三宅唱『THE COCKPIT』
『Playback』(2012)の衝撃が今なお鮮明な三宅唱の新作は、OMSB(SIMI LAB)やbim(THE OTOGIBANASHI’S)といった若い世代のラッパー達が楽曲をクリエイトしていく様を収めた60分の中編だ。これが抜群に面白い。仲間が部屋に集い、音楽をクリエイトしていく。OMSBとbim以外は、画面の切り替わりと共に、気が付いたらいるし、気がつけばいなくなっている。この緩い連帯感が心地よい。しかし、これは彼らのグッドヴァイブスな日常をリアルに写し取る、といった体裁のユルっとしたドキュメンタリーではない。まず、彼らが集まる一室。決して音楽を捜索する場とは思えない、薄そうな壁に圧迫された狭い空間。そこには家具もほとんどなく決して快適とは言えないだろう。インタビューによれば、ここは、この映画の為に作られた空間のようらしい。仲間の集まるピースな空間、というよりは作業場と言う感じ。”クリエイティブ”というクールな響きを、”労働”という運動感に落とし込んでいる。であるからして、ドラッグはおろかアルコールさえも画面に映らない。労働の為に必要なのはエナジードリンクとお茶だ。無数のレコードから気にいった音を探す作業の気の遠くなるような道のり、そこに納得のいくビートを打ち込むまでのストイックな反復、同じく納得のいくラップテイクが録れるまでの反復。耳や手や喉が使い込まれていく。クリエイトするという行為はフィジカルを使い込んでいく事と不可避なのだ、と教えられる。
ライブでもまず目を引くOMSBの圧倒的なフィジカルが映画の主役だ。ビートをメイキングしていくというインナーな作業も、”労働”の映画として撮られる事により、そこに実に躍動的な瞬間が潜んでいるのが露わになる。特に目を見張るのは、MPCの前でビートを打ち込んでいくOMBSの首のスウィング。フィックスされた画面から顔が飛び出してくる、かのような動き。これぞ3D映画なんじゃ、と思えるエンターテイメント性がある。あのとても真似できない複雑で官能的な動き。あれは、やらなくてはいけなくてやっているんじゃない。やりたくてやっている。”労働”と”やりたい事”がイコールで結ばれている。それが、この『THE COCKPIT』という作品に流れている圧倒的なポジティブなフィーリングの理由だ。OMBSの首の動きさながら前へ前へ、物事が進んでいくという快楽性。ラスト、この小さな部屋で作られた音楽が、部屋を抜け出して鳴る。それも、車窓からの移動ショットなのだ。おそらく携帯で撮っているのだけど、これが『無言日記』同様に異様に豊か。部屋が、半径数メートルが、そのまま移動して鳴る。豊かな風景が曲に奉仕していくかのような感覚、それがとても良いのだ。THE COCKPITというタイトルの正しさ。チャス。