青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『anone』2話

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<社会の理からはみ出す>

1話のエントリーで孤児とも天使とも形容した今作の登場人物たちは、つまりは社会というシステムからの追放者である。ネグレクトされ”家なき子”としてネットカフェで寝泊まりする辻沢ハリカ(広瀬すず)。フランチャイズチェーンに加盟した結果、父から受け継いだ土地を企業に奪われてしまう持本舵(阿部サダヲ)。丸の内の商社に努めるキャリアウーマンであったが、男性社会において出世街道を外された青羽るい子(小林聡美)。そして、血の繋がりを理由に家族という共同体を除外された林田亜乃音(田中裕子)。誰もが社会から居場所を奪われ、傷ついている。スーパーの3割引されたパックの総菜を、椅子に座ることもなく立ったまま発泡酒で胃に流し込む亜乃音の姿は、花房(火野正平)が言うところの、”人様の秘めた哀しみ”というのを体現している。だが同時に、そういった社会性から逸脱したふるまいの放つ生々しさが、妙に胸に残るのも確かだ。数年前のテレビの天気予報中継にたまたま映り込んだという娘の姿を、再び発見せんと、毎日タイマーをセットして番組をチェックする姿はどうだろう。彼女のこの行為に対して、「天文学的数字の可能性、意味がない」「録画してまとめてじっくり確認すればいいのに」と声をかけるのが”社会”というやつだ。だが、あの亜乃音のつつましい奮闘は、社会のコードから外れているからこそ胸を撃つ。それは、ポケットに直接肉まんを入れる寿さんの持つ可笑しさや美しさと同等だ。「お金を燃やす」「お金を捨てる」といった愚行もまた同じ。それらに快感を覚えるのは、彼らを阻害し続けた社会、そのシステムの象徴である通貨を否定する行為だからだろう。社会という枠組みは日増しに狭まり、多くのマイノリティ・落伍者を生み出している。

社会からひどい目に遭わされた人は
死ぬ前にすることがあるでしょ?
怒るんですよ
鮭だって時には熊を襲うんでしょ!?

たとえそれが小さな声だとしても、反撃の狼煙は上げるべきだろう。か弱き者たちの華麗なる逆襲。『anone』においてそれは、もしかしたらイリーガルな行為であるかもしれない。しかし、わたしたちにはあらゆる抑圧や束縛から解放される権利があるのだ。



<意味のないこと>

『Business Journal』というwebサイトに『anone』2話の酷評記事が載っていて、そこではこのドラマの持つ不明瞭さや非効率性が批判されていた。ビジネスを冠した媒体であるから、そういった論旨も正しいのだろう。しかし、この『anone』というドラマが抗うのはそのような社会のコードである。はなから”わかりやすさ”は放棄され、意味がないとされてしまうものに愛情を注ぐようなドラマ作りが徹底されている。2話の序盤で、まさに坂元節としか言いようのないやりとりが交わされた。

これ・・・これ、あのこないだのあれのやつなんですけど
これってなんでですか?

2話から観始めたとしたら、音声だけでながら見していたら・・・代名詞だらけで一体何のことやさっぱり理解できないに違いない。それでも、あの場面の台詞をこう書き、広瀬すずにああ発話させるということ。このハリカの言い淀みと不器用さにキャラクターの実存は積もっていく。前述の記事では、工場の電灯がなかなかつかないというシーンに尺をとるのが無意味と批判されている。確かに「押したい電灯のスイッチになかなか辿り着けない」というシーンは、ストーリーを進める上では、意味のないものかもしれない。しかし、あの初めてのスイッチを押す手探り感、そのリアリティこそが、”生きている”ということのようにも思える。食パンを二つ折りにして頬張ること、44℃の熱い風呂に浸かること、空に見つけた飛行船をスマートフォンで写真に収めること・・・こういったストーリーに(表面的にも、メタファーとしても)機能しない意味のないことの積み重ねにこそ、生の愛おしさは宿る。

亜乃音:身長小さいほうだよねぇ?
ハリカ:そんなに小さくないです
亜乃音:え、小さいほうでしょ
ハリカ:大きくはないけど、小さくはないです
亜乃音:・・・妙なことにこだわる

意味のないもの、妙なものにとことんこだわっていこうではないか。そこには、ドミノ倒しに並んでいない人間には理解できないものが、きっとある。



<ためらうこと>

誰かと出会ったり、別れたりする際、人はときに手を振ってみせる。実にシンプルな友愛の形。しかし、そういった”気安さ”を、上手に体現できない人というのがいて、坂元裕二がドラマで描くキャラクターは得てしてそこに分類される。たとえば、まずもって思い出されるのは『それでも、生きてゆく』(2011)で瑛太が演じた青年の「カラオケ行かない?・・・とか、人に言ってみたいです」という小さく切ない祈り。彼らはいつも、気安さをためらってしまう。


誰かに手を振ろうとする時、亜乃音の掌はギューっと固まったように途中で止まる。ハリカに、玲(江口のりこ)に向けたい愛情が、身体にノイズとして放出されてしまう。たまらなく切ない気持ちにさせられるシーンだが、その”ためらい”の手前にある「手を振ろう」という意志にこそ美しさを見出したい。坂元ドラマの登場人物たちは等しく生き辛さを抱えながらも、1人で殻にこもろうとはしない。上手にはできない、不格好かもしれない、それでも、彼らなりの懸命さでもって、誰かと繋がっていこうと行動を起こしていく。

わたしをここで働かせてください

というハリカの自主性は、そこに良からぬ企みがあるとは言え、心を動かされてしまう。ちなみに、この台詞で思い出すのはやはり『千と千尋の神隠し』だろう。口を布で覆いながら神々の汚れを洗い流す千尋の姿は、マスクを装着して特殊清掃をこなしていたハリカに重なる。



<忘れっぽい天使>

ハリカのスケートボートの裏に描かれている天使のイラストは、パウル・クレーの「忘れっぽい天使」だ。そして、ハリカもまた、とても忘れっぽい性分の女の子である。スケートボートを路上に、帽子を車内に、置き忘れてしまう。ネットカフェで知り合った2人との繋がりを語る時、「忘れ物をした時は教えてくれる」と表現していたのが印象的だ。ハリカにとって、人との繋がりの確かさは、”忘れ物”を指摘してくれるというところにあるのかもしれない。この2話においては、彦星(清水尋也)が「忘れ物気をつけて 行ってらっしゃい」と声をかけ、亜乃音が「忘れてるわよ」と帽子を手渡してくれる。また、忘れ物ばかりしているハリカであるからこそ、それらを保管しておいてくれる落し物箱(=忘れ物箱)の存在は、ノーベル賞ものなのである。



<温かい布をかけてあげるということ>

亜乃音が枕と布団、そしてパジャマをハリカに与える。ハリカもまた、1階で作業をする亜乃音の背中にソッと毛布をかけてあげる。相手が「寒くないように」と布をかけ合う、ここには根源的で美しい人間の交感が描かれている。そして、朝が来ると亜乃音は

いつまで寝てるんですか
離しなさい

とハリカの布団をひっぺがそうともする。そこには信頼を結んだ者同士のじゃれ合いの空気が流れていて、亜乃音とハリカの間に、温かな”布”を介して疑似母娘関係が作られていることを意味している。つかの間の親子関係が、持本とるい子の強盗計画によって崩壊した時、亜乃音はハリカが寝ていた布団の上にしゃがみ込み(この時の田中裕子の「よいしょ」の発話の凄まじさ)、脱がれたパジャマを見つめていたのも忘れ難い。



<並んで食べるということ>

いや、それよりも前に2人はすでに母と娘になっていたのかもしれない。ラーメン屋のシーンだ。

ハリカ:ふふ
亜乃音:なに?
ハリカ:いや、なんかいいですね
    玲ちゃんと 同じもの食べるの

店に漂っていた”かつて”の玲の存在がハリカと同化し、亜乃音とハリカを親子たらしめている。そして、同じものを食べることも重要だ。亜乃音とハリカがテーブルに並んで、どっさりもやしラーメンを食べる、ジャムトーストを食べる。1人の時は立ったまま食事をかっこんでいた亜乃音は、ハリカが現れたことで、机に座って食事をとるようになる。持本とるい子は店のテーブルに並んでお好み焼きを食べ合う。並んで同じものを口にした奇妙な2組は、濃密な”親密さ”を纏っていく。



<赤と青が混じり合う>

青と赤が今作のキーヴィジュアルであることは1話のエントリーで述べた通り。赤い手袋、赤いマニキュア、福神漬け、印鑑の朱肉など、 やはり“赤”は様々な箇所に散見される。しかし、それまで赤いネクタイを身につけていた持本が、あくる日の場面では茶色のセットアップの下に青いニットを着ている。青と赤は”対”のモチーフとしては描かれていないのかもしれない。多くの赤を身につけたるい子の苗字が「青羽」であったり、彦星に出会う前の幼少時代のハリカが赤い服を身につけていたりすることにも象徴的だろう。重要なのは、それらが混ざり合うことだ。紙幣は、シアンとマゼンダ、薄い青と薄い赤のインクを重ねて印刷されていた。青と赤が混ざり合う時、ニセモノが現れる。しかし、そのニセモノこそが彼らを守り慰めるものなのかもしれない。



<哀しみで慰め合うこと>

血(赤)の繋がりに縛られた亜乃音の元に、青を纏ったハリカがやってくる。

目は騙されたけど指は気づく
持ったこの一瞬の指先で
「あ、違う」ってわかるんだよ
暗いところで知らない人の手を・・・なんか
繋いでしまったみたいんなんです

偽札を巡るこの言説は、いつの間にか亜乃音と玲という親子の関係性にスライドされていく。

生まれた時からずっと繋いでた手の感触が変わっちゃう
知らない人の手を繋いだみたいになっちゃう

そんな亜乃音の哀しみを、「親から愛された記憶がない子って人を愛することができないんだろうね」と蔑まされた過去の傷を見せることでハリカが慰める。

だからね 大丈夫だよ
見て 玲ちゃん
すごい優しそうな顔だし
子供いて、お母さんになってるじゃない
愛された記憶があるから
愛せてるんだよ
亜乃音さんの愛情が ちゃんと玲ちゃんに届いたから
自分の子供も愛せてるんだよ
大丈夫だよ

「大丈夫、あなたは大丈夫なのだ」というハリカの優しさ。亜乃音は「そうであって欲しい」と大いに励まされながらも、それを否定することで、ハリカの存在を肯定してみせる。

関係ないと思いますよ
愛された記憶なんかなくても
愛することはできると思いますよ

互いの”痛み”でもって、慰め合う2人の関係がたまらなく切なく美しい、この2話において最も心振るわされるシーンではないだろうか。



さて、2話。どこか浮足急ぎ足な印象の1話に比べると、あらすじは拡散していきながらも、焦点が定まっていて、物語にグッと引き込まれた。新たに登場した江口のりこ火野正平、川瀬陽太、和田聰宏といった役者陣も素晴らしい佇まい。弁当屋で働く瑛太というルックも秀逸だ。しかし、何と言っても、田中裕子と広瀬すずだ。田中裕子には、演者として普通に”在る”ことの凄味を、広瀬すずには改めてそのルックスの可憐さに、心臓を掴まれた。そして、やはりその特別な声である。坂元裕二のドラマの主人公たちは、か細くも強いボイスを放っていなくてはならない。

最近のこと(2018/01/09~)

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本日発売の『美術手帖』2月号「テレビドラマ特集号」に畏れ多くも寄稿しております。このブログの「最近のこと」を熱心に読んでくださっている方、私が妙に坂元裕二の過去作ばかり観て、あげくに体調を大幅に崩している時期があったことを覚えておりませんでしょうか。この原稿です。私のようなペーペーが『美術手帖』のような雑誌に文章を載せていいものかと悩みに悩みましたが、他の人が書く「坂元裕二」論を読むのも悔しいに違いないぞと決心し、ヒーヒー言いながら書きました。ぜひともお読みください。

美術手帖2018年2月号

美術手帖2018年2月号

山田太一先生と同じ誌面に収まることができて、テレビドラマファンとして本当にうれしいです。ときに「ヒコ」ってペンネーム、気が抜けていて締まらない気がするので、誰かかっこいい名前ください。阿厳とかそういうやつ。



すっかり年が明けたことに慣れてしまった。2018年にもうしっくりきている。2017年のテレビについて書きそびれていたことがあった。たまたまついていた去年の日テレの24時間テレビの1コーナー。「目がほとんど見えなくなってしまったお母さんがある機械を使って、初めて子供たちの顔を見る」という企画をやっていて、機械を装着して子供を見つめたお母さんの第一声が「へぇ〜かわいいじゃん」(言い方もかわいい)だったのだ。それが軽くて新しくて凄く強いものに感じて、グッときてしまったのだ。誰か観ていた人いないだろうか。


火曜日。成人の日を含んだ連休明けで、私にとっては断食明けだ。とは言え、いきなり何でも食べていいわけでなく、プログラムによると「朝:酵素ドリンク 昼:酵素ドリンク 夜:薄く出汁を効かせた大根汁、きゅうり」とある。寺の修行僧だってもうちょい食っているだろうというようなメニュー。しかも、メインの食事が汁物だというのに、食前にミネラルウォーターを300ml飲み、その後に梅干しをほぐした白湯を300ml、さらに大根ときゅうりを食べた後に600mlをもう1セット飲み干せ、と書いてある。これはもう水攻めである。1582年、備中高松城の戦いである(がんばれ、受験生)。しかし、この水攻めがよかった。汚い話ですが、食事を終えるやいなや、腸の中のすべてが洗い流されるんじゃないかというような便通体験が待っていたのです。これはスッキリ。久しぶりに口にした固形物はたまらなくありがたいものだった。茹でた大根の甘く感じられること。きゅうりは麹味噌をつけて食べた。慎ましい食事をありがたがりながら、録画しておいたテレビ東京の新春ドラマスペシャル『娘の結婚』を観た。父親役を演じた中井貴一という役者の魅力だけで、ドラマは成立してしまう。中井貴一の名付け親は小津安二郎であるからして、彼ほど”娘の結婚”に心を痛める男やもめを演じるにふさわしい俳優は他にいないだろう。スーパーで一切れしか必要なくなった鮭を手にして泣くシーンは臭いが、ホロリときた。いいシーンはたくさんあるのだけど、全体的な印象はいまひとつ。一度解決した問題をこねくり回して使い過ぎだし、原田美枝子が何度も偶然を起こすのも意図的なのだろうけども、ちょっと首を捻った。中井貴一と波留の父娘のシーンにもっと尺を費やして欲しかった。中井貴一の作るハヤシライスが食べた過ぎて、きゅうりを齧りながら泣いた。中井貴一倉本聰の『ライスカレー』(1986)というドラマに出演していたが、確かにカレーというよりハヤシライスがよく似合う。2018年になって突如としてEliot Smithのリバイバルブームが私の中に巻き起こっている。

EITHER/OR

EITHER/OR

XO

XO

天使という形容が本当にふさわしいのはこのヨレヨレのジャンキーがつまびくギターの音色と歌声だ。



水曜日。この日もまだまだ回復食。朝と昼は酵素ドリンク。ちなみに酵素ドリンクはウィルキンソンなどの炭酸水などで割るとよりお腹も膨れてオススメです。夜はおかゆ、大根汁、きゅうり。きゅうりは色々調理して食べた。酢漬け、ナムル風、梅和え、昆布和え、茗荷和え。ざっと4本分は食べてしまった。世間ではきゅうりダイエットなるものが流行っているらしく、スーパーでも「売れています!」とシールが貼られていた。お風呂でロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』を読んだ。

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)

ティム・バートンの映画でお馴染みのあの作品だ。イマジネーションの洪水に溺れる。しかし、柳瀬尚紀の訳は本当にファンキー。FORKばりの押印主義者である。押印主義って何か?知らねえ。身体を清めたところ、満を持して『anone』の放送開始。正座して鑑賞した。「二郎はもはやラーメンでなく、二郎というジャンルだ」というようなことが、坂元裕二とテレビドラマの間にも起きていて、その在り様は本当に唯一無二だ。二郎に対するラーメン大や豚野郎のように、そろそろテレビドラマ界にも坂元裕二インスパイア系が出てきてもいいところだが、それすら現れてこない坂元裕二の独自さよ。もしかしたら、シナリオコンクールなどでは坂元裕二っぽい脚本の習作で溢れていたりするのだろうか。まだ1話、どう転がっていくのかわからないが、田中裕子と瑛大がいるので大丈夫だろう。小林聡美阿部サダヲがいるのも落ち着くし、広瀬すずはやはりあの世代において群を抜いた存在感を持った女優だ。ときに、田中裕子はどことなく小沢健二に見えなくもなくて、小沢健二椎名林檎から『カルテット』を勧められて観て感激し、満島ひかりと「ラブリー」を歌った。これはもう坂元裕二×小沢健二の対談を望む。山田太一×小沢健二という素晴らしい対談が過去にあるわけで、誰かが暗躍すれば実現するのでは。観られなかったら悔しくて気絶してしまうので、トークショーではなく誌上対談にして欲しい。何の脈絡もなく、寝る前にglobe「Is this love」のMVを観た。

このミュージックビデオに制作費1億円かけたらしい。それはさておき、この曲がglobeで1番好きだ。



木曜日。本当はまだ回復食期間だが、いい加減飽き飽きだし、そんなにやわな胃腸じゃないわよということで、お昼に野菜煮うどんを食べました。糖質が美味すぎて震えた。思い切って、食事のあとに珈琲も飲んだ。カフェインも控えるように書いてあったので、1週間禁じていたのだ。断食をして1番よかったのは、食事に対して出会った頃のような気持ちを取り戻せたことだ。何を口にするにもときめいてしまうし、ごく自然にスキンシップも発生する(箸で裏返してみたり)。ふとした瞬間に誰か(食事)のことを想う、というのがこんなにも素晴らしいことだったとは。出会えたことに感謝。たった3日でこれである。たとえば、マンネリ関係の夫婦や恋人なども、1年くらい会うことさえも禁じてみたら、新鮮な気持ちで向き合えるようになるのだろうか。その1年をどう過ごすかは倫理が問われるところである。仕事の後、映画を観るために新宿へ。夜ご飯は「MUJI CAFÉ」で味が薄めのおかずで構成した定食を食べた。久しぶりの白米に感謝。食事を終えても、映画の上演開始までまだ時間があったので、オッシュマンズでチャンピオンのスウェットのアメリカ製と中国製の生地の質感の違いを考察して暇を潰した。アメリカ製は硬かったです。シネマカリテの小さなスクリーンで大九明子勝手にふるえてろ』を鑑賞。
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すでに絶賛の嵐を浴びている映画ですが、なるほどこれがもうすんばらしかった。松岡茉優の類稀な資質に、「大好き!」となってしまう。彼女なしには成立不可能な作品だろう。これが彼女の最初の主演映画作だなんて、出木杉くん。ある種の人間にとっては、太宰治の『人間失格』以上に、「私はヨシカ」となるのではないだろうか。最近流行りの応援上映、まじで興味ないと思っていたが、ヨシカの応援ならしたい。同期飲みや同窓会のシーンでは声を張り上げて「帰ろ!もう帰ろ!」と叫ぶのです。”こじらせ女子”と聞くと食傷気味な気持ちにもなるかもしれないが、この『勝手にふるえてろ』には既存の作品ではお目にかかったことのないやりとりや台詞に満ちている。爆発するほど満足した。そういえば、何年か前に星野源が「”こじらせ”という世間からのイメージに殺されそうになった」とインタビューで話していて驚いたんですが、こないだの復活「ドゥワッチャライク」で小沢健二がまったく同じようなこと(小沢健二の場合は王子様という偶像に)を書いていて、椅子から転げ落ちた。星野源はまじで小沢健二の後継者なのかもしれない。「邪悪、ヴォルデモート、あるいは田島カンナ」は名文でしたけど、散々そこにつけこんでお金稼ぎしてたのに・・・と思ってしまう。やることだけやっておいて、「やっぱりこういうのよくないよ」とか言い出すのはやめよう。帰宅して、時空の歪みの解消された『ハライチのターン』を聞いて、安心な気持ちで寝た。



金曜日。朝起きて、もう週末か、とうれしくなった。冷え込みは強まっている。書評家の豊崎由美さんが坂元裕二ドラマは佐藤正午の小説を彷彿させるというようなことをTwitterで呟いていたので、すぐにも影響受けやすい私はさっそく本屋で『鳩の撃退法』を購入した。

鳩の撃退法 上

鳩の撃退法 上

タイトルからして最高にイカしている。上巻の半分くらいまで読んだのですが、グイグイと引きまれるおもしろさ。作中に登場する『ピーター・パンとウェンディ』(石井桃子訳)を古本でゲットしたい。最近、児童書を文庫じゃなくて単行本で集めたい気持ちが高まってきているので、児童文学に強い古本屋がありましたら、ぜひとも教えてください。帰宅して、お風呂で『ぐりとぐら』でお馴染みの中川李枝子×大村百合子のデビュー作『いやいやえん』を読んだ。
いやいやえん (福音館創作童話シリーズ)

いやいやえん (福音館創作童話シリーズ)

何がおもしろいのか言語化しがたいが、どうにも心惹かれる不思議な1冊で永遠のマスターピース。中川李枝子×大村百合子の作品はやはり『いやいやえん』と『そらいろのたね』がとりわけ好きだ。
そらいろのたね

そらいろのたね

どちらも宮崎駿がアニメーション化しているらしいのだけども、まだ観たことなくて、口惜しい。お風呂から上がり、野木亜紀子の待望のオリジナル脚本ドラマ『アンナチュラル』1話をリアルタイムで観る。

これが本当におもしろくて、たいへん興奮しました。『anone』と『アンナチュラル』の2本が同時に観られる今期はテレビドラマファンにとって忘れられないクールとなりそう。『anone』のエントリーがエモ過ぎたので、『アンナチュラル』は軽いテイストにしようと試みたのだけども、最後にエモが顔を覗かせた。エモに寄り過ぎないいい文章というのを模索している。深夜までかけて、Netflixで『DEVILMAN crybaby』を最後まで鑑賞する。おもしろかったが、高校時代に原作の『デビルマン』を読んだ時と同じくズーンとなった。しかし、何故か手放せずに今でも本棚にある。『デビルマン』と『漂流教室』は私にとってそういう漫画だ。『DEVILMAN crybaby』は「悪魔の正体は現代生活に不満を持つ人間である」というのがデマではなく実は本当のことである、というような描き方をしている。序盤ではとりわけ性的なフラストレーションに特化していたのだけど、後半に進むにつれその演出は薄れていく。ちょっと中途半端に感じてしまった。そういうシーンを書きたいからNetflixを選んだというのではなく、Netflix(=地上波じゃない)であることを強調したいがために性的描写を強めたという印象になってしまう。セクシャルマイノリティの組み込み方なども、とってつけた感がある。とびきりおもしろいアニメーションであることは否定しないのだけども。



土曜日。想定していたよりずいぶんと早起きしてしまったので、ロアルド・ダールの『魔法のゆび』

魔法のゆび (ロアルド・ダールコレクション 3)

魔法のゆび (ロアルド・ダールコレクション 3)

  • 作者: ロアルドダール,クェンティンブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,宮下嶺夫
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2005/12/01
  • メディア: 単行本
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を読みながら朝風呂に浸かる。そして、『美味しんぼ』を観た。最近、ちょこっと空いた時間にNetflixで『美味しんぼ』のアニメ(デジタルリマスター版!!)を観るのにはまっている。面白いし、山岡さんの声かっこいいし、夕方みたいな気持ちにさせられるし、最高です。心の処方箋にしたい。突如のデジタルリマスターに、一部のマニアの間で評価の高いサントラの再発、2017年の『美味しんぼ』リヴァイバルは一体何だったのだろう。ちなみに、『美味しんぼ』はamazonプライムにもあります。さらに、amazonプライムには『彼氏彼女の事情』、Netflixに『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』が登場。これはTSUTAYAも潰れていくわけである。お昼頃に横浜へでかける。まずは、中華街で「愛群」で牛バラ飯と青菜炒めとシューマイを食べた。
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美しきかな、牛バラ飯。横浜中華街でやっと行きつけの店を見つけることができてうれしい。あとは美味いゴマ団子の店を探し当てようとウロチョロしていたら、通りの外れにある古びたお店の店主に話しかけられる。「他のお店は朝に一度揚げるだけだけど、うちは1時間に1回揚げてるんだよ」「他のお店のはカチカチだけど、ウチのはプニプニ、触ってみて」「こし餡を使ってるの今はウチだけ、他は全部つぶ餡、でもつぶ餡はオススメしない」・・・・何故わたしがゴマ団子を求めているのがわかったのだろう。テレパシーと目と目で通じ合えたなら、というやつか。実際、このお店のゴマ団子はとても美味しかった。店の名前や性格な場所を確認し損ねてしまった。夢じゃないといいのだけど。かねてからの疑問なのですが、中華街ってなんで天津甘栗だけ売り方が異様に強引なのですか。肉まんとかゴマ団子は全然、押し売ってこないのに。天津甘栗だけ過酷なノルマが課されているのだろうか。世界の秘密に一歩近づいたところで中華街を後にし、眼鏡屋を少し巡った。ここのところ、質のいい眼鏡への執着が再び湧いてきている。OLIVER PEOPLESなどは別格として、私が学生の頃は、高価で感度の高い眼鏡と言えば、アランミクリ、Japonism、9999などが主流だったような気がする。しかし、今はどのショップにもあまり置いていない。特にアランミクリなどはすっかり時代遅れのブランドになってしまったらしい。確かに流行りのデザインもすっかり変わった。知らない内にOliver Gold Smithの新作を発表するラインも立ち上がっているではないか。かっこいい眼鏡は何本だって欲しい。上質な眼鏡は平置きされていると本当にかっこいいのだけども、かけてみると途端に色褪せていく。最高の眼鏡を探して、険しい道は続く。横浜駅ジョイナスの地下で「オギノパン」が販売されていたので、先日たいへん感銘を受けたオランダブールを購入した。さらに看板商品のアンパンと明太コッペパンも買った。あとで、食べてみたところ、やはりオランダブールが飛びぬけて好きだ。表面のゴマがちょっと焦げるくらいの勢いでトーストして食べて欲しい。損はさせません。日本大通りに移動して、KAATでロロ『マジカル肉じゃがファミリー』を観劇した。まっこと素晴らしかった。ひさしぶりのロロフルメンバー集結ということで、とにかく舞台上が華やかで目のやり場に困るほどに贅沢。全員が良かったが、とりわけ板橋駿谷の母が最高。台所で母が夕飯を作っていると家族がメニューを聞いてくるシーンが何気ないのだけど、凄く好きだ。「オムライス?」「正解~」といったやりとり。舞台上にケチャップの匂いが香り立つ。もうほんとやりとりがいちいち良くて、こんなの他に誰も書けない!って興奮した。一見地味なのだけども、ラディカルでポップ。あまりに楽しい演劇体験だった。ネタバレになるので、まだ書かないでおくのだけども、劇中で私の大好きなJ-POPナンバーが二度流れる。ウキウキしてしまった。何度だって観たいのだけども、横浜に赴く敷居は高い。この日放送の『ゴッドタン』の「西野VS劇団ひとり」、めちゃくちゃおもしろいので、TVerでの視聴推奨です。



日曜日。本棚が欲しくなる。安くて丈夫な家具を売っているお店が八王子のほうにあるというので、車を借りて訪ねてみた。そこで「タイムズ」のカーシェアリングに登録してみることにした。タイムズの駐車場に置いてある車を借りられるシステムなのだけども、ネット上の手続きだけでOKで気軽だし、分単位でも借りることができる。たしか15分以内は無料なので、そんな使い方はしないだろうが、ちょっと先のコンビニまで車を使うこともできる。調べてみると家の周りにはカーシェアに対応したタイムズ駐車場が複数あった。これは結構便利な気がするので、ちょっとの期間使ってみようと思う。遠方のサウナに行くのにも使いたい。しかし、最近は車を所有したい欲もムクムク湧いている。スピッツ槇原敬之などを流しならが家具屋までドライブし、本棚を2つ購入。配送料は高くついたが、それでも割安だった。届くのが楽しみである。帰りにスーパーに寄って、安くなっていた牛肉を買い、葱と炒めて食べた。『西郷どん』に瑛太が出てきた。いい瑛太だった。

野木亜紀子『アンナチュラル』1話

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うおー。思わず声が出てしまうほどにおもしろいではありませんか。脚本、役者、演出、編集、劇伴、衣装・・・あらゆる要素が90点越えを叩き出す超優等生の登場である。脚本は野木亜紀子。『空飛ぶ広報室』(2013)、『重版出来!』(2016)、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)などで高い評価を得た、原作もののスペシャリストがついにオリジナル脚本でテレビドラマを手掛けるということで、期待値は高かったのですが、その予想の遥か上をいく完成度。ここ20年のテレビドラマの軌跡と叡智の結晶というような感触を覚える。そう考えると、”遺体解剖”という作品のモチーフはあまりにもはまっている。野木亜紀子は相当のテレビドラマフリークであると聞く。

テレビドラマの過去のアーカイブス(≒死体)を暴き出し、「このドラマは何故おもしろいのだろう?」というのを徹底的に究明し、未来へと繋げた成果が、この『アンナチュラル』なのである。以下、少しネタバレしますので、未見の方は、民放公式テレビポータル「TVerティーバー)」へ急げ!!



ドラマがどう始まっていくかにはできる限り目をこらしたい。そこにはその作品が何を大切にしていくかが、さりげなく宣言されているような気がするからだ。『アンナチュラル』のはじまりは、三澄ミコト(石原さとみ)と東海林夕子(市川実日子)の女2人の軽快でウィットに富んだおしゃべりから、話題は異性間交流会a.k.a.合コンについてだ。そして、朝から完食される天丼。すなわち重要なのは、おしゃべりすること、恋をすること、食べること。解剖医という濃密なまでに”死”と隣り合わせの職業を描きながらも、どこまでも”生きるということ”を瑞々しく志向したドラマに違いないのである。不穏さのすぐ裏側で展開されるからこそ、それらは”きらきらひかる*1。そして、

ミコト:名前?
夕子:そう、問題は名前

という冒頭の会話は、「名前のない毒」という1話のテーマに広がっていくとともに、「ミコトが養子であり、雨宮ミコトから三澄ミコトに名付けられ直した」という事実への伏線としても機能している点も見逃せない。また、中盤の居酒屋のシーンでは「早口言葉みたいな名前だな ミスミミコト」という会話が六郎(窪田正孝)と末次(池田鉄洋)の間で交わされていて、”名前”というモチーフが丁寧に幾重にも織り込まれていることがわかる。


というように、とにかくテクニカルなのだ。前述のロッカー室での他愛のないお喋りでもって、主要キャラクターの人となりを早々に視聴者に伝えきってしまい、出勤ボードを使った演出で役名や役職を補完。惚れ惚れとする手際の良さ。井浦新(「解体新書」読んでるの最高)、窪田正孝(バイク最高)、市川実日子(笑い方最高)、松重豊(丸眼鏡最高)、飯尾和樹(ずん)・・・と好感度の高すぎるキャスティングは、見事な実存と愛おしさを湛えたキャラクターとして実を結んでいる。そんな中で主演を張る石原さとみも負けていない。できること/できないことをしっかりと見極めたのだろうか、女優としてはやや野暮ったい印象があったが、いつの間にか非常に洗練された役者へと成長を遂げている。


筋運びも見事としか言いようがない。視聴者に何度も着地点を予測させておきながら、着陸寸前で急上昇、それを何度も繰り返し、スケール感を拡大していくアクロバティック飛行。とにかくスピーディーかつドライブ感に満ちている。それでいて、

ミコト:中堂さんの解剖実績3000件と私の実績を合わせれば
    4500件もの知識になります
    協力すれば無敵だと思いませんか?
中堂:無敵・・・敵は何だ?
ミコト:不条理な死

というように、堂々と”不条理”との戦いを宣言し、この先も通底していくであろうフィーリングを見事にととのえてさえいる。「何でおいしいんだろう・・・こんな時に」というアンパンを巡る挿話は、ちょっと狙い過ぎな気がしないでもないのだけども、『カルテット』(2017)の「泣きながらご飯を食べたことがある人は生きていけます」という台詞を引き受けたかのようなテレビドラマファンへのサービス精神は心憎い。また、石原さとみのまさに”パクパク”というオノマトペがふさわしい頬ばり方で全てはオッケーになってしまう。個人的には、上記のアンパンのくだりよりも

六郎:馬場さんって人おかしいですよ
   恋人死んだのに淡々としちゃって
ミコト:淡々とした人なんじゃない?

というさりげないパートがとても気にいっている。愛する人を失ったならば、誰もが大袈裟に泣き叫び、落ち込み果てなくてはいけないなんて決まりはない。その落ち込み方が愛の深さを図るわけでもない。毅然とした態度で働くもいい。漫画を読んで笑ったっていい。ディズニーランドに遊びに行ったっていいだろう。平然とした態度の裏にだって、哀しみや愛は宿る。この世界には色んな人がいる、いていいのだ。こういった筆致はまさに『逃げるは恥だが役に立つ』という金字塔を打ち立てた野木亜紀子の面目躍如なのである。

*1:深津絵里が主演した『きらきらひかる』(1998)というドラマが同じく解剖を行う監察医を主人公に据えたガールズトークドラマであった

坂元裕二『anone』1話

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坂元裕二の新作ドラマ『anone』の放送がついに開始された。ジャンルレスゆえに、現段階ではまだまだ漠然とした印象だが、イメージを織り重ね、ストーリーを形作っていくその筆致はやはり郡を抜いている。1話における白眉は、偽札を巡る歪なカーチェイスで3つの群像劇が交差していくスペクタクルだろうか。その果てに、「靴が脱げてしまう」という情けないアクションで人物たちがひっそり結びついてしまうという描き方には、「坂元作品を観ている」という興奮を覚えた。序盤で「名言っていい加減ですもんね」と自虐的に言及しているにも関わらず、やっぱり坂元裕二のドラマは名言でまとめられてしまう。坂元裕二の名言砲、坂元裕二ドラマは名言の癖がすごい・・・気持ちはわからないでもない。「お金じゃ買えないものもあるけど、お金があったら辛いことは減らせるの」も「大丈夫は2回言ったら大丈夫じゃない」も確かに良いのだけども、やはりその真骨頂は名言らしからぬ所に潜んでいるように思う。

シャワー室のお湯がでなかった時は連絡し合うし
シャツの染みがいつ何を食べこぼしてできたものかお互いに知っている
忘れ物をした時は教えてくれる
友達っていうのとは少し違うけど
もうずいぶん長い間パジャマを着て寝たことがないのは3人とも同じ

「シャツの染みがいつ何を食べこぼしてできたものかお互いに知っている」というラインは、あまりにも見事に、人と人の繋がりの温かさというものを切り取っていやしないか。コンビニの廃棄弁当を食べ、ネットカフェのシャワー室で身体を洗い、パジャマを”着ない”という共通点で結びつく。孤独という同じ匂いを纏った、いわばカルテット的共同体の3人。しかし、その関係は”お金”というシステムの前に、いとも簡単に崩れさってしまう。『カルテット』(2017)に流れていた甘やかさを捨て去り、より過酷な現実を描いていこうという意志の現れだろうか。ハリカ(広瀬すず)が、かつての幻想に石を放り投げるシーンがある。「石を投げる」という所作はこれまでの坂元作品に頻出するモチーフ。『それでも、生きてゆく』(2011)や『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016)の中では、辛辣さの中でのひと時の息抜きや密やかなる交感として描かれていた投石であるが、『anone』におけるそれは、決別、破壊として暴力的に描かれる。やはり、状況はこれまで以上に穏やかではないのだ。


モチーフのリフレインは他にも、1話にして多々見受けられた。たとえば、猫。『最高の離婚』(2013)や『問題のあるレストラン』(2015)のマチルダとハッサクを例に出すまでもなく、坂元裕二のドラマにはいつも猫のイメージが散りばめられてきた。そして、亜乃音(田中裕子)のもとに猫が、ハリカのもとに猫が、そしてるい子(小林聡美)のもとには猫顔の男が。完全に余談になるが、阿部サダヲと余命宣告と言えば、ドラマファンとしては、あの『木更津キャッツアイ』(2002)を想起してしまうし、あのドラマでの阿部サダヲは猫田カヲルなのである。*1また、この1話に登場した漫画喫茶、ファミレス、動物知識なども多くの作品に登場するモチーフ。手紙、列車、たこ焼き、素麺、カラオケボックスクリーニング屋などの登場にも坂元フリークは期待していきたい。


つまり言いたいのは、”繰り返される”ということだ。『anone』は、次屋尚(プロデュース)×水田伸生(演出)×坂元裕二(脚本)×田中裕子という布陣での、『Mother』(2010)、『Woman』(2013)に続く第3弾。初代へのリスペクトというわけではないだろうが、ハリカの幼少時代を演じた大迫莉榎の演技メソッドでもって、『Mother』の主人公”つぐみ”(芦田愛菜)の亡霊を召喚している。やしろ優のモノマネにあるように、「あのね」と言えば、それは芦田愛菜の専売特許なのである。今はもう消滅してしまった満島ひかりInstagramのアカウントが残した

坂元さんのドラマは、役と役が輪廻して繋がっていますね

という言葉を思い出せば、ハリカはつぐみのありえたかもしれない未来の一つなのだ。



<物語は孤児のために>

つぐみ同様に、今回の物語の主人公ハリカもやはり孤児である。近年の坂元裕二は憑りつかれたように”孤児”というモチーフを手掛けている。対談集「世界といまを考える」の中で是枝裕和が指摘しているように、キャリアにおける異色作『負けて、勝つ 〜戦後を創った男・吉田茂〜』(2012)という史実に基づいた政治ドラマにおいてさえも、その趣向は色濃く噴出している。天皇という拠り所を失った大きな孤児としての戦後日本の復興を、吉田茂(もまた孤児である)とダグラス・マッカーサー(≒アメリカ)をはじめとする多様な親子関係で描いている。スティーヴン・スピルバーグの「私の映画は、両親が離婚した子供たちに向けられたものだ」という言葉は有名だが、坂元裕二もまた同じような信念を胸に抱いているのかもしれない。もちろん、ここで言う”孤児”とは、親のいない子供達、ひいては孤独な魂を持つすべての人々を指す。言葉は、物語はそんな寂しがり屋たちを結びつけるために存在するのではないだろうか。



<はみ出し者の天使たち>

また坂元裕二が描く人物たちは現代都市に生きる“天使”でもある。純粋さと残酷さを兼ね備え、混乱した彼らは、世界からあまりにも大きくはみ出してしまう。主人公ハリカ(広瀬すず)のニックネームは”ハズレ”。

みんなって誰?
みんなって誰のことかわからないから同じにできないんだよ

その強い固有性ゆえに「普通ではない」とされてしまう。特殊清掃のバイトにおいてガスマスクをつけている姿が印象的だ。チャットルームでのアバターにすらハリカはそれを装着させている。天使である彼女にとって、この世界の空気は汚れ過ぎている。そして、汚れた世界から目を背けるように伸ばされたハリカとカノン(清水尋也)の前髪。


カレーショップを経営する持本舵(阿部サダヲ)は、料理人であるにも関わず、フリスク中毒のようだ。口臭を気にしてのことなのだろうか。「フリスクを適量取り出すことができない」という所作からも、彼の抱える”生き辛さ”が浮かび上がってくる。「本日をもちまして閉店致します」と書かれた貼り紙は、1枚に収まりきらず、不格好に1/4の画用紙が継ぎ足されている。「ます」が”はみ出して”いるのだ。メニューも見ることなくカレー屋で焼うどんを注文する青羽るい子(小林聡美)は、その態度だけでも充分に、おおいなるはみ出し者であることがうかがえる。林田亜乃音(田中裕子)はまだまだ謎めいている。登場シーンはソファーからの”落下”。そして、彼女が階段を”下降”し、指輪を床に”落とす”ところから物語の扉が開いていく。この繰り返される「落ちる」イメージは、彼女の天使性を形づくる。また、後に偽札と判明するとはいえ、万札をトイレに流し、火で燃やすその姿は、まさしく社会のルールからの逸脱者である。ラスト数分でついぞ登場した坂元裕二作品のミューズ瑛太が演じる謎の男は、ひたすらに両替機にお札を挿入してはエラーを繰り返す。たったそれだけの所作で、「お前はニセモノだ」と世界から拒絶される男の哀しさを映しとってしまっている。誰もがはみ出し者の天使たち。そんな彼らが、それぞれに違う場所で、しかし同時に、空から零れ落ちる”流れ星”を見上げる。あの流れる星もまた、彼らと同じく天からの追放者なのだろうか。この1話において実のところ最も印象的なのは、どこまでも広く映し撮られた”空”の画ではないろうか。天はどこまでも高い。手を伸ばしても届かないほどに。

いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016)では有村架純高良健吾の2人を、マフラーやパーカーというアイテムの”輪っか”が天使たらしめていたが、今作における天使性はハリカのスケートボートに描かれたパウル・クレーの「忘れっぽい天使」という形ではっきりと可視化されている。更に、ハリカの主たる移動手段がスケートボートであるのも興味深い。それはつまり、彼女は地上から少しだけ浮いている、ということである。



<ハリカとカノン>

ハリカは徹底してブルーを身に纏っている。ダウンジャケット、スマートフォン、リュック、スニーカーの紐、セーター、バイト先作業衣、ガスマスク・・・いたるところに散りばめられた青。対してハリカ以外のものはこれまた徹底して、赤で彩られている。トレーナー、ニット帽、ルージュ、トックリ、ネクタイ、信号、ヘッドライト、パンに塗られる苺ジャム*2、そして偽札を燃やした、会社の倉庫を燃やした、炎の赤。しかし、ハリカ以外に青を纏うものがいる。病室で薄いブルーのパジャマを着て眠るカノンだ。そして、カノンの過去である紙野彦星が「伸ばし過ぎた前髪に青いダウンジャケット」という現在のハリカと全く同一のルックであったことにハッとさせられる。忘れていたはずの彦星との”かつて”は、ハリカにしっかりと息づいていたのだ。ちなみに、坂元裕二はこの”青”というモチーフをとても大切にしている。今作と同スタッフによって制作された『さよならぼくたちのようちえん』(2011)という単発ドラマでは、ゴッホの描いた夜の”青さ”が、死に対抗するイメージとして演出されていた。

ハリカと彦星の関係は、彦星というネーミングからも七夕の伝説がトレースされていることが明白だ。彦星のいる病院を目の前にしながらも、川(天の川)を挟んだ対岸で足止めをくらってしまう。バーチャル空間で言葉を交わすことしかできない2人。誰よりも深く結びつきながらも会うことを禁じられた恋人、まさに現代の織姫と彦星である。



<物語で異化する世界>

「ちょっとこのお店って明る過ぎません?」とるい子が投げかけると灯りが暗転し、亜乃音が大量の札束を発見すると工場の電灯が割れタイトルバッグへ。まさに「物語のはじまりはじまり」と言わんばかりの演出だ。そして、ハリカが寝泊まりしているネットカフェの名は「アラビアンナイト千夜一夜物語)」であるからして、この『anone』は”物語”というモチーフを強く扱おうとしているように感じる。


ハリカは、辛い過去を絵本のような素敵な物語にすり替えることで、なんとか生き延びてきた。彼女はその物語をお守りのようにして暮らしてきたのだ。彼女がどうしても異化させなければならなかったのは、自身に架せられた「変な子」だとか「病気」とかいったレッテルだろう。

変な子っていうのは褒め言葉なのよ
人はね持って生まれたものがあるの
それを誰かに預けたり変えられちゃダメなの
たしかにあなたは少し変な子だけど
でもそれはあなたが当たりだからよ

物語はこんな風にして、現実を異化させ、彼女を慰めた。しかし、早くも1話にして、その虚構は暴かれてしまう。風車と風見鶏が、時計の針とは逆さに回り、ハリカの記憶を呼び覚ましていく。老婆に名前を奪われるという、まさに『千と千尋の神隠し*3のダーティー版とでも言おうような壮絶な過去。しかし、同じ記憶を共有している彦星は、そんな過酷な日々の中の一夜の思い出をお守りにして、これまで生きてきたことが明かされる。反転につぐ反転。誰かに記憶を語ることで、それは物語となり、誰かの現在を救済する。その循環を止めてはならない。顔を突き合わすのでなくてもかまわない。手紙、メール、チャット、ブログ、TwitterInstagram、LINE・・・なんだっていい。誰かと言葉を交わすことの切実さよ、美しさよ。

*1:猫田がときおり披露したネズミ顔を、フリスク2粒を歯に見立てて再現していたのも偶然とは言え、うれしい

*2:食パンに乱雑にかぶりつく田中裕子の所作が素晴らしい。亜乃音が"生きている"という感じがする

*3:やはり坂元裕二には宮崎駿の魂が息づいている

最近のこと(2017/12/27~)

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ロロ+EMC feat. いわきっ子による「ミーツミーツミーツ」のライブ動画が公開された。本当にいい曲。2017年に1番素敵なメロディを書いてきたのは江本祐介に間違いなし。島田桃子さんのラップ(というかボイス)、やはり特別。ロロの新作『マジカル肉じゃがファミリーツアー』が横浜KAATでまもなく上演開始するので楽しみだ。2回は観に行きたい。


正月休みに実家に帰省すると、「いつからうちは山賊の末裔になったのだ」と母に窘められた。このブログは身内バレしてきているようだ。お腹を痛めて産んだ子が、いい年して山賊だなんだと戯言をまき散らしているだなんて、気の毒でならないので、どうか読まないで頂きたい。母から聞いたところによると、妹もこのブログの存在を把握しており、彼女の結婚式について書かれた「最近のこと」を読んで激怒していたらしい。すっかり書き忘れていたんですが、妹の花嫁姿は本当に綺麗で、目に入ったその瞬間に涙が溢れそうになりました。しかし、これはブログ開設以来の危機である。親族に読まれているブログに何が書けましょうか。山口おすすめ、ソリオ、バンディット。


あけましておめでとうございます。1月も早くも3分の1が過ぎ去ってしまいましたが、まだ2018年にしっくりきていないので、2017年のことから振り返りたいと思います。12月27日の水曜日。仕事帰りに近所の銭湯へ。100℃超えの熱々のサウナを楽しむ。すっかり気持ちよくなって、中華屋で550円の焼きそばを食べた。塩分を失った身体にソースがどこまでも染みわたる。そのままレイトショーで『8年越しの花嫁 奇跡の実話』を鑑賞。
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監督は瀬々敬久だ。2009年に廣木隆一が『余命1ヶ月の花嫁』、2014年に塩田明彦が『抱きしめたい -真実の物語-
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という邦画界にたまに現れる「難病×結婚式」ものの傑作の系譜。主演は佐藤健と土屋太鳳である。もしかしたら、この2人の役者にあまりいい印象を持っていない人もいるかもしれないが、その偏見は今作で覆ること間違いなし。かく言う私も土屋太鳳のことを圧の強いダンスをする爽健美茶な女としか思っていなかったのですが、すっかりファンになりました。全編に渡って素晴らしいのだが、特に好きなのは2人の出会いである合コン解散から佐藤健路面電車に乗り込むまでのシーン。土屋太鳳がその後に待ち受ける悲劇を微塵も感じさせない軽快な足音をたてながら佐藤健の元に二度行きつ戻りつする。電車に乗り込む佐藤健はその後もバイクや船でひたすらに移動して待ち続け、土屋太鳳はあらゆる意味で健の元に戻ってくる。そして、何より衣装がいい。お洒落ということではなく、とにかく生々しいスタイリングで、登場人物の実存を高めている。N3Bやダウンジャケット、クタっとしたスウェットやロゴ入りロンTにブーツ。そこに丸井で売っているような虹色のマフラーを纏う佐藤健はもう完全に2000年代の地方都市の男であった。人がそこに”在る”感触というのはどうにも涙腺を刺激する。ちなみに脚本は岡田恵和で、実話をベースにしていがらも岡田ワークスのベストリミックスという感触がある。薬師丸ひろ子杉本哲太もよかった。多少ネタバレしてしまえば、難病ものといっても、重要なのは記憶喪失もの(『スターマン・この星の恋』『ひよっこ』など)だ。
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帰宅して、録画しておいた『水曜日のダウンタウン』の2時間スペシャルを追っかけ再生。サンドウィッチマンハンバーガーショップのコント、諳んじられるまでになった。松野明美とクロちゃんの生きざまに痺れた。2人の世界の捉え方、憧れてしまうところがある。クロちゃんに関しては、色々書いたけども、一瞬、一瞬に見せる表情が何より最高なのだ。あと、団長とあのトーンでああいう会話するんだ、っていうのが知れてうれしかった。



28日の木曜日。仕事納めだったので、景気づけにデパ地下で「名古屋うまいもの弁当」買って帰る。大きな海老フライと煮物が充実しているところに惹かれた。乱暴に持ち帰ったら、煮物の汁が米に侵入していた。このお弁当の感じ、「懐かしい」と思った。明日から休みだという開放感に満ちつつも、年末の休みが3日しかないことに少し不貞腐れる。2018年のカレンダーを確認してみると、来年も3日しか休めないっぽい。何よりも年末の休暇が好きなのに。
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藤井健太郎プロデューサーの新作特番『人生逆転バトル カイジ』が新しくて、刺激的で、抜群におもしろかった。山根がヴィランとして覚醒した時の高揚感。職場の同期に山根みたいなやついた。リアルカイジ献血するまでずっとダッフルコート脱がなかったのもおかしかった。ダッフルコートのイメージは小沢健二からカイジくんへと移行しました。あとすぐに負けた若年性ホームレス瀬川さんは、アルコアンドピースの平子っちの魂をデブらせたみたいなルックで印象に残った。無色で借金を抱え、365日間炒飯を喰う生活から脱却したいと参加したニート炒飯が、地下労働施設でペリカを使用して炒飯を食っている映像がハイライトではないだろうか。人間の奥深さのようなものを捉えていた。芸人枠では、元・巨匠の岡野が何もできぬまま1stステージで敗退するも、こりゃめでてーな伊藤が大活躍。華があるし、頭の回転も速い。人情クズキャラでいつの日か売れて欲しいと思った。



29日。「文春オンライン」に寄稿した記事が公開されました。今更の告知ですが、お時間ありましたら、お読みください。2017年のテレビドラマについてです。
bunshun.jp
ここに挙げた以外では『デリバリーお姉さん』『架空OL日記』『わにとかげぎす』『リバース』あたりが好きでした。でも本当は海外のテレビドラマに心揺さぶられた1年だった。この日は大泉学園に住む友人宅に集まって、忘年会だった。せっかく大泉学園なので、昼前から集まって、ドムドムバーガーを食べることに。店内がやたら混んでおり、何事かと思えば、おばあちゃん達が集まり、タッパーに詰めた佃煮を食べていた。ドムドムはどこまでも自由だ。新作の厚焼きたまごバーガーに挑戦した。「天のや」インスパイア系の辛子マヨネーズたまご焼きで、美味いです。他のメンバーは全員甘辛チキンバーガーを選択していた。冒険しないやつらである。「お母さんの作る料理みたいで美味しい」と口を揃えていました。家族想いのやつらである。大泉学園を腹ごなしに散歩する。都内唯一(?)という牧場を訪ねた。前を通り過ぎるだけのつもりだったのだが、従業員の方が「昨日赤ちゃんが生まれたばかりだから」と声をかけてくれたので、見学することに。生後1日の仔牛は中1男子くらい大きかった。体重は40キロあるらしい。「すっごく大きいんですねー」と従業員の方に話しかけると、すごい真顔で「そうですか?妥当だと思いますけど。人間が50キロの母体で3キロの赤子を産むとして、牛の場合は~」と説明されて、コミュニケーションの難しさを痛感しました。


宴ではチーズダッカルビなる料理を食べた。今流行っているらしい。そういえば、『水曜日のダウンタウン』でもクロちゃんとレイちゃまが食べていた。鶏肉と豚肉とどちらでもいいらしいので両方試した。牧場に行ったばかりなので、牛肉じゃなくてよかった、と思う。豚キムチをチーズにつけて食べるようなものなので、それはもう当然のように美味しい。所謂「馬鹿が食う料理」というやつ。チーズダッカルビ、声に出したくなるネーミングだし、ぜひまたやりたいぞ、ダッカルビ会。ダッカルビしながらみんなで『有吉の壁』を観た。チョコレートプラネットとパンサーを観ると安心する。シソンヌと安村がいないのが寂しかった。ニューカマーではすゑひろがりずがいい仕事していた。あと、三四郎のオアシスが好きでした。リアムが「Don't Look Back in Anger」を歌っちゃう隙の甘さも含めて。『有吉の壁』はhuluで未公開シーンも観られるのですが、それでもプラス20分くらい。放送ではカットされていたオープニングの声出しの感じとか最高だし、もっとたっぷり観たいものです(4時間くらい)。富士急のエンディングで映っていたノブ(千鳥)の白塗りしたシンプルToshlが気になりすぎる。



30日。昼まで寝ていた。お昼に銀だこを買ってきて食べる。昔、バイト先の大阪の人が「結局、銀だこにはかなわん」と言っていたのが忘れられない。録画しておいた『よゐこ無人島0円生活2017』を消化。ナスD のパートは見応えたっぷりだが、素潜りしているだけのよゐこのパートは途中で早送りしてしまった。無人島0円生活の対決、これまで観たことがなっかたのだけども、同じ島で同じ時刻に対決ということでないとあまりおもしろくない気がする。同条件の中での差異を観たいし、たまに鉢合わせるみたいなドラマがちょっと欲しかった。夕方くらいに出掛けて、東京駅でウィンドウショッピングをした。新しくできた丸の内グランスタの「百果百菜」で"美味しい千葉産ピーナッツソフトクリーム"を食べた。甘さ控えめで美味しい。これといって欲しいものを見つからず、手土産用に芋羊羹とレモンケーキを購入。帰宅して『フリースタイルダンジョンMonstersWar 2017〜お前ら時代に忖度してる場合じゃねぇぞ!全員ブッ潰してやるスペシャル〜』を観る。めちゃくちゃ興奮した。優勝したチーム輪入道のバランス、最高でした。チーム呂布カルマに対して、「よくもまぁこんなモテなそうな3人集めた」とディスっていた漢に笑った。

Yesterday's Gone

Yesterday's Gone

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2017年の聞き忘れミュージックとしてLoyle CarnerのアルバムとAhh! Folly Jet『犬の日々』を購入。どちらも好き過ぎて、余裕で年間BEST入りだった。「犬の日々」は買ってから毎日聞いている。映画は観てないものが多すぎるのですが、洋画は『マリアンヌ』『ミスペレグリンと奇妙な子供達』、邦画は『昼顔』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』あたりが心に残っています。



31日。近所の銭湯の朝風呂タイムで年内ラストサウナを決める。大晦日にサウナに入るのはすごく気分がいい。ととのいの中で2017年の自分を見つめ直した。蒸気の中で「2017年は楽しかった」という結論に至りました。テレビで『逃げるは恥だが役に立つ』の再放送をどっぷり観てしまう。紅白に間に合うように買い物にでかける。ここ数年は、大晦日はすき焼きと決めている。デパートで少し奮発して牛肉の切り落としを買い、スーパーで葱、豆腐、白菜、春菊、白滝、椎茸を購入。毎年すき焼きでお腹がいっぱいになってしまい、年越し蕎麦に苦戦するので、今年は生蕎麦と天ぷらは買わず。星野源さんに倣い、吉岡里帆どん兵衛をストックしておくに済ませた。今年の紅白は、去年より楽しかった気がする。ウッチャンの番組を全国民が観ていると思うなよ、という感じはなくはないのですが、有村架純がかわいいので全部OK。二宮さんの司会はやはり相葉さんと比べると段違いのスキル。中継の映像の間に合わない時、そのまま伝えるのなく、「待ってください、心の準備がまだ」とアドリブを決めていたがクールだった。『ひよっこ』の特別編で桑田佳祐浜口庫之助に扮していたのにはグッときました。今年は浜口庫之助の音楽をたくさん聴いた。ベストアクトは椎名林檎トータス松本の「目抜き通り」だ。すべてが圧巻でした。初出場エレファントカシマシのドラムの頼りない音が優しくて泣けた。銀杏BOYZが50歳になってあの4人で紅白出たら号泣しただろな、とも思った。欅坂46のステージが残酷ショーみたいになっていて、辛い。確かに目は釘付けにされてしまうのだけども。鈴本さんをしっかり支えたぺーちゃんと、いち早く駆け付ける上本さんにグッときた・・・いや、グッときている場合じゃない。ヤクルトスワローズと一緒で、あまりにプレイヤーのメンテナンスがなっていない。何が問題なのか傍目にはわからないけど、解決して欲しいものです。乃木坂46鈴木絢音さんが選抜に繰り上がっていたのに感激しました。あと、SHISHAMOの生々しいバンドサウンドと『ちびまる子ちゃん』みたいな衣装。少し着飾った時はまるちゃんが家族でフランス料理を食べに行く時の恰好みたいだった。そして、Superflyの歌力とストリングスアレンジのぶち上がり方、緊張している安室ちゃん。毎年、紅組のパフォーマンスに心惹かれるのだが、なかなか白組に勝てません(2016年は勝利していたらしい)。気が付いたら年越ししていて、新しい地図『27Hunホンノちょっとテレビ』で初笑い、初泣き。そのまま『カウントダウンTV』と博多華丸大吉と千鳥がMCを務めた『落ちましておめでとうございます!落とし穴未経験の芸能人・落ち初め大連発SP』を交互に観て、寝た。



正月は餅食って、寝て、テレビを観ていた。『ゴッドタン』の「芸人マジ歌選手権 新春SP」のカミナリのラップとバカリズムの「ライトブルー」カバーが最高でした。EMCの着実なステップアップ、頼もしい。あと、『めちゃ²イケてるッ!』の「中居&ナイナイ日本一周」に涙。本当に大好きな企画で、多分初回からほとんど観ていると思う。オープンカーでSMAP歌うの好きだったな。ああいう笑いが「やらせ」と言われて通用しなくなるのは、それはそれで粋じゃないな、と思った。ドラマは『おんな城主 直虎』の総集編と『架空OL日記』を一気に観た。『おんな城主 直虎』、本当に『ドラクエV』ばりの大河ドラマで、最高でした。1年かけてじっくり観たかった。NHKはずいぶんと肌を生々しく撮るのだな、と驚いた。

架空OL日記 DVD-BOX

架空OL日記 DVD-BOX

対して『架空OL日記』は加工して、毛穴が存在しない世界になっていた。あれはあれでどうなんだろう。しかし、バカリズムの脚本は天才的。『住住』といい、誰もが一度はやりたくても成立させられていないであろう駄弁りの強度を手にしてしまっている。演者も全員達者だった。さえちゃんを演じた佐藤玲という女優に注目したい。スピッツ『醒めない』のジャケットの子らしい。『西郷どん』1話、大久保利通役の子どもがしっかり瑛大顔だったのが最高。まもなく放送が開始する『anone』ですが、多分全話レビューとか書けないタイプのやつだと思いますので、「書かないのかよ」とか言わないでくださいね。


サウナ始めは駒込「ロスコ」でした。寝そべって入れるサウナで駅伝を眺め蒸されるのは最高。水風呂も気持ちよかった。
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丹沢あんパンと揚げパンで有名な「オギノパン」がパルコに出店していたのでオランダブールを買ってみた。これがむちゃんこ美味かった。トーストするとゴマが香り立って、ピーナッツクリームの甘さを引き立てます。今まで食べたピーナッツクリームのパンで1番美味しかった。見かけたらマストバイでお願いします。



年末年始、ぐうたらとご馳走ばかり食べ、寝て過ごしてしまった。身体が重いし、胃腸がひどく疲れている感じがするので、3連休を使って断食に挑戦してみることに。プロ野球選手は、シーズン終わると、断食して身体をリセットする人が結構多いらしく、前から気になっていたのだ。プロ野球選手じゃないのに。落合博満は成績が下がってきた40代に、ファスティングを敢行したことで、目の神経の周りの脂肪が落ちて、動体視力が向上し、再び3割バッターに舞い戻ったと言う。うさんくさくて、最高のエピソードである。3日の断食期間を終え、まだ回復食期間なのですが、結論から言えば、辛かったです。「美味しいものを食べること」がこれほどに生きる上でのモチベーションになっていたとは。酵素ドリンクを飲んでいるので、空腹感はさほど感じないのですが、食べ物のことを考えられないのがとにかく辛かった。虚無感というやつ。三大欲求と呼ばれているの伊達じゃないです。あと、初日は頭痛がひどかった。塩分不足が原因のようなので、梅干しや具なしの味噌汁を飲むといいらしい。何もやる気がせず、家に引き篭もって本を読んでいた。2017年の読みの残し、憧れライター御三方の著作『青春狂走曲』『小沢健二の帰還』『ルポ川崎』を一気に読んだ。

青春狂走曲

青春狂走曲

小沢健二の帰還

小沢健二の帰還

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

ルポ 川崎(かわさき)【通常版】

どれもめちゃくちゃ刺激的な読み物でした。なのでしばらく、サニーデイ・サービス小沢健二、BAD HOPばかり聞いていた。断食3日目にはサウナに入った。ややクラクラしましたが、気持ちよかった。3日目になると辛さは消え、頭が冴え渡るとのことでしたが、残念ながらそこまで万能感は覚えませんでした。とは言え、胃腸の疲れは当然なくなったし、身体も軽やか。食にさして興味がない人であれば、やってみる価値はありかもです。3日目の夜に『ホームアローン』を観てしまったので、今1番食べたいのはチーズピザと冷凍マカロニディナーです。今年もよろしくお願いいたします。
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