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玉田企画『少年期の脳みそ』

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玉田企画の演劇は徹底的にアンチドラマである。この『少年期の脳みそ』のあらすじを述べるにしても、「高校卓球部の合宿の一夜」としか言いようがない。その合宿の一夜で繰り広げられる出来事の細部は、とても”あらすじ”に要約することはできない。要約されることを拒むような“小さなドラマ”が無数に積み重なっているのだ。主催の玉田真也の類まれなる観察力と着眼点で掬い上げられたミクロな感情の揺らぎ。人間の発するその“小さな意味”を、正確に細やかに舞台に立ち上げてこそ、真の人間ドラマというようなものが描き出せるのだ、という信念を感じる。


もちろん、舞台上で役者が放つ台詞と身体にはそんな気負いは一切感じさせない自然な軽やかさがあり、常に笑いに包まれている。とにかく役者が皆、抜群に巧い。とりわけ、もはやスターシステムのような吉田亮と木下崇祥の2人の臭みのある存在感が抜群。悲劇的なまでの人間のすれ違いは、喜劇だ。空気の読めない人々のやりとりは、神の視点を持つ我々観客からすると、あまりにも滑稽であるのだが、そこに愛おしさを覚えさえもする。大学生のOBとこっそり付き合っている2年生女子の先輩に、面前で告白させられ、当然のように玉砕する童貞の津田。そんな彼にそっと寄り添い慰める顧問の先生を、玉田真也その人が演じている。その事に、胸が熱くなってしまった。あの津田のみっともなさに寄り添う、それが玉田企画の演劇の神髄ではないだろうか。そして、ラストの、2年生女子二人のやりとりも白眉であろう。言葉になりきらない想い、”小さなドラマ”が、壮大な花火として打ちあがり、散っていく。儚く美しいエンディングである。


さて、この『少年期の脳みそ』は新作ではなく、2014年公演作の再演とのこと。なるほど、2016年に鑑賞した『怪童がゆく』『あの日々の話』という2本の傑作に通ずる、既視感の強いプロットも数多く見受けられた。『怪童がゆく』が大学のゼミ合宿、『あの日々の話』が大学サークルのカラオケオール、そして『少年期の脳みそ』が卓球部合宿、と基本的にどれも同じような話なのだけども、とにかくそれぞれの舞台設定が秀逸過ぎるので、存分に楽しめた。今作も抜群に面白いが、前述の2作は既にネクストレベルに到達している印象も覚えたので、来る純然たる新作への期待は高まるばかりである。



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