青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

シャムキャッツ『君の町にも雨はふるのかい?』

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夏にリリースされたシングル『マイガール』から短い間隔でのリリース、「曲が出来たので出しまーす」という感じ。練り込まれたアンセムが収録されているわけでもないし、サウンド的にもまとまりはない。音楽雑誌で6/10点をつられてしまうような、まさにバンドの過度期が刻印されたEPなのだけども、この若さに身をまさかせるでもなく、円熟するでもない、何がしたいんだかよくわらない音源が妙に愛おしい。同じく掴みどころのない小田島等によるジャケットワークもナイスだ。5曲入りというのがまたすごくいい塩梅で、その点で個人的にはボーナスでライブ音源が12曲も入っているのは蛇足に感じる。このとりとめのない5曲を気ままにリピートしていたいわけです。


今作は若くもなく、かと言って老いてもいないシャムキャッツというロックバンドの制作ドキュメントである。で、ここにはバンドのポジティブな風通しみたいなものが心地良く感じられる。そこがいい。まとまりがないというのは言い換えれば、バンドのレンジの広さだ。次のアルバムに向けた前向きな模索と捉えたい。とりわけ「デボネア・ドライブ」(朝倉世界一!)における、ウォールオブサウンドのサイケデリアの中で歌われる、日常と幻想の溶け合い。

河口の分岐 神様でもいるような


シャムキャッツデボネア・ドライブ

バンドの新しい可能性を垣間みる。しかし、白眉はやはりMVもイカしている「洗濯物をとりこまくちゃ」であろう。
youtu.be
アコギ、スネア、シンセサイザー、何気ない音の鳴り一つ一つがセンスに溢れていて、かわいらしくてライトでポップ。何より、夏目知幸の作詞術が完全にネクストレベルに到達しているではありませんか。登場人物の人称はシームレスに切り替わり、会話で歌を歌う。

「よ、さっきは悪い、寝起きだったんだ
 ね、休みの日に限って雨さ」
「まぁ、いいんじゃないの、ところであれだ、
 子供生まれて引っ越したんだ」

なんていう、どうってことない友人同士の電話の会話。

さ、飲みすぎたけど早起きだ
快晴、二回転、たっぷり干せた
コンビニコーヒーでもすすりましょうか
通りを行くと 西から雷鳴が・・・

よく晴れた休みの日、溜まっていた洗濯物をまとめて干して、少し悦に浸りながらコンビニに珈琲でも買いに出掛ける。そんな実に小さな幸福感に満ちた物語の中で、忍びよる雨の気配と共に、芥川龍之介が言う所の”何か僕の将来に対する唯ぼんやりとした不安”みたいなものを完璧に捉えてしまっている。そして、やはり「君の町にも雨はふるのかい?」というフレーズに宿る詩情が素晴らしいではないか。思わず、曽我部恵一の声で再生されてしまう。Weezer奥田民生で解釈したようなロックチューンもある。
youtu.be
「〜だの」という言い回ししかり、「牛乳飲んで/大きくなって/好きに遊んで/好きに眠るのさ」あたりはオマージュのよう。サニーデイ・サービスユニコーン(もしくはくるり)といった偉大なる先人バンドから”何か”を受け取ろうとしている感じのシャムキャッツ。今そのポジションはガラ空きなんだから、それはもうほんと、そろそろシャムキャッツに絶対モノにして欲しいぜ!って思いますね。

0泊2日仙台ラプラス捕獲ツアー

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土日を使った0泊2日の弾丸ツアーで仙台旅行を敢行してきました。目的はいくつかあって、車のオーディオで槙原敬之の音楽をきくこと、サウナ、寿司、牛タン、そしてラプラスである。ポケモンGOが「震災復興支援プロジェクト」として、福島、宮城、岩手3県の沿岸部でレアポケモンであるラプラスの出現率を上げているというのです(11/23まで!)。正直、ここ1ヶ月はほとんどポケモンGOを起動していなかったのですが、ラプラスとなれば話は別なのです。何なんでしょう、あの心を掴んで離さない存在感。希少価値とかバトルに強いといった要素も勿論あるんですが、やっぱりデザインなんですよね。「手塚治虫の描く女性キャラみたいだからじゃない?」と言われて、それだっ!とハタと膝を打ちました。手塚先生はポップカルチャーの父なのであります。



東京から東北自動車道をブーンと進んで、休憩を何度か挟んで約5時間ほどでしょうか。遠い。正直、こんな遠いとは思っていませんでした。しかし、音楽があるから大丈夫。車のオーディオで改めて聞くことで、槙原敬之のハイファイな音像に感嘆。

君は僕の宝物

君は僕の宝物

SELF PORTRAIT

SELF PORTRAIT

後、90年代SMAP、南野洋子などを聞き漁る。昔のJ-POPはクオリティの高さは勿論なのですが、そもそもお金がかかり方が違う、と実感できます。続けて昨今の国産ミュージックを流すと実にショボく感じてしまう。そんな中、所謂インディーシーンからの1枚でありますayU tokiO『新たなる解』の録音が強く耳に訴えかけてきました。
新たなる解

新たなる解

なんて繊細な管楽器の鳴り。そして、弦楽器のふくよかでゴージャスな響き。昨今のインスタントミュージックに静かに「No」を突き付ける甘美でありながら、パンクスの魂を感じる音楽。では、最近になってやっとこさミュージックビデオがリリースされた「犬にしても」をお聞き下さい。
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仙台駅に到着後、まずは海岸沿いの塩釜へ。少し遅いお昼ご飯として有名店「すし哲」へ。カウンターの寿司屋というと、緊張してしまうものですが、こちらは一見さんに対しても実に気安く接して下さり、大変リラックスしてお寿司を堪能することができました。お店に置いてあった『塩釜すし哲物語』(ちくま文庫)をパラパラと眺めていますと、寿司屋の敷居を下げる事をモットーにしているというような事が書いてありましたので、それを見事に実践されているなと感じました。肝心のお寿司も勿論美味しい。
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有田焼のお皿が美しいですね。お店にはここまで水に浸かりました、という印がついていて、津波の壮絶さをいくばくかでも想像してみる。店を出て、いざポケモンGOを起動。さっそくラプラスの影が。恥ずかしながら、いい歳して、ポケモンでアドレナリンが出てしまいます。10分に1体くらいのペースでラプラスが発生しているようで、約1時間ほどで5~6体のラプラスを捕獲。お台場に1日中いて1体捕まえられるかどうかのラプラスですので、すでして大満足。しかも、塩釜は想像していたよりもプレイヤーが少なく、気ままにゲットできます。CPと個体値高めで「ふぶき」を覚えているラプラスをゲットできたので、一旦、仙台駅に戻り、もう1つの大きなお目当てであるサウナへ。今回の訪問先は東北界隈最強の名を欲しいままにしているカプセルホテル&サウナ「キュア国分町」です。
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ずっと行ってみたかったサウナの1つなのでうれしい。サウナにはまると国内の旅が更に色めき立ちます。3時間1080円という、リーズナブルなスピードコースを選択し、いざ館内へ。1階にある指定されたロッカーで館内着に着替え、エレベーターで浴場のある5階へ。全体的に清潔な印象がグッド。備え付けの自販機で購入したイオンウォーターで水分を補給し、洗い場へ。身体を念入りに洗い、広い湯船に浸かる。この時点で思わず声が出るほどにすでに極楽。長時間ドライブの疲れが癒えます。そして、身体がほどよく温まったら、身体の飛沫を拭き取り、サウナへ。広いサウナには左にサウナストーンと右に遠赤外ヒ―タ―のダブル設置!こいつは凄い。90℃設定と記載されていたが、もっと暑く感じる。すぐさまドバドバと汗が出る。汗が流れていく度に、疲労成分も身体から消えていくような気分だ。10分前後を目安に退出。シャワーでよく汗を流してから、水風呂へ。90cmの深めの仕様で、水流もドバドバ。17℃設定でシャキーンと冷えます。塩素臭はややあるが、備長炭使用というのがよくわからないけどうれしい。身体が高温から急激にクールダウンし、心臓がバクバクいっているのが聞こえる。露天場に出て、デッキチェアーにもたれかかると、視界がグニャリと回るような心地よさに襲われる。身体の負荷すべてが消えていくような。こうなってくると思考回路もひたすらハッピー野郎で、「この先、俺はずっと楽しいぞ」と根拠なく叫び続けました(心の中で)。サウナ→水風呂→休憩を2セットほどこなして、1日3回開催されているというロウリュウの最終回に。9のつく日はヴィヒタロウリュウという事で、運よくそちらに直撃。通常のロウリュウ(なんと、ここは1人あたり10回もあおいでくれます)の後に、冷やしたヴィヒタで背中を10回あたかれるヴィヒタロウリュウ。叩かれる度に、香りがサウナ中に広がり、ととのいのます。すべてが高水準で、大満足で3時間が過ぎ去りました。



ととのい過ぎて、すっかりお腹が空いたので、牛タンを探し求め、国分町を徘徊。21時を過ぎており、街は危険な香りをプンプンさせています。国分町は東京で言えば、歌舞伎町や川崎のような歓楽街。地面で吐く酔っ払いや奇声を放つ若者、ホストから堅気ではない客引き。なかなかのおそろしさの中、なんとか見つけた1軒で牛タン定食。
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サインだらけだったので、メディア有名店なのでしょう。それなりに美味しかったので、満足。



さて、ここで帰路についても一向にかまわなかったのですが、サウナで得た全能感により、ラプラス最多発生地域である石巻市への突入を決意。震災において最も被害の大きかった地域。初めて訪れるので、どこがどう変わってしまったのかを捉えるのは難しいのですが、やはり明らかに建物の数は少なく、5年という月日を経ても、まだまだ復興の途中である事を痛感させられる。時間的に宿泊や食事でお金を落とすことができなかったので、せめてもとコンビニや自販機を多用した。石ノ森正太郎ゆかりの地という事で、街には仮面ライダーやゴレンジャーやサイボーグ009のモニュメントが多く見受けれる。駅周辺はプレイヤーで溢れかえっていたので、車が邪魔にならぬよう、中心部や住宅街を少し離れた日和山公園や国道などでラプラスを捕まえました。高台にある為、多くの人が避難したというこの公園から見える夜景は、復興途中と言えども、確かに眩く、底しれぬ強さのようなものを感じた。
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なんだかんで5時間ほど粘ってしまい(ここがこのゲームの恐い所だ)、気付けば30体近いラプラスをゲットしておりました。他にも、基本的にピッピとイーブイが大量発生、まれに野生のカビゴンカイリューも現れるパラダイスっぷり。



夜中の3時を過ぎたあたりで、帰路につくことを決意。工事の為、三陸自動車道が閉鎖というトラブルに逢い、かなりテンパりながら、白んでくる空を横目に疾走。5時をピークに異様な眠気に襲われ、たびたび休憩を挟むことに。これはまずいと、車内に流す音楽をラジオに変更。ネットで爆笑問題バナナマンのラジオを流し、大笑いしながら、なんとか意識を保ち、10時に自宅に戻ることができました。笑いに命を救われました。サウナを挟んだとは言え、24時間起きたままの長距離運転は無謀でした。もう若くはないのです。あまりの疲れで日曜日は18時間も睡眠に費やしてしまい、何もできずに終わり!



<追記>
22日に発生した地震により、イベントは中止になったそうです。残念ですが、賢明な判断です。
headlines.yahoo.co.jp

片渕須直×こうの史代『この世界の片隅に』

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広島と呉、太平洋戦争の我が国における悲劇の地を舞台としながらも、戦争の悲しみや怒りと同等、いやそれ以上に、そこで繰り広げられていた人々の暮らしの営み、恋、吐く息の温かさ、そういった”戦災”という言葉で全てなかったことにされてしまいそうな、”生”のきらめきを描く事に注力している。だからこそ、『この世界の片隅に』は、人間の固有性にまつわる物語だ、と言える。戦死者○名、といったような記号でのっぺらぼうにされてしまった人々の顔、名前、声、人格、特技etc・・・を鮮明に描き出す事で、その固有性を蘇らす。そうすることでやっと、我々はその悲しみを想像することができるのだ。つまり、本作はクリント・イーストウッドが本年送り出した『ハドソン川の奇跡』という傑作や、奇しくも主演女優を同じくする宮藤官九郎脚本のNHK連続小説テレビ『あまちゃん』(2013)と、そのフィーリングを共有する。あらかじめ、観る者がその結末を予測しえているという点でも、とても近しい。諸事情をここで書き述べるのは割愛するが、”能年玲奈”という名(=固有性)を奪われてしまった、”のん”が『この世界の片隅に』という作品の主演声優を務めるというのは、あまりに出来過ぎたドラマなのである。

わしが死んでも
一緒くたに英霊にして拝まんでくれ
笑うてわしを思い出してくれ
それが出来んようなら忘れてくれ

これは劇中に登場する、海軍に入隊した主人公すずの幼馴染である水原の言葉。

どこの誰か
顔も服もべろべろで判りやせん
自分の息子じゃと気づかんかったよ うちは

これは陸軍に徴兵され広島で被爆した息子の亡き姿に気付けなかった、北条家の隣人である刈谷の言葉。このように、戦争は人々の固有性をはく奪する。『この世界の片隅に』という作品はそれに徹底的に抗ってみせる。浦野(北条)すずという女性は、のんびり屋、ドジ、裁縫が苦手、料理は得意etc・・・様々な個性を持ち合わせる。そんな中、彼女の固有性を最も際立たせているのが、”絵を書くこと”であろう。
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彼女はその行為をとても愛する。空襲で爆撃を浴びている時ですら、その様子を「絵に書いてみたい」とひそかに願ってしまうほどに、”絵を書く”ことに固執する。絵を書くのがすずという人間なのだ。であるから、絵を書くことのできる彼女は、自身の名字にすら執着しない(彼女は嫁ぎ先の名字や住所を把握していなかった)。しかし、そんな彼女は、爆撃によって利き腕である右手を失うこととなる。

僕の右手を 知りませんか?
行方不明になりました
指名手配のモンタージュ 街中に配るよ


今にも目からこぼれそうな 涙のわけが言えません 
今日も明日も明後日も 何かを探すでしょう


THE BLUE HEARTS「僕の右手」

甲本ヒロトの鮮烈な歌声が頭の中を回る。戦争がすずの固有性を奪う。また、すずという人間を形造る、夫の周作に”見初められた”(=選びとられた)というもう1つの固有性もまた、不妊、そして、遊女・白木リンの登場によって揺らいでいく(注:このリンと周作を巡るドラマは、映画版ではカットされている)。「私は代用品なのだろうか?」という葛藤に加え、右手という何よりの固有性を失ったすずの精神世界は大きく崩れていく。ここで、まるですずの(利き手ではない)左手で描かれたかのように、背景のデッサンが歪んでいく演出が圧巻だ。しかし、

誰でも何かが足らんくらいで
この世界に居場所はそうそう無うなりゃせんよ

というリンの言葉が、すずを、そして、戦争の悲しみを優しく包みこむ。

わしはすずさんがいつでもすぐわかる
ここへほくろあるけえ
すぐわかるで

夫の周作は、すずの口元のほくろに彼女の固有性(戦争にも、誰にも奪えやしない美しさ)を認める。また、すずの失われた右腕のシルエットが、とある戦争孤児の亡き母の面影と重なり合い、新しい家族の繫がりを生み出してしまう。人は誰しもがそれぞれにオリジナルで、それらはどこまでも美しく、かわいらしい”特別”だ。だからこそこんなにも簡単に愛は生まれていく。



そして、『この世界の片隅に』は偉大なる芸術(創作)賛歌でもある。すずが”絵をかくこと”で、困難であった水原哲や白木リンとのコミュニケーションを達成させてしまう。消えていってしまいそうな記憶や想いは、すずの手によって絵や物語として、永遠に残される。そして、忘れてはならないのが、『この世界の片隅に』という素晴らしいラブストーリーの始まり、そのボーイ・ミーツ・ガールは、”人さらいの化け物”というすずの物語によって為されたという点だ。この空想と現実の不明瞭な繫がり。ラブストーリーのもう1人の主役である、リンとの出会いもまた”座敷わらし”という不思議な存在が、現実との繫がりを揺るがした事で発生した。すずの”想像力”がこの物語を駆動させる、その美しさよ。



さて、遅くなりましたが、片渕須直が監督を務めた映画『この世界の片隅に』は大傑作である。こうの史代の原作は勿論、永遠のマスターピース。今作と片渕須直の融合はあまりに幸福だ。『アリ―テ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』の想像力をベースに、『うしろの正面だあれ』『BLACK LAGOON』といった片渕須直のキャリアで培った各要素が有機的に絡み合っている。出会うべくして出会った2人。映画批評として語るべき、原作の間を絶妙に含ませた脚本の美しさ、作画における動きや表情のフェティッシュさ、綿密な時代考証に基づいた背景美術の充実、メカ造形の緻密さ、類まれなる音響効果、のんの圧倒的な声の演技、といった映画を彩る数多の素晴らしさは、各地で散々語られているので、割愛させてください。今世紀ベスト級のアニメ映画、その言葉だけで充分なのである。



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最近のこと(2016/11/11~)

すっごく寒くなったなと思ったら、和いだ。冬の決心が。コートを厚手にしたり、薄手にしたりで慌ただしい。くしゃみがよく出るので、風邪かもしれないし、秋花粉にも発症したかもしれないし、やだなぁ。

世の中には2つのことがあればいい。
つまり、可愛い女の子との恋愛と、デューク・エリントンの音楽

というボリス・ヴィアンの言葉に感化されて、せめて1つくらいは!とデューク・エリントンをずっと聞いている時期が大学生の頃、一瞬だけあった、というのを何の脈絡もなく思い出した。そういう恥ずかしいことはできるだけしておいたほうがいいと思う。あと、最近のお気に入りの1曲は江本祐介×原田晃行(hi,how are you?)のTWO NICE BOYによる「恋のトライアングル大作戦」であーる。
soundcloud.com
全部が全部いいね。



先週末からの最近のことを振り返る。金曜日は仕事後に桜台POOLへ。敬愛する映画監督である三宅唱がアフタートークで出演するというので、バストリオの公演を観に行ったのだ。桜台は地元という感覚があるので気楽だ。開演まで時間があったので、駅前をブラブラしていると、いつもは行列ができている「破願」が空いていたので、汁なしラーメンを食べた。美味しかったけども、寒かったので、どうせなら汁のあるラーメンを食べればよかったな、と店を出て気付いた。桜台POOLはとてもいいスペースだ。何度行っても、その秘密基地感にワクワクする。はじめて来たのは何年前だったか。シャムキャッツとcore of bellsだったか、NRQとmmmだったか。ライブに足繁く通っていた頃の話。さて、肝心のバストリオの公演ですが、現段階の私の感受性では必至におもしろがらねば、楽しめない代物だった。開いているようで、すごく閉じているようにも感じた。いつかまた勉強を積んで、感性を磨いて挑戦したいものです。アフタートークでの三宅唱は、クレバーで明瞭でフレンドリーで、とても素敵でした。帰宅して、テレビをつけると錦鯉がおぎやはぎと松岡さんの前で漫才をしていた。ちょっと前までは信じられない光景。まさのりさんは45歳を超えた今も「俺はさぁ、ナイナイみたいに売れまくりたいんだよね」とキラキラして眼でまっすぐに語るらしい。素敵だ。時代の波は来ている。GYAO動画で『M-1グランプリ』の予選動画をパラパラと。男女コンビが目立っている。ゆにばーす、相席スタートメイプル超合金が相当おもしろかったので、南海キャンディースに負けないで欲しい。頼んだ。Aマッソのネットテレビ番組『Aマッソのゲラニチョビ』をまとめて観た。
sunsettv.jp
おもしろいなぁ。「マジカル・オオギリ・ツアー」の最初のほうの「私の好きなもの??(はにかみながら)コナン?」のくだり3回観た。後、デシベルの回でオレンジ色の騒音測定器に「昔のダイノジか」って小さくつっこんでたのツボでした。



土曜日。天気よし。洗濯や掃除を済ませて、近所の蕎麦屋へ。初めて入る店だったが、不味かった。3年も住んでいて一度も入った事がない時点で、本能で察していたわけだが、やはり不味かった。どうして歴史の上に言葉が生まれたのか。電車に揺られて、少し遠出。横浜STスポットで劇団ロロのいつ高シリーズ最新作『すれちがう、渡り廊下の距離って』を鑑賞。いやはや、素晴らしかった!あぁ、もう超好きだな。すっごいニヤニヤして舞台を眺めていたと思う。役者も4人とも最高。大場みなみの演じる白子は抜群だ。鑑賞後、珈琲を飲んでから新丸子駅に移動して、『パンジャビ ダバ』というインド料理屋さんでビリヤニパクチーサラダなどを堪能する。どれもこれも本格派だった。
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ビリヤニはヨーグルトをかけて食べるのです。4~5人で行って、テーブル山盛りにワチャワチャと頼みたい。しかし、私にはフラットに接する事のできる友人が5人もいない。帰宅して、yumbo『鬼火』を小さな音でリピートする。

鬼火

鬼火

沁みる。渋谷さんがカエル目に提供した曲(ニューアルバムに収録)をサンクラで聞いたのですが、むっちゃくちゃよかった。



日曜日。昨夜から『トーマス・ルフ展』に行こうではないか、と意気込んでいたのだけども、寝坊してしまいやる気が削がれる。スーパーで買い物をしたり、自転車に乗ったり、昼寝をしたり、録画消化したり、映画を観たり、とのんびり過ごした。Netflix松本人志関連が一気に開放されたので、『VISUALBUM』を久振りに観直している。夜ご飯にラザニアを食べた。デニーズってまだラザニアをレギュラーメニューにしているのだろうか。初めて食べた時は衝撃を受けたものです。ラザニアはとてもいいものだ。異国のものだとはっきりと理解できる語感がいい。NHKドキュメンタリー『終わらない人 宮崎駿』が強烈に面白かった。未知なる可能性に触れた時、人はあんな顔をするのか。少し涙ぐんでしまった。「映画は物語ではなく、ショットだ」と言い切っていたのに痺れる。宮崎駿が本当に長編に復帰するならば、そんなにうれしい事はない。鉄板のラーメンを作るシーンがあれば完璧だった。



月曜日。新宿バティオスにて開催されていたK-PROライブ『噺人』へ。

チーモンチョーチュウPOISON GIRL BAND/三拍子/モグライダーウエストランド/ニューヨーク/ヤーレンズ/アントワネット/さすらいラビー/ステレオパンダ/ノブナガ/馬稼業/まんじゅう大帝国

というように、豪華な出演者だった。ほぼ全組(あえて、濁さないのであれば、ステレオパンダとノブナガ以外)がおもしろかった。元スパナペンチ永田と元フルパワーズ大内が新たに馬稼業というコンビを組んでいるのを知らなかった。かつてのコンビより希望の匂いがする。楽しみだ。アントワネットには確かな勢いを感じる。王子様が南原清隆顔なのがいい。ツッコミが的を得た事を言って、笑いをとるスタイルなのだけども、ちょっとドヤ顔し過ぎるとこが気になった。そして、ついにまんじゅう大帝国の漫才を生で観ることができました。
hiko1985.hatenablog.com
生まんじゅう、うれしい。セブンイレブンでも発売して欲しい、生まんじゅう。この日の漫才を観ていても、ヤーレンズモグライダーが、漫才の大会で3回戦落ちしてしまうのはやはり悪い冗談のようにしか思えないし、現在のウエストランドの、あの強烈に人間が香る漫才が、準決勝にすら進めないというのは、大会にとって損失でしかない。なんでテレビで井口さんが重宝されないのか理解できない。敗者復活求む!圧巻だったのは、POISON GIR BANDだ。芸歴16年目、と言う事で賞レースから解放され(M-1グランプリは芸歴15年目まで)、尺とかフォーマットから逸脱。芸術としか呼びようのない固有の話芸の世界に突入していた。こういう表現が観たかったんじゃ、と身体がカッカと熱くなった。千鳥、ダイアン、POISON GIR BANDが天下を獲る時代を待ち望んでおります。
hiko1985.hatenablog.com
帰宅途中に本屋で『A子さんの恋人』の新刊を購入し、貪り読んだ。

A子さんの恋人 3巻 (ビームコミックス)

A子さんの恋人 3巻 (ビームコミックス)

なんて面白いのでしょう。1巻で何となく読むのを止めている人は、悪いこと言わんから2巻に手を出すべき。そして、3巻で打ちひしがれるべき。ほんとどんどんおもしろくなってますわ。録画してあった『乃木坂工事中』を観る。北海道ロケ楽しかったな。少し寝かしてから観返すと、またグッときそうだな。旅行の思い出みたいな感じで。来週は鈴木絢音特集。『NOGIBINGO』でも鈴木・佐々木特集回。やっとあからさまに推しにきた。



火曜日。タワレコシャムキャッツのニューEPを購入。

君の町にも雨はふるのかい?

君の町にも雨はふるのかい?

まだ聞いていないのだけど、奥田民生の『FAIL BOX』みたいなミニアルバムだといいな。たしか民生が31歳で作った音源で、シャムキャッツのメンバーも現在31歳のはず。帰宅して、ご飯食べて、お風呂入る。ガモウひろしの『とっても!ラッキーマン』をジャンプコミックで買い直したので、チビチビ読んでいる。最初のほうがたまらくつまらなくて、サイコー。勝利マン・友情マンが登場する4巻あたりから急におもしろい。連載当時「指レンジャー編」「よっちゃん編」「さっちゃん編」あたりまでは夢中になって読んでいたものだ。勝利マンの造形がたまらなく好きで、小学生時代ひたすら模写していた。なんたって肩にはカツオが、膝には磯野カツオが、耳にはとんかつがetc・・・てな具合だ。ちなみに、コミックによれば、あのとんかつは特上のヒレカツらしい。Netflixでジャド・アパト―の『LOVE』と『フリークス学園』を交互に観ている。とても楽しい。



水曜日。仕事後、片渕須直この世界の片隅に』を劇場で。とても良かった。何度でも観たい。片渕監督が画面構成をした『うしろの正面だあれ』の事を思い出したので、もう1度観たい。”のん”が素晴らしかった。実は『あまちゃん』以外で彼女の演技をいいと思った事がなくて、あの騒動にしても、全面的に彼女が被害者という風潮もいまいちピンときていない。芸能界はたしかに歪なルールに支配された異常な世界で、でもだからこその名誉と富があてがわれていて、その異常な世界のルールからあえて逸脱していくならば、後は彼女自身の責任でサヴァイブするしかないと思うのだよなぁ。いや、これは何も芸能界に限った話ではなく、誰しもがそこらへんと折り合いをつけて、自らの生活を選択しているわけであって。バーニングの干し方も、超こえー!陰険!と思いはするのだけども、もし仮に自分があっち側の人間だったら、ああでもしなければ、他に示しがつかないというか芸能ビジネスが成り立たないものなー、とも思えてしまう。あー嫌ですね。逸脱したいですね。だって逸脱した、何からも縛られていたいない”のん”の演技は本当に自由で真っすぐで美しかったのですから。素晴らしい女優だと心から思えました。本当の名前を取り戻せるのを願っています。映画の余韻に浸りながら、こうの史代の原作を再読。

この世界の片隅に(前編) (アクションコミックス)

この世界の片隅に(前編) (アクションコミックス)

スターピースだ。Youtubeで久しぶりに高城晶平(cero)×権頭真由(hyougen)「この世界の片隅に」の動画を観た。
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ceroのニューシングルのジャケットが凄く良い。滝本淳助の作品。シングル楽しみだなぁ。ceroのシングルっていつも寒い季節にリリースされている気がする。何と言うかうまく言葉にできないのだけど、ヒンヤリした空気と相まって凄く好きだ、ceroのシングルは。

まんじゅう大帝国という漫才師について

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まんじゅう、はとてもいいものだ。コジコジも言っている。

あーおいしい
おまんじゅうはあまいなあ

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魔界の大魔王がメルヘンの国を襲いにやってくる、という危機的状況にも関わらず、ただただまんじゅうを食べ続けるコジコジさくらももこの傑作『コジコジ』における屈指の名シーンだ。まんじゅう、というのは何かこう言葉にできないものを託してみたくなる魅力があるのですね。そう、私は今、まんじゅう大帝国に夢中なのである。まんじゅう大帝国、とは竹内一希(左)と田中永真(右)によって2016年6月に結成された、ドがつくほどの新人漫才コンビ。TBSラジオアルコ&ピース D.C.GARAGE』にて、M-1グランプリ予選で目撃した恐るべき無名アマチュアコンビとしてフックアップされ、そのファニーな名も相まり、一躍お笑いファンの熱い注目を浴びることとなる。ハイプの予感もおおいにあったわけですが、GYAO動画で視聴できるM-1グランプリ3回戦で披露した漫才1本で、その実力を充分過ぎるほどに証明。完全にお笑いファンの心を掴んでしまった。私もその1人というわけであります。キャリア数ヵ月とは思えぬ、その立ち姿の風格、口上の美しさ、発想の飛距離にネタ構成の巧みさ。GYAOに登録するのがどうしても億劫だ、という方の為に、冒頭のやり取りだけ書き起こししてみよう。

竹内:この前ね 朝 家で寝てたらね、
  「ピンポーンピンポーンピンポーン」っていうからさ
   俺、全問正解したんじゃないかなって思ってさ
田中:あー
竹内:ただね 全問正解の「ピンポーン」とはちょっと違うかなー?
   って感じだったんだよね
田中:あー全問正解ではなかったってこと?
竹内:そうそうそう
田中:じゃあどっかで1問落としたんだ?
竹内:そうなんだよ!落としたんだよ
   どこに落としたかな〜?って思って 部屋中探してたの
   そしたら 今度はね 急に
   「ドンドンドンドンドーン」って何かを叩く音が聴こえたの
田中:あら
竹内:そこでね 今日は祭りだー!って思ったわけよ
   しょうがないから仕舞ってあった法被を引っ張り出してね
   鉢巻きを巻いて、地下足袋をどこやったかな〜?って・・・
田中:いや ちょっちょっ 待って待って待って 
   なんかおかしくね?え、祭りがあったの?
   呼べよ〜誘ってくれよ〜

ド頭からなんて強度のボケだろう。セオリーでいけば、「なんでだよ!」というツッコミが入る箇所は全て「あー」で処理されており、ボケは強度を保ったまま自由に羽ばたき続ける。どこかに落としてしまったクイズの回答を探している内に、気がつけば、お祭りに辿り着いてしまう。このイマジネーションの跳躍。お笑いのみならず、こういうものに触れたくて芸術を浴びているのだ、私は。ツッコミの田中が強い否定を行わない様に、象さんのポッドやおぎやはぎの姿を重ねてしまうわけだが(事実、田中の声色の矢作成分は強い)、より色濃いのは落語の影響だろう。竹内の口上はまさに噺家のそれだ。そもそも、「まんじゅう」という時点で落語との親和性に気づきべきだったのかもしれない(まんじゅうこわい)。しかし、落語は1人、まんじゅう大帝国は2人。田中は竹内のボケを否定しないだけでなく、聞く者の予想を裏切るような切り返しで、そのイマジネーションを加速させていく。この型に最も近しいのは、『談志・円鏡 歌謡合戦』か。そう考えると、まんじゅう大帝国を評する際の比較対象には、POISON GIR BAND、浜口浜村、ランジャタイといった面々がしっくる来る気がする。そんなジャンルはないのだけども、所謂”イリュージョン漫才”ってやつだ。そうなると、冒頭にさくらももこを引用したことも理解して頂けるだろうし(『神のちから』、とりわけ「それていくかいわ」を読もう)、竹内の立ち姿が爆笑問題太田光を彷彿させる事も合点がいく。まんじゅう大帝国、コンビ名からして、イリュージョンではないか。“まんじゅう”という柔らかさそのもののような響きに、”大帝国”という硬質な言葉を重ねる。そこに不思議と違和感はない。あるのは、かけ離れた2つの事象があまりにしっくりと収まっている美しさと、闇雲に想像力を刺激してくる何か。まぁ、何せよ、彼らの漫才からは、美しい川の流れのようなものが見えてくる。あまりに正しいお笑い史の流れ。このお笑い界の大型新星の出現に胸を躍らせないわけがないのである。


11/14に開催されたK-PRO主催ライブ『噺人』にまんじゅう大帝国が出演(初バティオスとのこと)。M-1グランプリは惜しくも3回戦落ちとなったが、注がれる視線はなお加熱している。彼らが登場すると、会場からは「待ってました」と言わんばかりの歓迎ムードが湧き立つ。この日披露したのは「鬼退治」を題材にした漫才。こちらも抜群に面白かった。散歩していたら龍に鬼退治を頼まれたので行くことにした、という導入。突飛な設定だが、あくまで若者の駄弁りもしくは与太話というスタイルからは逸脱しない。耳馴染みのいい静かなトーン(2人の口上はあまりに素晴らしいメロディーを持っている)で繰り広げられる会話、それを聞く者の想像力もまたどこまでも広がっていく。


この日のライブでのウエストランドとのフリートークで得た情報を記しておこう。竹内は現役の大学生であり(確かに風格はあるが、よく見ると肌がピチピチだ)、2人は落語研究会で出会ったそうだ。コメント欄で頂いた情報によりますと、竹内の高座名は外楼一拝。日藝の学生のようです(爆笑問題春風亭一之輔!)。憧れのお笑い芸人は、竹内は特になし、田中がラーメンズ。これはどうにも煙に巻かれている感じがする。アマチュアM-1グランプリの3回戦まで進出したという事で、各事務所からの声掛けが凄いんじゃない?というウエストランド井口の探りには、「それが皆無です」と。真実であるならば、どの事務所も怠慢だ。井口からの「どこか入りたい事務所あるの?」という質問には、「そりゃあ、タイタンですよ」とリップサービスのように答えていたわけだが、あながち冗談にもならないような気がする。草葉の陰から談志師匠も「太田、面倒見てやれよ」と言っているような気がするのです。