青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

岡田恵和『ひよっこ』10週目「谷田部みね子ワン、入ります」

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前週の別れのセンチメンタルさから打って変わり、よりコメディ色の濃くなった10週目。それでもチャンネルが切り替わるようにスパっと変わってしまうのでなく、乙女寮の愛子さんが物語に居残り、次の舞台であるあかね荘にまで足を運ぶ。その侵食具合が素晴らしかった。

「そう…よ…」
これ、あの大家さんのまね!

と愛子さんが大家の口癖を真似てみせる。『ひよっこ』では、こういった”まねっこ”がたびたび頻出する。例えば、あの乙女たちの愛らしき映画『ウエストサイド物語』や浅草のダンスホールでのナンパ男のなりきり、澄子が豊子を口真似するじゃれ合い。そして、みね子と鈴子が重要な交感を果たす時、何故かみね子の喋り方が鈴子にうつる。

分がっけどぉ・・・
あら、なまりうつっちゃったわ

こういった場面に流れる親密さ。誰かと誰かが向かい合い、互いに響き合ったという確かな感触。『ひよっこ』というドラマはそういった感触を積み重ね、連鎖させていく。


こんな娘がいてもおかしくないんだよね

みね子の寝顔を眺めながら、愛子がつぶやく。すると、みね子は寝言で「お母ちゃん・・・」と漏らす。明らかに混線してはいるが、確かな母と娘の会話が成立してしまっている。しかし、愛子はその混線を丁寧にほどいてみせる。奥茨城への往復切符をプレゼントし、みね子を本当の母の元へ。

愛子さん、お姉ちゃんみたいだなって
お母さん代わりじゃなくって、東京のお姉ちゃんだなって

自分のことを差し置き、みね子の就職活動に助力する愛子の献身。それを受け、みね子はそれまでお世辞として発されていた”お姉ちゃん”という響きを、初めて実感を込めて送る。この「愛子-みね子」の姉妹の関係性は、「みね子-澄子」の間にも自然と継承されている。

こんなかわいい妹押しのけて
お姉ちゃんが行ぐわげないでしょ?

と石鹸工場の就職の枠を澄子に譲ったみね子。そして、田舎には姉の帰省を心から喜ぶ妹のちよ子がいる。

お姉ちゃん、私が作った卵焼き見てびっくりすっかな
楽しみだなぁ

奥茨城→乙女寮→すずふり亭、あかね荘と舞台を変え、別れを繰り返しながらも、誰かと誰かが響き合ったという感触は残り、また違う誰かに連鎖していく。

満島ひかり×丸山健志『ラビリンス』(MONDO GROSSO)

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密集した高層アパートに微かに覗く”空”からカメラが下降していくと、地上に満島ひかりが佇んでいる。何やら神話めいたポーズ*1で、どこか郷愁を湛えながら天を仰ぐその姿に、”天使”的なニュアンスを嗅ぎ取ってしまうのは容易い。しかし、彼女は天に帰還することはなく、何かを決意したように、地上でステップを刻み始める。複雑にこんがらがったこのラビリンス”迷宮”で。


MONDO GROSSOの14年ぶりの新曲「ラビリンス」のミュージックビデオだ。振付を監修したのはジリアン・メイヤーズ。その冠には「あの『ラ・ラ・ランド』に出演した」とあるので、音楽とモーションが寸分の狂いなく連動したミュージカル的なダンスを思い浮かべるのだけども、その予想はいい意味で覆されてしまう。満島ひかりは楽曲のリズムに支配されない。ループし続ける音符の隙間をくぐり抜けるように自由なテンポで舞う。それは、何からも束縛されないダンスだ。更に、カメラ一台のワンカット長回し撮影*2ということで、そのダンスにはカットがかからない。すなわち、この映像には”死”がない。満島ひかりはあらゆる束縛から解放され、この街をサヴァイヴし続ける。時にはカメラの先の我々を挑発しながら!その躍動にたまらなく胸を撃たれてしまうのです。


そして、ロケーションの圧倒的な素晴らしさ。鰂魚涌と思われる香港の街並は、猥雑に入り組んでいるからこそに魅力的だ。雨上がりなのだろうか、地面はしっとりと濡れている。オリエンタルな街の灯りが地面に反射し、溜息が漏れるほどに、美しく滲む。満島ひかりが、それまでよりも幾分か早いステップで回転しながら路地を駆け抜け、辿り着いた飲食広場。その地面に吸い込まれている光の輝きは、もはや祝福としか思えまい。この僅か5分とちょっとの映像の中に、生きていくことの困難さと、それ故の美しさが封じ込められているように思う。ラスト、満島”ひかり”は車のライトに照らされ、そのまま光に包まれて画面から姿を消す。あまりにもパーフェクトである。この映像によって、満島ひかりという女優の存在がまた一つ、格上げされてしまった。まさに天使。
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*1:ジョジョ立ちもしくは脇の匂いチェック立ち

*2:満島ひかりのメイクを担当した方がSNSで「ゲリラ撮影」と投稿していたのを見かけたが、それが本当であれば、監督(乃木坂46欅坂46でお馴染みの、我らが丸山健志だ!)は神に愛され過ぎている!!

岡田恵和『ひよっこ』9週目「小さな星の、小さな光」

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放送が開始して2ヶ月余りが過ぎますが、脅威のクオリティを保ち続けている。僅か15分の中で、必ずや観る者の涙腺を刺激してくる。とりわけ、9週目にあたる「小さな星の、小さな光」の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。みね子の務める工場が倒産、その名も”乙女寮”にて苦楽を共にした仲間たちが散り散りになっていく。ガールズトークを中心にオフビートで進んでいた『ひよっこ』にしては、実に朝ドラらしいドラマチックな展開だ。無駄道のような他愛もない乙女たちのおしゃべりが積み上げられているが故に、その別れはよりエモーショナルに響く。しかし、ただひたすらセンチメントに浸るではなく、

笑ってるけど 泣きそうです
泣きそうだけど楽しくてしかたないです

というみね子のモノローグにあるように、涙のすぐ側には笑いがある。逆もまたしかり。

乙女たちは本当によく笑いますね
ラムネが転がっても、笑うんですね

という増田明美のナレーションが何週か前の放送にあったわけだけども、この”笑い飛ばす”というのは『ひよっこ』というドラマの根幹だ。豊子が哀しみのあまりとった行動に、みね子は想う。

いつかみんなで笑い話にしてやろうと
何度でも笑い話にしてやろうと思いました

ひよっこ』にはこれといった悪人が登場しないので、物語は大きく捻じれてはいかない。しかし、笑顔のすぐ裏には哀しみがあって、なんとか毎日を生き抜いていく為に、その哀しみも笑いで吹き飛ばす。そんな当たり前のサイクルが、誠実に描かれているドラマだ。


有村架純の発話の素晴らしさ*1、乙女たちの瞳に希望を宿す照明の妙、豊子と澄子の若さを持て余した力任せな美しい友情、愛子さんの大きな優しさ、青春映画みたいな門限やぶり、米屋の娘の秘めたる恋etc・・・言及したいことがありすぎて、どうにもまとまりそうにないので、泣く泣くトピックを絞って書き記していきたい。ちなみに、この9週目の演出は田中正。調べてみると、高アベレージであった5週目「乙女たち、ご安全に!」と6週目「響け若人のうた」も田中正が演出を担当しているようだ。今後も注目だ。



<優子のおせっかい>

病弱であるが故に再就職が難しく、田舎に帰ることになった優子。帰郷前、親友である幸子の恋人・雄大に接触し、結婚への煮え切らない態度を一喝する。これぞ、”おせっかい”である。セオリーに沿えば、そういった勝手な行動は、得てして状況をややこしくさせるものだ。しかし、そうはならない。優子からの叱責により、雄大は目を覚ます。幸子へのプロポーズを決断し、2人はめでたく結ばれる。身体の弱い優子が、幸子の為を想って、無理をしてまで行動した。『ひよっこ』というドラマは、そういった「こうであればいいのに」と願いながら頑張る者を決して否定しない。彼女達は物語の中でしっかりと”報われてしまう”。その事にひどく胸を打たれる。雑誌に載っていた団地暮らしのページをウットリと眺める乙女たち。

豊子:部屋さこの家具はついてねですよ
   自分で買えということです
みね子:分がってるよそんなことは
    でもほら頑張ればこんなふうにいつかなれるっていうことでしょ?
豊子:(微笑みながら)そですね

こういった何気ないシーンの中にも、”頑張ること”への真っすぐな肯定が根付いている。


<男・松下>

みね子が務める工場のライン長を劇団サンプルの奥田洋平が好演。
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9週目の”常に泣きだす寸前”というようなエモーションを支えたのは、目を真っ赤にしながらも、決して涙は零さない、あの男・松下の表情に他ならない。飄々としたルックス、独特の発話、本当に特別な役者である。同じくサンプル所属である古舘寛治に続き、テレビドラマ界に欠かせない活躍を期待したい。また、同じく舞台畑である、岡部たかしの演技も素晴らしかった。あのいくらでも”悪”として表現できそうな工場の撤去作業員を、物言わずに表情で複雑に演じきっていた。岡部たかしと言えば、『カルテット』8話のたこ焼き屋としての姿も忘れ難い。他にも『ひよっこ』の舞台畑役者の起用は枚挙に暇がなく、時子のオーディション審査員に松井周(サンプル)、焼き芋屋のおじさんとして新名基浩(ロロ『いつ高』シリーズの”しゅうまい”役)など、ごく僅かな出演シーンながらも誰もが強い印象を残している。


<僕は嫌だっ!>

欅坂46「不協和音」のフレーズを重ねずにはいられない、豊子の乱。唐突な工場の撤去に対して、立て籠もりで抵抗する豊子。賢い豊子は、そんな事をして、状況がどうにかなるとも思っていないし、バカな行為だとも重々承知だ。それでも、豊子は乱を巻き起こす。

喋りたいんだよ
嫌だって喋りたいんだよ
誰にがは分かんねけど
おれは嫌だ
みんなと一緒に働きてえ
そうやって喋りてえんだよ

声を挙げなければ、大好きな工場が”なかった”ことになってしまいそうだからだ*2。“喋りたい”という豊子の津軽弁が、台詞に独特の味わいを出している。標準語であれば「叫びたいんだよ」などが妥当だと思うのだが、”喋りたい”という言葉が用いられることで、その叫びを向ける対象のようなものが自然と立ち上がってくる。それはすなわち”神様のようなもの”に向けた叫びだ。工場は、これまでで唯一、豊子が”本当の自分”でいられる場所だった。それがなくなってしまうことに対して、「嫌だっ!」と喋る。それは「私はここにいます」という心の叫びのようなものだ。豊子を諭すみね子の言葉が素晴らしい。

悲しいけどなぐなんないよ
なぐなんない
私たちがずっと忘れないでいれば工場はなぐなんない
ずっと
ずっとなぐなったりしないよ

忘れなければ、”なかったこと”にはならない。工場も、乙女寮も、乙女たちの友情も。そして、みね子のこの言葉の裏に潜んでいるのは当然、喪失してしまった”お父ちゃん”の実像であろう。


<小さな星の、小さな光>

週タイトルである「小さな星の、小さな光」は、劇中でみね子たちによって歌われる坂本九のヒット曲「見上げてごらん夜の星を」の一節から。「上を向いて歩こう」など坂本九の楽曲は、このドラマの脚本に強いインスピレーションを与えているように思う。

手をつなごう ぼくと
追いかけよう 夢を
二人なら 苦しくなんかないさ

という箇所が、幸子と雄大のプロポーズの言葉としてトレースされているのも見逃せないわけだが、より注目したいのは後半の歌詞だ。

見上げてごらん 夜の星を
ボクらのように 名もない星が
ささやかな幸せを 祈ってる

まさにこの『ひよっこ』という作品そのものを言い表したフレーズではないか。高度経済成長期を支えた”金の卵”もしくは”ひよっこ”達。そんな歴史に埋没した匿名の彼や彼女たちの、知られざる青春を詳細に描写することで、そこにあった”想い”を掬いとる。それは物語というものが担う役割そのものであるように思う。アメリカのリチャード・ブローディガンは

物語を書く事の目的の一つは「名もない」と一括される人びとの名を固有名詞にして呼び戻し、かれらの声を回復することにある


藤本和子リチャード・ブローティガン』より

と書き記した。現在のこの国で、その物語の役割に最も自覚的なのは、この『ひよっこ』の制作を統括している菓子浩であると言えるかもしれない。菓子が同じく制作統括をした『あまちゃん』もまた、”被災者”という記号で一括りにされそうになった人々に、どこまでもオリジナルな個性を宿すことで、我々にその”痛み”を想像する力を与える物語だった。

お父さん・・・
お父さんへの心の手紙ではどうしても私の近くにいる人の話になってしまうけど
ここには大勢の乙女たちがいました
みんなそれぞれに私とおんなじように物語があります
何だかそれってすごいなぁと思います
そんな物語がものすっごくたくさんあるのが東京なのかなって思いました

貴方によく似た物語を生きる人もいるだろう、決して想像もつかないような物語に身を投じた人もいたに違いない。この世界は、無数の知られざる物語の集まりだ。その一端に触れることは、ときに私の心をどこまでも慰める。1日の仕事を終えた乙女寮の、就寝前の部屋の様子をみね子はこう描写する。

私はこの時間が一番好きです
みんな思い思いに自分のことをやっていて
穏やかな時間です
みんなおんなじ時間を一緒に生きてんだなぁという気持ちになります



関連エントリー
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*1:「そして私たちはそれぞれ動き始めていました、次の暮らしに向けて」というモノローグでの発話が特に超超素晴らしい!!

*2:ここには欅坂46サイレントマジョリティー」の「行動しなければ Noと伝わらない」が呼応しているように思う

最近のこと(2017/05/26~)

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大好きな5月が終わって、今年もきたぜ6月。僕らの気持ちを代弁し切った上のコマもいいんだけど、1コマ目でカレンダーを見つめながら「ついに、ことしもきたか・・・ああ。」とボヤいているのび太が好き。しかし、何年生きてみても6月というものの実像を掴み損ねていて、言うほど雨が多いのか、暑いのかはたまた半袖だと肌寒いのか、いまいち認識できていない。6月ってそういうところがある。つげ義春を読み直していて、

新版 貧困旅行記(新潮文庫)

新版 貧困旅行記(新潮文庫)

『貧困旅行記』などに感銘を受け、すっかり旅に出たい気持ちが芽生えている。



金曜日。仕事後に、学生時代の友人らと池袋のインド料理屋「マサラハット」でご飯を食べる。広々と開放的な雰囲気が前から気になっていたお店。すぐ近くに最高のレコード屋ココナッツディスク池袋がある。「楊」もあるし、「木々屋」もあるし、あのエリアは池袋の良心だ。本当は久しぶりに「楊」で汁なし担々麵を食べたかったのだけど、並んでいたので、スパイスの方向転換でインド料理。ビリヤニはお米がベチャっとしたチキンライスのような感じで、残念ながら”ビリヤニの偽物”だったのだけども、サモサとキーマカレーは美味しかった。この店は何故かドリアが充実していて、注文した海老とアボガドのドリアが、これがもう絶品であった。インド料理でもなんでもないが、焼けたチーズの旨味には誰も抗えない。賑やかな店内にスパイスの香り、金曜日の夜にインド料理屋で友人らと談笑するという行為が本当に美しいもののように思える。それは別にタイ料理屋でもメキシコ料理屋でもいい。どついたるねんの「飯でも」というナンバーを皆様に捧げます。食いに行こうぜ Baby。
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そういえば、今週の『バナおぎやドリーのもろもろのハナシ』の中で、世界の料理で3つしか選べないなら「和・中・イタリアン」に決まりで、その中にタイや韓国をチョイスする日村さんは変わっている、という話になっていた。ピザもパスタも大好きだけど、たまにでいい気がするので、私は意外と「和・中・印」かもしれない。いや、そもそも中華も入るか微妙だな。そんなことより、世界に食い物屋がマクドナルドと吉野家富士そばしかなくなったとして、永遠にその中の1つしか行けないとしたら、どうします?これ、即答できる人はサイコパスらしいです。*1



土曜日。起床して先週分の『ひよっこ』をまとめて観て、涙。有村架純宮本信子とのシーンはいつも素晴らしい。予告を観る限り、向島電機編が来週で終了のよう。延々に乙女寮を観ていたいのに。みね子は散り散りになるであろう仲間達といつか再会できるのだろうか。まだ2ヶ月観続けただけなのに、もう完全に知り合いみたいな気分だ。ルーティンの掃除、洗濯を済まして、昼過ぎに浅草に出掛ける。「あさくさ劇亭」にてナカゴー『紙風船文様』を観た。50分の短編ながら、大変な満足感を抱いた。劇場のすぐ近くが合羽橋だったので、少し散歩する。食品サンプル屋で、緑色が美しいクリームソーダのサンプル欲しくなったが(完全に『ひよっこ』の影響なり)、1個あたり数千円もした。
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店頭には豚の置物があって、そいつに「食欲の演出家」と彫られていた。クールこの上ないぜ。かの有名な吉原のソープ街もここら辺のはずなのだが、まだ一度もお目にかかったことがない。時代劇とか落語で散々見聞きしてきた場所なので、足を踏み入れたら感動してしまう気がするのだけども、ウン十年東京に暮らしても気配すら感じたことがない。別にかまととぶっているわけでなく、吉原のソープ街というのはおそらく、強く意識しないと、偶然にはたどり着けない場所にあるのだと思う。車を走らせていても、通った覚えがないし、電車にしても、どこか最寄り駅なのか不明だ。「行きたい」と強く願わないとたどり着けない場所、何だかそそられてしまうな。散歩に疲れ、浅草寺近く「梅園」の白玉クリームあんみつで休憩。更に、「亀十」でどら焼き(やたらめったら美味い)を買って帰る、という甘党っぷりを発揮。帰宅して、ネットの力で、Huluログインできない問題を解決!!凄い単純な問題でした。『ゲーム・オブ・スローンズ』の視聴を無事再開する。間隔が空いてしまったが、結構覚えているものだ。そして、『ゲーム・オブ・スローンズ』はWikipediaページの充実が尋常でなく、1エピソードごとに詳細が綴られている。編集してくれた名も無き誰かに絶大な感謝を。



日曜日。早起きして、銭湯の1番風呂を楽しもうと思っていたのだけども、睡眠欲に敗北。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』を観て以来、再びクリス・プラットへの愛が高まってしまって。なんか目がハートになっちゃいますよね。

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この動画も最高。役が決まって、30キロ近い減量をしたそうなのだけども、痩せる前に役を獲得したのだから凄い。監督のジェームズ・ガンも会う前は「デブだし、論外」と思っていたらしいのだけど、会って「こいつしかいない」と確信したらしい。むちゃいい話。ポッチャリしている頃もかわいいのだよな。スターロード役から解放されて、また太ったら、今度はジャド・アパート周りのコメディに出演して欲しいものです。勢いで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーズ』(Hulu)と『ジュラシック・ワールド』(Amazonプライム)の2本を鑑賞。
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ジュラシック・ワールド』のクリスも好きだ。映画に求めるロマンが彼には詰まっているのです。そのまま野球中継へ。金曜日は原のナイスピッチングから9回2アウトから秋吉炎上で逆転負け。土曜日はエース小川が6回途中に背中の張りで降板し、チームもそのまま逆転負けで5連敗。心が蝕んでいく中でもまだ観るのだから、つくつぐ野球狂である。この日はルーキ星が大量援護をもらいながら好投を見せ、快勝。特に見どころのない試合だったが、星と柳の明治大学同期対決は盛り上がった。原と星でポジりつつも、山田よ早く目覚めよ、という気持ちでいっぱいだ。サウナに出掛けるつもりが、細野晴臣HOSONO HOUSE』を流しながらウトウトしていたら、家から一歩も出たくないという気持ちになってしまい、湯船を掃除して、家で長風呂を楽しむことに。出たら飲むぞ、と冷凍庫にノンアルコールビールとグラスを入れて、チンチンに冷やしておく。ちなみに冷え方としては、チンチン>キンキンです。いや、逆のような気もするな。”チンチンに冷えた”という言葉はあまり浸透していないらしく、人前で使ったら、複雑な下ネタだと思われました。しかし、明るい内に入るお風呂はどうして、あんなに気持ちいいのだろう。明るい内に飲むお酒もいつもり酔っぱらってしまうと聞きます。会津小原庄助は「朝寝朝酒朝湯が大好きで それで身上潰した」(会津磐梯山)なんて謡われているくらいですから、日本人というのは昔から勤勉なんですね。
ビギン

ビギン

お風呂では最近またすごく大好きなThe Millennium『Begin』を聞きました。



月曜日。身体がバキバキで早くサウナに行きたいと思うも、映画サービスデーだったので、這いつくばってレイトショーの『メッセージ』を観た。それなりに楽しみつつも、「ちょっと退屈なシーン多いなぁ」とも感じた。しかし、細馬さんがツイートされていたブログの壁と窓をスクリーンに見立てた批評を読んで、何も読み取れてなかったことを痛感。気づけなかったけども、きっと『メッセージ』は凄い映画だったのだな。上映開始直前に、真後ろの席に金ネックレスをジャラつかせた集団が座って、「嫌だなぁ、怖いなぁ」とか思っていたのですが、静かに鑑賞していた上に上映終了後「やっべぇ、ストイックな映画見ちゃったな」と言っていて、安心しました。それよりもですよ、何列か前の席にいた、ポップコーンをバリボリバリボリと音を立てて食う人!!しかも、バリボリ/秒のハイペース。このペースならすぐ食べ終わるだろうと我慢していたのだけど、食い終わるやいなや鞄からガサゴソとスナック菓子のようなものを取り出し、またバリボリ。しかも2袋!!こういうのは一度気になってしまうと、もう地獄である。そもそも、人間ってそんなにポップコーンやらスナック菓子を一気に食べていいのでしょうか!?ブクブクに太って椅子にハマって動けなくなって餓死しろ。『ビバリーヒルズ・コップ』とか『ナッティ・プロフェッサー』みたいなエディー・マーフィーが出ている映画なら、そりゃポップコーンでも何でも食えよ、とも思うけども、『メッセージ』みたいな映画であれをやられるのはきつい。いや、そもそも映画館でポップコーンみたいな音が出る食べ物を販売しているのが昔から疑問でならない。アメリカ文化への憧れなのかもしれないけど、そこはコカコーラで満たして欲しい。どうしても何か食べたいなら、蒟蒻ゼリーでも吸っとけ!前に、映画が始まるやいなやチャーハン弁当食い出した奴もいたな。イカれた民度だぜ。お父さん、お母さん、私はこの町で強くなります。なんかもう異様に怒りが沸き上がってきたんですけど、もしかして、町田康が『メシ喰うな!』で言いたかったことってこういうことですか!?



火曜日。何かと話題になっている『ミュージックマガジン』の日本語ラップ特集を立ち読みした。日本語ラップへの造詣はまったく深くないのだけども、高校時代にTHA BLUE HERBの「未来は俺等の手の中」を聞いていたら、サッカー部に「ベッカムのように別格」というリリックを凄いバカにされたのを忘れません。オーケー、余裕。あと、キングギドラの2ndはもろにリアルタイムで、「もう一度ジェームス・ブラウンから聴け」「今夜もブッシュはベッドで眠る」は流行りました。別エントリーにも書いた落日飛車のEP

Jinji Kikko

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にすっかり魅了されてしまい、懐かしのAORiPhoneにインポートして聞いている。産業ロックとAORの違いがよくわかってなくて、TOTOはどっちにあたるんですかね。中学生の時、TOTOむちゃ好きでした。
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さて、交流戦開幕!スワローズは低調なのですが、それでもやっぱりワクワクしてしまいます。しかし、蓋を開ければ、オリックスに1対9で敗北。この感じだと12球団でぶっちぎりに弱いぞ。ドラゴンズだけは裏切らないでくださいね。帰宅後、近所の銭湯で念願のサウナへ。これがもうむちゃんこ気持ちよかった。映画的に、詩的で、魔術的だった。このよく行く、近所のサウナはとりたてて言及するところもない平凡なサウナで、水風呂に至っては21℃とかなんですけども、何やら相性がいいらしく、いつもととのい果ててしまうのです。コンビニでノンアルコールビール買って、帰宅して、溜まっていた録画をまとめて消化する。『ひよっこ』と『やすらぎの郷』で泣きに泣き、情緒がいかれた。『乃木坂工事中』『欅って、書けない?』『キングちゃん』は楽しい。この日放送の『デリバリーお姉さんNEO』の6話も良かった!小杉湯フューチャー回。小杉湯はサウナがないので、イベントでしか行ったことないのですが、お湯や水風呂が凄く良い銭湯と聞きます。クレジットなかったけど、江本祐介さんも出演してしましたね。6話のゲストは篠崎大悟(ロロ)、来週は森本華(ロロ)だ。楽しみだな。EDの長回しのエリー&マコもいつも楽しみなのですけども、今回のケロヨン持って踊っているやつがもう抜群で、ずっと観ていたかった。



水曜日。昨日から暑い。最近は、山形の”だし”と納豆を混ぜて、豆腐にのっけたものにハマっている。もしくは蕎麦か素麺。今年は夏バテする予感!!全然関係ないのですけど、HARCOが活動名義を本名に変えるらしい。今月出るアルバムがHARCO名義の最後の音源になるとか。素敵な名前なのにもったいない。いらないなら、欲しいくらいだ。久しぶりにデビューアルバム『POOL』を聞く。ニヒルでストレンジで好き。HARCOのルックスってヤクルトスワローズにいそうなんだよな。そして、今日もヤクルトは絶望的に弱い。実にあっさりとした延長サヨナラ負けをテレビで見届け、お風呂で泣いた。天才・堀禎一の新作長編『夏の娘たち~ひめごと』が7月に公開するとのことで震え上がった。
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去年、アテネ・フランセ文化センターで特集組まれていたの知らなかった…『妄想少女オタク系』『魔法少女を忘れない』をスクリーンで観たかったです。



木曜日。国際フォーラムで開催された槇原敬之のコンサートツアー『Believer』へ。多分、初の国際フォーラムだったのだけども、有楽町駅から直結なのが最高に便利です。7年ぶり2回目の槇原敬之のコンサート、むちゃんこよかった。7年前より断然声が綺麗になっている気がして、それって凄いことではないでしょうか。メロディメイカーとしてはもちろん、やっぱりシンガーとして圧倒的な才能で、J-POPシーンにこれ以上の才能が現れることはないと本気で思ってしました。aikoにしろマッキーにしろ、バケモノレベルに歌える人じゃなきゃ、どう逆立ちしたって書けないメロディみたいのがすっごくある気がする。今回のツアーで「PENGUIN」(私が世界で1番好きな曲)を披露していると教えてもらって、慌ててチケットをゲットしたのですが、本当に行ってよかったな。生で聞く「PENGUIN」の良さ・・・あまりの感動に語る言葉がねー。その他のセットリストは基本的にアルバムから。去年リリースしたアルバムがここ何年かの水準だと非常によかったので、楽しめました。久しぶりのラブソング「運命の人」は名曲。コンサートは前半が特に良くて、「遠く遠く」「運命の人」「四つ葉のクローバー」、そして予想外のピアノ弾き語りの「PAIN」に咽び泣き。ネットで他の公演のセットリスト調べてみると「うん」「素直」「MILK」の日もあったらしい。どれも捨てがたいが、「PAIN」は本当にうれしい。珠玉のJ-POPなのだけども、あれぞ、この国のゴスペルなのだ。後半戦は正直ダサい曲が多く、集中力が切れてしまった。アンコール1曲目に披露した「僕の今いる夜は」は名曲だ。ラストは予想通り「どんなときも」で、名曲には違いないが、ヒットナンバーの中ではメロディ、歌詞、アレンジ、どれをとってもこの曲が断トツで野暮ったい。対して「もう恋なんてしない」「冬がはじまるよ」あたりはタイムレスな輝きを放っていると思う。マッキーの90年代のアルバム群のレビューを書きたいと前からずっと思っているのだけど、時期尚早だ、と挑戦できずにいる。30過ぎても、書き続けていれば、書く力は伸びていくのだ、と強く信じています。頼む、そうであってくれ。

*1:嘘です

落日飛車(Sunset Rollercoaster)『JINJI KIKKO』

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まさかのAORリバイバルである。昨年、サニーデイ・サービスが傑作アルバム『Dance To You』にてネッド・ドヒニーボズ・スキャッグスを、ceroが全国ツアー『MODERN STEPS TOUR』のグッズデザインにスティーリー・ダンを、それぞれ引用してみせたのが印象的だった。AORなんて和製英語だろうと思いつつも、それは世界同時多発的なムードのようで、Thundercatがリード楽曲にマイケル・マクドナルドケニー・ロギンスを召喚、更には台湾のインディーシーンにおいても、AORを完全に血肉化したバンドが登場していた。このエントリーの主役、落日飛車(Sunset Rollercoaster)が昨年リリースしたEP『JINJI KIKKO』である。既にCDのみならずアナログ盤も日本でリリースされており、来日公演ではOGRE YOU ASSHOLEシャムキャッツ、ザ・なつやすみバンドらと共演を果たしているそうで、知るのが遅すぎました。


私はご多分に漏れず、先日のLampの染谷太陽のツイートに喚起され、慌てて音源をチェックしたのだけども、その素晴らしさにすっかりメロメロ。目下、エンドレスリピート中なのです。


何の衒いもなくAORを志向している。東京インディーシーンでは”シティポップ”と評されると嫌な顔をするバンドが多いのと対照的。しかも、インディーシーンにおいて広義の意味で使われる”シティポップ”ではなく、7~80年代に流行した本物のシティポップサウンドを再現しようとしているのだから痛快だ。日本の音楽のフェイバリットに角松敏生を挙げるセンスがいい。”山下達郎”ではなく角松敏生というのが本格派ではないか。確かに、落日飛車の兄弟を日本で探すのであれば、角松敏生であり、寺尾聡であり、来生たかおであり、はたまた浜田省吾かもしれない。ときに聞かせるフュージョンのような響きはカシオペアを想起する。野暮ったいそのメロウネスは、実に台北的と言える。あの街は、都会でありながらもどこか”懐かしさ”を湛えている。そんなタイムレスな質感を伴なった都市の音楽として落日飛車が機能しているであろうことは想像に難くなく、つまり彼らは広義の意味においてもシティポップなのだ。楽器の響きも忠実に70年代の録音を再現している(ayU tokiO来生たかおをボーカルやドラムの鳴りまでを完璧にこだわり抜きカバーしたのを想起してしまう)。それでいて、サイケデリックかつプログレッシブに拡張されていくインストパート挿入のセンスは非常に現代的であるし、それを実現させる優れたプレイアビリティがこのバンドにはある。そして、何といってもとびきりのメロディを書くソングライティングセンスがあって、そのロマンティックな響きは、ただそれだけでも特別な存在と言える。


過去のアーカイブスを参照することに何の衒いもない。いや、それどころか落日飛車というバンドの時間認識においては、過去も未来も現在もまるで同一の座標軸にあるかのように、緩やかに円環している(『あなたの人生の物語』もしくは『メッセージ』だ!!)。そのSF的思考はリリックにおいて存分に展開されており、この『JINJI KIKKO』という3曲入りのEPは、あらゆる時間軸に存在する”JINJI KIKKO”という 1人の女性をモチーフにして、時空を超えた愛の物語に仕立てあげられている。”JINJI KIKKO”は当然、”音楽”の暗喩であって、その壮大な物語には、バンドの音楽制作における態度のようなものが刻印されているようだ。