青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

原田眞人『駈込み女と駆出し男』

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思わぬ伏兵。満島ひかり出演というトピックがなければ、完全に見逃していたであろう今作が意外なほどにいいのだ。上半期の邦画で言えば1番かもしれない。原田眞人という監督にいい印象を持っていなかったのだけど、巨匠の円熟味溢れる演出、画作りの数々に痺れてしまった。役者陣も素晴らしい。満島ひかり樹木希林は言うまでもなく、大泉洋戸田恵梨香の輝きに割目。大泉洋という役者は、どの作品においても大泉洋その人でしかありえない風体と声の響きを持っていながらも、見事に各作品に同調してしまう。いや、作品が大泉に合わさっていくのか。どうしたって憎みようのない貴重な存在の役者だ。牛場賢二の照明も素晴らしく、戸田恵梨香の顔にあたるくっきりとした陰影が、彼女は実に美しく捉え、”じょご”という役柄を肯定していく。


冒頭の信次郎(大泉洋)の女義太夫を晒し者にする幕府への吟じのような糾弾。おそらく専門家の徹底した指導が入ったと思われる江戸言葉のアクセント、早口のリズムから成る台詞は、6割ほどしか理解できない。が、この独特の小気味良いグルーブ感は作品全体の基調となる。つまり、これは言葉を”読む”作品ではなく、画を”観る”作品、つまり映画なのだ。タイトルにある「駈込み」と「駆出し」、つまり「in/out」の運動が、作品のエモーションを形作っていく。それは柏屋(縁切寺である東慶寺御用宿)への駆け込み、東慶寺への入山、下山のシークエンスは実に丁寧に描かれ、「門をくぐる」という単純な動作が収められているだけにも関わらず、そこには愛や死や救済がまとわりついており、観る者の心を強く揺さぶる。また、法秀尼(陽月華)の隠し扉へのin、信次郎の江戸からのoutとin、など「in/out」には秘密の共有や前進など様々なエモーションが託される。痺れてしまうのは、「in/out」のみならず、「inしない」「outしない」という演出を巧みに施している点だ。病に冒されたお吟(満島ひかり)の病床にinしない堀切屋(堤真一)の機微、吉原からoutせず、自宅にinしない重蔵(武田真治)の不徳。特に泣かせるのは、inしない鯵売りなのだけど、そこはぜひ目撃して欲しい。


女性迫害と縁切寺、更に天保の改革曲亭馬琴といったトピックも絡めて描く脚本、アクションありコメディありロマンスありで、2時間半近い尺を近いながらもさすがに詰め込みすぎてやや混線してしまった印象はあるが、それを補って余りある魅力が今作にはある。オススメでございます。