青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

三井記念美術館『超絶技巧!明治工芸の粋』


由緒ある三井記念美術館に似つかわしくない「超絶技巧!」というビックリマークの出現にも納得させられてしまう美と贅の狂気。酔いしれる。とりわけ心を捉えたのは並河靖之の七宝の数々。圧倒的な色彩感覚と構図力。ミニマルでミニマム。そして、それを支える技術力。展示会でも最も行列が巻き起こるスペースでした。漏れる感嘆の声と溜息。目を凝らすあまり展示のガラスに頭をぶつける人多数。これが圧倒的な美を前にした人の姿なのだ。赤塚自徳の漆工「四季草花蒔絵堤箪笥」の圧倒的な贅(扉を開くと蛍が舞う夏の夜!)や正阿弥勝義光「古瓦鳩香炉」の粋な遊び心にも痺れた。「刺繍絵画」光や角度によって表情を一変させる質感。とりわけ水の描写には唸らされた。「自在」と呼ばれる稼働可能(現代のフィギュアの比でない)な伊勢エビや鯉や蟹や蛇に、男子マインドをくすぐられた。そして安藤緑山(文献も残っていないし、弟子もおらず謎の人物らしい)の牙彫品の数々の凄さときたら!徹底したリアリズムに基づいた竹の子、蜜柑(しかも皮を少し剥いた)、パイナップル、茄子、パセリなどの野菜や果物が象牙で彫られている。食品サンプルが芸術に高められている。


異常としか思えない美への執着と技術。これは何なのだろう。それが例えば、建造物とか仏像であれば、「祈り」や「救済」といった言葉で片付けてしまえそうなのだけども、今回の超絶技巧の対象は壺、皿、茶入れ、香炉、煙草ケース、果ては残菜入れ(=生ゴミ入れ)などといった嗜好品や生活雑貨である。更には前述の虫や野菜などの置物。もはや嗜好品なのかも怪しい。これらに向けられた労力、執着は一体何なのだ、とクラクラしてしまうのだけども、どうしようもなく惹かれてしまうのは、意味性の排された剥きだしの”美”であるからに他ならない、と感じた。この展示の技術のほとんどがもう失われてしまっているというのもゾクゾクしてしまう。