
ちょ待てよ!
でお馴染みの*1の『ラブジェネレーション』をひさしぶりに観直した。1997年放送の平均視聴率30%超えのフジテレビ月9ドラマ。そんな平成ラブストーリーの名作*2がFODに続いて、Netflixでも視聴可能になった。ここ数年で『ロングバケーション』『ギフト』『ラブジェネレーション』『眠れる森』『ビューティフルライフ』『HERO』『空から降る一億の星』といった木村拓哉の黄金期を捉えた主要ドラマ作品が何かしらの配信サービスで観ることができるようになった(あとは『あすなろ白書』『若者のすべて』『人生は上々だ』を!)。ほとんどの作品が配信はおろかDVD化もしておらず、都会の大きなレンタルビデオ屋に行って、VHS で借りて観るしかなかった頃を想えば、いい時代である。過小評価されがちな木村拓哉という稀有な俳優の魅力発見に繋がることを祈る。木村拓哉の気怠い発話と身体性には、都市生活の孤独と軽薄さが複雑な色気として香り立つ。「何をやってもキムタク」というのが常套のけなし文句として使われるわけだけども、それは果たして批判になりえているのだろうか。それはつまり、木村拓哉という役者に圧倒的にオリジナルな記号性があり、さらにそのシンボルが大衆の魂に浸透しているということだ。そして、それは松たか子という偉大なる俳優にも同様のことが言えて、そんな国民的カップルのはじまりの物語として『ラブジェネレーション』は永遠に尊い。
特に1話冒頭の4分半の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものがある。大滝詠一「幸せな結末」をBGMに、渋谷の夜景が映し出され、山手線の渋谷駅のホームに最終の電車が到着する。哲平(木村拓哉)がそれに乗り込もうと渋谷の街を疾走するも、無情にも電車は走り去っていく。それを眺めながら、「最低だっ」と呟き、結んでいた長い髪をほどく。PHSで適当な相手に連絡をかけていくも一向に捕まらず、今は亡き東急文化館前のガードレールに腰かけ、途方に暮れている。そこに、痴話喧嘩の果てに相手の男から無理矢理に車を降ろされてしまった理子(松たか子)が現れる。PHSのアンテナを口にくわえながら*3、その様子を眺めていた哲平は、いいターゲットが見つかったというように声をかける。なかなか相手にされない中、哲平は赤いラークを口にくわえ、理子にも「吸います?」と煙草を差し出す。そして、理子がくわえた煙草にライターでもって火を灯す。丁寧にカットを割りながら、たっぷりと時間をかけて撮られるこのシーンは、何気ないようでいて、運命の2人の恋心に火がついたこと、その"幸せな結末"を充分に予見させる。出会いの瞬間はロングショットで撮られ、スーパースターの2人が街の風景に散らばる。そして、2人の上空には渋谷パンテオンの手書きの映画の看板*4。広告は『ラブジェネレーション』の重要なモチーフだ。愛すらも売り物となった資本主義の街で、そこかしこに散らばるありふれたラブストーリーとして物語は始まっていく。
東京では誰もがラブストーリーの主人公になる
というのは『東京ラブストーリー』(1991)のコピーだが、『ラブジェネレーション』に一層ふさわしいように思える。
『ラブジェネレーション』は、特殊な職業モノではないし、難病や不倫といった大袈裟なシチュエーションもなく、どこにでもあるような実にありきたりな純愛のドラマだ。ドラマを押し進めるのは、哲平と理子の素直になれなさ。何度も何度も同じような“すれ違い”を繰り返し、結ばれては離れ、結ばれては離れる。この平凡さをドラマとして成立させ、視聴者を熱狂させたのは、やはり主演2人の演技の切実さだろう。
あたし幸せなんだよぉ
哲平がね 側にいるだけで
これ以上ないって思うくらい幸せなの
だから不安なの
あたし哲平いなくなったらさ
あたしの回りの空気薄くなっちゃって
息できなくなっちゃうよきっと
どこにも行かないでね哲平
もうどこにも行っちゃヤダよ
愛するということはその深さに比例するように大きな不安がつきまとう、というありふれてはいるが、困難な愛の問題にふりまわされる姿を体現した松たか子の演技が胸を撃つ。
さて、冒頭の「ちょ待てよ!」に戻るわけだけど、哲平はなぜ、理子に対して、むやみやたらに待機を請うのか。哲平はスケベで軽薄であるが、"過去"に囚われた男だ。営業部に異動になってもクリエイティブの仕事に未練があり、さらには学生時代のガールフレンドへの想いを断ち切れない。一方で、理子は後ろを向くことなく、“今”を生きている(1話で発される"未練捨てましょゴッコ"!)。であるから、理子は常に哲平の先に進んでいく。そんな理子を、哲平は何度も何度も「待てよ!」と追いかけていく。『ラブジェネレーション』というのは、哲平が過去を振り返えることをやめ、理子と共に"今"を生きるようになるまでのお話なのだ。主題歌の「幸せな結末」もまたこのドラマのフィーリングを見事に汲んでいる。
振り返るのは終わりにしよう
他の誰でもなく 今夜君は僕のもの
踊り出す街に 二人の“今”を
探し続けて はしゃいだあの日
さよなら言うよ 虚ろな恋に
いつまでも話さない
今夜君は僕のもの