青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

神戸・京都旅行記

スパイスとサウナの旅にしよう、そう決めていた。スパイス×サウナだなんて、想像しただけで快楽の坩堝に蕩けてしまいそうではないか。土日を入れて三泊四日のささやかな夏休みであるからして、行先は神戸・京都に決定した。わりとすんなりと。関西方面はカレーとサウナの文化が関東に比べて何歩も先を行っている印象だ。とは言え、実際のところは、気まぐれなスケジューリングと胃袋の問題で、スパイスらしいスパイスは二食しか食べていないし、サウナもせいぜい3ヵ所といったくらいなわけだけども、それもまた旅の醍醐味だろう。どう考えても長くなりそうだが、旅の記録を簡単にまとめておきたい。


初日。久しぶりに乗る新幹線ははやかった。それは目的地に早く着くというのはもちろんなのだけども、体感として”速さ”を圧で感じてしまう、そのことに新鮮に驚いた。機内に乗り込む前に、東京駅のグランスタで駅弁を買う。駅弁は旅の始まりであるからして、そのチョイスには気を使いたい。焼肉弁当といったガッツリ系は魅力的ではあるのだが、胃袋には限りがある。旅先での食事に尾を引くおそれは避けたい。そこで今回チョイスした駅弁は「おいしい西京焼弁当」であります。
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「味の浜藤」が提供する、その名に恥じないあっさり系のおいしい弁当。西京焼きはもちろん、ひじきやきんぴらごぼうといった野菜中心のおかずが素朴に美味しい。

駅弁を食べ始めるタイミングは新横浜駅を通過してから

これは久住昌之が『孤独のグルメ』を通して、世に広めた理である。

孤独のグルメ

孤独のグルメ

井之頭五郎さんが駅弁を買い東海道新幹線に乗り込み席に座る。しかし、すぐに弁当を広げるような野暮なことはしない。東京駅を出発するやいなや駅弁を食べ始めるサラリーマンを横目に「せこい出張でも旅気分を味わいたいものだ」と、新横浜駅通過まで我慢するのである。その描写がひどく心を捉え、今でも私の行動を縛り付けている。あの漫画を読んだ読者は、シウマイ弁当を食べる度に井之頭五郎さんのことを想うし、焼肉を食べる度に「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」と心の中で唱えるだろう。五郎さんが孤独に食事をすればするほどに、人々の孤独は解消されていく、それがあの漫画の凄さだ。まだ初日の車内だというのに1000字を超えてしまった。この先はこういった脱線は極力避けていきたい。神戸に着くまでに、途中になっていた長嶋有『問いのない答え』を最後まで読み終える。
問いのない答え (文春文庫)

問いのない答え (文春文庫)

こんな見事なリフレインの描き方が可能なのか、といたく感動してしまい、また頭から読み直すことにした。


昼前に神戸に到着。駅に貼られていた阪神タイガース金本監督の広告ポスターを見て、「関西に来たな」と感じる。駅の待合室のテレビに甲子園の中継が流れていて、「甲子園球場は大阪ではなく兵庫にある」というのを思い出した。野球に興味がなく、大阪にあると思っている人も少なくないのでは。すっかり冷夏の様相を見せていた東京とは異なり、神戸はこれでもかのピーカン照り。新神戸から地下鉄で神戸三宮へ移動し、荷物をロッカーに預ける。旅先ではいつも、このロッカー探しでドッと疲れてしまう。駅内のロッカーの所在地と空き情報を一括管理したアプリがあったらいいのに、と思う。三宮・元町周辺の移動はレンタサイクル「コベリン」を利用した。ネットで登録してパスワードをもらい、自転車にそれを打ち込むと、キーレスですぐに乗ることができる。清算はクレジット。拠点が複数あり、そこで自由に貸出・返却ができる。電動アシスト自転車なので、楽々と漕げるし(そのかわり車体はとびきり重い)、これはなかなか便利だ。元町方面に自転車で移動し、中華街に心惹かれつつも、「インダスレイ」という南インド料理屋へ。”南インドのママの料理”を謳っていて、毎日食べられる南インドの家庭料理を志向しているらしい。ビリヤニやドーサも名物のようだが、悩みに悩んでミールスを注文した。
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お皿には初めての料理がいっぱいあって、味覚が拡張されてしまう。このミールスのお米は初めて食べるソナマスリライスだった。日本においてはバスマティライスより希少らしく、食べられるお店は多くない。バスマティライスよりさっぱりしていて、カロリーや糖質も半分ほどの健康米とのことで、これが普及したら日本における南インド料理ブームにブーストがかかるのではないだろうか。


神戸という街の雰囲気がとても好きだ。洗練されたシティ感を醸し出しながらも、すぐ側に山と海があるという、”いいとこどり”の感じがニクい。元町や栄町をブラブラして、買い物を楽しむ。旅先というのは妙なテンションに支配されているので、普段は行かないような洋服屋や雑貨屋で散財してしまいそうになるものです。家に帰ると、大抵は「何でこんなものを・・・」と後悔するので、自分を厳しく律していたのだけども、「POLETOKO」という雑貨屋の手作りの木彫り動物が凄くかわいくて、つい購入してしまった。よりによって、1番買ってはいけないタイプのものなのだけども、実際のところ表情もシルエットも大変かわいいし、木の質感といい”黒”の塗り具合といい、とにかく何か琴線に触れるものがあった。たくさんの動物ラインナップの中から迷いに迷って、バクと羊にしました。
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もちろん、これを書いている今は、「どこ置くねん・・・」となっている。この日は何やら花火大会だったらしく、海岸沿いは祭囃子と浴衣で賑わっていた。花火大会であっても、東京のように異様な混み方をしていないのが羨ましい。しかし、花火に目もくれず、サウナを目指す。この日の宿は「神戸クアハウス」というカプセルホテル。
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2種の天然温泉と神戸ウォーターが売りのこちらの施設。浴場の中央に置かれた広い水風呂に良質な水がドバドバと溢れ出ている。この水がミネラルウォーターとして販売もしている神戸ウォーターだというのだからたまらない。温度は18~19℃くらいで、永遠に入っていられる危険な仕様。サウナは珍しいガラス張りで、解放感がある。温度、湿度ともに悪くない。サウナ→水風呂後に、最上階の露天スペースで、チェアに寝転ぶ。安っぽくメロウなイージーリスニングのBGMに耳を傾けながら、神戸の風に吹かれよう。微かに聞こえる都会の喧騒と、すぐ側に感じる山の息吹き。抜群にととのえる。お風呂やシャワーの水も全て神戸ウォーターを使用していて、髪や肌が異様にツヤツヤになってしまった。食事も充実していて、とりわけ米が美味い。水がいいからか、粒が立っている。施設は老朽化していて、清潔感にもやや欠けますが、水の魅力だけで星3つ!です。


サウナと食事を楽しみ、休憩室でぼんやりとテレビを眺めていたら、「どこから来たんだ?」とおじさんに話しかけられる。なんでも彼は甲子園観戦の為に、このカプセルに連泊していて、それを30年間続けているらしい。「19連泊中よ」と誇らし気だったが、すでに甲子園の日程より長くないか。色々と話し込む中で、甲子園の魅力ってやつを熱く語られてしまい、すっかり熱にほだされてしまった。とりわけ、この日の大阪桐蔭VS仙台育英のサヨナラ勝ちをウットリとした顔で語る姿にやられた。気が付けば甲子園観戦の極意のレクチャーを受け、明日の甲子園観戦を決意していた。師匠の教えに沿い、5時起床に備えるべく、早々に眠りにつく。



2日目。見事に5時起床に成功する。まず、朝風呂と朝サウナをこなし、名残惜しむように水風呂を堪能。朝食バイキングで卵かけごはんを食べて(旨い!)、チェックアウト。三宮駅から地下鉄で甲子園駅へ。駅のコンビニでタオルや冷感グッズを購入した。師匠は「こんなとこ泊まってるんだから、どうせ金ないんだろ?」と、コンビニで食料と飲み物を大量に買い込んで持ち込むようにと、指導してくださったのだが、そこまで貧困に喘いでいないので、教えに背いた。カプセルホテルに泊まるというのは、確かに普通に感覚から言うと、お金節約の為なのかも。あんなにいいサウナなのに。甲子園駅というのがあるのも、そもそも知らなかったのだけども、甲子園は甲子園駅の目の前にある。駅を出ると、既にチケットを求めて長蛇の列ができてちる。「今から並んでも、一塁側の特別自由席は売り切れます」とアナウンスされていたので、三塁側の自由席購入の列に並ぶ。特に贔屓にしているチームはないので、どちらでもいいのである。何とかチケットを確保し、球場に入る。独特の熱気みたいなものに身震いがした。
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観戦した試合についての詳細を書き始めると、終わりが見えなくなるので割愛。広陵の中村くんの打席での雰囲気や東海大菅生松本くんのそつないピッチングなど、記しておきたいことはたくさんあるのだけども。泣く泣く1つだけ選ぶのであれば2試合目の天理VS明豊だろう。まさに高校野球というような名ゲームであった。9回裏を10点差で迎えた明豊が、怒涛の追い上げを見せる。あまりに劇的な代打満塁ホームランを含む6得点を上げるも、惜しくも届かず。会場全体が「もしかすると、もしかするのではないか」という空気に満たされていくのは、鳥肌ものであった。代打・三好くんの満塁ホームランのあと、さらに9番の菅くんがスリーベースヒット。しかし、コーチャーは止めず、菅くんは果敢にホームを狙う。これはいくらなんでもさすがに無謀で、本塁でアウト。このアウトで押せ押せな攻撃の流れは途切れてしまったのだけども、どんなに無謀であろうとも、もう1つ先をもぎ取ろうとする、その姿勢になにやら涙腺を刺激されてしまった。ありきたりな話だけども、生の迫力ってのはそういうものだ。


球場の照りつける日射しは容赦がない。日焼けですっかりヘトヘトになり、三宮へと戻る。この日の宿は「神戸サウナ&スパ」です。
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左端に写っているのはサウナの神トントゥ様だ。トントゥ様は施設の至るところに祀られていて、サウナや水風呂にも鎮座している。迸るサウナ愛。さて、神戸サウナ&スパ、これがもう噂にたがわぬ優良施設であった。広大、清潔、快適。これでカプセル宿泊3500円。ちょっとした価格破壊だと思う。受付もマッサージも美人揃い、施設内にはフィットネスジムまであり、気軽に利用できる。クリーニングや靴磨きといったサービスも用意され、朝食バイキングは無料、珈琲・カフェオレは24時間いつでも飲み放題だ。まったく文句のつけどころがないではないか。肝心の浴場も凄い。水風呂は14℃と17℃の2種、サウナは3種で、1つはセルフロウリュウも可能。アウフグースは30分に1回のハイペースで行われる。ウォーターサーバーが浴室内各地に設置され、タオル、館内着、サウナパンツも使いたい放題。これぞサウナ―の楽園である。無理矢理に難点を探すのであれば、サウナは熱々、水風呂はキンキンと、ともにハイスペックなのだけども、突出した”何か”に欠けることだろうか。あのセルフロウリュウできるサウナが、笹塚「天空のアジト マルシンスパ」や「ウェルビー栄店」の森のサウナほどの実力を兼ね備えていれば、文句なしなのだけど。しかし、全国トップクラスであろうことは疑いの余地もありません。食事も当然のように美味しい。名物のハムエッグはマストだろう。
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カプセルでテレビを適当にザッピングしていたら、『おんな城主 直虎』の高橋一生の処刑シーンに遭遇。文脈は完全に把握できていないが、とにかく「すごいものを観た」という気持ちで満たされた。甲子園観戦の疲れとサウナのリラックス効果で爆睡する。



3日目。「神戸サウナ&スパ」は朝食バイキングも充実。野菜の溶け込んだカレーを主体に、スクランブルエッグやソーセージを自在にトッピングし、セルフココ壱番屋気分を味わった。朝サウナも気持ち良し。3日目にして神戸を後にし、京都へ移動する。途中、高槻駅を通過する手前で明治のチョコレイト工場(板チョコを模した建物が!)を発見。高槻は槇原敬之の生まれ故郷であり、「No.1」という楽曲でもこの工場が描写されている。

夕暮れぼくの街には
チョコレイト工場のにおいがする
いつかおいで
あの河原に自転車で つれて行くよ

ちなみに尼崎を通過する時は土井玄臣の名盤『んんん』から「尼崎の女」を聞いたし、京都ではhi,how are you?とHomecomingを聞いた。我ながら、単純な思考回路である。京都へは頻繁に来ているつもりになっていたが、思い返してみれば、5年ぶり。あの頃はカレーよりも天下一品に夢中だった。偶然、同日にライブをしていたceroのライブをメトロでフラっと観たのが思い出深い。ceroが機材トラブルに見舞われていたのを覚えている。京都タワーは数あるタワーの中でもトップクラスに好きだ、何となく。京都でもレンタサイクルで移動した。猛暑の京都で自転車を漕ぐのはなかなかのものだった。インスタ映えしか頭にない私は、由緒ある建造物に目もくれず、巷で話題の「cafe1001」に2時間並び、チョコミントパフェを食べることに1日を費やした。どうかしている、と思う。しかし、この店、何やらポップカルチャー愛好家っぷりがダダ漏れていて、どうにも他人に思えなかったのである。何と言っても、迸る藤子不二雄愛である。自転車置き場案内のシルエットもよく見れば、『エスパー魔美』だったりする。
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レジ前にはチョコミントパフェに涙を流すドラえもん(「さよならドラえもん」から)。パフェを挟んで、夢眠ねむデザインのたぬきゅん。「ドラえもん≒狸×チョコミントの緑(ねむきゅんのイメージカラー)=たぬきゅん」という式の美しさに唸る。更に店内にはのび太ドラえもんが合体した「のびえもん」のフィギュアもあるではないか。現在はチョコミントブームで大混雑しており、それどころではないようだが、本来はブックカフェ。本棚は良質なポップカルチャーで満たされている。手にとりやすい場所にブルボン小林『マンガホニャララ』と手塚治虫火の鳥』、そして坂元裕二のインタビューが掲載された『熱風』もある。穂村弘若林正恭星野源という御三家の本もバッチリ収納。たくさんのお客さんがいながらも、本棚は見向きもされていない。早くこの熱狂が収まり、本来の客層を取り戻して欲しい、と他人事ながらも思った。
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チョコミントパフェとチョコミントタルト、綺麗ですね。ちなみに、ドリンクのチョコミントココアが1番美味しいです。この日の宿は奮発してちょっといいホテル。会員制のリゾートホテルのチケットを親戚に譲ってもらったのである。本館と別館の移動が、ゴンドラであったり、ボタンを押すと部屋に温泉が湧いたりと、心くすぐる演出にやられた。部屋も身分不相応な贅沢さであった。食事はイタリアンビュッフェ。大浴場も贅の極みな内装。一応サウナもあったが、水風呂が狭く23℃くらいだったので、あまり使い物にならず。数多のプロサウナーの方々は、サウナアドバイザーという職業をいち早く確立させ、各地のホテル施設を改善し、金を稼いで欲しい。



4日目。この日のスケジュールは非常にタイト。まず、「イノダコーヒー」で朝食。どうせなら京都の店舗でしか食べられない「京の朝食」を頼もうかと思ったのだが、クロワッサンというのにあまり惹かれず。クロワッサンはどこで食べてもそれなりに美味いからだ。熟考して、ハムトーストとレモンパイを注文。
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レモンパイは何年か前にスカート澤部渡さんが写真をツイートしていて、その時から羨ましくて仕方なかった一品。メジャーデビューおめでとうございます、という気持ちでフォークを刺す。サイクリングを楽しみがてら、下鴨神社と鴨川デルタを見物。『四畳半神話大系』と『たまこまーけっと』と『ドキュメント72時間』に想いを馳せる。お昼は「ティラガ」というインド料理屋でミールス
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このミールスが感激ものであった。豆と野菜中心の素朴で優しい味わいなのに、しみじみと美味しい。一皿、一皿が美味いが、思い切ってその全部を混ぜてバスマティライスに浸そう。口に運ぶと”芳醇さ”としか表現できない何かが脳内を駆け巡る。京都の街を自転車でブラつき、15時の開店と共に「白山湯」の高辻店に駆け込む。
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人生ベスト銭湯を更新だ。銭湯でここまでの施設のものはそうそうあるまい。静岡の「しきじ」を彷彿とさせる、ドバドバと溢れ出る天然地下水の水風呂。これがもうあまりにも気持ちいい。お湯も天然地下水を使用しており、とにかく柔らかい。とりわけオススメは少し低めの温度に設定された露天風呂で、羽衣のような柔らかさのお湯を堪能できる。サウナは高湿かつ110℃近い最強のセッティングで汗ドバドバ。ここからの天然水の水風呂であるからもう一発でトビます。外気浴用の椅子も充実で言うことなし。更に驚くべきは、サウナは追加料金なし。430円で全部が楽しめてしまいます。近所にあったら毎日通うこと間違いなし。京都にお住まいの皆さまに嫉妬の嵐です。ちなみにサウナマナーはそれはもうひどいもので、かいた汗をストーブにかけたり、汗をふいたタオルをしぼったりと、勝手なセルフロウリュウが横行。タオルを水風呂に浸すのなんて当たり前しである。かし、これがここのルール。文句は言うまい。新幹線の時間に間に合わせるべく、急いで京都駅へ戻り、適当に土産を見繕い、帰路に着いた。旅って最高、でも部屋でnetflixやナイターを観るのもそろそろ恋しい。早く帰って、『マスター・オブ・ゼロ』のシーズン2を観なくっちゃ。