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NHK『ドキュメント72時間』~鴨川デルタ 京都の青春~

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夜中にテレビを観ていて、ガツーンと衝撃を受けてしまった。NHKで放送されている『ドキュメント72時間』という番組だ。1つの場所を72時間定点観測し、そこを通り過ぎる人々をカメラに収めていくというドキュメンタリー番組。今回の放送でカメラが置かれたのは、京都の名所であり、地元の人々の憩いの場としても名高い「鴨川デルタ」である。


早朝、阪神大震災で妻子を失った日雇い労働の男性が川をじっと眺めている。その目には過ぎ去ってしまった日々が映っているのだろうか。元・水商売の女と元・不動産屋の男が”かつて”を語り合う酒盛り。どうしても(どうしてかはさっぱりわからない)娘と一緒に川の飛び石を飛びたかったという母とその姿をカメラに収める父。精神科で出会った妻の“かわいさ”をプロモーションビデオとして撮影する無職の夫。夜の鴨川で繰り広げられている学生達の大騒ぎ、それを対岸から羨ましさをひた隠しながら眺める女子校上がりの三人組。大好きなアニメ*1のロケ地として鴨川デルタに巡礼に訪れた男性。大学生活の4年間で、自分がどれほど鴨川にいるのかを記録する少年。周りに合わす事を拒否していた孤独な彼が、突如”気の合う”友達に出会う夜、その尊さ。学校が爆破予告されて休講になったから、と強い日差しの元で川遊びをする学生達。これがドキュメンタリーか。いや、“ドラマ”としか言いようがない。我々の想像をはるかに超える、壮絶で豊かな人生の断片の数々。カメラはそれらにことさらクローズアップするでもなく、そこらに転がる”当たり前のもの”として扱う。その何気ない態度が素晴らしい。始まりの気配だけを見せて、カメラはプイっと他所を向いてしまう。人生の断片が断片のままとして、京都の川の流れに消えてていく。私達は誰もが平等に、”誰にも知られない濃密な時間”を持っている。それを垣間見るというのは、「あなたは一人ぼっちじゃない」といような安っぽいポップソングを聞くよりもはるかに、どうしたって孤独な我々の心を慰めてくれる事だろう。




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*1:たまこラブストーリー』だそうです