青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

トリプルファイヤー『スキルアップ』


トリプルファイヤーの2ndアルバム『スキルアップ』がリリースされた。聞いた事のない音楽が鳴っている。類似アーティストとして挙げられる、Joy Divisionゆらゆら帝国54-71らがその崇高さと共に漂わせるある種のとっつきにくさ、その対極にあるかのような実存性がバンドに漂っている。それが冠に挙げられる「高田馬場の」だとか「だらしのない」に当たるのだろうか。まぁとにかく、「崇高性」と「親しみやすさ」が奇妙に同居したバンドなのだ。ノーウェーブ、ニューウェーブを通過したサウンドにポエトリーともラップともおぼつかない「つぶやき」が載るというスタイルでありながらも、あの向井秀徳のフォロワーに陥っていない点がいい。ギター、ベース、ドラムの3ピースで形成されるサウンドのリフやビートは禁欲的でミニマルでありながら、どこまでもソリッド。フレージングは1st以上に研ぎ落とされており(ギターソロも消えた)、この楽器の振動によるグルーヴは、デイヴ・フリッドマンだとかスティーヴ・アルビニだとかそういった人にレコーディングして頂き、世界に轟かせたい代物だ。いや、しかしやっぱり、トリプルファイヤーというバンドの魅力を最大限に味わうには日本語を習得している事が望ましいであろう。つまり、フロントマン吉田靖直の才能を味わう為には。まぎれもなく天才だと思う。リズムやコードに乗っかるというのでなくヒラリとかわすように流れてくる言葉。これが凄い。「ちゃんとしないと死ぬ」だとか「ドラッグをやる奴はクズ」だとか「可能性が無限」だとか、恐るべきスピードと軽さで"本当のこと"を言い放っている。そして、そのユーモアセンスはどこか松本人志を彷彿をさせる領域にあるように思う。どの楽曲もダウンタウンのコントや漫才として成立するのではないか、という妄想に駆られる。大名曲「スキルアップ」などは思わず歌詞を全て書き起こしたくなる衝動を抑えきれないのです。

ピーって 笛が鳴ったんで 一番大きいボタンを押した
天井の穴を塞いでいた弁が開いて
三色のボールがそこから転がってくる

その中から好きな色を一つ選んで
壁に備え付けられたかごに入れていく
かごの重さに比例してメーターが上昇する
メーターが赤いラインに達した瞬間
壁の穴に棒を突き刺す

棒を突き刺す 棒を突き刺す 棒を突き刺す 棒を突き刺す

スキルアップ

用意された穴を全部棒で突き刺し終えたら
必ず ゲートが開く
奥に進むと一際目立ったこれだっていうレバーがあるから
それを引くと風船が膨らむ

風船が膨らむ 風船が膨らむ 風船が膨らむ 風船が膨らむ

スキルアップ

以前はこうして棒を突き刺したり風船を膨らせたりする毎日に
何の意味があるのかなんて考えたこともあったけど
指導力のある上司や充実した設備のおかげで確実にスキルも付き
ここまで大きな現場を任されるようになりました
ありがとうございます

いやはや、全盛期の松本人志うすた京介も劣らぬ世界観。松本人志の『しんぼる』の数倍出来がいいだろう。チャップリンのようなアイロニーも感じる。これが最高のロックチューンとして響いてしまうのはちょっとヤバ過ぎる。



何せ信頼できるのはその俯瞰の視線だ。アルバムには「神様が見ている」という素晴らしい楽曲が収録されていて、その冒頭から

変な顔をしている分 心がきれい
日本海が獲れた魚は身が引き締まってる
いじめられる側にも原因がある
公務員が給料を貰い過ぎてる
決勝で負けてよかった 今ならそう思える
学生時代は巨乳がコンプレックスでした
テストは0点だけど体育の時間大活躍
友達は少なくても世界中の国旗を覚えてる

とつぶやかれていくわけだけど、どのセンテンスもカメラがスーッと引かれる事で見えてくる"本当のこと"なのだ。まさに神様が見ている、という感じ。また、コミュニケーションとディスコミュニケーションがコラージュされた奇天烈な「カモン」というキラーチューンがあって、その楽曲では

みんな両手を上げて体を揺らしていた
俺はみんなと同じように両手を上げて声を出していたらから
まるで盛り上がっているように見えて
その場に凄く馴染んでいた 踊っているように見えた
客観的に見て俺は踊っていた
どっからどう見てもダンスだった
客観的に見てダンス 客観的なダン

と締められる。この、ゾッとするような客観性だ。



全くもって無意味なようでもあるし、深読みしたくなるような、その何とも言えない言葉の羅列は、不穏で毒々しく、世界を暴く詩人のそれだ。例えば、少し深読みをしていみるならば、この『スキルアップ』というアルバムのジャケットイラスト(最高)なのだけど、蛇に呑み込まれる男である。夢診断によれば”蛇”は本能の衝動を表わし、抑えられた性的欲求の象徴だそうだ。それに呑み込まれている様がアルバムの顔といえるジャケットに描かれている。そうなってくると、あの「スキルアップ」における

かごの重さに比例してメーターが上昇する
メーターが赤いラインに達した瞬間
壁の穴に棒を突き刺す

という連呼も「Jimi Hendrix Experience」の

君はジミヘンドリクスを聴いたことがあるか
君はジミヘンドリクスを経験したことがあるか


世の中には二種類の人間がいる
ジミヘンドリックスを経験した者とそれ以外の者
俺は決してジミヘンドリックスエクスペリエンスを
人に押し付けたりはしない
ただ、人生のある時期にジミヘンを経験した奴としか
共有できない気持ち?
これは もう 確実に
ある

といったラインも、全てセックスの隠喩に聴こえてこなくもない。禁欲的なバンドサウンドもまたその妄想を引き立てるだろう。なんて色々考えてしまえる面白さがあるんだな、トリプルファイヤーには。「面白いパーティー始まるよ」と連呼する度に、どんどん不穏さがたちこめてくる一曲目から最高。語りたい事は尽きない。この『スキルアップ』というアルバム、キャッチーさでは1st『エキサイティングフラッシュ』

エキサイティングフラッシュ

エキサイティングフラッシュ

に大きく譲ってしまうかなりドープな仕上がりでもあります。しかし、よりその深淵に触れる事のできる全うな2ndアルバムではないでしょうか。1stと合わせて購入しましょう。
スキルアップ

スキルアップ