熊切和嘉『海炭市叙景』
哀しい土地に縛りつけられた人々の逃れられない切なさというものがある。今作は海炭市という函館をモデルとした町に固執する、いや固執せざるをえない人々、失ってしまった輝かしい時間に対する喪失感を抱えた人々のオムニバスである。海炭市を横断する路面電車のシークエンスがとにかく素晴らしい。土地に縛りつけられ走り続ける路面電車は、哀しみを抱えながらもその町で暮らし続ける彼らの絶望の象徴だ。しかし、周回し続けるそれに乗っていれば、いつかまた幸せな時間に戻ることができるという希望でもあるのではないか。人は喪失感の哀しい面ばかりに目がいきがちだが、生きる原動力というのは実は喪失感だったりもする。ジム・オルークの音楽も哀しいから美しい。これぞフィルム、といった色や明かりが素晴らしい。この映画は喪失感を抱えながらもがき続ける彼らや僕やあなたの状況についてのドキュメントだ。