楽しい音楽を鳴らしている。その事が何より美しい。そう、ドラマは続くのだ!