青春ゾンビ

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坂元裕二『栞の恋』

2010年にフジテレビで放映された『世にも奇妙な物語 20周年スペシャル・秋 〜人気作家競演編〜』内の1本に坂元裕二脚本作品があると聞いてDVDでレンタルし、観賞しました。

『栞の恋』という、朱川湊人の原作を脚本化した20分ほどの小作品なのですが、これがなかなかいい。話を簡単にまとめてしまうと、堀北真希演じる主人公が古本屋を舞台に、1冊の本に挟まれた「栞」を通じ、20年前に戦死したその本の著者と交流してしまうという筋。まさに世にも奇妙な話。しかし、これは坂元作品のファンであれば「おぉ、ここでもなのか!?」と唸らざるを得ないのだ。プロデューサーから「これを脚本化しろ」と強制的に命じられたのだろうか。いや、「候補の小説の中から好きなものを選びドラマ化して」と依頼があったのではないか、と想像してしまう。それほどにこの『栞の恋』という作品は坂元裕二が脚本を担当するに相応しい。



「届くはずのない、読まれる事がないであろう手紙を、何らかの形で届けてしまう」これは坂元裕二が常に自身の作品で描き続けてきた最重要モチーフ。『MOTHER』での13年後の娘に宛てた手紙。『さよならぼくたちのようちえん』でのFAXにて送られてきた、届くはずのないメッセージ。『それでも生きていく』での木に結ばれ出される事のない手紙のやり取り。『最高の離婚』での妻が夫に宛て書き破いた手紙。そして、最新作『Woman』においても、4年前に投函されるはずだった手紙が登場する。坂元作品においては、その全てが、絶望的なまでのすれ違いを経ながらも、何らかの形で必ず読まれるべき人の元に届くのだ。『栞の恋』での堀北真希演じる主人公は、『それでも生きていく』の瑛太や満島ひかり、『最高の離婚』での瑛太らを彷彿とさせる、少しこの世界からはみ出してしまった人として描かれている。そんな彼女が、手紙のやり取りの相手を勘違いしている、という大きな「すれ違い」を伴いながらも、「名前を名乗る」「想いを伝える」という、ずっとできずにいたシンプルな運動でもって20年という時をアクロバティックに駆け抜ける。


また、他の作品でも多く描かれている「盗み見る」という運動で脚本を回していく様も、成瀬巳喜男的と言いますか、実に映画的だ。「盗み見る」際の堀北真希の表情も実に素晴らしい。しかし、坂元裕二の作劇は、本当に一貫としている。それでいて、そのバリエーションの豊富さとクオリティの水準の高さ、惚れ惚れしちゃうぜ!