青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

トリプルファイヤーというバンドの事


高田馬場JOY DIVISION」「だらしない54-71」と紹介文にあったけれども、更にもう1つ加えるなら、”ゆらゆら帝国”ではないだろうか。卓越した演奏力を持ちながらも、ストイックなまでに音色がそぎ落とされている。それでいてながらも、圧倒的な響きを放つバンドのアンサンブル。禁欲的にリフを刻んでいたギターがごく稀にソロをとる時のかっこよさときたら。ニューウェーブ、ノ―ウェーブが味付けとして施されたソリッドなサウンドに、歌ともラップともポエトリーともお経とも言えない不思議なボーカルが乗るスタイル。それでいて、向井秀徳フォロワーには決して陥っていない。なんだかこう書いてみると、とても聞きづらそうなバンドだなぁ、と思われるかもしれないが、「おばあちゃん、俺 俺」と呼びかける最高なロックチューン「おばあちゃん」という楽曲なんて、これが日本からArctic Monkeysへの最終回答だ、という感じ。

どうでしょうか、聞きやすそうな気がしてきたでしょ。サウンドはミニマルかつソリッド。

俺の個性を生かせる受け皿が社会に用意されていない
おばあちゃん これからも迷惑かけるかもしれないけど
俺を否定しないでくれ

呆れるほどに情けないが、どうしょうもないほどに”本当のこと”を歌う若者の音楽だ。やはりこのバンドの最大の武器はボーカル吉田のその言語感覚。歌手のようにメロディーを紡ぐでもなくラッパーのようにビートに乗るでもない、あの声は、一体何だろう。思わず漏れてしまった声、ではないだろうか。つまり本音で、本当のこと。パッと聞き、「パチンコが止められない」といったような歌詞から、所謂「童貞ロック」的なものを連想する人もいるかもしれない。しかし、クレバーでスキルフルな吉田のリリックは、そんなくだらない枠には決して収まらない。音源には収録されていない曲で

虫のついている野菜は新鮮

と叫んでいた。何だそれ。そりゃ、そうだ。そうに違いないだろう。あまりにも”本当のこと”だ。更に、こうも叫ぶ。

変な顔だからその分 心が優しい

ブワっと泣ける。「あぁ、もう絶対そうだ」と思わせてしまう何かがある。この世界を脈絡のない言葉で暴いていく、真理のようなものに到達してしまうこの感じ。トリプルファイヤー吉田は、現代を代表する詩人だ。


イントロのベースラインで歓声が沸き上がる「「エキサイティングフラッシュ」も泣かせる。

俺は頭がいいから性格が悪い
親を大事にしないやつは地獄に落ちる

なんてパンチラインだろう。性格は悪いかもしれないけど、絶対に良い奴なのだ。そういう人って信頼できますよね。新曲の「カモン」もまた最高だった。

吉田が観客に向けて放つ「カモン!」「みんな!」「両手を挙げて!」という脱力した呼びかけのどうしょうもない一方通行っぷり。最初から通じるなんて思ってもないけど、やる。あれがロックってやつなんじゃないか、と思いましたね。で、また、この曲の締めくくりが

俺はその場に凄く馴染んで、自然だった
俺は客観的に見て踊っているように見えた

というセンチメンタルな呟きなのである。そして、キラーチューン「次やったら殴る」だ。

次やったら殴る そう俺は今 心に硬く決めたから
次そういうことがあった場合
必然的に殴ることになると思うけど
それは別に不自然なことなんかじゃないよね?

家族や恋人と並木道を歩いたり 楽しく夕食を囲むように
あと 季節が移り変わったり 動物が草原を駆け抜けたりするけど
つまり そういった類のもの

雑なオザケンの引用もナイス。松本人志的なセンスすら匂わせております。後、「スキルアップ」という曲が凄いのだ。

棒を突き刺して、ゲートが開き、ボタンを押すと、風船が膨む、というどうやら何かの仕事らしい意味不明な描写が延々と続いた後(うすた京介的!)、

以前は棒を刺したり、風船を膨らます事に
何の意味があるのかなんて
考えたりしたこともあったけど
優しい同僚や先輩のおかげで
どうにかこうして大きな現場を任されるようにもなりました
ありがとうございます スキルアップ

この「ありがとうございます」に思わず「イエー」と歓声が上がる、あの圧倒的な幸福感をどう言葉にすればいいやら。まぁ、とにかくトリプルファイヤー、必聴のバンドだ。