青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

鈴木卓爾『ポッポー町の人々』


『シネマ☆インパクト』第1弾はほぼ全ての作品が「震災」をテーマにしているようで、「フィクションはこの現実においてどこまで有効か」という実証だ。撮影開始は2012年3月11日、舞台は架空の街「ポッポー町」。震災以降、ポッポー町から外に出るのは何故だか困難になっているらしい。ロケ地は早稲田〜高田馬場周辺であり、デンシャムシ(都電)が走っている。地に縛り付いてグルグルと回っているように見えるそれは、震災で愛する人を失い前に進めない住人達の気持ちである。しかし、その住人達をカメラが俯瞰で捉える際、実に印象的に路地(雨で濡れており灯りが艶やか反射している)や坂道が奥にスッと伸びたロングショットとして映し出される。この奥へ続く空間に、循環を打ち破る直線の運動が示唆されており、クライマックスの原発デモの行進へと繋がっていく。死に囚われた人々が生へと転化していく際の葛藤「でも(but)」が「デモ(demonstration)」に託されているのも秀逸。音も印象的で、『ポッポー町の人々』は現実の街の音と映画の嘘の音が混ざり合い、境界を融解している。『私は猫ストーカー』『ゲゲゲの女房』と同様に、「映り込むものの全てを矛盾も含めて愛すのだ」という鈴木卓爾の眼差しが存分に感じられた。閉鎖的な重たい作品かと思いきや、無茶苦茶ポップに開けている。映画の嘘の音が現実に浸食するスリリングな瞬間を見逃すなかれだ。


そういえば、ポッポー町を歩く登場人物は皆何かしら関わりを持っていて、その無理矢理に関係性を与えられていく様が、ロロの『父母姉僕君』に似ているな、と思って観ていると、ラストには各々が楽器を持って演奏を始める(楽曲の質感も少し似ていて)ものだから、同時代を生きる作家のリンクにじんわりと興奮してしまう。