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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

岡田恵和『ど根性ガエル』8話

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お前の最後の「いいかげんにしなさい」のひと言が一番大事だからな。分かってんな?最後のそのひと言でな、今まで言ってためちゃくちゃな事とかそういう事が全部チャラになるわけだ。

ゴリライモが立候補した選挙の応援で漫才をする事になったひろしとピョン吉。その出番前の練習の際のやり取りである。プロデューサーや脚本家には「いいかげんにしなさい」と言ってやりたい対象が強く存在するようだ。それが何かというのはあえて書かなくても、これまでに描いてきた”福島” ”戦争” ”選挙”といったタームからも明確だろう。色々な考え方の人がいるので異論は大いにある事と思いますが、8話が描くのは選挙、その1票の重み。思想の傾きに関係なく、選挙には行くべきですしね。今作の放送時間は土曜の夜9時。子ども達にとっては唯一(?)の"夜更"かしが許される特別な甘い時間ではなかろうか。そんな時間に放送されるテレビドラマ作品として、このような事象をファンタジックに柔らかく伝えていく制作者の気概に痺れる。


ひろしやピョン吉の江戸っ子然とした”照れ”がいい。宮藤官九郎作品にも通ずるその照れが、“大切なこと”を伝える際に1つクッションを作り上げる。ピョン吉のひろしへの死の告白は応援演説を介して伝えられ、今話においてもひろしから京子ちゃんへの想いは漫才を通して伝えられる。ひろしとゴリライモからのプロポーズ騒動を経て、「女としてではなく、1人の人間として仲間に受け入れて欲しい」と懇願した京子ちゃんに対して、ひろしとピョン吉は漫才で応える。

ひ:でね、その女がね、言うわけですよ。
ピ:ほぉほぉ、何て?
ひ:女としてとかだけ見るのやめてちょうだい!人として見てちょうだい~!
ピ:そんな風に言いましたか。
ひ:そうなんですよ、バカでしょ?
ピ:バカですね。そりゃあバカだね。
ひ:そう思うでしょ?ピョン吉くんだって。どんだけ自分の事をいい女だと思ってんでしょうね。
ピ:まったくだね。
ひ:当たり前じゃないですか、そんな事、うん。だって、幼なじみですよ?ガキの頃からずっとずっと見てきたんだ。昨日今日ちょっとかわいいからってね、惚れたのとは訳が違うってなもんですよ。<中略>もう、頭きたからね、結婚とか言ってやんない。あ~もう言わない、そんな事も分かんねえバカ女には。決まってんじゃないですか。人として仲間なのなんて当たり前じゃないですか!何があったってね、仲間は仲間ですよ、死ぬまでね!いや…死んだって仲間だよ。そうでしょ? ピョン吉くん!

これは素晴らしい。前話での停滞を払拭する脚本&演出だ。秀逸なのはこの漫才は京子ちゃんへ愛の告白であると同時に、それがピョン吉にも向けられている点だろう。愛と死の告白。そして、進んでいく時計にも変えられないものについて。それがなんだかデコボコなんちゃって漫才で遂げられる。こういったズラしがドラマの細部にまで行き渡っているので特別なグルーヴが宿り、ストレートを放り投げる以上のエモーションを獲得するに至っている。またそのズレの構造は、無茶苦茶な社会情勢に対する憤りを、ほのぼの人情の作劇を通して「いいかげんにしなさい」と言い放つ、この『ど根性ガエル』という作品そのものにもトレースされているのです。