
2026年5月をもってアイドルグループ嵐が、1999年から始まったその活動を終了させる。疑いようもなくこの国を代表するアーティストであり、“時代”そのものであったわけだから、その消失には足場を失うような心細さを覚える。その寂しさに抗うように、嵐が残した素晴らしい楽曲群から55曲を選出したMY BESTプレイリストを作成して聞き狂っているのだけど、改めて平成という時代の空気を捉えているというか、嵐という大衆音楽が平成のムードを作り上げていたのではないか、とすら思う。
アルバムの最初の4枚は、SMAPの音楽的な黄金期と同様に鎌田俊哉がディレクションしており、レコーディングミュージシャンにオマー・ハキムやウィル・リー、制作陣には戸沢暢美、CHOKKAKU、コモリタミノル、岩田雅之、庄野賢一といったクレジットが並び、リッチなトラックと嵐の青い歌唱のアンマッチが、唯一無二の魅力を放っている。特にオススメなのは「愛と勇気とチェリーパイ」「Deepな冒険」「On Sunday」「IROあせないで」「愛してる言えない」あたり。すべて、戸沢暢美のペン。SMAPの「KANSHAして」「胸さわぎをたのむよ」「たいせつ」を作詞した実績のある彼女が紡ぐリリックには、都会の暮らしの中で、市井の“ありきたりさ”に埋没することの美学のようなものが貫かれている。
愛と勇気とねRedチェリーのパイ
それだけあれば
なんにも怖くない 乗り越えられる
世の中は複雑だけれけど
嵐「愛と勇気とチェリーパイ」
There’s so Many Many People
生活している 特別なドラマはなくっても誇れるくらい 似たような毎日を
重ねて生きてこう
嵐「On Sunday」
重要なのは、そんなありきたりさの中でも“善良である”ということ。
夕方からのBad My Friends
今日もビデオshopでrun×3
クツをはきかえ 胸をきしませ
流れてく時を手に入れる
誰かを信じるとか
誰かのうわさ話に音を立てて歩く
これしかできない
嵐「君のために僕がいる」
これは5枚目のシングル「君のために僕がいる」の櫻井翔のラップパートだが、なるべく“善く生きる”ということをこんな風に鮮やかに表現できるのか、と感動してしまう。デビュー曲「A・RA・SHI」のサビが“You are my SOUL!SOUL!“、2枚目シングル「SUNRISE日本」のサビやラップで、“SUNRISE日本つきぬけろ 魂はここにあるさ”、“魂で生きてたと 言えるように言えるように”とあるように、「魂」というのが初期の嵐の重要ワードであり、つまりは「平凡な日々の中でも、“魂は輝かせたい”」ということが歌われているのだ。
個人的なリスナーとしてのピークタイムは2005年からの「WISH」「きっと大丈夫」「アオゾラペダル」「Love so sweet」「We Can make It!」「Happiness」「Step and Go」「One Love」といった大名曲を連続リリースした約3年間にある。ここらへんの楽曲を改めて聞いていると、嵐というのはこんなにも“サヨナラ”の似合うアーティストであったのか、と驚く。リーダーである大野智という稀有な才能を持つアーティストのいつ消えてしまうかわからないような儚さも寄与しているのだと思うが、国民的アイドルの地位を完全に確立した時期の楽曲でありながらも、そのキラキラさとは裏腹に、リリックはどれも少しビター。“百年先も愛を誓うよ”と歌った「One Love」が例外的で、ほぼすべての楽曲で、蜜月の時が“終わってしまうこと“について歌われている。
過ぎてく季節を美しい思えるこの頃
君がそこにいるからだと知ったのさ
「WISH」
淡い記憶が よみがえったら 君が笑ってる
若かった季節の足跡は 波間にキラキラ消えてゆく
いつも同じメンバーで 語り合ったこの場所に今(バイバイ)
この景色を焼き付けて 明日へ踏み出そう!
「きっと大丈夫」
思い出ずっとずっと 忘れない空
二人が離れていっても
こんな好きな人に 出逢う季節二度とない
「Love so sweet」
過ぎ去りし日々 振り返ることも出来ずに Everyday
どれくらいまだ この道は続くだろうか?
「We Can make It!」
思い出の後先を考えたら 寂しすぎるね
騒がしい未来が 向こうできっと待ってるから
走り出せ 走り出せ
「Happiness」
もう一度あの日に戻るとしても
おなじ路選ぶだろう「Oh Yeah?」
車輪が回り出したら 旅は始まってしまうから
もうはぐれないように
過去をそっと抱きしめる
「Still...」
いつも通り仲間達と過ごした季節重ねてた
きらめくように光る僕らの日々は胸でときめく
「Step and Go」
代表曲「Love so sweet」も、恋の全能感のようなもの歌っているように思われているが、よく聞くと恋の終わりを俯瞰で歌う不思議な曲だ。
輝いたのは鏡でも太陽でもなく
君だと気づいたときから
という冒頭のリリックも、恋人同士のデートの描写として読むと、ウィンドウショッピング中?試着室?と、シチュエーションがあまり掴めない。なので、この輝いて光っているのは、恋人と過ごしたかつての“思い出の中の君”としたい。恋は終わり、2人はもう会うことはできないのかもしれない。しかし、“思い出ずっとずっと 忘れない空”とあるように、恋人たちの抱えた想いは、それを上から見つめていた空(≒神様)が覚えている。
伝えきれぬ愛しさは
花になって 街に降って
どこにいても
君を“ここ”に感じてる
という松本潤による感動的なCメロのリリックにあるように、恋の想いは、たとえ終わってしまったとしても、花となり、光となり、この街に降り積もり輝き続ける。僕らの暮らす街が光り輝いているのは、これまでに存在したすべての恋人たちのラブストーリーで輝いているんだよ、というような歌なのではないだろうか。
”見慣れた街なみ いつもの仲間が離れてくなんて 旅だってゆくなんて”と歌われる「PIKA★★NCHI DOUBLE」など、嵐の重要な楽曲というのはほぼ同じことを歌っている。素晴らしい仲間や恋と過ごした最高の季節、それは確かに過ぎ去ってしまったのだけど、今でも心に光り輝いていて、これからの道を照らしてくれる。これを何度も何度もシチュエーションを変えて歌っているのだ。“もう二度と同じ時間は訪れないけど 息をしているんだ 心の奥深い場所”と歌われる「Five」はまさに集大成のような最終楽曲だ。
星のない夜空なんてつまらないと君は言った
けど僕らが歩いた軌跡がいま
星座を紡いでゆく
たとえイビツで不揃いな線でも
想いは繋がってる ほら
そう思えたこの瞬間が
永遠という名の嘘 本当にした
忘れないでいよう
サヨナラは少し、寂しい。それでも、(嵐と)過ごした時間は消えることなく、夜空に星座のように瞬き、これからのあなたの道を示してくれるだろう。どんなに過酷な時代でも、自分の魂だけは輝かせろ、と。