青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

福澤克雄『VIVANT』


TBSドラマ『VIVANT』がおおいに盛り上がっている。個人的には心の1本になるような作品ではないけども、“テレビドラマ”というジャンルを愛好するものとしてはテレビが巻き起こす、この熱狂がとてもうれしい。実際のところ、おもしろいのだ。ツッコミどころ満載ながらも、莫大な予算感の壮大なスケールで黙らされてしまう。このおもしろさと支持のされ方の秘訣は、『VIVANT』に息づく “浦沢直樹”感ではないだろうか。『MASTERキートン』『MONSTER』『20世紀少年』・・・モチーフやルック、謎が謎を呼び伏線を回収していく筋運びなどがどこか似ていて、この国のエンターテインメントの中道とでも言うべき浦沢直樹作品との相似が、『VIVANT』の圧倒的な大衆性を支えているように思う。*1


登場人物たちが常にマージナルな立ち位置を貫いているのもおもしろい。乃木(堺雅人)は、野崎(阿部寛)は、ノーゴン・ベキ(役所広司)は、別班は、公安は、テントは、「いいものなのか/わるいものなのか」をあえて混濁させるような筋運びでもって、観る者を混乱させながら観る者を引き付けるという筆致は、なかなかにタフ。また、乃木と野崎の、本心を語り合わない中で敵対しつつも、同時に信頼し合っているという関係性の描き方が大変エッチで素晴らしい。明智探偵と怪盗二十面相、アンパンマンバイキンマン、ルパンと銭形警部、半沢直樹と大和田常務・・・対立しながらも、実のところ互いの存在に依存し合っているような関係性。それを決して面と向かって口にしないというセクシーさ。多くの孤児が登場する中で、野崎というキャラクターのすべての者の父であらんとするような圧倒的な“父性”。その構造は、“大きなもの”に寄りかかれなくなり、病んでいるこの国の比喩のようでもある。

前述したように張り巡らされた伏線とその回収が話題になっており、様々な考察が巻き起こっている。公式の意図するところであるようだし、そういった楽しみ方を否定するつもりはないが、考察に取り込まれる以前に、このドラマの細部は実に生き生きと楽しい。たとえば、野崎が『ハリー・ポッター』シリーズを“超好き”で、ジャミーンのお見舞いにDVD全8巻セットを持ってくるところ。もしくは、乃木と薫が一夜を過ごした翌朝、乃木が高級ホテルのような目玉焼きの作り方を教える美しいシーン。これらを、『ハリー・ポッター』の登場人物スネイプの二重裏切りが示唆されているとか、目玉焼きの黄色が裏切り者(ユダ)を象徴する色だ、などと考察するよりも前に、このシーンの一見無駄に思える”豊かさ”を享受したい。他にも、ドラム(富栄ドラム)というキャラクター造形のあいくるしさ、乃木がお赤飯を偏愛していたり、野崎がお好み焼きを作るのが上手だったり、東条(濱田岳)がウルトラマンシリーズのファンであったり、いくらでも考察のしようがありそうだけどもそれはさておき、ここで描かれているのは、人間の「愛おしき個性」なのだ。話の大筋からは逸れた、AIには書けないであろう固有性の書き込みだ。キャラクターの個性をいかに活き活きと細部に盛り込むかが、テレビドラマの肝であり、それは人間の“命の煌めき”の強度を描くことと同義である。今作の原作と総合演出を手掛ける福澤克雄はそれができるクリエイターであると思う。

福澤克雄*2のキャリアが語られる際、福沢諭吉の玄孫*3だとか、『半沢直樹』『陸王』『下町ロケット』『ドラゴン桜』などの日曜劇場の大ヒット作を手掛けた点がフィーチャーされるのは当然だが、中居正広の『白い影』『砂の器』、木村拓哉の『GOOD LUCK!!』『華麗なる一族』『MR.BRAIN』といったSMAPトップ2のTBSドラマを大ヒットに導いた人物でもあることも忘れてはならないし、なによりも、『3年B組金八先生』の第4~7シリーズンという傑作青春群像劇を演出した監督であるということだ。それはつまり、レジェンド演出家である生野慈朗の後継者ということであり、そのドライブ感溢れる劇的でセンチメンタルな演出は、まさに弟子筋。福澤版の金八は校内暴力や覚せい剤といった過激なトピックばかりが取り沙汰されるが、若者たちの「本当のわたしは“ここ”にいるんです」という多様な叫びを坂本金八が拾い上げていくドラマであった。であるからこそ、数十名の生徒の個性の描き分けに心血が注がれていて、それが優れた群像劇に結実していた。そういう作家であるからこそ、『VIVANT』 の細部は、伏線であるその前に、シーンとして美しく充実しているのではないだろうか。

*1:ブックマークのコメントにあった『スター・ウォーズ』という指摘もなるほどである。砂漠で始まる物語で、乃木がルークなら、野崎がハン・ソロで、薫がレイア、ドラムがチューバッカでありR2-D2でありC-3POだ。

*2:彼の通称である”ジャイ”というのは体格の良さがジャイアンに似ているからと武田鉄矢が名付けたものらしい。『3年B組金八先生』出演陣との結びつきは強く、『半沢直樹』などにも多くの金八ファミリーを起用している。であるから、福澤克雄のキャリア集大成と言える『VIVANT』のボスキャラは武田鉄矢ではないかと期待していたのですが、今のところ出演の気配はない。別班のボスとかでどうですか。

*3:すごすぎておもしろい

最近のこと(2023/7/21~7/27)

7月21日

Blurのニューアルバムがリリースされたので、聞きながら通勤。

とても良いインディーギターロックで、全編にわたってグレアムのギターサウンドに聞き入ってしまう。先行シングル「The Narcissit」と3曲目の「Barbaric」のポップネスがとくに好き。やや後追いながら10代の頃は、“ブリットポップ”と呼ばれたイギリスのロックバンドはよく聞いていた。PulpSuedeSupergrass、Ocean Colour Scens、The Bluetones、Kula Shaler、Mansun・・・懐かしい。シーンの中心だったOASIS vs Blur抗争は、自身のパーソナリティーからすると、酒とサッカーなOASISよりインテリジェンスな印象のBlurに惹かれそうなものだけど、とくに思想のない若者だったので、断然OASIS派だった。ブリットポップ聴いていた高校生時代、なんかいまいちなんで、The Smithsしか聴いていなかった、に変更していいですか。

この日は1日中、内勤。仕事を終えて、帰宅。『マツコ&有吉のかりそめ天国』と『ミュージックステーション』を観る金曜日の夜が好きだ。一方で前番組の『ザワつく!金曜日』の、お坊ちゃまとお嬢様を並べて血統主義に支えられた奔放な“物言い”を祭り上げる仕組みを毛嫌いしている。あれは、マツコや有吉の言葉の強さとはまったく異なるものだろう。そもそも、あの番組は「石原慎太郎追悼」特集を組んだりする時点で一線を超えている。有吉さん、好きなんだけど、Threadsでの指原莉乃を交えてのはしゃぎっぷりはいまいちで、この国でのThreadsの衰退にひと役買ったと思う。MステにMISAMO出演でうれしや。美でした。しかし、この日のMステはえらく音が悪いように感じた。MISAMOもだけど、NiziUの曲とかドラムあんなにチャカポコした音だったけかな。

7月22日

朝からAmazonプライム庵野秀明『シン仮面ライダー』を観た。特撮の美学を理解していないので、「なんで?」と思うことも多かったが、思ったより楽しめた。台詞とその他のSEの音量のバランスが違い過ぎて、リモコンが手放せなかったのは難。台詞を聞き取れる音量にすると、爆発音はおろかパンチやキックの音で近所迷惑になってしまうのです。それにつけても、柄本佑の一文字隼人、好きだ。柄本佑の静けさと複雑さ、いいよな。幼稚園に入る前くらいまでは傑作と名高い『仮面ライダーBLACK』がリアルタイムだったこともあり、仮面ライダーが大好きだった気がするのだけど、後を引かなかった。『仮面ライダー』『仮面ライダーV3』もビデオで観ていて、小林昭二が演じる“おやっさん”立花藤兵衛が好きだった。その後のライダーシリーズにも出演し続けている感じとか。あと、『仮面ライダーV3』に出てくるライダーマンの悲哀が幼心に強烈だった。

お昼は近くの喫茶店で食べた。ミートローフとアイスコーヒー。ミートローフと言うと、Meat Loaf(俳優として『ファイト・クラブ』に出演している)というシンガーの『地獄のロックライダー』というアルバムのことを思い出す。日本ではあまり知名度はないが、Tod Rundrenがプロデュースしていて3700万枚を売り上げているロックアルバムで、中学生の頃にレンタルして聞いたけど、大仰なロックオペラの良さがまったく理解できなかった。このお店のミートローフは美味しかった。

隣駅まで散歩をして、豆屋で珈琲豆、和菓子屋で「土用餅」を購入。土用の日にあんころ餅を食べる風習があるのを知らなった。小豆の“赤”が厄を祓うらしい。古本屋に寄って『ちいさいおうち』や『せいめいのれきし』でお馴染みのバージニア・リー・バートンの『坂の街のケーブルカーのメーベル』という絵本を買った。

バートンのケーブルカーへの偏愛が詰まっている。街を見つめ続けてきたものとしてのケーブルカー。バートンの描く細々とした街並みが好き。あまりにも暑いので途中、セブンイレブンに寄って、「ガツンとみかん」を食べながら帰る。ひさしぶりに外でアイスを食べたけども、びっくりするくらい早く溶けていった。

この日は4年ぶりの『27時間テレビ』が放送。核となる『千鳥の鬼レンチャン』という番組に関心がなかったので、放送の全てを追いかけて観るほどの情熱はなかったのだけど、テレビがずっと楽しそうでうれしい気持ちになった。千鳥、かまいたちに並んでダイアンがいる喜び。どういう経緯でダイアンも入れてもらえたのか知りたいな。やっぱり千鳥の計らいなのだろうか。この勢いに乗って、『ダイアンの登校中〜その想い出、土足で上がらせて頂きました〜』のレギュラー化と『ダイアンの絶対取材しない店』の復活を願う。『本日はダイアンなり!』と『ダイアンのTOKYO STYLE』と『ダイアンのラジオさん』とYouTubeチャンネルを続けてくれればそれで幸せなのですが。

7月23日

高校野球の地方大会(大阪)の中継がテレビで放送していて、ちょうど履正社の試合だったので観る。クーラーの効いた部屋のテレビで野球を観る喜び。ヤクルトスワローズの山田や宮本丈(あと寺島・・・)の母校なので、わたしは大阪桐蔭よりも履正社贔屓なのだ。今年の履正社は良い。4番でキャッチャーの坂根を怪我が欠いているあたりもドラマチック。プロ注目の森田の詰まりながらの3試合連続のホームラン、先発した2年生ピッチャー高木や最後の回に登板した150kmサウスポー福田の唸る球筋に声を出して感嘆した。上位指名間違いなしと言われている大阪桐蔭の前田って、これよりすごいのか。両校勝ち上がっての決勝戦を期待。

TSUTAYAにDVDを返しにいくために、車で出掛ける。Big ThiefとOscar Jeromeの新曲を聞いた。みのおキューズモールに行き、ウィンドウショッピングを楽しんだ。猛暑の通勤に体力が消耗しているので、mon-bellで日傘を買おうかと思ったけども、今期分は完売とのこと。日傘がないなら帽子かと色々かぶってみたけど絶望的なまでに似合わないので断念。無印良品ルームフレグランス(ウッディ)の詰め替えと「ごはんにかける胡麻味噌担々スープ」を購入。併設していたイオンのスーパーで来週分の食料を調達し、ついでにスイカを一玉買った。イオンの果物は糖度が表示されていて、まんまと「なんだか甘そうだな」と思ってしまう。

ご飯を食べながら『27時間テレビ』にチャンネルを合わせる。『サザエさん』をひさしぶりに観たら、ほとんどのキャストの声が変わっていた。花沢さんがあのドラ猫ボイスからさらにつぶれた低音ボイスになっていたのが特に気になって、「声優さんいつ変わったのだろう」と調べたら、変わっていなかった。高齢になり、声が出なくなっているらしい。そう考えるとサザエさん役の加藤みどり83歳というのが凄すぎる。

60分漫才のフィナーレと津田母による「時代」の合唱を観届け、もらい泣き。とは言え、大阪時代の3組を見つめてきたわけではないので、後入れの知識で補完して泣いているだけなのだけど。どういう組み合わせなら心から泣けるだろうか。「オードリー・アルコ&ピース・ハライチ」とか?オードリーとハライチは普通にありそう。「ロングコートダディニッポンの社長マユリカ」か。いや、それなら「オズワルド・空気階段真空ジェシカ」とか「真空ジェシカ・ママタルト・カナメストーン」のが泣けるな。なさそうすぎて、「千鳥・ダイアン・かまいたち」の並びの完璧さが際立つ。

寝る前に配信で『古民家マユリカ〜古き良きならあの頃の〜』を観た。すごくおもしろい瞬間があるのだけど、全体的にはなんか粗い仕上がりという印象。ベストネタライブの『立つのよ!マユリカ!!湧き出るパワーの化学式!!!』ですら同じことを思ったのだけど、SNSで検索してみると軒並み好評なので、わたしの感覚がマユリカの漫才と合わないのかもしれない。いや、2021年の敗者復活のネタは完璧に仕上がっていたと思うし、やっぱり練り足りていないのだと思う。個人的にはラジオのおもしろさと漫才が並んで欲しいのだけど。

7月24日

大好きなBruno Majorのニューアルバム『Columbo』がリリースされていたので、エンドレスリピート。

Columbo [Analog]

Columbo [Analog]

Amazon
今のところ、メロディーやアレンジがやや大仰になった感があって、よりミニマルでパーソナルな前2作(たぶんここ数年で1番聞いているアルバム)のほうが好みな感じはするのだけど、聞き込んでいきたい。私立恵比寿中学のニューシングル「Summer Glitter」も素晴らしい。前シングル「Kyo-do?」といい、新メンバー加入後の楽曲の充実。エビ中とかハロプロってなんで『ミュージックステーション』とか『CDTV ライブ!ライブ!』などになかなか出してもらえないんでしょうね。Mステに出ないで言えば、吉澤嘉代子・にしな・TOMOOがわたしの中における現行の国内三大女性SSWなのだけど、テレビの音楽番組で見かけない。緑黄色社会とか鬼滅の曲を歌う人達とかばかり。特にTOMOOはお気に入りで、「オセロ」「17」「Cinderella」「夢はさめても」「夜明けの君へ」とメジャーデビュー後のシングルもすべて良いのだけど、1番好きなのは「Ginger」。

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安藤裕子meets Ben Folds Fiveとでいうような良質なピアノポップで、ソングライティングの才能で言えばOfficial髭男dismに引けを取らないと思うのだけど、実はレーベルも同じIRORI Recordsで、スカートやHomecomingsも所属しているポニーキャニオンのナイスなレーベルなのだ。

録画が溜まっていた『最高の教師』1話を観てみたのだけども、生徒が松岡茉優からお金を騙し取るくだりがあまりにこれまでドラマで観たことある嫌なやつら過ぎて、どうでもよくなってしまい消した。『GTO』とかと同じじゃん。『GTO』1話っていうと、家の壁をハンマーでぶっ壊すところが語り草だけども、個人的には水樹がめちゃくちゃ大量のコロッケを作るくだりが記憶に色濃くて、コロッケ食べる度に思い出します。あと、『最高の教師』は、監修が『家庭教師のトライ』というのもなんかいやですね。『アルプスの少女ハイジ』の品位を踏みにじったこと、今でも許せない。最近、『アルプスの少女ハイジ』3話まで観直したんですけど、あまりに良くて泣いてしまった。ハイジとおじいさんの会話のテンション、藁のベッド、ヤギのミルク、そして、溶かしたチーズをパンに乗せるところ!小さい時に観て、今なお鮮明に身体に残っていた。

7月25日

New Jeansの2ndEP『Get Up』をエンドレスリピート。「ETA」が好きすぎる。昼に東大阪にある「麺や 清流」で冷やし中華を食べる。

見た目も美しい麺がぷりぷりでとても美味しい。近畿大学が近いようで、店内は賑わっていた。それにしてもえげつない暑さなので、仕事帰りに、スーパー銭湯に入り、体力を回復させる。夜ご飯は冷しゃぶ。冷たいものばかり食べて、胃を冷やしている。

4年ぶりに開催された天神祭りの花火をテレビ中継で適当に眺める。司会は西川きよしハイヒール。大阪だ。テレビで観る花火にすぐに飽きて、録画で『真夏のシンデレラ』3話を観て、ギブアップ宣言。謎の“秒速5センチメートル”セックス。ツッコミながら観るのが正しい楽しみ方なのかもしえないが、もうこれ以上は観ていられない。世間を騒がしているビッグモーターの上層部の現場の切り捨て方はもろに『半沢直樹』の世界だ。ということで、2-3話を観る。シーズン1の5億円回収の大阪編はまじでおもしろい。3話の裁量臨店なんてほんと最高。人事部次長の小木曽(緋田康人)の完璧な雑魚ヒールっぷりにいつも痺れる。緋田康人というと、『木更津キャッツアイ』や『時効警察』 のイメージだけども、源流としてビジバシステムやラジカル・ガジベリビンバ・システムに辿り着くの、文化の豊かさという感じがする。あの時代の東京のお笑いや演劇カルチャーへの憧憬は強いが、数十年後にはダウ9000もそういう存在になっているのかも。

7月26日

午前中は在宅。資料作りをしながら、『ラヴィット!』でさらば青春の光の森田がロレックスを買うところと、ジャンボリーミッキーを全員で踊るところが観られた。履正社も順調に勝ち上がっている。スーパーで買ったおにぎりを齧りながら、午後から車で外回り。John Carroll Kirbyと Ítalloのそれぞれのアルバムを聞いた。うだるように暑い今年の夏のサウンドトラック。特にブラジルのSSWであるÍtallo『Tarde no Walkiri』は今年1番の愛聴盤だ。アコースティックと電子音が絶妙にミックスされたサウンドが涼し気で良いのだけど、なによりソングライティングが充実している。ジャケットもナイスなのだ。

帰宅して晩ご飯の麻婆豆腐を食べながら、『お笑い実力刃presents 証言者バラエティ アンタウォッチマン!』のダイアン回を観る。この日はおそろしい睡魔に襲われてしまい、お風呂に入って早めに眠る。

7月27日

運転中ずっと、『N93 カラタチの最果てのセンセイ!』を聞いていた。最初のほうは大山さんがべらんめえに怒りすぎていて聞きづらいなと思っていたけど、慣れたらかわいく感じてきた。前田さんはオタク芸で飯が食えているようでいて、実はせっかくの笑いの才能(その言葉の強度と速さ)をオタク芸のせいで軽んじられているでは。あと、最近始まった街裏ぴんくポッドキャスト『虚史平成』も最高。街裏ぴんくを一度も決勝にあげなかった『R-1グランプリ』を許すことができない。


Twitterで見かけた、MISAMOのイベントにナヨンが駆けつけてくれたのを受けてのミナさんの画像に心を撃たれた。良すぎる。

駅まで妻が保冷剤バッグを持って現れ、暑すぎるのでコンビニでアイスをまとめ買いするとのこと。暑い夏はサクレなんかが気分。ローソン限定でスイカ味のサクレが出ているらしいが、人気で売り切れ。めちゃ食べたい。しかたないので、スイカバーなどを買った。帰宅して『半沢直樹』の大阪編を観終える。おもしろすぎて少し泣いた。

道路交通看板「静かに」について


夜が更けた帰り道、親の運転する車の窓から見上げる、「静かに」と書かれた青い看板が好きだった。お出掛けが終わってしまう“寂しさ”と、知っている場所に帰ってきた“安心感”がないまぜになったような感覚。幼心に芽生えたちょっとだけ複雑な感情が、あの看板に今でも宿っているような気がする。


そもそも、道路標識というものは、運転中にドライバーが目にするものだから、注意喚起するわりには情報量が少ない。じっくり読ませてしまったら事故を起こしてしまうから。「結局のところ、どういう意味なんだっけ?」と混乱することもあるが、効率や機能性を追い求めるこの情報社会において、あの“抜け感”がちょっと心地よいのだ。

個人的に「普通自転車等及び歩行者等専用」(得体の知れない物語性*1)とか「動物が飛び出すおそれあり」(シカ、タヌキ、サル、ウサギなどバリエーションがあるところかわいい)の標識あたりが好き。


そういった道路標識の中においても、あの「静かに」の看板は異様に"親密さ"が濃い。数字やルールで縛ってくるのでなく、ピクトグラムではない温かみのある1枚の絵で、ドライバーの心理というか倫理に訴えかけている。社会の冷たいコードからの逸脱だ。あの看板を設置することで騒音対策の効果があるとは思えないが、「あぁ、ここには温かい布団でぐっすり眠る子どもがいる。暮らしがあるんだな。」というポワーっとした気持ちを呼び起こしてくれる。なんてことないようでいて、こういったささやかな“生”の実感の積み重ねが、わたしたちの日々を支えているようにすら思うのだ。


この「静かに」の看板、検索してみても得られる情報は意外と少ない。

こちらによれば、「静かに」の看板は、かつては法令が定める“道路標識”扱いであったが、現在は法令からは外れており、道路管理者が必要に応じて設置しているらしい。あとは、「静かに坊や」として一部の根強いファンがついているということ。そして、そのデザインのパターンは多岐にわたっているということだ。

表情や髪型が微妙に違ったりまつ毛が長かったり、帽子をかぶっていたり、赤ちゃんだったり、星の形が違ったり、星が月になっていたり・・・上記画像の「静かに」がオリジナルなのかもわからないが、仮にこれをオリジナルとした場合、表情にせよ、髪型にせよ、デザインの情報量の落とし方、どこをとっても絶妙なバランスでオリジナルが秀逸であるように思う。


この看板のデザイナーとかつて仕事をしたことがあるという方がTwitterで教えてくださった情報によると、そのデザイナーは“森さん”という名前で、15年前に70代であったらしい。また、黎明期の無印良品のプロダクトデザインやモスバーガーのトレイのデザインなどもされていたとのこと。検索してみても、まったく辿り着くことはできなかったし、正確な情報かはわからない。しかし、無印良品モスバーガー関連のデザインをされている方が、あの「静かに坊や」を作ったのかと思うと、その生活との密着の近似性に、なんだか胸がいっぱいになる。そして、なんたる匿名性か。その仕事をした方の名前は、誰も知らない。それでも、その仕事は、わたしたちの生活に深く根付いていて、名のある政治家やインフルエンサーなんかよりも、よっぽど暮らしを良くしてくれている。「静かに坊や」には間違いなく人々の暮らしを見つめる優しい視線がある。名もなきデザイナーによる心温かき思想が、何十年の時を経てもなおこの国の道路に散りばめられているのだ。

*1:この感覚を、おおひなたごうの傑作ギャグ漫画『おやつ』にて「自転車一台と妹を引き換えにしてしまった少年の悔恨の物語。」として描かれていた

最近のこと(2023/7/14~7/20)

今年の2月に引っ越しをした。大阪での3回目の住居変更になるのだが、新しい街もとても気に入っている。大阪にしては、緑や坂が多くて、感性が刺激される、気がする。これまでは職場から徒歩10分くらい都市部に住んでいて、家の周りにコンビニが数えきれないほどあり、飲食店も充実していて、あれはあれで快適だったのだけども、いわゆる住宅街みたいな場所で暮らすのも落ち着きがあって悪くないなと思う。というわけで、ひさしぶりに家から駅まで歩いたり、電車に揺られたり、ターミナル駅で乗り換えたり、と“通勤”というものを体験している。絶望だ!と思いきや、本当にすぐに通勤そのものには慣れたのだけど、単純に自由時間が少なくなったので、ブログを更新する気力が減少していました。先日、ひさしぶりに文章を書いてみたら楽しくて、なんでもいいから書きたくなったので、「最近のこと」を更新してみる。

7月14日

有給休暇を申請していたので、4連休のはじまり。朝からエキスポシティの映画館に向かい、『君たちはどう生きるか』を鑑賞した(公開初日)。平日の朝ながら、席はしっかり埋まっている。なんと言ったって宮﨑駿(知らない間に表記を宮崎駿から宮“﨑”駿に変えていたらしい)の10年ぶりの新作長編なのだ。数カ月前からソワソワしてしまって、DVDでこれまでの宮崎作品を復習したり、漫画版『風の谷のナウシカ』を読み直したりと、忙しく過ごしていた。それでも物足りなくて、『「もののけ姫」はこうして生まれた』や『夢と狂気の王国』などのドキュメンタリーも観て、脳内を宮崎駿で満たす日々。はやく観たくて仕方ないのだけど、「これで本当に終わりなのかもしれない・・・」という寂しさもあって、引き裂かれたような心持ちであった。事前に公開された情報がポスター1枚という鈴木敏夫マジックがまた最高で、ワクワクは最高潮に引き上げられ、当日はなんだかもう変な精神状態でした。いざ、上映開が始まると、そのイマジネーションの縦横無尽さに眩暈を覚えながら、「無茶苦茶やりやがった・・・」と興奮の涙。しかも、ちゃんとおもしろいではないか。すぐに明日もう1回観ようと心に決めた。それにしても、起用する若手が菅田将暉あいみょんに米津玄師とか芸能界の“光”とされているところ過ぎ。個人的には、「良いとは思うけど追いかけない」という絶妙なラインの面子。それよりも、小林薫大竹しのぶ風吹ジュン火野正平に興奮してしまう。坂元裕二の作品に出ている人、多いな(菅田将暉もだし)。そもそも、『もののけ姫』なんて田中裕子と小林薫が出ていて、それはジブリ(宮﨑駿というより、鈴木敏夫)と坂元裕二が同様にして、山田太一向田邦子あたりのテレビドラマにあった魂を汲み取っているからなのだと思う。そういう連綿とした“流れ”みたいなものを、わたしは愛す。最近よく見かける、「誰かがつくった道を行くよりも、自分の行きたい方へ、進んだ方が面白い。道なき道を行く人へ」とか言っているヴェルファイアのCMとか、なんか相容れない価値観だなと思ってしまう。しかも、あのCMのナレーターはベンジーという。

頭がボーっとなりながら、西天満にある「志津可」という老舗の鰻屋で鰻重を食べた。夏バテ防止の景気づけ。前に住んでいた家から近かったので、引っ越し後も夏になると、こちらまで足を運ぶようにしている。このお店は関西ながら江戸前流(蒸してから焼く)。大阪に住んで4年目になるが、関西風のパリッと香ばしい鰻というのを食べたことがないかもしれない。鰻を食べ終え、喜連瓜破にある名店「やぶ珈琲」へ。ホットでもアイスでも美味しく飲めるというマーブレンドを200g購入。注文してから焙煎して、購入後は2日間眠らせておいてください(焙煎した時に発生するガスを抜くためらしい)というスタイルのお店で、店構えやスタッフの方の雰囲気も良いし、なにより美味しいので、最近はここでよく豆を買っている。

夜は中之島フェスティバルホール山下達郎のコンサート。有給休暇をとって映画を観て、絶滅危惧種の鰻を食べ、あの悪名高き山下達郎のライブへ。われながら意識の高い人から後ろ指さされる過ごし方だ。山下達郎さんについては思うところは色々あるけども、インターネットで議論したいとは思わない。山下達郎を断罪したい気持ちはないけども、全肯定の雰囲気に包まれたコンサート会場のクローズドな空間にはちょっとどうなのだろうとは少し思った。パフォーマンスはめちゃくちゃ素晴らしくて、「土曜日の恋人」の旋律に心慰められ、はじめて生で聞く「SOLID SLIDER」に痺れた。夜はセブンイレブンでおにぎりを買って食べた。「かに味噌醤油まぜめしカンジャンケジャン仕立て」という期間限定の謎のおにぎり、何味なのかよくわからないけど美味しかったです。

7月15日

朝から散歩を兼ねてパン屋へ。「おそらくNo.1のパン屋になるんじゃないかな」と自信満々に妻が見つけてきたお店なのだけど、これが本当に素晴らしかった。小さな店内にギッシリ並ぶ種類豊富なパン。美味しいパン屋は狭い。この法則はわりと信頼できる。パン屋へと続く緩やかな坂道もとても気に入った。この風景の一体どんな部分に自分が惹かれているのか言語化しきれないところがある。おそらく自然と人工物の調和に魅了されているのだと思うのだけど、それだけで済ませてしまうのはどうも味気ない。風景に覚える感動を言葉にできるようになりたい。

14時からオープンしている銭湯で汗を流した。はじめて行く銭湯はワクワクするもの。しかも、明るい時間から風呂に入るのは最高。屋根の窓から陽が入る造りだとなお良い。お湯もサウナも気持ちよい銭湯だった。水風呂は水量たっぷりで水質も柔らかいのだけど、ぬるい。ひさしぶりに20℃近い水風呂に入った気がする。冬場に再度訪問していたい。サウナの中で『秘密のケンミンSHOW』の「和歌山県特集」の再放送が流れていた。なんでも、「王林園」というお茶屋さんが運営しているラーメンチェーン「グリーンコーナー」のてんかけラーメン(天かすを乗っけた醤油ラーメン)とグリーンソフトが和歌山市民のソウルフードであるらしい。地域に根付くローカルフードに目がないので、今度食べに行ってみようと思う。

サウナを出て、みのおキューズモールで『君たちはどう生きるか』の2回目の鑑賞。昨日観たばかりだけど、まったく飽きることなく楽しめた。細部に目を凝らし、耳をすませた。そもそも、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』、めちゃくちゃ好きなんだよな。あの本には本当に色んなことが詰まっている。あの本が登場する時の久石譲の音楽、泣く。帰りに、二郎系の「ラーメン荘おもしろい方へ池田店」に寄り、ラーメン小を食べた。にんにくあり、野菜マシ。この歳になって急に、二郎系ラーメンに魅せられてしまい、月に1回くらいのペースで通っている。完全にダイアンのラジオと春とヒコーキのYouTubeの影響。食べたくて仕方なくなってしまい、調べてみると、関西には本家の「ラーメン二郎」は京都にしかなく、「ラーメン荘」というインスパイア系が幅をきかせているらしい。そもそも二郎を食べたのも10年くらい前なので、味の違いはわかりませんが、「ラーメン荘」も美味しかったです。帰宅すると、にんにく臭いと妻になじられた。TBSの『音楽の日』の録画を適当に早送りしながら観た。いいなと思ったのは、Travis Japan「Candy Kiss」(マイケル!)、LE SSERAFIM「UNFORGIVEN(ナイル・ロジャー!)、NewJeans「OMG」、Snow Manブラザービート」、Sexy Zone「RUN」、ano「ちゅ、多様性。」、SixTONES「こっから」、なにわ男子「Poppin’ Hoppin’ Lovin’」、King&Prince「なにもの」、KinKi Kids「フラワー」・・・ほとんどジャニーズ事務所。罪深いな。とくにSixTONES「こっから」はすばらしい。衣装、ダンス、MVのローション、どこをとっても充実している。


とくに森本慎太郎松村北斗がよい。デビュー曲のYOSHIKI的なゴシック路線より断然この不良性が彼らの身体性にマッチしている。

7月16日

妻の両親が家に来るというので、猫戦の新曲「もちもち」を聞きながら、朝から掃除。いい曲。しかし、猫戦からギターの小原さんが抜けてしまったのがとても残念。わたしの中では彼のギタープレイがバンドをオルタナティブで特別なものにしていた。3000円オフのLINEギフトを手に入れたとのことで、お昼にスシローに行く。『有吉&マツコのかりそめ天国』を観た影響で、義母がかき氷を食べたい衝動に駆られているらしいので、帰りにかき氷屋に寄った。オカリナさん、おもしろいですよね。

両親が帰った後、車でスーパーとTSUTAYAへ。『平成狸合戦ぽんぽこ』『ソナチネ』などを借りた。妻は北野映画を観たことがないのだけど、『空気階段の踊り場』の影響で、観てみたくなったらしい。最初の1本を『アウトレイジ』にするか『ソナチネ』にするかおおいに悩んだ。それにしても鈴木もぐらの北野映画愛は最高。『首』の公開、楽しみだ。『空気階段の踊り場』はもぐらが離婚してから、また息を吹き返すようにおもしろい。7月4日放送の回なんて、まさに神回で2回聞いた。2人の「痩せろ」「痩せない」という問答だけでここまでおもしろく展開できてしまうなんて。水川かたまりの“むきになる”感じが本当によくて、気が付くと「1人で生きるなんて言うな!」なんていうエモさの境地に辿り着いてしまうのが愛おしい。しかし、「離婚してからおもしろくなった」なんて風に感じてしまうのは実に申し訳なくて、芸人さん(特にラジオに軸を置いている)に「幸せになってはいけない」というような負荷をかける構造になってしまっているように思うのだけども、やっぱりうまくいかない中で、懸命にもがいている様みたいなものが胸を撃つし、深夜ラジオによく似合う。そのせいで、芸人は婚期を遅らしたり、離婚したり、ギャンブルにのめりこんだり、稼いでいるのに借金を返さなかったりするのだろうか。夜はゴーヤチャンプルーを食べた。

7月17日

4連休がついに終わってしまうので、意気消沈。家でのんびり過ごすことにしたので、『君たちはどう生きるか』についてのブログを書くことにした。「あのキャラクターは誰々がモデルだ!」ということを訴えたいのではなく、あの作品の醸し出す「あの人は今も笑っているのだ」という構造とフィーリングについて書きたかった。複数のモデルや事象のリファレンスが溶け合って1つのキャラクターを作り上げるものであって、「あのキャラがあの人で、あのキャラがあの人で・・・」という単純な記号化で、物語の整合性がとれるような映画ではないので、ああいう書き方はあんまりうまくなかったなとも思う。はてなブックマークのコメントで驚いたのはこの10年で社会が悪化したというのが共通認識ではないということ。「俺は大企業に勤めていて、給料もグングン上がって、子どもは有名中学に入って、幸せだー」みたいな人の書き込みなのだろうか。別にそういう人の幸せは否定しないけど、社会や時代の空気というのはあなた個人の実感とはまったくの別物だろう。

ブログを書き終えた後、TBSドラマ『VIVANT』1話を録画で観る。砂漠をスーツ姿で彷徨う堺雅人の画は思いっきり『マスター・キートン』なのだけど(上着を脱がないから確信犯だと思う)、全体的に浦沢直樹っぽさがある。顔にウンチを塗りたぐるのは、福澤克雄だなぁ、という感じ。『3年B組金八先生』とか『ドラゴン桜』とか、失禁という演出が出てくるとクレジット見ると、かならず福澤克雄なので、なにかこう“シモ“にこだわりがある人なのだと思う。バルカ共和国に行く前の日本を舞台にしている時のほうがワクワクしたので、自分は思っているより池井戸潤作品好きなんだなと思った。

Netflixで『ハリー・ポッターと謎のプリンス』を観た。ハリー・ポッターの観返しも、残すところあと2本。映画版のすばらしさは、スタイリングの野暮ったさだ(原作由来なのかもしれないけど)。絶妙なギーク感を全員がキープしている。ハリー・ポッターはテレビドラマ版としてリブートするらしいけど、ここらへんも現代的に、スタイリッシュになってしまうのだろうか。そして、スネイプ先生はアラン・リックマン、ハグリッドはロビー・コルトレーン以外考えられないのだけども、2人とも亡くなってしまった。

お昼はソーメン、夜は景気づけに焼肉屋へ行った。最近はカルビよりハラミが美味しい。帰りにコンビニで、宇野さんがツイートしていた「ザ・クレープ 爽やかヨーグルト味」を買った。シチリア産レモンソースとヨーグルトが夏にピッタリ。Twitterで1番楽しいのは人がオススメしているコンビニ商品やジャンクフードに感化されること。放送作家の飯塚さんがツイートしていた、みんなTwitterを大好きな割にハマってない素振りをするのが“作法”になっているという指摘にハッとしたので、Twitterが大好きなのだと主張していきたい。


でも、最近はフォロワーのツイートすら全然読めてないんだよなぁ(また、そういう作法を!)。これはTwitterを愛する気持ちから、昔のTwitterっぽい投稿をしてみようとつぶやいたもの。

アイスを食べながら、『真夏のシンデレラ』2話を観た。チンピラばっかり出てくる吉本新喜劇的な月9。設定もろもろネタとしてやってるのかもしれないけど、時代の流れを織り込みやすいテレビドラマでやることではないと思う。森七菜さん、『舞妓さんちのまかないさん』は本当に素晴らしいニュアンスの演技だったのですが。

7月18日

朝からあまりに暑い。電車の中で熱中症気味になって、軽い吐き気に襲われる。ビジネスシャツは長袖に限る(夏は袖まくり)という信念をついに崩す時が来たのかもしれない。『川島明のねごと』のマユリカがゲスト回を聞きながら、会社に向かった。

仕事中の楽しみは車の中で音楽を聴けることだ。最近はThe Fifth Avenue Bandのケニー・アルトマンの曲をリピートしている。みんな大好き「「One Way Or The Other」と「Nice Folks」です。コーネリアスMeshell Ndegeocelloの新譜と『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(最高!!)のサントラもヘビーローテーション。「メトロ・ブーミン」ってめちゃ発話したくなる。あとは、唐突に空前のTWICEブームがわたしの中で到来していて、TWICEの好きな曲を集めたプレイリストを作ってよく聞いている。その流れで、MISAMOも。


「Bouquet」にはガッカリしたけど、「Marshmallow」と「Do Not Touch」は最高。MISAMO の3人が関西出身なのもうれしいよ。3人とも信じられないくらい美しいのだけど、わたしはミナさま派。声も好き。

夜ご飯は冷しゃぶ。ご飯を食べた後に、サクレのレモン味を食べながら『平成狸合戦ぽんぽこ』を観た。リアルタイムで観たというのもあるかもしれないけど、高畑勲の作品で1番好き。公開当時、上映が終わると「あんた達にはまだわからないかもねぇ」と母が泣いていたのを覚えている。今の自分はあの頃の母と同い歳くらいかもしれない。

7月19日

朝から仕事で京都へ。途中サービスエリアに寄って、自販機で飲み物を買おうとしたら、エビアンが170円もするので、なんだか泣きそうになってしまった。500mlの水が170円か。最近はコンビニでこれまでの感覚で昼ご飯の買い物をすると、簡単に1000円超えてしまう。お昼は東寺の近くにある「とことんとりコトコト」でラーメンを食べた。ここのラーメンは天下一品超えのドロドロスープながら、味が破綻しておらず美味しくて、京都に行くとたまに足を運んでいる。仕事を終えて、Prince『Around the World in a Day』を聞きながら帰った。

帰宅すると、『ぽかぽか』のゲストが武田鉄矢だったので、録画しておいたと妻が満足気であった。『3年B組金八先生』や『幸福の黄色いハンカチ』を観させられた影響で、妻は武田鉄矢の大ファンになっている。『101回目のプロポーズ』の武田鉄矢の顔面Tシャツを着て街を歩いているし、『刑事物語』の全シリーズを鑑賞している。わたしですら4作目と5作目には手を出していないのに。武田鉄矢フリークとして負けられていない。『ぽかぽか』は充実の内容。お悩み相談のコーナーは何を言っているのかよくわからないので、聞き流したが、出演ドラマの裏話がよかった。『3年B組金八先生』の第7シリーズにおいて武田鉄矢濱田岳につけた身体的演出、さらには『刑事物語』のハンガーヌンチャクについてまで話していて、なんてマニアックな番組なのだと興奮した。ハライチの2人はわたしと同じく第5シリーズの“兼末健次郎”世代。兼末健次郎という名前がスッと出てくる人を信頼してしまう。「健次郎、あいつは毒だな」は金八の中でもわたしのお気に入りの台詞と演技です。

ウッチャンナンチャン南原清隆のアクリルスタンド発売とのニュース。「母がいつも身に着けていたロケットペンダントを、亡くなった後に開いてみたら南原清隆の写真が入っていた」っていうツイートを昔読んで大笑いした気がする。南原清隆大喜利の回答として強すぎる時代がたしかにあった。『水曜日のダウンタウン』を観ながら岡野さんのジュリエットとの結婚を祈っていたら、まさかの弟のほうだった。ドラマ『こっち向いてよ向井くん』の1話を観た。おもしろいけど、あまりに"正しそう"なドラマで観続けるかわかりませんが、髪の長い岡山天音がたいへんセクシーで良かった。前クールのドラマ『日曜の夜くらいは』も岡山天音が1番良かった。ドラマ自体は1話がダントツで素晴らしくて、後半のカフェ作りは興味を失ってしまった。八千草薫樹木希林亡き今、宮本信子がいいお婆ちゃん役を独占しているような気がする。

7月20日

朝は風があって、少し涼しい。最低気温が25℃を切ると、だいぶましだ。この日は仕事で神戸方面へ。車でラッキーオールドサンの大好きなアルバム『Belle Époque』を聞いた。

Belle Epoque

Belle Epoque

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オズワルド畠中が失恋報告のラジオで「すずらん通り」を流したのを機に、もともと好きな曲だったけども感慨がひとしおになっている。マーライオンの新曲「海へ海へ海へ」がとてもよかった。サビの勢い!このスティールパンの音、懐かしい気持ちになる。なつやすみ。最近の彼の作る曲は良いけど、今までで1番いいのでは。10年以上前、まだ学生だった頃の彼のひたむきさみたいなものをどこか冷笑気味に見ていた自分が恥ずかしい。マーちゃん、ごめんね。音楽をやり続けて、進化しているマーライン、すごいぜ。夜は職場の歓迎会。リバーサイドのカジュアルイタリアンみたいな洒落たお店で、周りでは恋愛リアリティーショーみたいな組み合わせの飲み会が開催されていて、新鮮。ご飯は別に美味しくなかった。木曜日に飲み会なの珍しっ。

宮﨑駿『君たちはどう生きるか』


宮﨑駿による『不思議の国のアリス』(もしくは宮沢賢治の童話)とでもいうような、イマジネーションの破茶滅茶なまでの躍動。『千と千尋の神隠し』以降の作品に見られた傾向がさらに押し進み、ストーリー・テリングとしては、明らかに混乱している。しかし、それは宮﨑駿の“世界”に対する誠実な態度であるように思う。シンプルで明瞭なストーリーで語り切れるほど、この複雑で暗澹たる現代は生易しくないし、そもそも人間というのはそんなに簡単なものではない。たとえば、この映画における主人公の父親。彼にいい印象を持つ観客は多くないだろう。転校初日に車で学校に乗りつけたり、子どもの喧嘩に介入したりするさまなどは、まさにエーリッヒ・ケストナーが『飛ぶ教室』で書いた大人への批判がそのまま当てはまる。

どうしておとなはじぶんの子どものころをすっかり忘れてしまい、子どもたちにはときに悲しいことたみじなことだってあるということを、ある日とつぜん、まったく理解出来なくなってしまうのだろう。

しかし、彼は妻と息子が行方不明になった時、果敢に怪物に向かい打ち、さらにその胸元には彼らのためのチョコレートを忍ばせている(実にさりげない描かれるこのシーンは感動的だ)。こういった人間の多面性を描いていけばいくほどに、物語は複雑にならざるを得ない。


宮﨑駿が映画を作る理由。渋谷陽一によるインタビューの下記箇所で語れている。

「この子が生まれてきたことに対して、『あんたはエライときに生まれてきたねえ』ってその子に真顔で言ってしまう自分なのか、それともやっぱり『生まれてきてくれてよかったんだ』っていうふうに言えるのかっていう、そこが唯一、作品を作るか作らないかの分かれ道であって、それも自信がないんだったら僕はもう黙ったほうがいいなっていうね。だからどんな状態になっても世界を肯定したいっていう気持ちが自分の中にはあるから、映画を作ろうっていうふうになるんじゃないかと思うんです」
(『風の帰る場所 ナウシカから千尋まで軌跡』より)

風立ちぬ』公開の2013年から10年。この世界の状況はさらに悪化の一途を辿り、人間の内面も大いに疲弊している。それでも、“これから”の子どもたちに、「生まれてきてよかったんだよ」と言ってあげるために、宮﨑駿は精一杯混乱してみせるのだ。


ジブリ王国の継承(とその不可能性)。産まれ直しのモチーフ。この映画でいったい何度、眞人は“穴”を貫通しただろう(青鷺のクチバシの穴を塞ぐ、ズボンを穿く*1、といった運動を含め)。しかし、これらはすでに多くの場所で良質に語られ尽くされているだろうから口をつぐむ。私が描きたいのは、『君たちはどう生きるか』を観て、頭に浮かんだあるドラマの一節だ。それは、坂元裕二が脚本を手掛けた『大豆田とわ子と三人の元夫』というドラマにおいて、小島遊(オダギリジョー)が親友を亡くして落ち込む大豆田とわ子(松たか子)に伝えた言葉。

人間にはやり残したことなんてないと思います
過去とか未来とか現在とか
そういうものって、“時間”って別に過ぎていくものじゃなくて
場所っていうか別のところにあるものだと思う
人間は現在だけを生きてるんじゃない
5歳、10歳、30、40・・・その時その時を懸命に生きてて
過ぎ去ってしまったものじゃなくて
あなたが笑ってる彼女を見たことがあるなら
今も彼女は笑っているし
5歳のあなたと5歳の彼女は今も手を繋いでいて

今からだっていつだって気持ちを伝えることができる

「あなたが笑っている彼女を見たことがあるなら、今も彼女は笑っている」、宮﨑駿が今作で描こうとしたのはまさにこれではないだろうか。

僕が愛したあの人は
誰も知らないところへ行った
あの日のままの優しい顔が 今もどこか遠く

米津玄師による主題歌「地球儀」にて、こう歌われていることもその証左となるだろう。たくさんの人々と死に別れた宮﨑駿が、どうやってその“悲しみ”を慰めてきたかの過程がフィルムに刻まれている。亡くなってしまった母の、元気だった頃に出会いたい(なんならば、恋に落ちたい)、という想いが“ヒミ”というキャラクターを生み出した。いや、「元気だった頃の母」というのは正しくないだろう。「今も彼女は活力的であり、僕のためにパンを焼き、たっぷりのバターとジャムを塗ってくれるのだ」、そういった質感と祈りのようなものがフィルムに迸っているからこそ、この映画は観る者の胸を打つ。


そして、宮﨑駿が会いたいと願うのは母だけではない。気になるのは“キリコ”というキャラクターだ。なにかと主人公の面倒を見てくれるそのさまは、『魔女の宅急便』のオソノさんやウルスラ、『もののけ姫』のトキ、『千と千尋の神隠し』におけるリンといった、これまでの作品にも登場したキャラクターに連なるだろう。彼女は現実世界では老婆だが、異世界においては若く溌溂とした姿で登場する。そのヴィジュアルは、どこか平面的な顔立ち。煙草に執着し、パンをパクパクと食べる*2。そして、彼女が勇ましく船を漕ぎ出すシークエンスが、『太陽の王子 ホルスの大冒険』におけるホルスの旅立ちのシーンと重なる時、このキリコというキャラクターに“高畑勲”が重ねられているのだと確信することだろう。

もしくは2016年に亡くなってしまった東映アニメーション時代から(すなわち『太陽の王子 ホルスの大冒険』にも参加している)の盟友・保田道世が混ざり合っているのかもしれない。『風立ちぬ』において、堀越二郎堀辰雄を混ぜ合わせて主人公を作り上げたように。ここで再び、宮﨑駿のインタビューをまとめた『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』から一節を引きたい。

ー宮崎さんの作品の中でキャスティングされるサブの一つの典型は、釜爺みたいな人と、あともう一つ、いわゆるすごくしっかりもののお姉さんというのも必ず登場しますよね。『千と千尋の神隠し』で言えば、“リン”ですけれども、ああいうキャラクターがいるっていうのは、やっぱりストーリー・テリングの中で、宮崎さんにとってすごくやりやすい部分があるんですかね。

宮﨑「やりやすいから選ぶっていうよりも、そういう人がいてほしいんですよね。たぶん、人間誰しも素寒貧で世の中に出ていくときに、職場とかで、そういう先輩に出会ってるはずなんですよね。そう思わないですか?僕は自分の過程を考えると、そう思いますよ。だから、映画に出てくるほどの関係性で親しくなくてもね、ものの考え方とか、心構えというのをいつの間にか仕込んだって人がいると思うんですよ。

ものの考え方とか、心構えを仕込んだ人としてのウルスラやリン。彼女たちは、宮﨑駿における高畑勲保田道世という存在の表出だったのだ。キリコは眞人に釣った魚の捌き方を教える。その際に、キリコから発される言葉は「もっと深く」「一気に引く」・・・それはアニメーション作りにおいて、宮﨑駿が高畑勲から学んだことのメタファーのようである。”もっと深く“というのは、高畑勲の告別式での宮﨑駿の言葉に登場する。

僕はパクさんと夢中で語り明かした。ありとあらゆることを。中でも、作品について。僕らは仕事に満足していなかった。もっと遠くへ、もっと深く、誇りを持てる仕事をしたかった。何を作ればいいのか、どうやって。パクさんの教養は圧倒的だった。僕は得難い人に巡り会えたのだと、うれしかった。

”一気に引く“はカメラワークのことだろう。宮﨑駿のカメラはキャラクターに寄って観客を巻き込んだ快楽性を描いていくが、高畑勲のカメラはキャラクターから一歩引いた抑制的な視点で物事を映しとる。そのことに対して、宮﨑駿はどこかコンプレックスに近いものを感じているように思う。そして、キリコの捌いた魚の臓物は、これから生まれてくる子どもたちが羽ばたくための栄養となる。それはまさに、『アルプスの少女ハイジ』『母を訪ねて三千里』『未来少年コナン』『パンダコパンダ』といった子どもたちのためのアニメーションを作り上げてきた高畑勲保田道世の姿に重なる。羽ばたいていく(これからの)子ども達を見つめて、「お腹いっぱい食べさせてあげられてよかった」と涙するキリコ(=高畑勲保田道世)を宮﨑駿が描く。さらに、眞人はキリコに「また会える?」と抱きつくのだ。今からだって、いつだって、気持ちは伝えることができる。この『君たちはどう生きるか』は、宮﨑駿が「やりたかったけど、できなかったこと」の想いに、ありったけの夢(と狂気)を込めて紡がれている。


『大豆田とわ子と三人の元夫』のオダギリジョー演じる男の言葉は、最後にこう締め括られる。

亡くなった人を不幸だと思ってはならない

生きてる人は幸せを目指さなければならない

人はときどきさびしくなるけど人生を楽しめる

楽しんでいいに決まってる

世界はそうやってできている。であれば・・・わたしたちはどう生きるか?

*1:それは2度も印象的にカメラに収められる

*2:高畑勲の“パクさん”というあだ名の由来