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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

どついたるねん『緊張の糸/本気で好きな人』

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はぁ、お揃いの野茂のトルネードトレーナーかっこいい。なんか『おそ松さん』みたい、つまり売れる!そんな”どついたるねん”がこの度自主レーベルTrain Train Recordsからリリースするタワーレコード&ライブ会場限定両A面ンシングル『緊張の糸/本気で好きな人』がもう最高なのです。誰が何と言おうとも、今年度No.1ポップソングの誕生です。ゴリゴリのスカムバンドだった”どついたるねん”ですが、いつの間にか音楽の神さまに愛されてしまったのかなんなのか、「such a sweet lady」「生きてれば」「大嫌い feat. 柴田聡子」といった具合に、「今、まさにこれ!」というラブリーなポップソングを絶妙なタイミングで打ち放ってきますしかもバンドは「アメリカ」やうーちゃんが云う所の「上を向いて歩こう」みたいないい曲「風立ちぬ」というとびきりのナンバーをまだ温存している。やりたい事やってるんだけど、決める時は決める。この感じで活動できているロックバンドって、くるりシャムキャッツくらいしか思いつかなくて、まさかその並びに”どついたるねん”が収まってしまうとは。
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さて、「本気で好きな人」のこの圧倒的な素晴らしさは何だ。メロディーの強度はもうまるで童謡。それでいて、ノスタルジックJ-POPだし、テクノポップだし(ドラムマシンと鍵盤の音色が完璧)。パーフェクトヒューマンや湘南の風(先輩風)、最後にはGOING STEADYも挨拶してくるし、ようはこの国のポップカルチャーが生んだとびきりのソウルミュージックなのだ。何回聞いても泣ける。「大好きです。今度は嘘じゃないっす」という感じ。クマのプーさんとガットギターが好きな人とか絶対嫌だけども、本気で好きなんだから仕方がないよなぁ。今回メインをはる山ちゃんのボーカルがあまりにも良くって「何なんだこれは…」とウンウン考えていたら、星野源がブレイクの過程が失っていった良さが、この歌声には詰まっているのだ、という危険な結論に至りました。星野源もサチモスも格好良すぎるんだよバカ野郎、という特異な人のハートに突き刺されー。



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もう1曲の「緊張の糸」は前シングルの「精神」に続くナゴムロックナンバー。ヘッドフォンしたまま歩くとこけるぞ。8人編成になった”どついたるねん”の演奏はとてもいい。特にファック松本のギターが好きだ。全盛期のとんねるずかよ、という感じのMVも凄い。エグいまでのぶっといユーモアがポップネスに昇華されたとびきりのシングル。豪華ボックス仕様で特典のおまけ(ゴミ)もたくさん。なのにお値段500円。この夏のお中元にもピッタリではないでしょうか。オススメです。




*こちらのシングルが先行販売という事で、7月21日に開催されたどついたるねんのワンマンライブへ参加してきました。2億年ぶりくらいの渋谷o-nest(しかも平日)のフロアは熱帯夜かくやの湿気と熱気。なんでもこの日はo-nestの動員記録を更新したそうです。すっげー。OP映像もグッとくる感じで(「Train Train」っていい曲だな)、幕が開いて野茂トレーナー着用のメンバーの登場だけで気持ちが高ぶってしまいました。物販のアロハシャツもピザTシャツもクールだなぁ。ツアーを重ねたどついたるねんのライブは、以前までの「俺の友達おもしろいっしょ?」という悪ノリの無敵感だけではなく、構成から動線までプロフェッショナルさが存分に感じられるステージングで、素直に感動しました。成長するってかっこいいよ。お客さんのノリもすさまじく、「生きてれば」での

うーちゃん「無邪気に笑ってくれよ」
観客「まるで河合我聞みたいに!」

という掛け合いには泣いた。「生きてればいいことある」って思えた。何よりどついたるねんってこんなにいい曲たくさんあるバンドなんだ、という驚き。シンプルにその一点だけでも、現行バンドで最高峰だな!ちなみにシングルの特典のプロマイドはうーちゃんでした。だいたいいっつもうーちゃんだよ!




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ジェームズ・ワン『死霊館 エンフィールド事件』

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現代ホラー映画界のトップランカーであるジェームズ・ワン(『ソウ』『インシディアス』)による最新の一撃は期待に違わぬ傑作でありました。史実を元にした悪霊事件に立ち向かうゴーストバスター夫婦活劇としても楽しめる「死霊館」シリーズの2作目『死霊館 エンフィールド事件』である。ちなみに邦題があえてナンバリングしていない事からもわかるように、前作を観ていなくてもまったく問題ない、一見さんウェルカムな作りとなっています。



主人公であるエド(パトリック・ウィルソン)はカトリック教会公認の悪魔研究家、その妻であるロレイン(ヴェラ・ファーミガ)は心霊透視能力を持っている。『悪魔の棲む家』としても有名なアミティヴィルでの事件を解決後、おぞましき悪魔の夢(夫の死という予知夢)に悩まされるようになったウォーレン夫妻は悪魔祓い業からの引退を考えている。そんなさなか、教会からロンドンで発生してる悪霊事件の調査依頼が舞い込む・・・というあらすじ。



いやはや、これが抜群に面白い。史実であるというリアリティが支えるそのストーリーテリングもさることながら、さながらジェームズ・ワンによる映画の教科書のような演出の数々。現行のホラーにありがちな、”ビックリ”と音に頼った演出は控えめ。緻密な画面設計とカメラワークで「見つめる者」としての観客の恐怖心を煽る、古き良きクラシックスタイル。例えば、あの2階の廊下の端に張られているテントのルックが醸し出す不穏さときたら、もうそれだけで完璧な美術だ。もうそれだけで断然優秀なホラー作品なわけですが、この『死霊館 エンフィールド事件』は実にハートフルな家族映画でもある。煙草代を押さえて購入したビスケットを分けあう家族の姿の何と温かなことか!この一家に見えない亀裂をもたらしている父の不在。それは劇中において音楽の不在として置き換えられる。離ればなれになった一家がクリスマスの夜だけ集まり、崩壊したリンビングにてエドがエルビス・プレスリーのナンバーをギターで弾き聴かせるシーンの素晴らしさ。エドのあの印象的なモミアゲがこう活きてくるなんて。



悪霊に取り憑かれた気の毒な一家であるが、それが超常現象であるが故に、世間からの疑いの目も避けられない。「自作自演」「給付金狙い」といったレッテルまで貼られ、調査に現れたロレインからも「この現場には心霊を感じられない」と証言されてしまう始末。しかし、それでもウォーレン夫妻は、この一家に肩入れをしていく。それはウォーレン夫妻と一家が、共に「存在の揺らいだ者」として共鳴しているからだ。“揺れる”というのはこの映画のキーとなる運動である。それは家具がひとりでに揺れ動くポルターガイストとしての心霊現象の”揺れ”でもあるし、見えざる”何か”の存在を知らしめるブランコやソファーの揺れ。そして、何より登場人物達の存在の”揺らぎ”である。そもそも映画は、ジャネット(マディソン・ウルフ*1)が学校での喫煙の疑惑をかけられる所から始まる。悪友との戯れが原因なのだけども、教師からも母親からも事の真偽を信じてもらえないジャネット。また大好きだった父親も家を飛び出してしまった存在が引きちぎられつつある彼女は次第に悪霊に身体を乗っ取られていく。一方の、ウォーレン夫婦もまた心霊事件の解決による名声と比例するよう浴びせられる世間からの「イカサマ」「ペテン」といった懐疑の言葉に疲弊している。そういった心の動揺に、悪魔はつけ込むわけだが、ある意味その悪魔がアメリカとロンドンという距離を隔てたウォーレン夫妻と一家という2つの揺らいだ存在を結びつけてしまう。修道尼の格好をした悪魔の造形がまずもって抜群にイカしていて、ラストのバトルシーンもいい。そして、悪魔の撃退方法が、「名前を呼ぶ」という存在の確定をもたらす行為であるのも、今作が”揺れ”の映画である事に実に示唆的である。

*1:この無名の新人マディソン・ウルフの魅力が、またこの映画を特別なものにしている。赤い寝巻き姿がキュート

最近のこと(2016/07/11~)

最近のこと。湿気にやる気を削ぎ落とされています。月曜日。休みをとっていたので、3連休の最終日。特に予定はない。朝起きて洗濯機を回し、昨夜のカレーを温め直して食べる。一晩寝かしたカレー、美味い。そういえば、立川吉笑がマクラなどでも披露していた「カレーが寝ない」という小話は傑作だった。
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私がお笑いに求める一種の理想形みたいなものがある。ぜひご一読を。カレーを食べながら、録画したテレビ番組をダラダラと消化した。昼過ぎに自転車で外に出てみるも、異様な暑さで少し漕いだら、すぐさまノックダウン。遠出は早々に諦め、サウナに入り浸る事に決めた。プロジェクションマッピング湯などで話題沸騰中の桜台の「久松湯」へ。サウナはまぁ普通なのだけども、水風呂が16.9℃というキンキンぶりで、そこがもう最高。痺れちゃう。18℃をきると、さすがに長く浸かってられないほどに冷たい。サウナのテレビでは石田純一が都知事立候補取りやめの会見をしきりに放送していた。調子に乗って8セットくらいサウナと水風呂を決め、「久松湯」を堪能して外に出たら、既に夕刻だった。サウナと言えば、タナカカツキなわけですが、何とそのタナカ先生がザ・なつやすみバンドの新曲のMVを監督していた。何たるコラボレーションか!ザ・なつやすみバンドのニューアルバムは宇宙に突入しているのかしら。
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自転車のメンテナンスをして、「小坊師ラーメン」(って何だかんだ1番美味いラーメンチェーン店じゃないすか?)で冷やしラーメンと餃子3個を食べて、帰宅した。パソコンで『ドキュメント72時間』ですこぶる評判のいい「駄菓子屋・子どもたちの小さな宇宙」の回を観て、猛烈に感動しました。



火曜日。休んだ分、溜まっていた仕事を残業して処理。帰り道、ジュンク堂に寄ってスケラッコ『盆の国』と岩本ナオ『金の国 水の国』を購入。

盆の国 (トーチコミックス)

盆の国 (トーチコミックス)

ホクホクです。更に帰宅すると、JET SETで注文していたCDとレコードが届いていた。The Avalanches『Wildflower』と江本祐介『ライトブルー』なのですが、どちらもベスト級の良さであーる。久しぶりに家でずっと音楽を聴いていました。豆腐と納豆とめがぶとサーモンのすりつぶしを晩御飯として食べた。そして、YouTubeを観漁る。欅坂46の2ndシングル「世界には愛しかない」のMV、ぶっ飛んだ。
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平手、長濱、今泉、W渡辺のフロント5人の輝き、ちょっと尋常ではない。しかし、少女達が持つ傘の色が赤ではなく水色だなんて!最高だ。というかそもそも名曲過ぎませんか。



水曜日。退社して、小竹向原へ。アトリエ春風舎で玉田企画『あの日々の話』を観た。
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むちゃくちゃおもしろくて、終始ニヤけていた。大学のサークルでのオールカラオケ。あの途方もなく意味はないのだけども、抗う事のできない磁場は何なんだろう。しかし、面白かった。玉田企画は今後も追いかけていきたいな。玉田君もいずれ、会話劇を離れ、実験性や芸術性に傾倒し始めるのだろうか。どうかこのまま会話劇を突き詰めて欲しい。『ゴッドタン』やテレ東ドラマの脚本なども是非カ関わって欲しいものです。21時を過ぎても、蒸し蒸しがおさまらない夜。少し歩くだけで、汗が止まらなくなってしまう。帰宅してシャワーを浴び、天皇の生前譲位のニュースにたまげる(しかも宮内庁は否定)。『笑っていいとも』をスパっと辞めたタモリさんと印象がかぶる。右とか左とかそういった思想関係なく、平成天皇の事は好きです。人としてのかわいらしさが見た目に溢れ出ている。黒沢清勝手にしやがれ!!黄金計画』をDVDで観てから寝た。黒沢映画のプロットが詰まっている。哀川翔は最高だ。



木曜日。会社を出る時、雨が止んでいたので、傘を持たずに出たら、地元の駅で大雨に降られる。残り5分の距離の為に傘を買うのもバカバカしいので、濡れに濡れて帰った。頭痛に悩まされながら、DVDで黒沢清の『カリスマ』を観た。

カリスマ [DVD]

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ひどく疲れたので、お風呂に入って、チャンドラーの小説をパラパラと読み、早めに寝た。金曜日。帰宅してから、自転車で近所の「おふろの王様」へ。有名チェーン店ながら、初めて入ったのだけども、混んでいるし、薬品臭いし、あまり好きなお風呂ではなかった。外気浴ができるのと広いサウナでオールスターゲームを観られたのはよかったです。バレンティンの謎のホームラン!今年のオールスターは接戦でなかなかおもしろく、坂本や菊地の二遊間の華麗さなど見所も多かったのですが、完全に大谷のオールスターでしたね。帰宅して『ホーム・アローン』をDVDで観た。何十回観ても楽しい。クリスマスの話なのだけど、何故か夏に観がちだ。



土曜日。朝起きて、掃除、洗濯。昨夜の『ドキュメント72時間』を観て、やはり涙。オバマ来訪と原爆、それをカープファンとお好み焼で撮り切る手腕。そして、よくぞ見つけた広島のエグザイル。いい回でした。お昼にバンバンジーの冷やし麺を食べて、カレーの具材を買って帰る。乃木坂46の『3rd YEAR BIRTHDAY LIVE』

とオールスターと『アメトーーク』の高校野球芸人を観た。カレーのスパイスでお腹が痛くなる。『カウントダウンTV』が長時間放送していたいので、パラパラと眺めた。吉田羊の「そりゃそーだ」のCMがどうしてかたまらなく嫌いだ。



日曜日。今日も暑い。昨夜の『ゴッドタン』に腹を抱えて笑う。最近またエッジが戻ってきている気がしてうれしい。小島みなみさんと紗倉まなさんの音楽ユニット乙女フラペチーノの「私ほとんどスカイフィッシュ
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まさかのプロデュースがトリプルファイヤー!振り付けもいいし、最高だ。2人ともむちゃ声いいんだな。昼前から『久松湯』へ。混んでいるのでそこまで好きではないのだけども、家からの距離がちょうど良くて来てしまう。ときにサウナで、かいた汗を音を立てながら身体中に浸透させんと、塗り込む人がよくいますが、あれ嫌ですねぇ。なんでせっかく出てきた老廃物を毛穴から押し戻そうとするのでしょうか。誰の得にもならないので禁じて欲しい。ところで『POPEYE』のサウナ特集はまだでしょうか。キンキンの水風呂を堪能した後、桜台の誇る「餃子の家」で焼きそばと餃子とオールフリー。
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店に入るやいなや大きな地震が来て驚く。ここは水餃子も美味しいです。帰宅して、乃木坂のライブDVDの残りを一気見して、昨夜のカレーを食べる。



月曜日。三連休最終日。録画を消化して、おもむろ西野七瀬さんのバンジージャンプ動画などを観て過ごす。いつ観ても感動して少し泣いちゃう。そして、プロ野球の後半戦が開幕したので、久しぶりに神宮球場へ。
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神宮球場建設90周年のメモリアルデーという事で入場者に球場のレプリカが配られました。そして、先発は神宮に愛された男・石川。7回4安打1失点と、完璧なピッチングを披露してくれました。神宮の石川は最強。いやー痺れたな。打線は今浪と中村の集中力が素晴らしかった。最後はベイスターズ小杉の乱調でドタバタ。ありがたいとは言え、さすがに少し醒めました。帰宅して、自転車で「さやの湯処」へ。応援で疲れた身体を癒して眠る。眠る直前のサウナ+水風呂は、ベットで身体がフワフワと浮きます。オススメ。

玉田企画『あの日々の話』

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面白過ぎる、と思わず唸ってしまった。大学のゼミ合宿を舞台とした『怪童がゆく』も良作でしたが、サークルのカラオケオールを描いた今作はネクストレベルに到達している。とりあえず観て頂きたいので、小竹向原のアトリエ春風舎へ急げ!と先に記しておきたい。決起会と称したサークルの代替えを祝う飲み会がカラオケボックスで行われている。ひたすらに若者達が他愛のない会話を交わす、群像口語劇だ。圧倒的なリアリズム(=”あるある“)に支えられた人物造詣、台詞回し、役者の演技(素晴らしかった!)が紡ぎ出す、もはや“現象”としか呼びようのないものが、ただ生々しく舞台上で再現される。それを観客は、体験するかのようにして共有する。大学のサークルの飲み会を体験?そんなものが面白いのか?いや、これがノスタルジーやなんやを抜きにして、面白いのである。何故、これほどに面白いのかというと、観客である我々は、飲み会に参加しながらも、さながら神の視線で全貌を俯瞰している。そこで渦巻く人間模様、横滑りの会話の裏に潜む登場人物の思惑全てを把握できるからに他なるまい。圧倒的にスリリング(しかも自分には無害な)な飲み会への参加を約束されているようなものだ。



そして、玉田企画は笑える。とにかく、笑える。日常に潜む気づまりやすれ違いを、ごくナチュラルに笑いに転化させていく手つきは、東京03かもめんたる*1といった『キングオブコント』のチャンピオン達と共鳴している。コントのようなデフォルメがない分、玉田企画の笑いは”親切さ”には欠けるわけだが、そのリアリズムは心の深い所をえぐる。「人ってこういう時、イタいですよね」と実に底意地悪く、そのサンプルを提示してくるのだけども、登場人物は皆、どこかイジらしく、かわいいらしいのも素晴らしい。



さて、そもそも会話劇というものを演劇界(小劇場界隈)は、どうにも低く見積もるきらいがないだろうか。確かに、玉田企画の舞台にはマームとジプシーの運動量やヒリヒリした傷みも、ロロのようなイメージの跳躍もない。しかし、緻密な会話の糸を丹念に編み込み、それだけでゼロから物語を紡ぎ出してしまう筆致というのも、それらと同等の才気だ。玉田真也は天才なり、と断言しておきたい。



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*1:今作のアフタートークにも登板

スケラッコ『盆の国』

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インターネットや自費出版本で既に高い評価を手にしている実力派新人作家スケラッコの待望の商業デビュー作。「高野文子だ!市川春子だ!」というようないささか的外れな書店のポップや『このマンガがすごい!』や『マンガ大賞』へのノミネートが目に浮かぶよう。とにもかくにも、その実力がいかんなく発揮されたウェルメイドなジュブナイル、恐るべきデビュー作と言えるでしょう。



夏のうだるような暑さでアイスクリームが溶ける。湿気で夜が溶け、自堕落が夏休みを溶かす。しかし、猛暑はそれだけでは飽き足らず、生と死の境界さえも溶かしてしまう。今作の主人公はお盆の期間だけご先祖様の霊が見えるという不思議な力を持った中学3年生の女の子だ。もう会えない人達、将来への不安、親友との些細な喧嘩。そんな彼女の思春期の葛藤がふともたらした「ずっとお盆だったらいいのに」という祈りが、神さまに通じてしまったのか何なのか、永遠に繰り返される8月15日(終戦記念日)、エンドレスサマー。花火、高校野球、ペットボトルに凍らせたお茶、宿題、夕立、お祭りetc・・・これでもかと繰り出される夏の記憶。そして、食卓に並び続ける冷たい麺類と、現世に留まり続ける死者達。突然出会った謎の青年とバディを組んで、元の世界へ戻そうと町を奔走し、何やら今回の騒動の原因であるらしい山の頂上を目指す。




正直、これまで何十回も目にしたようなモチーフのパッチワークではあるのだが、『京都・大阪BONDANCE』という趣味前回の作品を自費出版で献上しているスケラッコの”盆踊り”への偏愛が、この作品をオリジナルなものにしている。
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この描き込み、陰影!死者への弔いの意味が込められている盆踊りを、死者自身が踊る。そのダンスは、彼らの実存をくっきりと刻む。もうここには”居ない”彼らは、かつて確かにここに”居た”のだ、という当たり前の事実。連綿と続く生の営み、その法則の一端に主人公が触れる。そして、物語は「私のおばあちゃんのおばあちゃんのかつての恋人は、私の恋人でもあるのではないだろうか」といったようなアクロバティックな論理を優しく肯定するのである。



そのまま映画化が可能(東映アニメか大林宣彦での実写化!)なほどの、縦と横の構図が交錯した物語運びの確かさ。そして、スケラッコ先生の何よりの魅力はそのやわらかいタッチと細部の描き込み、ぜひとも目を凝らして楽しんで頂きたい作品だ。



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