五反田団『五反田の夜』
「本公演に向けての実験の場的な位置づけで特に何も考えないで作った」といった旨が明記されていたが、ただの習作と呼ぶのを憚ってしまうほど魅力溢れる作品だ。友人と割り勘にして半分個ずつに分けようと注文した固焼きそばにに勝手にお酢を、それも浸すほどに、入れられてしまった女性。そのことを泣きながら相談すると、「ねぇ、カダフィーって知ってるかな?」と始まる。このジャンプ力とくだらなさをどう言葉で表せばいいのかわからないのが歯がゆい。演劇としては脱力しきっているのだが、劇中の彼や彼女はいたって真剣であるのがまたおかしい。人間と人間が交わる時に生まれる気恥しさ、それをエンターテイメントに昇華している。東京03と五反田団がその系譜の最高峰である。余談だけれども、東京03『燥ぐ、驕る、暴く。』をDVDで観賞して、年に2本ペースで公演を打って、このクオリティを保ち続けているかっこよさに敬意を表しつつも、手癖感でまんねりを拭い切れないのも確か。前田司郎と一緒にやったら、おもしろそう。
この作品にこんな事を言うのは野暮でしかないのだろうが、これが僕が震災後に見たかった演劇だ。震災後の”絆”みたいなものは嘲笑いつつも、同時進行でみっともなくてじれったい男女の”絆”を愛おしく描いた前田司郎を心底信頼したい。