青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

最近のこと(2017/02/06~)

職場が変わって(引っ越した)、30分ほど早く起きるようになった。電車が空いてるかなと少し期待していたのだけど、むしろ混んでいて座れない。世の中の人は思っているよりも早起きだ。これまでは辺鄙なところに通っていたのだけども、新しい職場はわりと都心で、背の高いビルと人ゴミをかき分けて歩く。隣の席の人が「入社以来初めて『私、めっちゃ働いてるじゃん!』と思えたわ」と熱っぽく語っていた。久しぶりにヒ―ル靴を履き、道をコツコツいわせたらしい。いいな、と思ったけども、伝わらなそうなので黙っておく。私も道をコツコツいわせる仕立てのいい革靴でも買おうかなと思う。しかし、レザーソールは雨に滅法弱い。社会人になってしばらく経つまで、世の中の革靴にレザーソールとラバーソールがあり、腕時計に自動巻き(機械式)とクォーツ(電池式)があるという事を知らなかった。そして、不便なレザーソールと自動巻きが高級でクールなものとされているのだ。これは世界の秘密。



月曜日。職場も引越、実家も引越で、引越ラッシュ。自宅を引っ越すつもりはしばらくない。新しい職場近くのセブンイレブンのレベルが高い。広くて品揃え豊富、棚に貼るPOPなども手書きのオリジナルだし、陳列も気が利いている。最寄のコンビニのクオリティって日々の営みの中でむちゃくちゃ重要な案件ではないだろうか。全国どこでも画一的なサービスが受けられるイメージのコンビニも実はピンキリだ。いいセブンイレブンの見分け方は、コーヒーマシーンのお手入れでわかる、という持論がある。そのお店は3台ある上に、コマ目に掃除されていて、清潔。過剰な説明シールも貼っていない。仕事を終えて、クレイジーケンバンドのベスト盤を聞きながら帰る。

クレイジー・ケン・バンドベスト Oldies but Goodies

クレイジー・ケン・バンドベスト Oldies but Goodies

クレイジーケンバンドってこんなにピチカートファイヴっぽかったんだな。トラックめっちゃかっこいい。スーパーでポン酢を買った。今日も飽きずにバラ肉と白菜ともやしを日本酒で蒸す。この楽ちん鍋に「ほんだし」を入れる知恵を身につけた。かつて小栗旬がCMでやっていたのを思い出したのだ。小栗旬のCMと言えば、味の素冷凍食品のそれは、食欲を強く呼び起こされてしまう。「ザ・チャーハン」もよかったが、新作の「ザ・シューマイ」は更にいい。

白飯がすすむシューマイを食った事があるか
ぷりっぷりの豚肉にシャキシャキ竹の子
噛むほどに溢れる熱い肉汁

あぁシューマイ食べたい。シューマイに竹の子が入っているなんて知らなかったな。しかし、シューマイって語感はいいよな。かわいいよな。シュウくんとマイちゃんのボーイミーツガール誰か書いて、と思ったけども、『ドラゴンボール』のピラフ一味にもういるわ、シュウ(犬)とマイ(女)。シューマイ定食が食べられる気兼ねない街中華屋って実は少なくて、もう「ザ・シューマイ」を買うしかないのでしょうか。『乃木坂工事中』と『欅って書けない?』を観る。桜井玲香さんの1st写真集発売うれしや。お渡し会あるなら行きたいな。『A LIFE~愛しき人~』の録画が溜まっていたので、まとめて2話分観た。粗っぽいけど(説明台詞の多いこと)、なぜかおもしろい。浅野忠信の壊し過ぎの喉と、独特過ぎる演技メソッド。ちょいちょい野球の話して、磯野と中島感を出してくるの好き。来週、武田鉄矢が出てくるらしいので震えてます。TBS×武田鉄矢は期待しかない。しかし、『A LIFE~愛しき人~』というタイトルはない。フックがない上に意味も伝わってこず、長い上に略しにくく、SNS上でも言及しづらい。こんな良くないタイトルも珍しいと思う。



火曜日。お風呂でじっくり本を読んでいたら『マツコの知らない世界』を見逃してしまった。長嶋有の「30歳」という短編で、元ピアノ講師が「習いにくる男性はみな『ドカベン』の殿馬の話をしたがる」「指の短さをカバーするために、水掻き部分を切除する手術を受けたんでしょ?と返すと、みな一様に目を輝かす」みたいに語る記述があって、最高だなと思った。ピアノ習いに行って、女の先生と殿馬の話できたら、そら目が輝いちゃうよな。パチンコ屋の球が溢れ出すとことかグランドピアノの下でセックスするとことか全部みずみずしい。「夜のあぐら」で姉が元SMAPの森くんのおっかけでレース場に行った、って挿話もよかったな。1番好きな短編は「バルセロナの印象」だ。『タンノイのエジンバラ』は何回だって読み直したい短編集である。

タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2))

タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2))

文庫版のジャケットも素晴らしい。そして、『カルテット』4話です。はぁーおんもしろいなぁ。半田さん(Mummy-D)は普通の会社員だった。あそこまで借金取り然としながらも、金の話をしないので、家森さんは実は小説家で半田は原稿を催促しにきた編集者、なんて予想をしていたのだが、外れた。でも、半田さんが探している御曹司(柿食う客の永島敬三)は小説家志望とのことでした。半田さんの部下の藤原季節という若い役者さんはオフィス作の秘蔵っ子のようだ(つまり別府にーさんこと松田龍平のバ―ターか)。しかし、高橋一生は素晴らしいな。「松ヤニ塗ろうか?」のヌボっとした言い方好き。1話の「コーン茶飲もうか?」とか。アジフライにソースか醤油かという論争を詳しく知りたい方は、『めしばな刑事タチバナ』5巻に収録されている「ほか弁ウォーズ」での”のり弁”に関する論考を読むべし。
めしばな刑事タチバナ 5 [ほか弁ウォーズ] (トクマコミックス)

めしばな刑事タチバナ 5 [ほか弁ウォーズ] (トクマコミックス)

頼む、夫さんよ、瑛太であってくれ。瑛太が骨折して病院で寝ている画、超似あう。瑛太×松たか子で『逆鱗』じゃないか。あの4人と立ち向かえるの瑛太しかいなくないか。もう瑛太じゃないなら、夫さんはゴトーや桐嶋のように出てこないでくれ。高橋メアリージュンは、『るろうに剣心』の駒形由美と『火花』の百合枝で好きでした。往年の鈴木紗理奈なんだよな。「Boo Bee MAGIC」の頃かしら。すいません、「Boo Bee MAGIC」って書きたくて適当い言いました。「トラブルメイカ―」も紗理奈の曲かと思ってたんですが、あれは相川七瀬でしたね。ときに昔のめちゃイケで「大阪では紗理奈はかきたい女1位やで」みたいな話が出てきて、小学生高学年くらいだった私はまっすぐな目で母親に「かきたいってどういう意味?」と聞いた。漫画みたいな話ですが、母は「お父さんに聞きなさい」と返したのでした。後に松本人志の『遺書』を読んで、”カキタレ”という言葉に当たり、文脈から悟った。”かく”はなんとなくイメージの湧く音だけども、”こく”はどういう語源なんだ。今度調べてみよう。



水曜日。「りななん死んだん?」というメールが昼休みにきて、「何言ってるの??」と返信しながらネットを開いてその訃報に言葉を失くす。まったく理解は追いつかないが、あまりの哀しみにデスクにて涙が零れてしまった。私立恵比寿中学は私が初めて現場通いをしたアイドルだ。夢中になって追いかけていたのは2011~13年頃の短い期間だったけども、遠方のショッピングモールでのインストアライブやらお渡し会やら駆けまわったのはいい思い出である。『エビ中グローバル化計画』(2014)や『甲殻不動戦記 ロボサン』(2014)も大好きな番組だったし、神宮球場でひなたに遭遇するのは夢だし、ずっと心の片隅で好きで、「芸能界で大成しなくてもいいから、どうかみんな幸せになって欲しい」という境地に達していた。18歳・・・あんまりである。こんなにやるせないことは今年はもう起きないで欲しい。どうか安らかにお眠りください。帰宅して、家から2番目くらいに近い銭湯へ。水風呂が23℃なのですっかり敬遠していたのだけども、冬だし水温も下がってるかもと期待したら、あい変わらずでした。でも、テレビなしのサウナに歌謡曲中心の有線が流れていて、良いんだよな。布施明の「君は薔薇より美しい」と高橋真梨子の「ごめんね…」に泣く。「君は薔薇より美しい」ってミッキー吉野のペンなんですね。サウナで少し精神がリラックスしたので、意を決して『カルテット』4話のエントリーを書き上げた。結果として出来上がった文章は「生きていかなきゃね」という気持ちが少しだけ込められたものとなり、りななんに捧げたいなと思った。



木曜日。やたらと寒いと思ったら、外に出ると雪が降っていた。雪は寒いと降るのだな、と当たり前のことに感心した。

体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ

穂村弘の初期の短歌。少ない言葉数で親密な世界を立ち上げている。かっこいい。試しに「ゆひら」でツイート検索してみたけども、誰もつぶやいていないことかよ。朝、セブンイレブンで「たっぷりたまごサンド」とホットコーヒーを購入して出勤。たまごサンドとホットコーヒーの相性の良さはもっともっと褒め称えられるべきだ。たまごサンドを口に含んでコーヒーを流しこむと、味の深みが一段階上がる。雪でダイヤが乱れそうなので、早めに帰ろうという空気が職場に生まれる。スフィアン・スティーヴンスの『ミシガン』を聞いて帰る。

ミシガン

ミシガン

今週の『万年B組ヒムケン先生』がまっこと素晴らしい。ユウコさんと師匠、最高。文脈がよくわからないまま、当人達が勝手に報われていて、大島弓子の漫画のようなフィーリングだった。いや、ほんとに。あと先週の『くりぃむナンチャラ』の三四郎小宮ドッキリも最高。近年稀に見るいいドッキリでした。ネタばらしも観たかった。2本とも小宮無双である。前にも書いたんですが、芸人のくじらさんが「喋った瞬間にこいつは売れると思った芸人」が、オードリー若林、バイきんぐ小峠、三四郎小宮の3人らしくて、見事に的中したので、4人で番組やって欲しいです。話題になっていた先週の『モニタリング』での吉岡里帆心霊ドッキリ観た。クレバーでかわいい人だ。
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レイトショーでティム・バートンの新作『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』を観た。期待しまくっていたけども、それを上回る素晴らしさだった。ティム・バートンで1番好きかもだし、2017年ベストがこれでも不服なし。大興奮であります。『ダーク・シャドウ』(2012)も大好きな作品で、ティム・バートン×エヴァ・グリーンは最高なのである。
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金曜日。昨夜レイトショーを決めたせいでヘロヘロだ。久しぶりにままならぬほどにくだびれていて、新しい職場の緊張もあるのかしら。この日は原田治の訃報。
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好きだったな。色々やられていたけども(崎陽軒の”ひょうちゃん”はほんと大好き)、やっぱりミスタードーナッツの印象が強くて、原田治さんのイラストは日曜日の朝食だとか放課後のおしゃべりだとか、幸福な時間とイコールで結ばれている。

坂元裕二『カルテット』4話

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軽井沢の別荘にゴミが溜まっていく。なるほど、カルテットのメンバーは皆一様にして”捨てられない人”だ。たとえば、すずめ(満島ひかり)ならば同僚からの”出てけ”のメモを引き出しが一杯になるまで溜め続けていたし、巻(松たか子)は失踪した夫の靴下をそのままの形で保存する。別府(松田龍平)は長年の巻への片想い、家森(高橋一生)は別れた家族への想い、もしくは”アジフライにはソース”というこだわりを捨てられない。この捨てられなさは当然、”呪い”というイメージと結びついていることだろう。捨てられないゴミは腐臭を放ち、別荘の部屋に侵食してくる。この”侵入”のイメージが4話のキ―である。ゴミに続いて、半田が、そして鏡子(の眼鏡)が、光太が、茶馬子が、次々に他者が別荘に侵入してくる。これまでカルテット以外に別荘に入ったのは、有朱だけ。しかし、それはすずめのみが在宅中の時であったはず。4人が揃った別荘に他者が侵入してくるのは初めてなのだ。であるから、この4話は徐々にチューニングのとれてきたカルテットの調和に再びノイズがきしむ。”侵入”のイメージはこれだけに留まらず、これまで映されることのなかった家森の部屋に3人が、巻の東京のマンションに別府が、足を踏み入れることとなる。そして、放送のラストにおいても何者かが巻の部屋に”侵入”してくる、というサスペンスフルな結びをみせている。余談にはなるが、半田の風邪のウィルスは家森に侵入し、床に伏せさせることとなる。半田が軽井沢の冬景色において、執拗にカーステレオで杉山清貴&オメガトライブの「ふたりの夏物語」を流す異物感も、どこか彼が”侵入者”であることを体現しているようだ。*1


4話の主役は家森諭高。足の臭い美人が好き。元妻である茶馬子は何故だか冬でもサンダルを履いているわけだけども、きっとそれは蒸れるとすぐに臭くなってしまう足を気にしているからで、家森はそれを察することができずにその風変わりな行動を咎めるし、茶馬子もまた自身の足の臭さがチャームポイントになりえることに気づけない。実にさりげなく絶望的な”すれ違い”が描かれている。トイレのスリッパを履きっぱなしにしてしまう、という所作(もしくは臭み)ですずめと茶馬子を結びつけてしまうのも、「茶馬子はおれのこと知ってるからねぇ」という一言で家森からすずめへの好意をさらっと表現してしまうのも実に巧みである。他にも、水を飲む時は身体を持ち上げてあげる、というかつての習慣が必要なくなっていることで子どもの成長(と家森との空白の時間)を表現したり、半田の「痛くして悪かったね」で家森の家族への愛情を妻に悟らす、などいちいち"ながら見"厳禁な渋い脚本と演出のオンパレード。

結婚ってこの世の地獄ですよ
婚姻届は呪いを叶えるデスノートです
毎日喧嘩して離婚届を持ってこられて、それでも息子と離れたくないから抵抗していたんですけどある時、駅の階段から落ちて…とにかく人生であんなに憎んだ人はいません

坂元裕二ファンであれば、誰もが『最高の離婚』(2013)のフィーリングを嗅ぎ取り、狂喜したことだろう。もともと家森の理屈っぽさは完全に光生(瑛太)だったわけですが、不思議と髙橋メアリージュンの佇まいも結夏(尾野真千子)のように見えなくはない。であるから、もう家森と茶馬子の喧嘩でのやりとりは『最高の離婚』の並行世界を観るようだ。それはつまりは『最高の離婚』の光生と結夏と同様に、まったくそりが合わないように見える家森と茶馬子の間にも確かに愛が存在していた(る)ことを想わされる。「20代の夢は男を輝かすけど、30代の夢は男を燻ますわ」「子をかすがいにした時は夫婦は終わりや」みたいなフレーズは確かにキレキレだが、これらはあくまで「NAVERまとめ用」と個人的には考えている。それよりも、ここである。

家森:茶馬子は俺のドラゴンボールだよ
   のどぐろだよ キンキだ クエだ
茶馬子:あと?
家森:あと・・・伊勢海老
茶馬子:魚!
巻:(家森に小声で)関さば・・・
家森:・・・関さば!

まったく意味のない高級魚の言葉遊びで微笑み合える家森と茶馬子(さりげなく巻も絡んでいるのも見逃せない)。これこそが、他人である2人が一緒に生きていく理由みたいなものではないだろうか。こういった愛の描き方こそ、坂元裕二の真骨頂だと思っている。愛を実に曖昧な繫がりがで描く。離ればなれに暮らす家森、茶馬子、光太を”家族”たらしめていたのは何だったろうか。”音”である。家森が口笛で吹くメロディーと光太のリコーダーの音色が共鳴したことで、すれ違わんとしていた2人の繫がりが結び直される。茶馬子の独特なチャイム音の鳴らし方で、家森が元妻の到来を確信する。音が3人を家族たらしめる。では、4人で同じ音を奏でるカルテットはどうだろう。やはり、曖昧な繫がりをより強固なものにしている。同じブランケットに包まれて震えるすずめと家森、当然のように衣装(ベージュのダッフル)を共有する別府と家森、並んで歯を磨き、並んで家森の涙を覗き見し、揃いの少女漫画風メイクで並んで写真を撮る(4話における並列カットのなんと多いことか!)。嘘と秘密が交錯しもつれ合う第4話*2でありますが、この”共同体の繫がり”の強さに偽りはない、と信じたい。



”捨てられない人”であるはずのカルテットメンバーだが、巻は夫をベランダから捨てたのでは、という疑惑が持ち上がる。これまで繰り返し演出されてきた、転倒や落下のイメージがここに集まってくるとは。巻は夫を殺したのか、つまり、彼女は善人か/悪人か、というのが視聴者の関心をリードしていると思うのだけども、そこにはっきりとした結論は下されないだろうと予想している。別府が、「これから本心を話しますよ」というメタファーを託しながら、甘栗の皮を剥いて語った言葉を思い出したい。

あなたといると2つの気持ちが混ざります
楽しいは切ない
嬉しいは寂しい
優しいは冷たい
愛しいは・・・虚しい
愛しくて愛しくて虚しくなります

2つの気持ちが混ざる。これは2話の”赤”と”白”で紅白、3話の”赤”と”緑”でクリスマス、と繰り返し演出されてきた構造。別府の叫びは、あいまいなものはあいまいなままでいい、という祈りの裏返しだろう。巻が善人か/悪人か、白か/黒か、というのは重要ではない。

ああ 白黒つけるのは恐ろしい 切実に生きればこそ

そう人生は長い、世界は広い
自由を手にした僕らはグレー

それはエンディング曲「おとなの掟」がすでにテーマとして鳴らしている。白と黒の混ざったグレーこそが、本作の描くものだ。ちなみに、この”混ざる”という演出は4話でも頻出している。半田が風邪薬にアポロのチョコを混ぜるのもそうだろうし、家森の手を振ってはしばし別れてからの涙拭き(高橋一生の一世一代の名演)、そして、子別れの涙の後に見せる笑顔もそう。涙の後にすぐさま笑いがくることがある。別れ話をしながらでも朝焼けのベランダで食べるサッポロ一番は美味しいし、実の父が死んだ直後でもカツ丼は旨い。坂元裕二の脚本は、悲しいのに笑うことも、「死にたい」と思いながら、ご飯を食べることも否定しない。この複雑な世界は、決して単一的な感情でできていないことを、徹底的に解明してくれるのだ。

*1:その証左というわけではないが、舞台が横須賀に変わると、半田が口ずさむのは山口百恵の「横須賀ストーリー」に変わる。ただの”物語懐メロ”大好き副部長なのだ。

*2:え、まだ4話なのか

モリナガ・ヨウ『築地市場 絵でみる魚市場の一日』

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イラストルポというのが好きだ。圧倒的な密度の情報を記憶し、記録し、分類し、イラストという形で再構築する。それは何かがそこに確かに”在った”という事実に、ペンでもって挑むことだ。あぁ、かっこいい。憧れる。中でも1番のお気に入りはモリナガ・ヨウである。その柔かくも緻密なタッチを眺めるのは、宮崎駿近藤喜文の絵に触れる時の喜びに近い。所作、仕草、空間の見事な切り取り、それらは根気と鋭さを併せ持った観察眼と対象への愛によって達成されている。モリナガ・ヨウの絵には、まさに”写真には写らない美しさ”があるのだ。数多くの著作の中でも、90年代の変わりゆく東京の街のをひたすら歩いてスケッチすることで保存した『東京右往左往』はオススメのアイテム。

東京右往左往―TOKYO GOING THIS WAY AND THAT

東京右往左往―TOKYO GOING THIS WAY AND THAT

そして、昨年刊行された、第63回産経児童出版文化賞も受賞した『築地市場 絵でみる魚市場の一日』もまたオススメの1冊なのであります。「食卓に並ぶお魚はどこからやってくる?」というのを築地市場をベースにして、子ども向けに解説する絵本。築地市場の有様を克明に記録した本書は、移転問題によってその存在が揺らいでいる現在において、とりわけ重要な価値を備えてしまったように思う。


すべてのことは真夜中に起こる。密やかな夜の築地(せり場には観光客は入ることができない)の熱狂が閉じ込められたイラストの数々を眺めていると、思わず胸が躍り出してしまう。ここには確かな”熱”が記録されている。そして、それらは朝に向かうにつれ、何事もなかったように散っていってしまう。せり場のピークタイムを経て朝方の水色のアンビエンスまでをイラストに収めて終える本書の構成はクラブミュージックのようでもある(こじつけ)。


数多のトラックが築地市場に集まる様子(ひと晩に8000台!!)、せり場からマグロを乗せたターレ(電気で走る構内運搬車)や小車が飛び出してくる様子etc・・・そんな地味そうなモチーフも、モリナガ・ヨウの手にかかれば、とてつもなく、かっこいいのです。濡れた地面にはライトの灯りが反射し、夜の詩情を演出している。数々のメカニックの精緻な描き込みと大胆な構図には、思わずSF的想像力さえ刺激する事だろう。市場の建物が緩やかなカーブをえがいているのは、かつて魚を運ぶための鉄道がひかれていた名残・・・なんて記述には思わず「おぉっ」と声が漏れてしまった。積み重なる土地の記憶。そして、図鑑的側面を満たす、水槽、マグロを切り分ける包丁、のこぎり、まな板、デジタルの計り、注文のメモ、運搬車、砕氷機、深夜営業の売店、発砲スチロールの残骸、清掃の散水車といったマニアックな視点で描き込まれる細部の充実は興奮必至。お子様の食育教育にもバッチリですが、散りゆく築地市場の熱を目撃したい方、もしくはメカオタクからマグロオタクまであらゆる人々が楽しめる1冊に仕上がっております。オススメ。

かもめんたる『ノーアラームの眠り』

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かもめんたるは凄いぞ。第18回単独公演『ノーアラームの眠り』もまた最高傑作を更新するかのような完成度。全てのコントが高水準であったけども、中でもとりわけ気にいったのは「山菜狩り」「相談」「フードファイター」の3本。「山菜狩り」はかもめんたる的発想の美学が最も研ぎ澄まされた1本で、山菜狩りという地味なテーマからは想像もつかない場所に連れていってくれる。「相談」は突飛な発想を捨て去り、シンプルに”すれ違い”を突き詰めた意欲作。両者ともに正しいことしか言っていないのに、とことんズレていく会話劇。かもめんたるしか掘り下げない穴、というのがあって、その深度のレベルが桁違いであった。「フードファイター」は泣ける。とにかく泣ける。このコントに限らないのだけども、槇尾ユウスケの演技力がとてつもない領域に突入していて、”演じること”を離れ、ただただそこに役として”在る”かのような、凄いものを見せられてしまう。必見だ。


単独公演を重ねるごとに、笑いの純度をどんどん研ぎ澄ましながら、文学性のようなものもまた濃密になっている。『メマトイとユスリカ』(2013)という単独公演を観て、興奮のあまり「岩崎う大カート・ヴォネガットである」だなんての大言壮語をのたまってしまったわけですが、それはなんら間違いでなかった、と胸を張れる。”笑い”というフォーマットでSFベースの荒唐無稽な世界を作り上げ、そこに存在する歪で滑稽な全ての人々愛で包み込む。それはこの混沌とした現代の一面を描き切ってしまっているように思えるのだ。かもめんたるの単独公演では常に、”繫がりたいのに繋がれない人々”というが登場する。たとえば、姿はそっくりなのに別種であるが為に交尾のできない昆虫、人間と感情を持ったロボット、そしてこの『ノ―アラームの眠り』では、ショートスリーパー眠民、である。遠い未来、人々は1日15分の睡眠で活動が可能な”ショートスリーパー”、1日の大半を眠りに費やし、起床時間が40分である”眠民”に分断される。眠民ショートスリーパーの発する眠気を吸収して眠る。そのおかげで長い活動時間を可能としたショートスリーパーが経済を回し、眠民の生活を養う。ある意味、双方円満の関係であったわけだが、やがて、ショートスリーパー眠民の間には畏怖の念、羨望、差別意識・・・といった様々な感情が表裏一体に発生し、接続不可となっていく。これが本公演を貫く核となるストーリーだ。映画や演劇が1本作れてしまう設定の練り込みである(その筆致には思わず手塚治虫星新一筒井康隆などを重ねてしまう)。


ショートスリーパー眠民が恋に落ちたとしたら、どうなるだろう?活動時間から価値観まで決定的にズレた二種間。わかり合えるはずのない2人は、徹底的にすれ違いながらも、なお懸命に繋がろうとする。その姿は、哀しくも、どこか可笑しい。そして、岩崎う大は、そんな交われない2人の為に、「せめて夢の中だけでも」とかすかな繫がりを用意する。そもそも、「他人の眠気を吸いとり、夢を見る」という設定が泣けるではないか。そういった緩やかな連帯こそが、この現代を生き抜くかすかな希望だ。SFを駆使した壮大なスト―リ―の中においても、かもめんたるが描くのは、人と人が関わり合う時に発生する感情の機微だ。中にはひどい歪みや臭みを持つやりとりも多くある。しかし、それらすべてを笑いで包み込むことで、どんな感情も存在していいのだ、と肯定する。いや、感情に限らない。かもめんたるのコントは常に、あらゆる多様性の許容を訴求している。この意味においても、かもめんたるは現代最も重要なコント師と言える。そして、その活動は、坂元裕二木皿泉の書くテレビドラマ、もしくは、こだま『夫のちんぽが入らない』などと極めて近い場所に存在していることに改めて気付かされたのでした。



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最近のこと(2017/01/30~)

花粉症のはじまりを感じている今日この頃です。駅から職場に向かう途中で、小さな娘を肩にかついで通勤する超人スタイルの大柄なサラリーマンによく遭遇する。肩の上でいつもご機嫌の娘ちゃんがかわいくてすっかりその親子のファンなのだけども、初めて見かけてから2年ほどの時が経ち、最近は娘ちゃんは父の肩から降り、スキップを踏みながら歩いている。地上に降り立ってもご機嫌の天使ちゃん。すっかり感動してしまった。この度、職場が移動になり、もうその成長を見守ることができないのが残念でならない。小沢健二が今月シングルをリリースするとの噂は本当なのかしら。小沢健二聞きながら村上春樹読む、2017年の2月なのかよ。そもそも『1Q84』も『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』も読み終えてない気がする。しかし、それよりも2月は26日からNHKで『火花』が全話放送されるらしいから、非Netflixユーザーの皆様におきましては絶対に録画を忘れないで欲しいです。



月曜日。スーパーで豚バラ肉と白菜ともやしを買って、ポン酢とにんにくチューブで食べた。月9『突然ですが、明日結婚します』2話観たのだけども、これは厳しいな。ここまで回想を多用してしまうセンスは絶望的。思わず、白菜喰いながら、「回想多っ」と声に出してしまうほどでした。私は回想シーンなんてのは使わなければ使わないほど偉い、という偏った思想の持ち主です。特にこの作品においては、効果的なリフレインというよりも、時間が埋める為に、挟みまくっている感じがあまりにまずい。実家のシーンの演出の強烈な古さにもビックリしてしまった。風呂で「一緒に入る?」「バカ」とか、部屋でいちゃついていると家族が覗きに来る、なんていうのを平気な顔して撮れるのは一種の才能か。『カルテット』は伏線だらけなのに回想シーンがない。ある意味、非常に不親切な作りなわけだけども、そこに痺れてしまうというか、故に物語が緩まないのだ。『万年B組ヒムケン先生』にもすっかりはまっている。BGMが「贈る言葉」とかのベタ使いに留まらず、『3年B組金八先生』の劇中音楽などもしっかりサンプリングしているのが渋い。しっかし、小峠さんと小宮さんが改めてむちゃ好きだ。小沢と小山田くらい好きだ。



火曜日。『カルテット』の日だ。『逃げ恥』くらいから、ドラマ開始直前まで放送している『マツコの知らない世界』もちょいちょい観るようになったのだけども、すっごく流し見にちょうどいいおもしろさで好きだ。マツコデラックスであるからして、どんなテーマでもそれなりにおもしろいのだけども。番組の作りにもやだみがなく、テーマソングがリンダ・スコットの「星に語れば」だったりと、細部のセンスも気が効いている。今週の「おひとりさまアプリの世界」で紹介されていた「ひとりぼっち惑星」というアプリは観測を続けていれば、1冊の本が書けそうな代物なのでは。多分7割くらいはいい事を言おうとした格言めいたもので占められているのだろうけども、そこから零れ落ちた本当のつぶやきみたいなものにキラリと光るものがありそう。マツコが言うように、「九十九ラーメンのチーズラーメンって結局食べたこと無いよね」みたいなつぶやき。昔のTwitterみたいな。『カルテット』3話むちゃくちゃいい。思わず、泣いてしまった。カツ丼が異様に食べたくなってしまった。瑛太が今のところ、毎話感想をツイートしているのがうれしい。しっかし、松たか子、すさまじいですね。松たか子が出ているテレビドラマを色々観返してみたいのだけども、意外とレンタル屋に置いていない。『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』『じんべえ』『お見合い結婚』の再放送求む。もしくはNetflixさん、ジャニーズ絡みは無理としても『お見合い結婚』を頼みます。

お見合い結婚(1) [VHS]

お見合い結婚(1) [VHS]

ユースケ・サンタマリアに『沈黙』(まだ観てない)の窪塚洋介も出てるぞ!



水曜日。仕事後、本屋さんへ。岸政彦『ビニール傘』の単行本を購入。

ビニール傘

ビニール傘

芥川賞候補になった初の小説集。2編とも好きでした。モリナガ・ヨウのイラストが素晴らしい『築地市場 絵でみる魚市場の一日』『南極建築1957-2016』も購入。
南極建築1957-2016 (LIXIL BOOKLET)

南極建築1957-2016 (LIXIL BOOKLET)

ドン・キホーテ』を岩波文庫で全6冊、いつも今年こそ!と思って買おうと思うのだけども、決意した時に限って、前編1巻が売り切れていたりする。こういう”虫食い”って大きい本屋でもなかなか解消されない。2週間後行ってもそのままだったりする。昔、本屋さんの会社説明会聞きに行ったことあるんですけど、「お客様が欲しい本が棚にないのは本屋にとって最大の恥」と連呼していた気がするだけどなぁ。もう機を逃した感じがあって、今はドン・キホーテという気分ではなくなっている。穂村弘の『絶叫委員会』
絶叫委員会 (ちくま文庫)

絶叫委員会 (ちくま文庫)

という本を立ち読みしてみたら凄く面白くて、今度買おうと家に帰ったら、本棚にあった。すっかり忘れていたけども、読み直してみたらむちゃ影響を受けている気がした。名著だと思う。お土産にもらった「天馬」のカレーパンが美味しかった。味の種類が豊富で、バターチキンは中にタンドリーチキンが丸っと入っているのです。ビーフカレーが美味しかった。『水曜日のダウンタウン』観てから『カルテット』3話の書き起こして、夜中にブログの素材を書き溜めた。



木曜日。仕事上がりに「タイムズスパ レスタ」へ。これが考え得る平日の1番の贅沢だ。木曜日なのがミソで、サウナで身体を温めながら、「明日働けば休みだ―」と思うのが最高なのです。施設がとにかく綺麗&いい香り、サウナも緩めなので、ぜひ「タイムズスパ レスタ」でサウナデビューを飾って欲しい。高いけど。ロウリュウの森の香りもこれまたいい匂いでディープリラックスでした。ときにいつからか急にスパゲッティでなくパスタという名称が幅を利かすようになったのは、”スパ”という文化が日本に根付いてきた時期と重なるのではないか、という仮説に辿り着いた。いや、スパゲッティにしろパスタにしろ”スパ”と似ているな、とすぐに思い直して、この仮説を捨てた。帰宅してceroが出演する『SONGS』を観た。ceroがかっこよくて本当によかったです。『アメトーーク』の「スクールウォーズ芸人」がひさしぶりにおもしろかったです。早く「3年B組金八先生芸人」やって欲しい。



金曜日。朝、いつも買うサラダが売り切れていたので、節分ということで思わず恵方巻きを買ってしまった。せめてもとサラダ恵方巻き、みたいなやつ。じゃがりこのサラダ味で野菜を摂った気になる、みたいなネタがあった気がする。何だっけ。仕事終わって、自転車で荻窪まで行って、友達と遊んだ。EMCが推薦していた中華屋「徳大」で炒飯を食べる。
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素朴な味で美味しいし、店内のヴァイブスがとてもいい。次は肉炒飯なるものが食いたい。久しぶりにカラオケに行った。友達が歌っていた嵐に涙腺が崩壊。2003~2008年くらいの嵐は私の青春そのものであった事に気づかされました。シングルだと「Step and Go」「きっと大丈夫」「We can make it!」がマイベスト3なんですけども(アルバム曲ならみんな大好き「Love Situation」です)、「PIKA★★NCHI DOUBLE」とか「アオゾラペダル」とかでさえ泣けた。たいした曲と思ったことなかったんですが、もうむちゃ泣けた。青春時代ずっとこの曲が鳴っていたのでは、という気さえするほどに思い出蘇りし。



土曜日。練馬の「ケララバワン」でビリヤニとミニミールス。色々行ったインド料理屋の中でここが1番好きかもしれない。自宅に憧れのスウィートフェンネルを取り入れた(大久保あたりで1キロ500円で買える)ので、お口スッキリ。
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携帯してフリクス代わりに食べてもいいかもしれない。かもめんたるの単独を観る為に、当日券を求めて、新宿モリエールに並ぶ。隣のビームス猿田彦珈琲が設置されていた。猿田彦珈琲がGEROGIAと一緒にやったのはブランディングとして成功だったのだろうか。500円出して飲もうとは思えなくなってしまった。当日券を無事ゲットし、ブックオフのセールで文庫を数冊買って、開演までの時間を潰す。『ノ―アラームの眠り』は大変な傑作でありました。
hiko1985.hatenablog.com
みんなもっとかもめんたると同時代に生きていることをありがたがるべきだ。花粉浴びはじめで、一気に体調が悪くなり寝込む。前田司朗×ネプチューンのドラマを見逃した。



日曜日。体調悪化で途端にすべてのやる気がなくなり、寝て過ごす。乃木坂の握手会あったんですが、とばす。桜井玲香さんに会いたかったものです。しかたないので、ベッドで本を数冊読んだ。長嶋有を時系列に全部読んでいく、というのをやっていて、久しぶりに読み直した『猛スピードで母は』『タンノイのエジンバラ』のエピソードの瑞々しさにやられた。

猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)

タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2))

タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2))

とりわけ「バルセロナの印象」という短編に打ちのめされた。テレビドラマの脚本家に長嶋有のような人が1人でもいいからいて欲しい。夕方くらいにさすがにこれでは1日がもったいない、と近所の銭湯へ。100℃超えのサウナで急速にととのった。『南極建築1957-2016』をパラパラ観ていたので、Netflixで沖田修一『南極料理人』を観ることに。
南極料理人 [DVD]

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『モヒカン、故郷に帰る』はパッとしなかったが、やはりすごく好きな監督だ。ナイスな演出がてんこもり。堺雅人かっこいいし、高良くんかわいいし、古舘寛治と黒田大輔が揃いぶんでいるのも、もはや豪華に感じる。古舘さん、テレビで観ないクールはないくらいに売れまくっていて凄いですよね。『リトルウィッチアカデミア』と『小林さんのメイドラゴン』が引き続きおもしろい。どっちのOPもEDも好きです。球春到来も近い。寺島や星のキャンプ情報に一喜一憂する毎日です。今年は頼むぞ、小川。