青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

最近のこと(2020/05/18)


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群れになって遠ざかる月曜日。大阪の状況から考えると、東京にいられる最後の1週間になりそうだ。東京でなにかやり残したことはないか。その後、エイブルからは何の物件情報も届かない。ホテル暮らしはもううんざりなのだけど。最近は保坂和志カンバセイション・ピース』(新潮文庫)を読み直しているのだけど、とても楽しい。

ドラマなんかでは死んだ夫の残した物を引き出しを開けてしみじみ見たりするけれど、人はそういう特別なものを残すわけではないし、特別なものをわざわざ探さなくても家にはそこに住んだ人たちの記憶が濃厚に染み込んでいたり漂ったり澱んだりしているのではないか。

保坂和志カンバセイション・ピース』P.45

という思考は、はじめて読んでからずいぶんと影響を受けた気がする。そして、この小説ほどプロ野球観戦の球場の雰囲気、その楽しさを的確に描写しているものはないのではないか。主人公は横浜ベイスターズのファンで、暇さえあれば横浜球場に観戦に出かける。

つづく4番は当然ローズで、ローズに対する私の気持ちはもうファンという状態を超えて尊敬にちかい。昔怪傑ハリマオを好きだったように心酔していて、年々筋力アップして、いまや鎧になったような上半身を、バッターボックスでググっと広いスタンスで支える姿を見ているだけで、胸に熱いものがこみあげてくるのを感じる。

保坂和志カンバセイション・ピース』 P.61

なんていうところはもう顔をにやつかせながら読んでしまう。そして、主人公が横浜ベイスターズを熱狂的に応援する理由は至極シンプルで「知っていた」からなのだ。「そういう人じゃないか。そうじゃなかったら、横浜ベイスターズなんか応援するわけないじゃないか。この人は何でもかんでも自分がたまたま知ってることが一番なんだよ」と友人に言われた主人公が返す。

「愛するっていうのいはそういうことだ。愛っていうのは、比較検討して選び出すものじゃなくて、偶然が絶対化することなんだよ。誰だって親から偶然生まれてきて、その親を一番と思うようになってるんだから、それが一番正しい愛のあり方なんだよ」

保坂和志カンバセイション・ピース』 P.86

まったく痺れてしまう。読んでいても、ついつい付箋を貼りたくなってしまい進まない。あと、仕事の息抜きにあらゐけいいいち『日常』(角川書店)を読むようにしている。脳味噌がほぐれます。

お昼はマクドナルドでチキンタツタのセットをテイクアウトした。期間限定でしか登場しないチキンタツタに特別なものを感じているのだけど、そんなに好きな味かというとそうでもなくて、今回もとてもしょっぱい食べ物に感じた。ハンバーガーを囓りながら、昨夜のテレビ東京の坂道3本立ての録画を観る。『日向坂で会いましょう』はリモート収録でもとても楽しい。演者とスタッフが相思相愛でグルーヴしているのが伝わってくるではありませんか。回を重ねるごとに増していくオードリー春日さんの日向坂メンバーへの愛が、生まれてきたのが娘さんだったというところと結びついてグッときている気持ち悪いファンです。

マンションの管理会社が水漏れの調査に来て、部屋に大きな穴を開けて帰って行った。エアコンではなく、風呂場に問題があるんじゃないかということでTOTOが修理に来るまでは銭湯を利用して欲しいとのこと。ゴクリと生唾を飲み込んでしまった。い、いいんですか?もうかれこれ3ヶ月くらい水風呂に入っていないので禁断症状が出ていたところに、ひょんなところで免罪符を手に入れてしまった。堂々と銭湯に行けてしまう。「いやーほんと泣く泣くなんですよ」という顔をつくりながら、散歩がてら銭湯まで向かう。しかし、歩いている途中で突如不安に襲われる。この自粛期間中に銭湯のラジカル化が進み、常連陣に虐められたらどうしよう。「ここは家に風呂がないやつが来るとこだ。お前みたいな色白豚猪が来るとじゃない!」と怒鳴られるに違いない。「違うんです、家のお風呂が故障しただけなんです」といくら説明したところで話の通じる相手じゃない。どんなにお願いしても、高温のお風呂から出してもらえずグツグツと煮込まれるんだ。雨も降りそうだし引き返そうかな、とも思ったけども、ここで怖気づいては銭湯大好きクラブの名が廃るなと、覚悟を決めて暖簾をくぐった。銭湯は17時台でもそこそこに盛況だった。サウナがある銭湯だと入りたくなってしまうので、サウナはないけども水風呂のある「第一金乗湯」を選んだ。2016年にリニューアルしてモダンに生まれ変わった銭湯で、戸次重幸が主演したドラマ『昼のセント酒』(テレビ東京)の記者会見会場にもなったらしい。長湯はしないようにとさっと身を清め、まずは熱湯に。やっぱり広くて熱い風呂はいい。そして、お待ちかねの水風呂。20℃くらいだけども、ひさしぶりの水風呂なのでちょうどいい。あぁ、温まった熱が急速に冷え血が廻り、身体の境界線がじんわりと解れていくような開放感。気持ちいい。そして、温冷交互浴の醍醐味は、水風呂で冷えた身体で熱湯に入るところにある。鳥肌が立つほど気持ちい。かれこれ3回ほど、温冷を繰り返していたのだけど、ここで風呂場が怒鳴り声に包まれる。ずーっと薬湯のスペースを占領して大きな声で喋り続けていた80歳くらいの白髪のおじいちゃんコンビが、60歳くらいのおじさんに叱れている。「そんなに喋りたいならマスクしろ!こんだけテレビで飛沫、飛沫って騒がれてるのに、あんたらは常識がないのか!おかげで誰もその風呂にも入れないじゃないか!!」と。めちゃくちゃ怒られていて、おじいさんもめちゃくちゃ怒られて顔になっていて、見てられなかった。おじいさん達は何も言わずに風呂を出ていった。楽園であった銭湯のラジカル化はたしかに進んでいたのだ。しかし、まさか豚猪のわたしではなく、おじいさんがターゲットになるとは。風呂に来て、飛沫も何もないだろうという気もするが、おじさんの言いたかったは「知識であるところの水を独占してはいけない」ということだったのではないだろうか。ひさしぶりに人の怒鳴り声を聞いてドキドキしてしまったので、帰り道のファミリーマートガリガリ君のチョコミント味を3本買いました。ガリガリ君のチョコミントも独占してはいけない。